「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について」の改定に資する研究

文献情報

文献番号
202019036A
報告書区分
総括
研究課題名
「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について」の改定に資する研究
課題番号
20HA1009
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 隆(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 感染症疫学研究センター)
  • 伊豫田 淳(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 岡部 信彦(川崎市健康福祉局 川崎市健康安全研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
5,990,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli; EHEC)に感染した患者および無症状病原体保有者に対する便検査の実施状況から、「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について(平成11年3月30日付け健医感発第43号厚生省保健医療局結核感染症課長通知)」での菌陰性化判定が困難な長期保菌例や陰性化確認後の二次感染例の詳細な疫学を明らかにし、このような事例の要因となる臨床的・微生物学的な特性を検討する。このうえで「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について」の改訂に係るエビデンスを創出することを主な目的とする。
研究方法
本研究では以下の4つの調査研究を行う。
① 腸管出血性大腸菌感染症の発生状況の疫学的解析
② 排菌期間に関する先行研究調査と国外のEHEC保菌者に対する陰性化確認方法の文献的調査
③ 国内保健所・地方衛生研究所を軸とした排菌期間に関する前方視的検討
④ 長期排菌に関連した微生物学的特性を明らかにするための菌株解析
結果と考察
① 腸管出血性大腸菌感染症の発生状況(2020年)
腸管出血性大腸菌感染症のNESIDへの届出は、2020年は3088件、うち有症状者は1985件(64%)であった。例年と比較すると少ないが、他の流行性疾患と異なり大幅な減少にはならなかった。この事は、同感染症がヒトの接触を介した伝播ではなく、汚染された食品を介して獲得されることを示唆すると考えられた。その一方で2020年は夏前に発生が激減したタイミングがあったが、これは緊急事態宣言が発令された影響があったものと考えられた。夏の発生状況は例年よりは低いが、秋~冬にかけては例年よりも多かった週もあった。ヒトの行動の変化が腸管出血性大腸菌感染症の届出件数にも影響を与えていることが示唆される。2020年はこれまで64件のHUS発症の報告がされている。2020年の病原体サーベイランスから見た腸管出血性大腸菌検出例の血清型はO157が多く、ついでO26、O103、 O111、 O91であった。症状としては下痢・腹痛がかなりの割合を占めていたのと同時に、無症状病原体保有者も全体の40%を示していた。腹痛・血便が多かったのはO157が群を抜いていた。O26やO103では有症状者も多かったが同時に無症状病原体保有者の報告も多かった。O91などは無症状が大半であった。
② 排菌期間に関する先行研究の系統的レビュー 系統的レビューに先立ち、候補となる274文献中27件について2名の専門医によるscoping reviewをおこなった。
これをうけ、検索に用いるべきキーワードやアウトカムの再定義を行い、PROSPERO登録をおこない、複数の文献データベースにおいて検索を行い、3079件の文献がヒットした。令和3年度は系統的レビューの完了と研究論文としての出版を目指す。
③ 保健所を対象としたEHEC保菌者の排菌期間に関する後方視的検討
EHEC感染症患者において長期にわたる排菌に関与する因子を検討することを目的とした。腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli; EHEC)感染症患者において、患者と無症状病原体保有者に対する抗菌薬投与と排菌期間の関連を検討し、EHEC感染症の全体像把握の一助とすることを目的として本研究を実施する。①東京都内の各保健所に届け出られ、川崎市において積極的疫学調査を実施した者及び②管轄の保健所もしくは保健所支所に届け出られ、川崎市において積極的疫学調査を実施した者を対象に、患者群と無症状病原体保有者群の二群に分けて、それぞれの群で抗菌薬投与と排菌期間の関連を検討することとして研究計画を立案し、次年度以降に実施予定とした。
④ 長期排菌に関連した微生物学的特性を明らかにするための菌株解析
EHEC関連HUSによる死亡症例の分離株を検討した。市販のO抗血清に反応せず、全ゲノムシーケンスによりOX18:H2系統であることと、病原遺伝子を有する事が確認された。同様にO抗血清に反応しない14株についてOX18系統であることが判明した。伝播経路や感染源の特定のために、Og/Hg typingを含む遺伝子型の特定や全ゲノムシーケンスの重要性を改めて認識することとなった。
結論
腸管出血性大腸菌感染症の一般的な排菌期間である2-3週を超えて排菌が続く患者を対象とした抗菌薬による介入検討および菌種による個別のリスク評価の必要がある。

公開日・更新日

公開日
2022-03-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-03-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202019036Z