若年性認知症の実態と対応の基盤整備に関する研究

文献情報

文献番号
200821015A
報告書区分
総括
研究課題名
若年性認知症の実態と対応の基盤整備に関する研究
課題番号
H18-長寿・一般-022
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
朝田 隆(筑波大学 大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻)
研究分担者(所属機関)
  • 池田 学(熊本大学 大学院医学薬学研究部)
  • 宮永 和夫(ゆきぐに大和病院)
  • 谷向 知(愛媛大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
23,760,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 65歳未満で発症する若年性認知症について、1)全国レベルでの疫学的な実態を調査する。併せて2)当事者と家族が抱える問題を明らかにする。
研究方法
 本年度の調査地域は、熊本県、愛媛県、富山県の全域で同一の方法により調査した。また類似の方法で、横浜市港北区、徳島市において調査を行った。いずれの地域でも地認知症の医療や保健・福祉などに係る可能性がある全ての施設・機関に対して2段階でアンケートを発送し、回答を得た。
 当事者・患者の問題点では、予備面接を経て作成した質問項目を用いて、家族会の会員に回答してもらった。
結果と考察
 人口10万対の患者数は、19.3(富山)、23(群馬)、24(茨城)、35(愛媛)36(熊本)であり、最大2倍近い開きがある。概して西日本に高く、東日本で低い。基礎疾患では脳血管性(VaD)の認知症が最多、アルツハイマー病(AD)が次これに次ぐ。これはと富山県を除く全ての調査地域に共通した所見であった。また脳血管性認知症では、出血やくも膜下が多かった。このような結果は、アルツハイマー病が最多とした従来欧米を中心に発表されてきた結果とは際立った相違を示すものである。なお近年、変性々認知症として前頭側頭葉変性症(FTLD)やレビー小体型認知症(DLB)が注目されている。しかし、多くの調査地域でこれらのFTLD, DLBの報告は少ないという結果であった。なお港北区と徳島市における調査の結果概要についても、5県の結果と類似したものであった。
 家族調査の回答は100得られた。回答者は在宅患者の家族(特に患者の妻)が多く、回答者の約6割が抑うつ状態にあった。患者の日常生活動作は幅広く分布していた。介護負担度は経済的負担感と強い関連がみられ、発症年齢が若いほど経済的負担感は重く感じられていた。また多くが経済支援、特化した福祉サービス、就労維持に関する整備が不十分だと感じていた。
 若年性認知症ではADなどの変性疾患が中心と思われていたが、この予想や欧米における調査結果とは異なりVaDが最多であった。VaDと比較して、変性性の認知症の特徴は漸次進行性という点にある。これが当事者の就労や社会・家庭生活を大きく妨げる。
結論
 若年性認知症患者とその家族への対応基盤整備は喫緊の課題である。

公開日・更新日

公開日
2009-04-22
更新日
-

文献情報

文献番号
200821015B
報告書区分
総合
研究課題名
若年性認知症の実態と対応の基盤整備に関する研究
課題番号
H18-長寿・一般-022
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
朝田 隆(筑波大学 大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻)
研究分担者(所属機関)
  • 池田 学(熊本大学 大学院医学薬学研究部)
  • 宮永 和夫(ゆきぐに大和病院)
  • 谷向 知(愛媛大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 65歳未満で発症する若年性認知症について、1)全国レベルでの疫学的な実態を調査する。同時に2)当事者と家族が抱える問題を明らかにする。
研究方法
 調査地域は、熊本県、愛媛県、富山県、群馬県、茨城県の全域で同一の方法により調査した。地域の認知症の医療や保健・福祉などに係る可能性がある全ての施設・機関に対して2段階でアンケートを発送し、回答を得た。
 当事者・患者の問題点では、予備面接からポイントを抽出して質問項目を作成した。これを家族会の会員に回答してもらった。
結果と考察
1)有病率
 推定された18-64歳人口における10万対の患者数は、47.6人(95% CI:45.5-49.7)。男性57.9人、女性36.7人と男性に多かった。全国における推定患者数は3.78万人(3.61ー3.94万人) と算出された。基礎疾患としては、脳血管性(VaD)認知症が最多で、アルツハイマー病(AD)、頭部外傷後遺症と続く。最多であったVaDのタイプ別では、脳出血、脳梗塞、くも膜下出血が多い。前頭側頭葉変性症やレビー小体型認知症がある程度認められた。
患者の概況については、基準日における年齢は約8割で50歳代以上であった。重症度は、軽度・中等度・重度がそれぞれ3分の1程度であった。生活の場では、自宅と病院・施設との比率はほぼ等しかった。介護保険の要介護認定については、要介護3以上が多かった。日常生活動作(ADL)は、概して自立は半数以下であった。合併症は、高血圧、糖尿病、高脂血症、てんかんと続いた。
2)家族
 回答は100得られた。回答者は在宅患者の家族(特に患者の妻)が多く、回答者の約6割が抑うつ状態にあった。患者の日常生活動作は幅広く分布していた。介護負担度は経済的負担感と強い関連がみられ、発症年齢が若いほど経済的負担感は重く感じられていた。また多くが経済支援、特化した福祉サービス、就労維持に関する整備が不十分だと感じていた。
3)考察
 若年性認知症ではADなどの変性疾患が中心と思われていた。ところが基礎疾患としては、この予想や欧米における調査結果とは異なりVaDが最多であった。VaDと比較して、変性性の認知症の特徴は漸次進行性という点にある。これが当事者の就労や社会・家庭生活を大きく妨げる。
結論
 若年性認知症に関する新知見の蓄積や技術開発は喫緊の課題である。併せて患者・家族への経済支援、特化した福祉サービス制度の創設が切望される。

公開日・更新日

公開日
2009-04-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2009-11-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200821015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 全国の推定若年性認知症患者数は3.78万人(3.61ー3.94万人) と算出された。女性よりも男性に多い。基礎疾患では脳血管性(VaD)の認知症が最多、アルツハイマー病(AD)、頭部外傷後遺症と続く。 VaDのタイプ別では、脳出血、脳梗塞、やくも膜下が多かった。なおVaDの有病率については、男性は女性の2倍以上である。ADについては逆に女性の有病率が高い。
 多くの患者・家族が経済支援、特化した福祉サービス、就労維持などに関する制度や施設の整備が不十分だと感じていた。
臨床的観点からの成果
 基礎疾患ではVaDが最多という結果は、従来欧米を中心に発表されてきたADが最多とした結果とは際立った相違をなすものである。また近年減少したとされるわが国の高齢者の脳血管障害としては多発性の脳梗塞やラクナが多い。これに対して今回対象となったVaD患者では、脳出血やくも膜下が多かった。この点は、従来あまり認識されていなかっただけに今後の若年性認知症と脳血管障害への対応において新たなポイントになると考える。
ガイドライン等の開発
 本研究課題は疫学研究であり、必ずしもガイドライン化に適応するとは言い切れない。しかし従来のわが国でなされた全国調査や幾つかの地域における調査などを総合して、近年の疫学的実態の推移を整理しておくことは極めて重要と思われる。
その他行政的観点からの成果
 若年性認知症の有病率、基礎疾患の調査結果については全国の5県において、大同小異のものであった。また患者さんの容態についても正規的な分布をしていることがわかった。さらに家族の生活状況についてもその概要を把握することができた。もっともこうした結果はあくまで控えめに理解すべきで実態はさらに多いかもしれない。そのように留意しつつも、今後この問題に対しての政策医療と福祉施策を実行する基礎作りにおいて、以上において示した今回得られ数字はミニマムなものとして意義をもつものと考える。
その他のインパクト
わが国全般に関する唯一の疫学調査の報告は厚生科学研究「若年痴呆の実態に関する研究」(班長:一ノ渡尚道)と題して平成9年に報告されている。この調査は、青森県、群馬県、徳島県、北九州市、八王子市において373万人の対象人口についてなされたものである。この調査で用いられた調査と結果の表示方法は、必ずしも我々のものと同一ではない。しかし患者数は、約2.56万人(サンプルウエイトを用いて推定すれば、3.7万人)と推定されている。これと比較して、今回の調査結果はほぼ同じと思われる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ikejima C, Yasuno F,Asada T etal.
Prevalence and causes of early-onset dementia in Japan: a population-based study.
Stroke , 40 , 2709-2714  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-