腸管粘膜バリア破綻条件下での高分子化合物の経口暴露による毒性影響の解明

文献情報

文献番号
202024028A
報告書区分
総括
研究課題名
腸管粘膜バリア破綻条件下での高分子化合物の経口暴露による毒性影響の解明
課題番号
19KA3004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
松下 幸平(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 井手 鉄哉(独立行政法人医薬品医療機器総合機構新薬審査第四部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
2,303,000円
研究者交替、所属機関変更
研究代表者 交替前:井手鉄哉、交替後:松下幸平 研究分担者 交替前:松下幸平、交替後:井手鉄哉

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、ポリスチレン等の高分子化合物が様々な食品類から検出されているが、これら高分子化合物の経口暴露によるヒトへの生体影響を評価するためのデータは乏しい。一方で、腸管は粘液や上皮細胞から構成される粘膜バリアで保護されていることから、経口暴露によって高分子化合物がヒトの体内へ吸収される量は少ないと予想されるが、腸管の炎症性疾患により粘膜バリアが破綻した条件下では、高分子化合物は直接腸管の深部組織に接することとなり、通常とは異なる生体影響を示す可能性がある。本研究では、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)の飲料水投与によるラット腸炎モデルを用いて、健常ラットと腸炎ラットに高分子化合物を経口投与した際の生体影響や体内動態の差異について比較・検証し、腸炎による腸管粘膜バリアの破綻が、経口暴露された高分子化合物の毒性発現に影響を及ぼし得るかを明らかにすることを目的としている。
研究方法
ラットに持続的な腸炎を誘発できるDSSの投与濃度を決定するための予備試験として、6週齢の雄性F344ラットを平均体重が均一となるように対照群8匹、1%及び2%DSS群各16匹割り付けた。MP Biomedicalsの製造ロット番号S2187(分子量36-50 kDa)のDSSを1週おきに6週間1%または2%の濃度で1週間飲料水に混じて自由摂取させ、次の1週間は通常の水道水を摂取させるサイクルを3回繰り返した。投与期間中は一般状態及び便性状を観察するとともに、体重及び飲水量測定を実施した。実験開始1週後、2週後、4週後および6週後に対照群は2匹ずつ、DSS投与群は4匹ずつイソフルラン深麻酔下にて腹部大動静脈より放血安楽殺した。剖検時に大腸を摘出し、10%中性緩衝ホルマリンにて固定した。ホルマリン固定サンプルを用いて定法に従いパラフィン包埋・薄切し、HE染色標本を作製して病理組織学的検査を行った。
ポリスチレンを含むナノマテリアルについて、Web検索により、近年の欧州委員会における毒性評価情報及び文献情報を収集した。
結果と考察
実験期間を通して、いずれの群においても死亡動物は認められなかった。経過中の体重変化は、2% DSS投与群でやや増加抑制傾向が見られたが、統計学的な有意差は認めなかった。また、飲水量及び摂餌量についてもDSS投与群と対照群の間に有意な差異は見られなかった。一般状態については、DSS投与群では肛門周囲被毛の汚れ及び下痢が観察され、1%よりも2%でより高度の傾向が見られた。また、DSS投与期間直後の時点ではより高度の所見を示す動物が多い傾向があった。2%群では、出血性下痢も観察され、DSS投与の休止1週後も半数以上の動物で何らかの所見が認められた。大腸の病理組織学的観察では、DSS投与群では、1週後から直腸及び結腸にびらんまたは潰瘍及び粘膜上皮の再生像が観察され、1%よりも2%でより高度の傾向が見られた。特に、直腸の変化がより強く、DSS投与の休止1週後にも全例で何らかの所見が観察された。本プロトコールに基づいて投与開始1週後から、F344ラットに粒径30 nm及び300 nmのポリスチレン粒子を用い、高用量を1000 mg/kg 体重/日に設定し、公比5で除して中間用量を200、低用量を40 mg/kg 体重/日として、健常ラットと腸炎モデルラットを用いた28日間反復経口投与実験を実施し、健常ラットと腸炎モデルラットそれぞれについて無毒性量(NOAEL)を決定し、毒性影響の比較を行うことが適切と考えられた。
欧州委員会のScientific Committee on Consumer Safety (SCCS) の専門家パネルは化粧品中のナノマテリアルの安全性に関する提言を発出した(https://ec.europa.eu/health/sites/default/files/scientific_committees/consumer_safety/docs/sccs_o_239.pdf)。その中で、潜在的に安全性への懸念があるナノマテリアルとしてスチレン/非晶ポリアリレート共重合体(ナノ)+スチレン/非晶ポリアリレート共重合体(ナノ)(SCCS / 1595/18)を取り上げている。欧州委員会の提言では、ナノスチレンは環境と共にほ乳類やヒトの毒性影響が懸念されるもののデータが不足しており、結論には達することができないとの見解と考えられた。
結論
1%の36-50 kDa DSSを1週間毎に間欠的に飲水投与するプロトコールで持続的に大腸炎を誘発可能であることが明らかとなった。また、ナノサイズを含む、ポリスチレンの毒性影響については、情報が不十分とされている。特に、海外においてin vivoのデータは、ほとんど得られないことが、評価をより困難にしていると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2021-10-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202024028Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,303,000円
(2)補助金確定額
2,289,000円
差引額 [(1)-(2)]
14,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,193,682円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 96,240円
間接経費 0円
合計 2,289,922円

備考

備考
差額は自己資金での支払い

公開日・更新日

公開日
2023-04-10
更新日
-