がん微小環境制御を併用したナノドラッグによる難治性固形がん治療の実現

文献情報

文献番号
200812029A
報告書区分
総括
研究課題名
がん微小環境制御を併用したナノドラッグによる難治性固形がん治療の実現
課題番号
H19-ナノ・若手-001
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
狩野 光伸(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 西山 伸宏(東京大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(ナノメディシン研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ナノ粒子の腫瘍内蓄積については、全ての腫瘍血管が漏出性であるという前提で開発されているが、実際には、ナノ粒子による治療効果は、多くのヒト腫瘍において証明されていない。したがって、難治固形癌をはじめヒト腫瘍の血管構築は、一般的に動物モデルでは見られる血管構築を持たない可能性が考えられる。ここで我々は腫瘍間質が豊富な主要モデルを用い、これらモデルにおいては腫瘍血管の漏出性は実は高くなく、逆にTGF-β阻害剤を用いて漏出性を増加させた方が、ナノ粒子の腫瘍蓄積が増強される可能性を示した。これに基づき、当研究では、ナノ粒子による難治癌治療を実現するための充分な前臨床的知見を得ることを目的とする。
研究方法
漏出性の腫瘍血管を持つC26マウス大腸癌モデルと漏出性の低い血管を持つヒト膵癌BxPC3モデルを用い、TGF-β阻害剤、PDGF阻害剤(グリベック)、VEGF他の阻害剤(ソラフェニブ)、可溶化Tie-2受容体の効果を比較した。リンパ管制御に関しては、BxPC3腫瘍細胞株に、リンパ管新生を司るVEGF-Cシグナルの抑制因子となる可溶化VEGFR3分子を強制発現させることにより、ナノ粒子の分布効果を検討した。また、該当する倫理面への配慮を行った。
結果と考察
漏出性腫瘍血管を持つC26大腸癌モデルと低漏出性血管を持つBxPC3膵癌モデルを用いて、各種薬剤の併用効果を比較した結果、漏出性血管に対してはVEGF阻害が、そうでない血管ではTGF-β阻害がナノ粒子蓄積増強効果を持つことが示された。その他の組合せは増強を示さなかった。血管の壁細胞による被覆程度がこれらの差の組織学的指標として明らかにされ、被覆が強いほど漏出性が低く、TGF-β阻害併用の効果が発揮されることが判明した。この結果から、壁細胞による被覆の強い血管を持つ腫瘍においては、血管正常化説よりも本研究の戦略がふさわしいことが示唆された。
リンパ管制御に関しては、検討したどの方法も、リンパ管新生を抑制するだけでなく血管新生も抑制してしまったが、なお若干のナノ粒子蓄積増強傾向は観察された。

結論
本研究により、現在難治とされる固形腫瘍に対して、わが国が得意とするナノテクノロジーを用いた製剤を利用し、その特徴である低副作用を保ったまま治療を行う方法を確立できることが現実味を帯びてきたと考える。本研究を通じて、難治性固形癌に対してナノDDSの効果を発揮させられるようになれば、その社会的、医療的効果は計り知れない。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-