持続性結核菌感染の病原性や発症に関わる分子機構の解明及び治療・予防の基礎研究

文献情報

文献番号
200829039A
報告書区分
総括
研究課題名
持続性結核菌感染の病原性や発症に関わる分子機構の解明及び治療・予防の基礎研究
課題番号
H20-新興・一般-010
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
小林 和夫(国立感染症研究所 免疫部)
研究分担者(所属機関)
  • 松本 壮吉(大阪市立大学大学院医学研究科 細菌学)
  • 杉田 昌彦(京都大学ウイルス研究所)
  • 宮本 友司(国立感染症研究所 ハンセン病研究センター)
  • 小出 幸夫(浜松医科大学)
  • 前倉 亮治(独立行政法人国立病院機構刀根山病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
結核の発症機序に「感染後早期に発症する一次性結核」、「持続潜在性感染から発症する二次性結核(内因性再燃)」や「既感染宿主に再感染し発病(外来性再感染)」があるが、ほとんどの成人結核は「内因性再燃」に起因している。持続潜在性感染機序の解明は新規抗結核薬や感染曝露後(治療的)ワクチン開発を促進し、結核制圧に寄与することが期待される。潜在性感染から発症に関わる宿主および菌の分子機構を解明し、病態の理解、診断・治療やワクチン候補の探索を目的とした。
研究方法
結核菌など抗酸菌脂質や糖脂質解析、蛋白質・遺伝子発現解析、薬剤感受性、DNAワクチンの作製、蛋白質抗原の決定基の同定、リポソームによる免疫増強および持続性潜在結核菌感染を検出する臨床診断(酵素抗体)法を施行した。倫理面への配慮として、生命倫理、動物愛護や遺伝子組換実験など、規定に準拠し、機関承認を得て遂行した。なお、利益相反はなかった。
結果と考察
代謝の低下した持続感染(休眠)菌における「蛋白質、脂質や糖脂質」発現が明らかとなった。休眠菌の蛋白質(遺伝子)発現として、抗酸菌DNA結合蛋白質1、Acr、HrpA(Acr2)やHBHAが認められた。他方、分裂・増殖期菌はESAT-6やCFP-10蛋白質を発現し、対比的である。すなわち、現行の潜在性感染診断抗原であるESAT-6やCFP-10は感度に疑問が生ずる。休眠菌における「脂質や糖脂質(9 kcal/g)」代謝は分裂・増殖期菌における活発な「糖(4 kcal/g)」から代謝変換を図り、エネルギー効率に寄与する可能性がある。結核菌の特徴は構成成分として脂質や糖脂質が豊富であり、休眠に適した菌であると考えられる。Mycobacterium avium complex(MAC)-糖蛋白脂質(GPL)抗原は抗体応答を誘導し、活動性MAC感染症の血清診断に有用な抗原であるが、潜在性MAC感染を検出することはできなかった。MAC-GPLの生合成系や生物学的意義を解明し、持続潜在感染MACにおけるGPLの性状から持続潜在性MAC感染の診断に発展させたい。BCGワクチンは内因性再燃を基盤とする成人結核に対する有効性は疑問視されている。休眠菌に発現する蛋白質、脂質や糖脂質はワクチン抗原候補と考えられる。
結論
・持続潜伏感染の分子機構、特に、菌情報に関し、低酸素環境で誘導した休眠菌から、糖脂質・遺伝子・蛋白質発現や精製に成功した。
・MAC-GPL抗原を用いた血清診断は潜在性MAC感染を検出しなかった。
・新規診断や予防方法の開発に向け、今年度の成果は基盤を提供した。

公開日・更新日

公開日
2010-01-12
更新日
-