統合失調症の生物学的病態解明と予防・治療法の開発

文献情報

文献番号
200833010A
報告書区分
総括
研究課題名
統合失調症の生物学的病態解明と予防・治療法の開発
課題番号
H18-こころ・一般-011
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
功刀 浩(国立精神・神経センター 神経研究所 疾病研究第三部)
研究分担者(所属機関)
  • 尾崎 紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 陣野 吉広(琉球大学大学院医科学研究科)
  • 岩田 仲生(藤田保健衛生大学)
  • 那波 宏之(新潟大学脳研究所)
  • 小島 正己(産業技術総合研究所)
  • 尾関 祐二(獨協医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、1) 統合失調症における高次脳機能障害や脳構造異常の解明、2)鍵分子の1つである脳由来神経栄養因子(BDNF)に着目した診断・治療法の開発、3)網羅的遺伝子解析や末梢血を用いた網羅的遺伝子発現解析による新たな標的分子の探索と診断法の開発、4)周産期障害やエピジェネティクスに注目した環境因の解明と薬物開発とを行う。
研究方法
1)高次脳機能検査として、WAIS-R(知能)、JART (病前知能)、WMS-R(記憶)、WCST (前頭葉機能)、PPI (情報処理)などを施行し、H20年度は種々の障害を簡易に測定するためのテストとして統合失調症簡易認知機能スケール(BACS)を導入して検討した。MRI画像(拡散テンソル画像を含む)を撮像した。
2)BDNFの前躯体(proBDNF)の濃度測定や抗体治療法に資する抗体を作成した。
3)5万SNPs を用いた4段階スクリーニングにより、リスク遺伝子を探索した。また、候補遺伝子解析やコピー数異常についても検討した。さらに、患者リンパ球の株化細胞を用いて網羅的遺伝子発現解析を行っている。
4) 周産期障害による発症仮説に基づいてモデル動物を作製し、有効な治療薬を探索した。
結果と考察
1)統合失調症患者では、知能、記憶、実行機能、情報処理が著明に障害されており、これらはBACSによって簡便に測定できることを明らかにした。また、脳構造の変化(灰白質の減少、脳質拡大、神経ネットーワーク障害)について明らかにした。
2)proBDNF特異的抗体の作製を行い、血中proBDNFを高感度に検出する抗体、抗体治療法の作製に貢献するモノクローナル抗体候補を60種以上見いだした。
3)4次スクリーニングにより少なくとも3つのリスク遺伝子を同定した。末梢血で発現する遺伝子を網羅的に検索し、4つの遺伝子による診断率が83%と概ね良好な結果を得た。しかし、これらの遺伝子と統合失調症との関連解析では有意な関連を認めなかった。
4)炎症性サイトカイン抑制剤であるフタルイミド系化合物の慢性経口投与は、モデル動物においてプレパルスインヒビションや社会行動を顕著に改善し、抗精神病作用をもつ可能性が示唆された。
結論
1)統合失調症では著明な高次脳機能障害と脳構造異常が見られ、障害の評価にはBACSが有用である。
2)BDNFを鍵分子とした診断・治療法の開発に資する成果を得た。
3)SNPs解析や遺伝子発現解析により、診断法や治療法に有用な分子の同定に成功した。
4)フタルイミド系化合物は新しい治療薬として有望である。

公開日・更新日

公開日
2009-04-13
更新日
-

文献情報

文献番号
200833010B
報告書区分
総合
研究課題名
統合失調症の生物学的病態解明と予防・治療法の開発
課題番号
H18-こころ・一般-011
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
功刀 浩(国立精神・神経センター 神経研究所 疾病研究第三部)
研究分担者(所属機関)
  • 尾崎 紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 陣野 吉広(琉球大学大学院医科学研究科)
  • 岩田 仲生(藤田保健衛生大学)
  • 那波 宏之(新潟大学脳研究所)
  • 小島 正己(産業技術総合研究所)
  • 尾関 祐二(獨協医科大学)
  • 橋本 亮太(大阪大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1) 統合失調症における高次脳機能障害や脳構造異常の解明
2)鍵分子の1つである脳由来神経栄養因子(BDNF)に着目した診断・治療法の開発
3)網羅的遺伝子解析や末梢血を用いた網羅的遺伝子発現解析による新たな標的分子の探索と診断法の開発
4)周産期障害やエピジェネティクスに注目した環境因の解明と薬物開発
研究方法
1)WAIS-R(知能)、JART (病前知能)、WMS-R(記憶)、WCST (前頭葉機能)、統合失調症簡易認知機能スケール(BACS)、PPI (情報処理)などを施行し、MRI画像(拡散テンソル画像を含む)を撮像した。
2)BDNFの遺伝子多型と統合失調症や認知機能との関連を検討し、BDNF濃度をバイオマーカーとして活用するために、前躯体(proBDNF)の濃度測定や抗体治療法に資する抗体を作成した。
3)5万SNPs を用いた4段階スクリーニングにより、統合失調症リスク遺伝子を探索した。候補遺伝子解析やコピー数異常についても検討した。患者リンパ球の株化細胞を用いて網羅的遺伝子発現解析を行った。
4) 周産期障害による発症仮説に基づいてモデル動物を作製し、有効な治療薬を探索した。
結果と考察
1)統合失調症患者では、知能、記憶、実行機能、情報処理が著明に障害されており、これらはBACSによって簡便に測定できることを明らかにした。また、脳構造の変化(灰白質の減少、脳質拡大、神経ネットーワーク障害)について明らかにした。
2)BDNF遺伝子が統合失調症と関連し、言語性IQや注意集中力とも関連することを明らかにした。血中proBDNFを高感度に検出する抗体、抗体治療法の作製に貢献するモノクローナル抗体候補を60種以上見いだした。
3)全ゲノム解析により少なくとも3つの統合失調症リスク遺伝子を同定した。コピー数異常を同定した。末梢血で発現する遺伝子を網羅的に検索し、4つの遺伝子による診断率が83%と概ね良好な結果を得た。
4)アントラキノン系化合物、キアノゾリン化合物、フタルイミド系化合物は、モデル動物においてプレパルスインヒビションや社会行動を顕著に改善し、抗精神病作用をもつ可能性が示唆された。
結論
1)統合失調症では著明な高次脳機能障害と脳構造異常が見られ、評価にはBACSが有用である。
2)BDNFを鍵分子とした診断・治療法の開発に資する成果を得た。
3)SNPs解析や遺伝子発現解析により、診断法や治療法に有用な分子の同定に成功した。
4)抗精神病薬のシーズとなる化合物を見出した。

公開日・更新日

公開日
2009-05-25
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200833010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、多数の患者試料を収集し、認知機能の詳細な解明、プレパルス抑制テスト機器の開発を含む生理機能の測定、最先端のMRI画像解析法を用いた脳構造・機能異常の解明を行い、統合失調症の病態解明に資する多数の成果を得た。全ゲノム遺伝子解析と網羅的遺伝子発現解析によって、新たなリスク遺伝子を見出し次世代診断法の開発を行った。抗精神病薬のシーズも見出した。これらはMol Psychiatry, Hum Mol Genet, J Neurosci, PNASなど質の高い学術誌に発表され、学術的価値が高い。
臨床的観点からの成果
生理機能検査所見や脳画像解析所見等の成果は、統合失調症の新たな診断法や発病ハイリスク者の同定(早期発見法)に役立つ知見である。遺伝子解析研究によってリスク遺伝子を同定し、遺伝子発現解析によって診断法の開発を行った。これらは、今後、臨床で活用できる治療法や診断法・予防法の開発に結びつく知見である。なお、サイトカインに作用する創薬の前臨床研究では、抗精神病薬のシーズを見出し、臨床試験につながる知見である。
ガイドライン等の開発
種々の高次機能障害を簡易に測定するためのテストとして統合失調症簡易認知機能スケール日本語版(BACS-J)を用いた検討を行い、BACS-Jが統合失調症の認知機能障害の検出に極めて有効であることを示すエビデンスを得た。BACS-Jは、臨床で簡便に使用できる標準的な統合失調症認知機能検査法として普及することが期待できる。
その他行政的観点からの成果
行政施策上示唆的な知見が多数得られた。統合失調症では治療を受けて「安定している」患者においても重い認知機能障害があり、その基盤となる脳構造異常も明らかになった。これは、現在の治療体系では根本的治療が困難であることや、統合失調症患者の社会復帰や就業が現実には困難であることを改めて浮き彫りにする。本研究によって、統合失調症の診断・治療・予防に結びつく知見が得られ、今後、早期発見法や予防法、根本的治療法が開発されれば、統合失調症患者数の減少、入院患者や入院期間の減少などにつながることが期待できる。
その他のインパクト
研究開始当初の2006年5月1日の日本経済新聞で「心の健康 遺伝子で解明」というタイトルで、統合失調症やうつ病などの遺伝子研究の進歩・成果が大きく取り上げられ、病気の原因が生活での「ストレス」だけでないことなどの啓発に役立った。同様に、2008年9月19日の朝日新聞でも「遺伝子で読み解く心の病ー統合失調症 進む原因研究」というタイトルで遺伝子研究の成果が1面を使って報道された。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
126件
その他論文(和文)
67件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
125件
学会発表(国際学会等)
39件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
新聞報道2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Okada T, Hashimoto R, Numakawa T, et al.
A complex polymorphic region in the brain-derived neurotrophic factor (BDNF) gene confers susceptibility to bipolar disorder and affects transcriptional activity.
Mol Psychiatry , 11 (7) , 695-703  (2006)
原著論文2
Hori H, Noguchi H, Hashimoto R et al.
Antipsychotic medication and cognitive function in schizophrenia.
Schizophr Res , 86 (1) , 138-146  (2006)
原著論文3
Kunugi H, Hashimoto R, Okada T, et al.
Possible association between nonsynonymous polymorphisms of the anaplastic lymphoma kinase (ALK) gene and schizophrenia in a Japanese population.
J Neural Transm , 113 (10) , 1569-1573  (2006)
原著論文4
Richards M, Iijima Y, Kondo H, et al.
Association study of the vesicular monoamine transporter 1 (VMAT1) gene with schizophrenia in a Japanese population.
Behav Brain Funct , 2 , 39-39  (2006)
原著論文5
Tohmi M, Tsuda N, Zheng Y, et al.
The cellular and behavioral consequences of interleukin-1 alpha penetration through the blood-brain barrier of neonatal rats: a critical period for efficacy.
Neuroscience , 150 (1) , 234-250  (2006)
原著論文6
Kunugi H, Tanaka M, Hori H, et al.
Prepulse inhibition of acoustic startle in Japanese patients with chronic schizophrenia.
Neurosci Res , 59 (1) , 23-28  (2007)
原著論文7
Ikeda M, Ozaki N, Yamanouchi Y, et al.
No association between the glutamate decarboxylase 67 gene (GAD1) and schizophrenia in the Japanese population.
Schizophr Res , 91 , 22-26  (2007)
原著論文8
Mizuno M, Sotoyama H, Narita E, et al.
A cyclooxygenase-2 inhibitor ameliorates behavioral impairments induced by striatal administration of epidermal growth factor.
J Neurosci , 27 (38) , 10116-10127  (2007)
原著論文9
Ikeda M, Hikita T, Taya S, et al.
Identification of YWHAE, a gene encoding 14-3-3epsilon, as a possible susceptibility gene for schizophrenia.
Hum Mol Genet , 17 (20) , 3212-3222  (2008)
原著論文10
Tsuda N, Mizuno M, Yamanaka T, et al.
Common behavioral influences of the ErbB1 ligands transforming growth factor alpha and epiregulin administered to mouse neonates.
Brain Dev , 30 (8) , 533-543  (2008)
原著論文11
Hori H, Noguchi H, Hashimoto R, et al.
IQ decline and memory impairment in Japanese patients with chronic schizophrenia.
Psychiatry Res , 158 , 215-255  (2008)
原著論文12
Izumi A, Iijima Y, Noguchi H, et al.
Genetic variations of human neuropsin gene and psychiatric disorders: polymorphism screening and possible association with bipolar disorder and cognitive functions.
Neuropsychopharmacology , 33 (13) , 3237-3245  (2008)
原著論文13
Noguchi H, Hori H, Kunugi H
Schizotypal traits and cognitive function in healthy adults.
Psychiatry Res , 161 (2) , 162-169  (2008)
原著論文14
Hori H, Noguchi H, Hashimoto R, et al.
Personality in schizophrenia assessed with the Temperament and Character Inventory (TCI)
Psychiatry Res , 160 , 175-183  (2008)
原著論文15
Midorikawa A, Hashimoto R, Noguchi H, et al.
Impairment of motor dexterity in schizophrenia assessed by a novel finger-movement test.
Psychiatry Res , 159 (3) , 281-289  (2008)
原著論文16
Mizuguchi T, Hashimoto R, Itokawa M, et al.
Microarray comparative genomic hybridization analysis of 59 patients with schizophrenia.
J Hum Genet , 53 (10) , 914-919  (2008)
原著論文17
Kawashima K, Kishi T, Ikeda M, et al.
No association between tagging SNPs of SNARE complex genes (STX1A, VAMP2 and SNAP25) and schizophrenia in a Japanese population.
Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet , 147 (7) , 1327-1331  (2008)
原著論文18
Yoshimi A, Takahashi N, Saito S, et al.
Genetic analysis of the gene coding for DARPP-32 (PPP1R1B) in Japanese patients with schizophrenia or bipolar disorder.
Schizophr Res , 100 (3) , 334-341  (2008)
原著論文19
Numakawa T, Kumamaru E, Adachi N, et al.
Glucocorticoid receptor interaction with TrkB promotes BDNF-triggered PLC-gamma signaling for glutamate release via a glutamate transporter.
Proc Natl Acad Sci U S A , 106 (2) , 647-652  (2009)
原著論文20
Namba H, Zheng Y, Abe Y, et al.
Epidermal growth factor administered in the periphery influences excitatory synaptic inputs onto midbrain dopaminergic neurons in postnatal mice.
Neuroscience , 158 (4) , 1731-1741  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-