高齢者の性ホルモン低下に伴う各種合併症に対する臨床研究

文献情報

文献番号
200821032A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の性ホルモン低下に伴う各種合併症に対する臨床研究
課題番号
H19-長寿・一般-003
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
並木 幹夫(金沢大学 医薬保健研究域医学系集学的治療学)
研究分担者(所属機関)
  • 民谷 栄一(大阪大学大学院工学研究科精密化学・応用物理学)
  • 高 栄哲(金沢大学 医薬保健研究域医学系集学的治療学)
  • 小中 弘之(金沢大学附属病院泌尿器科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
13,380,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
従来から顕在するホルモン補充療法における“性差”を是正すべく,高齢男性の性ホルモン低下に起因する諸症候を呈する病態である,加齢男性性腺機能低下(Late-Onset Hypogonadism: LOH)症候群に,その推奨治療であるアンドロゲン補充療法(ART)の有用性を前向きランダム化比較試験(RCT)によって検討する.また,LOH症候群における診断から治療までの有機的な展開のために,LOH症候群におけるバイオ診断チップの開発,ARTの有効性を規定しうる遺伝子多型の解析も同時に展開する.
研究方法
主研究として,多施設共同の大規模RCT:(1)中高年男性における前立腺特異抗原(PSA)と遊離型テストステロン(Free-T)との相関および運動習慣の有無に関する臨床試験(スクリーニング試験)と(2)LOH症候群におけるARTの有用性に関する臨床試験(本試験)を立案する.対象は40歳以上の90歳未満男性で,スクリーニング試験においてPSA<2.0 ng/mlかつFree-T<11.8 pg/mlを満たす症例を本試験にエントリーする.テストステロン投与群と非投与(コントロール)群の2群に無作為化し,ARTの有用性を比較検討する.また,副研究:1)バイオ診断チップの開発,2)遺伝子多型の解析においては,血液と唾液をサンプルとして用いる.
結果と考察
本年度までの登録症例は,スクリーニング試験1,418例,本試験293例であった.遺伝子多型の解析における執行遅延は約3ヵ月であったが,倫理委員会からの承認後,DNAサンプルの回収を開始した.バイオ診断チップの開発は計画通りの進捗状況で,サンプル対象を血液から唾液に移行した.本研究によってEBMに基づいた適正なARTを普及させ,LOH症候群に対する診断から治療までを包括したテーラーメイド医療を確立することは,高齢男性のQOLを高め,健康寿命を延伸させ,来たるべく超高齢社会に多大な貢献が期待される.
結論
本研究では,アンドロゲンの欠乏に伴う諸症候からなる病態として,LOH症候群という新しい概念を採択し,その啓発に努めるとともに,ARTの有用性を検証する大規模なRCTを始動した.さらに副研究として“非侵襲的なバイオチップを用いた診断法の開発”と“LOH症候群に関する遺伝子多型の解析”を併行する.本研究が高齢者に特有の医学的諸問題の解決に対するブレークスルーとなり,現行の介護中心の医療からWHOが提唱する“healthy and active aging for men”への転換を促進させるような新たな長寿医療研究の萌芽になりうると考えられる.

公開日・更新日

公開日
2017-10-03
更新日
-