文献情報
文献番号
202024010A
報告書区分
総括
研究課題名
野生鳥獣由来食肉の安全性の確保とリスク管理のための研究
課題番号
H30-食品-一般-004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
高井 伸二(北里大学 獣医学部 獣医衛生学研究室)
研究分担者(所属機関)
- 前田 健(国立感染症研究所 獣医科学部)
- 壁谷 英則(日本大学生物資源科学部)
- 杉山 広(国立感染症研究所 寄生動物部)
- 朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
20,046,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、全国で捕獲されたイノシシとシカなどの野生動物における病原体汚染状況を3年間継続的に調査し、リスクプロファイルに取り纏め、病原体汚染リスク軽減のための情報を整備し、加工調理段階での衛生管理実態の把握と危害工程の抽出、並びに複数の加熱調理法を通じた微生物汚染低減効果の検証により適切な調理の在り方を検討する。その成果は、狩猟関係者と消費者に対して、1)全国規模の病原体保有状況の把握、2)狩猟者、解体処理者のバイオセキュリティ、3)カラーアトラスの充実、4)処理施設の衛生管理指針の充実、5)ジビエ肉の加工調理ガイドライン等の提供が可能となる。
研究方法
全国から収集した血液材料におけるE型肝炎とSFTSウイルスの抗体価の測定とE型肝炎ウイルスゲノムの検索を実施した。E型肝炎ウイルスの培養細胞における馴化の継続を実施した。②旋毛虫の加熱失活実験と、ツキノワグマにおける旋毛虫とイノシシにおける肺吸虫の寄生状況を調査した。③処理施設、内臓摘出の場所(屋外、施設内)、剥皮/内臓摘出の工程順別に枝肉の拭き取りを実施し、比較検討した。④冷蔵保存を通じた猪肉中での真菌動態を時系列的に解析した。猪肉中でのE型肝炎ウイルスを不活化する加熱条件を検討した。
結果と考察
15県のイノシシ2,363頭と13道県のシカ1,822頭を調査した。イノシシ360頭(15.2%)がE型肝炎ウイルス抗体陽性で、シカは1頭(0.1%)が陽性であった。E型肝炎ウイルス遺伝子はイノシシ1,471頭中25頭(1.7%)、シカ1,380頭中1頭(0.1%)が陽性であった。SFTSは15県中12県で抗体陽性となり、中国・四国・九州で陽性率が高く、これまでに低率であった関東地方でも陽性率が上昇している地域が認められた。狩猟・解体時の血液の飛散に注意する必要がある。培養細胞に34代継代馴化したHEVの作製に成功した。②Trichinella T9幼虫を75℃で1分間加熱する条件では、マウスへの感染性が完全には消失しないことが追認された。北東北3県で捕獲されたツキノワグマ22頭について旋毛虫の寄生状況を調べたところ、岩手県で2020年12月に捕獲されたツキノワグマ1頭の舌から旋毛虫Trichinella T9の幼虫が検出され、他は陰性であった。大分県のイノシシの筋肉を調べたところ、ウェステルマン肺吸虫2倍体型の幼虫が検出された。鹿児島県のサワガニおよびモクズガニからウェステルマン肺吸虫3倍体型メタセルカリアが検出されたことから、カニがイノシシへの感染源になっていると考えられた。③鹿、猪ともに「剥皮」→「内臓摘出」の順で処理された枝肉からは、「内臓摘出」→「剥皮」の順で処理された枝肉に比べ、一般細菌数が多く検出された。猪では、剥皮の際「のせ台」を用いた場合は、「懸吊」する場合に比べ、各種衛生指標細菌数が多く検出された。鹿、猪ともに、剥皮の際に「手剥ぎ」に比べ、「ウィンチ」を用いて行うと、細菌汚染を受けやすいことが明らかとなった。解体処理工程において、搬入前の表皮洗浄は極めて効果的に細菌数を減少させた。解体処理工程における細菌汚染源として、表皮、蹄、肛門周囲、胃内容物などが考えられた。一連の工程の内、特に、「剥皮工程」、「内臓摘出工程」では、作業者の手指、およびナイフに高度に細菌汚染されることが確認された。④猪精肉の真菌叢の調査手法としてNGS法を構築し、簡便かつ難培養性の菌種も確実に検出できる効果的な手法であることを示した。供試検体では酵母の占有率が極めて高く、Malassezia属菌等の医真菌学上需要な真菌種も高率に分布する特徴が明らかとなった。今後、本手法の活用により、危害要因分析の充実に資するほか、リスク管理方法の妥当性評価、並びにジビエ食肉加工従事者の健康被害防止等に波及することが期待される。低温加熱条件の妥当性を評価するため、スチームコンベクションオーブンを用いて猪肉を低温加熱調理(70℃3分、69℃4分、67℃8分、66℃11分)に供した際のE型肝炎ウイルスの不活化をリアルタイムPCR法により評価したところ全ての低温加熱群で遺伝子は検出されず、不活化されていた。
結論
わが国におけるイノシシとシカにおけるE型肝炎ウイルスとSFTSウイルスの分布が明らかとなった。75度1分の加熱条件で失活しないTrichinella T9幼虫が存在した。岩手県のツキノワグマの舌にも旋毛虫が存在した。イノシシにおける肺吸虫の分布調査とサワガニが感染源として重要であることが明らかとなった。処理施設における剥皮と内臓摘出の順により、イノシシの体表の汚染度に違いがあることが明らかとなった。イノシシ・シカ肉の冷蔵保存中における真菌汚染状況の調査法としてNGS法を確立した。低温加熱調理で猪肉中E型肝炎ウイルスは不活化された。
公開日・更新日
公開日
2021-10-18
更新日
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