一般用漢方製剤の使用上の注意の整備と安全使用に関する研究

文献情報

文献番号
202025007A
報告書区分
総括
研究課題名
一般用漢方製剤の使用上の注意の整備と安全使用に関する研究
課題番号
H30-医薬-指定-010
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
袴塚 高志(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
研究分担者(所属機関)
  • 政田 さやか(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
  • 能勢 充彦(名城大学薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
4,860,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,平成23年度に実施された一般用生薬・漢方製剤のリスク区分の見直しに伴う一般用漢方製剤の安全使用に資する環境整備のためのツールの普及・促進と,漢方製剤による副作用の原因成分の体内動態に影響を及ぼす要因の検討と,一般用漢方製剤の添付文書における使用上の注意等の見直しを実施するレギュラトリーサイエンス研究であり,厚生労働行政への貢献を通した国民の健康と安全の確保を目的とする.
研究方法
漢方製剤の安全使用に資するツールに関する研究では,一般用漢方製剤の情報提供サイト「漢方セルフメディケーション」の内容を改善し,公開4年目のアクセス状況について解析した.
漢方製剤の安全性確保に関する研究では,カンゾウ配合漢方エキスをマウスに経口投与し,処方による血中グリチルレチン酸(GA)濃度推移の違いを検討した.また,若齢および加齢マウスの盲腸内容物について,アンプリコンシーケンスデータを用いた予測ゲノム解析を行った.
一般用漢方製剤の使用上の注意の見直しに関する研究では,一般用漢方製剤のうち添付文書に「製品の特徴」及び「養生訓」の記載がある製品について,その添付文書情報を収集し,それを参照して「製品の特徴」及び「養生訓」の記載案作成に向けた基礎的検討を行った.
結果と考察
漢方製剤の安全使用に資するツールに関する研究では,平成29年1月に公開した「漢方セルフメディケーション」ホームページについて,より多くの利用者の目に留まる工夫として,鑑別シートを基礎とした「漢方薬を選ぶ」の8項目から1つを選び,45日ごとにトップページ及び「漢方薬を選ぶ」ページに「Pick Up!」項目として強調表示することとした.また,公開4年目のアクセス状況を解析したところ,大きな変動はなく,固定利用客が比較的長時間利用しているという昨年度までの傾向を維持していることが分かった.
漢方製剤の安全性確保に関する研究では,マウスに8種のカンゾウ配合漢方エキスを経口投与し,血中GA濃度を測定したところ,薬物動態学的パラメーターと配合カンゾウ量とAUC0-48を比較すると,概ねよい相関を示すことが分かった.また,グリチルリチン酸(GL)としての投与量とAUC0-48を比較すると,その相関性は低下した.その一方で,Cmaxとそれぞれ配合量やGL投与量との間には明確な相関性は認められなかった.さらに,若齢マウスと加齢マウスから採取した盲腸内の腸内細菌叢のβグルコシダーゼ活性とβグルクロニダーゼ活性をゲノムデータから予測比較したところ,両酵素活性ともに加齢による影響はないことが示唆され,昨年度に検討した酵素活性の実測結果とは異なる結果が得られた.
一般用漢方製剤の使用上の注意の見直しに関する研究では,添付文書に収載の「製品の特徴」及び「養生訓」に関して,同じ処方に基づく製品間であってもほとんど統一性はなく,各社に特徴的な記述となっていることを確認した.「養生訓」については,元来の趣旨が「病気の予防,症状の改善等につながる注意事項」であり,多岐に渡る効能効果のうち,どれに焦点を絞って訴求するかは企業の特徴の一つであるため,統一することの意義は少ないと考えられた.一方,「製品の特徴」については,それが依拠する漢方処方の特徴を記述するものとすれば,ある程度の標準的記載が可能であろうと考えられた.
結論
公開から3年以上が経過し,「漢方セルフメディケーション」のアクセス状況に大きな変動はなく,固定利用者による長時間使用が推測される成熟したホームページとなった.今後は,今回導入した「Pick Up!」表示など,より多くの利用者の目に留まる工夫によって,本研究成果が一般用医薬品の安全で有効な利用を促進し,セルフメディケーションによる国民の健康・福祉に貢献することを期待する.また,カンゾウ配合漢方エキスを経口投与し,血中GA濃度を測定したところ,カンゾウ配合量が血中曲線下面積(AUC0-48)とよい相関を示した.一方,最高血中濃度(Cmax)については,配合カンゾウ量とは相関性を示さず,他の構成生薬由来の成分との相互作用が関わることが示唆された.漢方エキス製剤の安全使用に資する基礎研究としては,代表的なカンゾウ配合漢方エキス投与時の血中GA濃度推移をはじめとする体内動態を明らかにしていく必要があるものと思われる.さらに,一般用漢方製剤の使用上の注意の記載事項について,「製品の特徴」については,一般用漢方製剤製造販売承認基準に収載の294処方に関して個々に策定することは困難であるため,広くコンセンサスを得ることができる分類を施して分類毎に記載案を策定するか,あるいは,例えば日本薬局方に収載されている漢方処方エキスに限定して記載案を策定するなどの工夫が必要と考えられた.

公開日・更新日

公開日
2021-07-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202025007B
報告書区分
総合
研究課題名
一般用漢方製剤の使用上の注意の整備と安全使用に関する研究
課題番号
H30-医薬-指定-010
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
袴塚 高志(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
研究分担者(所属機関)
  • 政田 さやか(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
  • 能勢 充彦(名城大学薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,平成23年度に実施された一般用生薬・漢方製剤のリスク区分の見直しに伴う一般用漢方製剤の安全使用に資する環境整備のためのツールの普及・促進と,漢方製剤による副作用の原因成分の体内動態に影響を及ぼす要因の検討と,一般用漢方製剤の添付文書における使用上の注意等の見直しを実施するレギュラトリーサイエンス研究であり,厚生労働行政への貢献を通した国民の健康と安全の確保を目的とする.
研究方法
漢方製剤の安全使用に資するツールに関する研究では,一般用漢方製剤の情報提供サイト「漢方セルフメディケーション」の内容を改訂し,アクセス状況を解析し、無償無記名のアンケート調査を行った。
漢方製剤の安全性確保に関する研究では,雌性BALB/cマウスを80週以上長期間飼育して加齢マウスとして用いた.
一般用漢方製剤の使用上の注意の見直しに関する研究では,日本漢方生薬製剤協会安全性委員会の協力を得ながら,医師,病院薬剤師,薬局薬剤師,大学教員,国立衛研生薬部員より構成された研究班を開催し,一般用漢方製剤の適用を考慮した使用上の注意の記載事項の見直しについて検討した.
結果と考察
漢方製剤の安全使用に資するツールに関する研究では,「漢方セルフメディケージョン」ホームページの利用状況に関するアンケート調査より,主に薬剤師や登録販売者に多く利用され,高く評価されていることを把握した.さらに,ホームページのアクセス解析より,スマートフォンやタブレット端末での利用が主流となっていることが明らかとなった。
漢方製剤の安全性確保に関する研究では,加齢マウスにGLあるいはカンゾウエキスを投与して血中GA濃度を測定したところ、予想に反して血中GA濃度は低値を示し,盲腸内容物の腸内細菌叢の糖質加水分解酵素活性の実測値から,腸内細菌叢によるGLからGAへの加水分解効率の低下に起因するものと推定された.さらに、カンゾウ配合漢方エキスの経口投与実験から、血中GA濃度の薬物動態パラメーターのうち, AUC0-48は,配合カンゾウ量やGL含量とよい相関を示す一方,その最高血中濃度(Cmax)やその到達時間(tmax)は,配合カンゾウ量やGL含量とは相関せず,構成生薬の違いによる影響を受けていることが示唆された.
一般用漢方製剤の使用上の注意の見直しに関する研究では,一般用漢方製剤の使用上の注意の記載事項について,処方としての適用を勘案しつつ見直しを行い,さらに,それぞれのケースでの副作用情報を精査した上で検討し,最終的に以下の4項目の見直し案を作成した. 1)「医療用漢方製剤148処方「使用上の注意」の業界統一と自主改訂」に妊産婦に関する生薬別記載内容基準が定められた生薬(ダイオウ,ゴシツ,ボタンピ,トウニン,ボウショウ,コウカ及びブシ)を配合しておらず,かつ,妊産婦の服用が想定される効能・効果を有する11処方(当帰散,温清飲,黄連解毒湯,香蘇散,柴胡桂枝乾姜湯,四物湯,逍遥散,川芎茶調散,抑肝散,抑肝散加芍薬黄連,抑肝散加陳皮半夏)においては,使用上の注意の「相談すること」(相談項)の妊産婦に関する注意喚起を削除する. 2)カンゾウ及びマオウが配合されていないにも関わらず,高齢者に関する注意喚起が施されている胃風湯においては,使用上の注意の相談項の高齢者に関する注意喚起を削除する.ただし,企業の考えで敢えて記載する場合はそれを妨げない. 3) 麻黄湯において,使用上の注意の「してはいけないこと」(禁忌項)の「次の人は服用しないこと」に記載された「体の虚弱な人(体力の衰えている人,体の弱い人)」について,相談項に移し,かつ,可能な限り相談項の上位に配置する. 4)八味地黄丸及び知柏地黄丸の禁忌項の「次の人は服用しないこと」に記載された「胃腸の弱い人,下痢しやすい人」については,相談項に移す.
結論
「漢方セルフメディケーション」ホームページについて引き続き修正,改善した上で広く周知活動を行うことで,国民の一般用漢方製剤の安全で適正な利用を促進し,セルフメディケーションによる国民の健康・福祉に貢献することを期待する.また,加齢マウスを用いた本研究において,若齢マウスと比較して加齢マウスでは,腸内細菌叢によるGLからGAへの加水分解効率の低下し,血中GA濃度が低値を示すことが分かり、高齢者にて低カリウム血症の発現頻度が高くなる理由について別の角度から検討する必要性が示された.また,一般用漢方製剤の使用上の注意の記載事項について,妊産婦及び高齢者に対する「相談すること」の注意喚起,並びに,八味地黄丸及び知柏地黄丸の禁忌項について本研究で確定した見直し案は,薬事・食品衛生審議会等にて一般用漢方製剤の使用上の注意の改訂が審議される際の原案として活用されることが期待される.

公開日・更新日

公開日
2021-08-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202025007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
平成23年度に実施された一般用生薬・漢方製剤のリスク区分の見直しに伴う一般用漢方製剤の安全使用に資する環境整備のためのツールの普及・促進と,漢方製剤による副作用の原因成分の体内動態に影響を及ぼす要因の検討と,一般用漢方製剤の添付文書における使用上の注意等の見直しを実施した.
臨床的観点からの成果
生薬カンゾウの副作用である低カリウム血症の発現頻度が高くなる要因の一つとして「高齢者」が挙げられていることに着目し,加齢マウスを作製してグリチルリチン酸(GL)あるいはカンゾウエキスを投与し,血中グリチルレチン酸(GA)濃度について,若齢マウスと比較検討したところ,加齢マウスでは血中GA濃度は低値を示し,腸内細菌叢によるGLからGAへの加水分解効率の低下が原因であると推測された.
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
一般用漢方製剤の使用上の注意の記載事項について,以下の4項目の見直し案を作成した.1) 妊産婦の服用が想定される11処方において相談項の妊産婦に関する注意喚起を削除する,2) 胃風湯において相談項の高齢者に関する注意喚起を削除する,3) 麻黄湯において禁忌項に記載された「体の虚弱な人(体力の衰えている人,体の弱い人)」を相談項に移す,4) 八味地黄丸及び知柏地黄丸の禁忌項の「胃腸の弱い人,下痢しやすい人」を相談項に移す.
その他のインパクト
漢方製剤の安全な適正使用を推進する「安全に使うための漢方処方の確認票(確認票)」,及び,漢方処方の使い分けを支援する「安全に使うための一般用漢方処方の鑑別シート(鑑別シート)」をメインコンテンツするホームページ「漢方セルフメディケージョン」(https://www.kampo-self.jp/)の周知と普及を通じて,一般用漢方製剤の安全使用に寄与した.

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nose, M., Tada, M., Kato, A., et al.
Effect of Schisandrae Fructus on glycyrrhizin content in Kampo extracts containing Glycyrrhizae Radix used clinically in Japan.
J. Nat. Med. , 73 , 834-840  (2019)
10.1007/s11418-019-01325-4

公開日・更新日

公開日
2022-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
202025007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,860,000円
(2)補助金確定額
4,860,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,246,691円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 1,613,326円
間接経費 0円
合計 4,860,017円

備考

備考
自己資金17円

公開日・更新日

公開日
2021-08-24
更新日
2022-06-09