制御性T細胞を用いた肝・小腸・肺・膵島移植における免疫寛容の誘導

文献情報

文献番号
200817003A
報告書区分
総括
研究課題名
制御性T細胞を用いた肝・小腸・肺・膵島移植における免疫寛容の誘導
課題番号
H18-トランス・一般-004
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
小柴 貴明(京都大学大学院 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 上本 伸二(京都大学大学院 医学研究科 )
  • 前川 平(京都大学医学部付属病院 )
  • 坂口志文(京都大学 再生医学研究所 )
  • 湊 長博(京都大学大学院 医学研究科 )
  • 芹川 忠夫(京都大学大学院 医学研究科)
  • 庄司 剛(京都大学大学院 医学研究科)
  • 小林 英司(自治医科大学)
  • 大段 秀樹(広島大学大学院 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(基礎研究成果の臨床応用推進研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
65,781,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
制御性 T 細胞(Tregs)による細胞養子免疫療法の有効性と安全性を前臨床モデルのミニブタ移植の系を用いて確認する。
研究方法
MHCの定まった2系統のミニブタを用いて肺移植を行う。移植の二日前に、レシピエントの末梢血からアフェレーシスを用いて単離した単核球から、磁気ビーズ法でTregsを分離する。分離されたTregsはドナーの単核球にIL-2とラパマイシンの存在下に暴露させ、移植後10日目に回収する。移植後7,8,9日にサイクロフォスファミドを経静脈的に連投し、リンパ球減少を起こした上で、1x106 /kgの培養Tregsを移植後10日目に静脈内に投与する。移植当日から、移植後6日まで、high doseのタクロリムス(TAC)を静脈内に持続投与する。移植後7-21日にはlow doseのTACを投与する。Tregsとlow dose のTACを併用するグループ(Group-Tregs+TAC)と、Tregsのみ投与するグループ(Group-Tregs)、low dose のTACだけ投与するグループ(Group-TAC)、Tregsもlow dose のTACも使用しないグループ(Group-non Tregs,non TAC)の4群間で移植肺のsurvival を比較する(拒絶の診断はレントゲンと病理で行う)。また、Tregsを移入したときに、副作用が生じないか観察する。
結果と考察
Group-Tregs, Group-TACでは、Group-non Tregs,non TACに比較してsurvivalの延長を認めなかった。(Group-non Tregs,non TAC; 15.5±1.5日, Group-Tregs; 16.0±1.0日, Group-TAC; 16.3±0.8日)。ところが、Tregs とlow dose のTACを併用すると、survivalは著しく延長し(49.6±29.2日)、一例において、免疫寛容が成立した(survival>100日)。また、Tregs移入で、副作用を認めなかった。Tregsによる細胞養子免疫療法を臨床応用するにあたって、前臨床モデルの大動物の移植で同方法の効果と安全性が示された本研究の成果は意義が大きい。
結論
臓器移植後の免疫寛容を誘導するTregsによる細胞養子免疫療法の効果と安全性が前臨床モデルのレベルで世界で初めて示された。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200817003B
報告書区分
総合
研究課題名
制御性T細胞を用いた肝・小腸・肺・膵島移植における免疫寛容の誘導
課題番号
H18-トランス・一般-004
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
小柴 貴明(京都大学大学院 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 上本 伸二(京都大学大学院 医学研究科)
  • 前川 平(京都大学医学部付属病院)
  • 坂口 志文(京都大学再生医学研究所)
  • 湊 長博(京都大学大学院 医学研究科)
  • 芹川 忠夫(京都大学大学院 医学研究科)
  • 李 頴(京都大学大学院 医学研究科)
  • 庄司 剛(京都大学大学院 医学研究科)
  • 小林 英司(自治医科大学)
  • 大段 秀樹(広島大学大学院 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(基礎研究成果の臨床応用推進研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1) 前臨床モデルとして耐えるミニブタで各種臓器移植モデルを確立する。
2) ミニブタの制御性T細胞(Tregs)を末梢血から分離して試験管内でアロ抗原に暴露して、特異的な抑制活性を有するTregsを作る。
3) 1) 2)で確立したin vivo,in vitro モデルを活用して、臓器移植後の免疫寛容を誘導するTregsの養子免疫療法の有効性と安全性を、 前臨床レベルで確認する。
研究方法
1)MHCの定まった2系統のミニブタをドナーとレシピエントに用いて,各種臓器移植(肺・小腸・肝・膵島移植)を施行する。
2) ミニブタの末梢血から単離した単核球から、磁気ビーズ法でTregsを分離する。分離されたTregsは別の系統のミニブタの単核球にIL-2とラパマイシンの存在下に試験管内で暴露させ、培養後10日目に回収する。培養後のTregs がアロ抗原に特異的な抑制活性を持つかどうかを機能解析する。
3)1)で確立した各種臓器移植モデルを用いて移植を行う二日まえに、レシピエントからTregs を単離、2)の方法で得られたドナー抗原特異的なTregs を、サイクロフォスファミドでリンパ球減少を起こした上で移植後10日目に静脈内投与する。
結果と考察
1)ミニブタで肺・小腸・肝・膵島移植のモデルが確立された。
2)ミニブタの抗原特異的Tregs の培養に成功した。
3)すべての臓器移植で最も激しい拒絶の起こる肺移植で、Tregsの養子免疫療法にlow dose のタクロリムスを併用すれば、グラフト生存が著しく延長することがわかった。投与する、Tregsは1x106/kg でよく、この量のTregsの投与では重篤な副作用を起こさなかった。
これまで、大動物で各種臓器移植を展開するのは我が国では困難であった。しかし、本研究で大動物レベルでの臓器移植の展開が可能となった。また、ミニブタのレベルでは抗原特異的なTregs の培養は例がなかったが本研究で、Tregsに抗原特異的抑制活性を持たせることに成功した。これらの成果をもちいて、世界に先駆け、前臨床モデルとして耐えるミニブタでTregsの養子免疫療法の有効性と安全性が実証されたことは、同方法を臨床に応用するにあたって確かな足がかりとなった。
結論
前臨床ミニブタモデルで、各種臓器移植の確立、抗原特異的Tregs の培養、Tregsの養子免疫療法に成功した。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200817003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
制御性T細胞を用いた細胞養子免疫療法の臓器移植後の免疫寛容誘導の有効性は、すでにげっ歯類では確認されている。しかし、大動物のレベルでは有効性・安全性の評価は十分には行われていなかった。免疫の動態には動物の種特異性があるため、大動物(ミニブタ)のレベルで制御性T細胞を用いた細胞養子免疫療法の有効性・安全性が確認されたことは、制御性T細胞の免疫寛容における役割が動物の種を超えて証明されたこととなり、専門的、学術的な意義は大きい。
臨床的観点からの成果
制御性T細胞を用いた細胞養子免疫療法の臓器移植後の免疫寛容誘導の有効性は、すでにげっ歯類では確認されているが、げっ歯類のデータをそのまま、臨床応用することはできない。研究代表者らは、1x106/kg の制御性T細胞であれば、重篤な副作用をもたらすことなく、もっとも拒絶の起きやすい肺移植で、拒絶を著しく抑制することが分かった。以上より、肺移植における臨床試験実施時には、拒絶を抑制するため、まず、1x106/kg の制御性T細胞を用いて細胞養子免疫療法を施すことの、理論的根拠が得られた。
ガイドライン等の開発
制御性T細胞の細胞養子免疫療法の有効性は理論的には、予測されていた。しかし、いったいどの程度の数の、制御性T細胞を、一旦、ドナー抗原に試験管内で暴露し、再度レシピエントに戻せば、安全に、拒絶が抑制抑制されるのかを、裏付ける科学的根拠がなかったため、この点についての臨床応用時のガイドラインは設定が不可能であった。しかし、本研究で1x106/kg の制御性T細胞であれば、細胞養子免疫療法に用いても、安全に、拒絶を抑制することが判明したため、臨床プロトコルのガイドライン設定の確かな足がかりとなった。
その他行政的観点からの成果
現在の臓器移植の現況では、通常拒絶を抑制するため、免疫抑制剤を使用するが、その結果感染症が起き、患者が死に至る場合もまれではない。とりわけ、激しい拒絶の起こる、小腸・肺移植ではこの問題は深刻である。これらの臓器移植は普及が遅れている。本研究では、きわめて少量の免疫抑制剤と制御性T細胞を用いた細胞養子免疫療法との併用で、肺移植の拒絶が著しく抑制された。従って、同方法はこれらの困難な移植の普及に寄与する可能性が高い。
その他のインパクト
以下の二社から取材を受け、放映された。
1) 2007年9月23日 日曜日 14時?15時半
テレビ朝日 全国放送 ヒューマンサイエンススペシャル
2) 2009年2月20日・27日 金曜日 21時?22時
TBS系BS-i 全国放送 健康トリプルアンサー

発表件数

原著論文(和文)
53件
原著論文(英文等)
136件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
188件
学会発表(国際学会等)
84件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yoshitomi M, Koshiba T, Haga H et al
Requirement of protocol biopsy before and after complete cessation of immunosuppression after liver transplantation.
Transplantation , 87 (4) , 606-614  (2009)
原著論文2
Pirenne J, Kawai M, Kitade H et al
Intestinal transplantation: from the laboratory to the clinics.
Acta Chir Belg. , 108 (1) , 52-57  (2008)
原著論文3
Satoda N, Shoj T,Wu Y et al
Value of FOXP3 Expression in Peripheral Blood as Rejection Marker after Miniature Swine lung transplantation.
J Heart Lung Transplant , 27 (12) , 1293-1301  (2008)
原著論文4
Li Y, Zhao X, Cheng D et al
The presence of FOXP3 expressing T cells within grafts of tolerant human liver transplant recipients.
Transplantation , 86 (12) , 1837-1843  (2008)
原著論文5
Zhao X, Koshiba T, Nakamura T et al
ET-Kyoto solution plus dibutyryl cyclic adenosine monophosphate is superior to University of Wisconsin solution in rat liver preservation. 
Cell Transplant. , 17 (12) , 99-109  (2008)
原著論文6
Wing, K., Onishi, Y., Prieto-Martin, P et al
CTLA-4 control over Foxp3+ regulatory T cell function.
Science. , 322 , 271-275  (2008)
原著論文7
Sharma, S., Dominguez, A. L., Manrique, S. Z et al
Systemic targeting of CpG-ODN to the tumor microenvironment with anti-neu-CpG hybrid molecule and T regulatory cell depletion induces memory responses in BALB-neuT tolerant mice.
Cancer Res. , 68 , 7530-7540  (2008)
原著論文8
Sakaguchi, S., Yamaguchi, T., Nomura, T.et al
Regulatory T cells and immune tolerance.
Cell. , 133 , 775-787  (2008)
原著論文9
Tanimoto Y,Tashiro H,Itamoto T et al
Hepatic venous outflow obstruction after right lateral sector living-donor liver transplantation, treated by insertion of an expandable metallic stent
J Hepatobiliary Pancreat Surg. , 15 (2) , 228-231  (2008)
原著論文10
Tashiro H,Itamoto T, Amano H et al
Portal vein reconstruction using explanted recipient's native right hepatic vein
Surgery , 144 (1) , 105-  (2008)
原著論文11
Tashiro H,Ohdan H, Oshita A et al
Reconstruction of the middle hepatic vein tributaries draining segments V and VIII of a right liver graft by using the recipient's own middle hepatic vein and vascular closure staples.
Surg Today , 38 (3) , 289-291  (2008)
原著論文12
Shishida M,Ohdan H, Onoe T et al
Role of invariant natural killer T cells in liver sinusoidal endothelial cell-induced immunosuppression among T cells with indirect allospecificity
Transplantation , 85 (7) , 1060-1064  (2008)
原著論文13
Igarashi Y,Tateno C,Tanaka Y et al
Engraftment of human hepatocytes in the livers of rats bearing bone marrow reconstructed with immunodeficient mouse bone marrow cells
Xenotransplantation , 15 (4) , 235-245  (2008)
原著論文14
Wakai, T., Tanaka, H., Yamanaka, K et al
Induction of estrus in pubertal miniature gilts.
Animal reproducation sciens , 103 , 193-198  (2008)
原著論文15
2. Wakai, T., Sugimura, S., Yamanaka, K.et al
Production of Viable Cloned Miniature Pig Embryos Using Oocytes Derived from Domestic pig Ovaries.
Cloning Stem Cells , 10 (2) , 249-262  (2008)
原著論文16
Tashiro H,ItamotoT, Ohdan H et al
Should splenectomy be performed for hepatitis C patients undergoing living-donor liver transplantation
J Gastroenterol Hepatol , 22 (6) , 959-960  (2007)
原著論文17
Tashiro H,Itamoto T, Sasaki T et al
Biliary Complications after Duct-to-duct Biliary Reconstruction in Living-donor Liver Transplantation : Causes and Treatment
World Journal of Surgery , 31 (11) , 2222-2229  (2007)
原著論文18
Hirota, K., Yoshitomi, H., Hashimoto, M.et al
Preferential recruitment of arthritogenic Th17 cells to inflamed joints via CCR6/CCL20 in rheumatoid arthritisand its animal model.
J. Exp. Med. , 204 , 2803-2812  (2007)
原著論文19
Sakaguchi S, Powrie F
Emerging challenges in regulatory T cell function and biology.
Science. , 317 , 627-629  (2007)
原著論文20
Koshiba T, Li Y, Takemura M et al
Clinical, immunological, and pathological aspects of operational tolerance after pediatric living-donor liver transplantation.
Transpl Immunol. , 17 (2) , 94-97  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-