老化に伴う認知症に有効な神経保護薬の臨床応用とその評価法の確立

文献情報

文献番号
200821016A
報告書区分
総括
研究課題名
老化に伴う認知症に有効な神経保護薬の臨床応用とその評価法の確立
課題番号
H18-長寿・一般-026
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
丸山 和佳子(国立長寿医療センター 研究所 老年病研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 新畑 豊(国立長寿医療センター 先端医療部 第二アルツハイマー型痴呆科)
  • 鈴木樹理(京都大学霊長類研究所 人類進化モデル研究センター)
  • 新田淳美(名古屋大学大学院 医学研究科 )
  • 直井 信(財団法人岐阜国際バイオ研究所 客員研究部門)
  • 辻本賀英(大阪大学大学院 医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
10,970,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
超高齢化社会を迎えるわが国において、老化にともなう認知症の進行を抑制しする安価で安全な経口薬を開発することで健康長寿社会に資する。
研究方法
国立長寿医療センター忘れ外来に連続通院中のAD患者36名(男性16名、女性20名)に対し、Mini-Mental State Examination (MMSE)得点の縦断的変化を調べた。認知症の早期診断、あるいは治療効果を客観的に判断するsurrogate markerの探索のため、生体サンプル(脳脊髄液(CSF)、血液、尿)の生化学的解析を行った。特に、酸化ストレスの指標となる酸化脂質に対する特異抗体を作成した。Rasagiline等のpropargylamine構造をもつB型モノアミン酸化酵素(monoamine oxidase, MAO-B)阻害剤は抗アポトーシス活性を持つ遺伝子Bcl-2, GDNF等のmRNA、タンパクを誘導し神経保護活性を示す。Propargylamine化合物の標的タンパクの同定を試みた。rasagilineはMAO-Aに親和性の高い結合部位を持ち、ERK1/2―NF-kBシグナル経路を介して抗アポトーシスタンパクを誘導し神経細胞を保護することが解明された。マウスうつ病に対し、Leu-Ileを投与による脳内の神経再生についてBdUを用いて検討した。
結果と考察
アルツハイマー病(AD)患者のMMSEの縦断的変化を検討したところ、個々の得点変化には大きなばらつきがあり、当初の得点が高い者に得点低下が目立つ可能性が示唆された。初診時年齢、男女間の差はみられなかった。
AD、パーキンソン病(PD)、の剖検脳とCSFのWestern blotting、LC/MS/MSを行った。その結果、ADのCSF中の脂質過酸化物修飾タンパク質が増加している可能性が示された。
結論
rasagilineは既に欧米では酵素阻害剤としてPDに認可されており、現在neuromodulatorとしての申請がFDAになされている。また、Leu-Ileについては鮭などの食品成分として既に報告があり、構造的にも毒性をもつ可能性は低い。現在臨床応用に向けて計画が進行している。これらは神経保護薬の中でも最も臨床に近い経口薬と考えられる。本研究課題ではこれらの臨床応用の基盤となる成果を得ることができた。

公開日・更新日

公開日
2009-04-22
更新日
-

文献情報

文献番号
200821016B
報告書区分
総合
研究課題名
老化に伴う認知症に有効な神経保護薬の臨床応用とその評価法の確立
課題番号
H18-長寿・一般-026
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
丸山 和佳子(国立長寿医療センター 研究所 老年病研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 新畑 豊(国立長寿医療センター 先端医療部 第二アルツハイマー型痴呆科)
  • 鈴木樹理(京都大学霊長類研究所 人類進化モデル研究センター)
  • 新田淳美(名古屋大学大学院 医学研究科 )
  • 直井 信(財団法人岐阜国際バイオ研究所 客員研究部門)
  • 辻本賀英(大阪大学大学院 医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究課題では所謂“団塊の世代”が高齢化する2025年までに神経保護薬を実用化することを目標として研究を行った。
研究方法
type B monoamine oxidase 阻害薬としてパーキンソン病患者に海外(米国およびEU)で認可されているrasagilineおよび鮭などの食品中に存在することが報告されているLeu-Ileをリーディング化合物として神経保護薬のスクリーニングを行なった。rasagilineを雄成熟ニホンザルに4か月間投与し、経時的にCSFおよび血漿を採取した。また、脳内神経再生についてBrdUの神経細胞内取り込みを用いて検討した。国立長寿医療センター物忘れ外来に受信中のアルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)患者に対し、知能検査(MMSE)と画像検査(PET、SPECT)を行った。
結果と考察
rasagiline投与によりニホンザルCSF中の神経栄養因子 (BDNF、GDNF)は有意に増加し、血漿中のinsulinは低下傾向を示した。Leu-Ile投与マウスでは、脳内BDNFタンパク質量が海馬中で増加し、歯状回の神経再生が促進された。ADおよびPDでは同程度のMMSEでもその内容には差があり、ADでは短期記憶に関係する項目がより低下がかった。PDではMMSE得点が良好な群でもADより明らかな大脳皮質のブドウ糖代謝低下がみられ、後頭葉の低下が顕著であった。後部帯状回の低下はADより後方に目立ち海馬は保たれていた。これらの機能低下部位は、ADでの即時記憶低下、PDでの視覚認知低下、working memory関連課題の得点低下に関連するものと推察された。
末梢サンプルで測定可能なsurrogate marker候補の中で、酸化ストレスの指標となる酸化脂質に対する特異抗体を作成した。CSFのWestern blottingおよび LC-MS/MSにより酸化脂質修飾アミノ酸の定量、同定を行った結果、ADのCSF中の脂質過酸化物修飾タンパク質が増加している可能性が示された。
結論
経口投与可能な神経保護薬について、将来の治験に向けた起訴的な患者データの蓄積を行うとともに、作用メカニズムの解明とsurrogate markerの探索を行い、将来の臨床治験に必要な結果を得た。

公開日・更新日

公開日
2009-04-22
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2009-11-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200821016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
世界に先駆けてpropargylamine化合物(PA)による神経保護効果の分子メカニズムが遺伝子発現制御であることを示した。さらにその標的分子について新たな可能性を提唱した。また、PAであるrasagiline投与により霊長類(ニホンザル)の脳脊髄液中そしておそらく脳内で神経栄養因子であるBDNF、GDNFが増加することを証明した。食品中に含まれるジペプチドであるLeu-Ileがやはり脳内のBDNFを増加させ、神経再生を促進することを示した。アルツハイマー病の臨床マーカー候補を得た。
臨床的観点からの成果
rasagilineは2005年、2006年に酵素阻害剤としてEUとFDAに認可され、治験により神経保護効果が示された。現在FDAに対しneuromodulatorとして申請されている。日本における治験は2008年度にphase Iが開始される予定であったがpatentをもつTEVA社の事情で遅れている。今後引き続きコンタクトをとりつつ臨床研究を進めていく予定である。Leu-Ileについては機能性食品としての市場化計画が進行している。
ガイドライン等の開発
認知症に対する経口投与可能な治療薬(神経保護薬)を開発することは重要な課題である。本研究課題では既に安全性が確立している薬剤や食品成分に着目し、その効果を動物実験にて証明した。さらにアルツハイマー病の診断に有用である可能性のある生化学的マーカーを得ることができた。これらの結果は将来の日本における治験に必須な情報と考えられる。
その他行政的観点からの成果
団塊の世代が65歳を超え超高齢化社会を迎えるわが国において、認知症の治療、予防が求められている。経口投与可能な神経保護薬は遺伝子治療やワクチン療法、幹細胞移植より安価で安全であり、少数の患者に対する先端医療ではなく多くの患者に使用が可能である。本研究課題では神経保護薬の開発の基礎となる結果を得ることができた。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
4件
本課題は痴呆・骨折研究事業で行なった課題の継続発展ん研究であるため、AkknowledgementもDementia and Bone fractureとなっているものがある。
原著論文(英文等)
82件
本課題は痴呆・骨折研究事業で行なった課題の継続発展ん研究であるため、AkknowledgementもDementia and Bone fractureとなっているものがある。
その他論文(和文)
1件
本課題は痴呆・骨折研究事業で行なった課題の継続発展ん研究であるため、AkknowledgementもDementia and Bone fractureとなっているものがある。
その他論文(英文等)
5件
本課題は痴呆・骨折研究事業で行なった課題の継続発展ん研究であるため、AkknowledgementもDementia and Bone fractureとなっているものがある。
学会発表(国内学会)
109件
学会発表(国際学会等)
60件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計5件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
H. Yi, Y. Akao, W. Maruyama et al.
Type A monoamine oxidase is the target of an endogenous dopaminergic neurotoxin, N-methyl(R)salsolinol, leading to apotisis in SH-SY5Y cells.
J. Neurochem. , 96 , 541-549  (2006)
原著論文2
M. Shamoto-Nagai, W. Maruyama, H. Yi et al.
Neuromelanin induces oxidative stress in mitochondria through release of iron: mechanism behind the inhibition of 26S proteasome.
J. Neural Transm. , 113 , 633-644  (2006)
原著論文3
H. Yi, Maruyama W., Y. Akao et al.
N-Propargylamine protects SH-SY5Y cells from apoptosis induced by an endogenous neurotoxin, N-methyl(R)salsolinol, through stabilization of mitochondrial membrane and induction of anti-apoptotic Bcl-2
J. Neural Transm. , 113 , 21-32  (2006)
原著論文4
M. Naoi, W. Maruyama, Y. Akao et al.
Involcement of type A monoamine oxidase in neurodegeneration: regulation of mitochondrial signaling leading to cell death or neuroprotection
J. Neural Transm. , 71 , 67-77  (2006)
原著論文5
K. Matsumoto, Y. Akao, H. Yi et al.
Overexpression of amyloid precursor protein induces susceptibility to oxidative stress in human neuroblastoma SH-SY5Y cells.
J. Neural Transm. , 113 , 125-135  (2006)
原著論文6
M. Niwa, A. Nitta, K. Yamada et al.
The role of glial cell line-derived neurotrophic factor, tumor necrosis factor-a and an inducer of these factors in drug dependence
J. Pharmacol. Sci. , 104 , 116-121  (2007)
原著論文7
Y. Yan, K. Yamada, M. Niwa et al.
Enduring vulnerability to reinstatement of methamphetamine-seeking behavior in glial cell line-derived neurotrophic factor mutant mice.
The FASEB J. , 21 , 1994-2004  (2007)
原著論文8
M. Niwa, A. Nitta, Y. Yamada et al.
Tumor necrosis factor-a and its inducer inhibit morphine-induced rewarding effects and sensitization
Biol. Psychiatry , 62 , 658-668  (2007)
原著論文9
T. Alkam, A. Nitta, H. Mizoguchi et al.
A natural scavenger of peroxynitrites, rosmarinic acid, protects against impairment of memory induced by Ab25-35
Behav. Brain Res. , 180 , 139-145  (2007)
原著論文10
M. Shamoto-Nagai, W. Maruyama, Y. Hashizume et al.
In parkinsonian substantia nigra, a-synuclein is modified by acrolein, a lipid-peroxide product, and accumulates in the dopamine neurons with inhibition of proteasome activity.
J. Neural Transm. , 114 , 1559-1567  (2007)
原著論文11
Y. Tsujimoto, S. Shimizu
Role of the mitochondrial membrane permeability transition in cell death.
Apoptosis , 12 , 835-840  (2006)
原著論文12
Y. Yan, K. Yamada, H. Mizoguchi et al.
Reinforcing effects of morphine are reduced in tissue plasminogen activator-knockout mice.
Neuroscience , 146 , 50-59  (2007)
原著論文13
M. Niwa, A. Nitta, L. Shen
Involvement of glial cell line-derived neurotrophic factor in inhibitory effects of a hydrophobic dipeptide Leu-Ile on morphine-induced sensitization and rewarding effects.
Behav. Brain Res. , 179 , 167-171  (2007)
原著論文14
M. Naoi, W. Maruyama, H. Yi et al.
Neuroprotection by propargylamine in Parkinson disease: intracellular mechanism underlying the anti-apoptotic function and search for clinical markers.
J. Neural Transm. , 721 , 121-131  (2007)
原著論文15
T. Alkam, A. Nitta, H. Mizoguchi et al.
Restraining tumor necrosis factor-alpha by thalidomide prevents the amyloid beta-induced impairment of recognition memory in mice.
Behav. Brain Res. , 189 , 100-106  (2008)
原著論文16
X. Cen, A. Nitta, D. Ibi et al.
Identification of Piccolo as a regulator of behavioral plasticity and dopamine transporter internalization.
Mol. Psychiatr. , 13 , 451-463  (2008)
原著論文17
M. Naoi, W. Maruyama, H. Yi et al.
Neuromelanin selectivity induces apoptosis in dopaminergic SH-SY5Y cells by deglutathionylation in mitochondria: involvement of the protein and melanin component.
J. Neurochem. , 105 , 2489-2500  (2008)
原著論文18
D-Y. Youn, D-H. Lee, M-H. Lim et al.
Bis deficiency results in early lethality with metabolic deterionration and involvement of spleeen and thymus.
Am J. Endocrinol. Metab. , 295 , 1349-1357  (2008)
原著論文19
M. Shamoto-Nagai, W. Maruyama, Y. Kato et al.
Oxidation of polyunsaturated fatty acids induces protein oligomerization and may initiate neuronal death process in Parkinson disease.
J. Clin. Biochem. Nutr. , 43 , 343-346  (2008)
原著論文20
X. Cen, A. Nitta, D. Ibi et al.
Identification of Piccolo as a regulator of behavioral plasticity and dopamine transporter internalization.
Mol. Psychiatr. , 1-13  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-