産業保健の観点からの健康経営の有用性の検証のための研究

文献情報

文献番号
202023006A
報告書区分
総括
研究課題名
産業保健の観点からの健康経営の有用性の検証のための研究
課題番号
H30-労働-一般-008
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
永田 智久(産業医科大学 産業生態科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 勲(慶應義塾大学 商学部)
  • 松平 浩(東京大学医学部附属病院22世紀医療センター 運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座)
  • 森 晃爾(産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学研究室)
  • 永田 昌子(産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
3,360,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、なぜ産業保健活動が必要か、具体的に何をすればよいか、産業保健活動に取組むメリットについて検討することを目的とした。
研究方法
(1)労働者の健康施策の経営上の目的・効果について、医療福祉業の経営者にインタビュー調査を行った。
(2)労働者の健康施策の経営上の目的・効果に関するアンケート調査を実施した。
(3)健康経営優良法人(中小規模法人部門)のホームページを確認し、安全衛生活動の情報開示について調査した。
(4)健康経営度調査票の企業データを用いて、企業における健康施策が、労働者の健康および経営指標に与える影響について検討した。
(5)労働生産性向上を目的とした労働者の健康施策に関する介入研究を実施した。
結果と考察
中小企業を対象としたインタビュー調査(医療・福祉業)では、人材不足が大きな経営上の課題であることを確認した。健康経営の実施では、従業員を巻き込むことに障壁があること、しかし、中小企業ならではの強みとして、「目的や対策が浸透しやすい」が語られた。これらの点について、アンケート調査でも同様の結果が得られた。特に健康経営の効果では、健康面の改善や安全意識の向上に加えて、経営面では会社のイメージアップや人材採用場面での競争力に効果が得られており、安全衛生と経営との良い循環となっていた。ただし、ホームページ調査においては、健康経営や安全衛生の活動を外部に公開・公表している企業は少なく、PRが足りていない可能性がある。PRが強化されることにより、社外からの認知・評価が高まり、良い循環が強化されることが期待される。
大企業においては、健康経営度調査票のデータを用いて解析を行った。産業保健専門職がいること、また、上司への教育(ラインケア教育)が行われていることが、社員の健康指標に良い影響を与えていることが実証された。また、経営面では、健康経営実施の効果について因果的な関係を推計したところ、健康を経営理念に掲げ、施策を実施すると利益率にプラスの影響をもたらすことが確認できた。これらの結果は、健康経営を推進することで健康度があがり、その結果、経営指標も改善しうることを示唆している。
実際に健康経営を行う際、「産業保健専門職がいない」「時間がない」といった課題に対して、AIを活用して、スマートフォンで利用できるサービスの効果検証を行い、一定の効果が認められた。今後はこのようなツールの開発が進むことが期待され、同時にこれらのツールの効果が科学的に検証されることが望ましいと考える。
結論
これらの知見を広く周知することにより、中小企業、大企業のいずれにおいても健康経営および労働安全衛生の取組みが推進されると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2022-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-01-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202023006B
報告書区分
総合
研究課題名
産業保健の観点からの健康経営の有用性の検証のための研究
課題番号
H30-労働-一般-008
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
永田 智久(産業医科大学 産業生態科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 勲(慶應義塾大学 商学部)
  • 松平 浩(東京大学医学部附属病院22世紀医療センター 運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座)
  • 森 晃爾(産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学研究室)
  • 永田 昌子(産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、なぜ産業保健活動が必要か、具体的に何をすればよいか、産業保健活動に取組むメリットについて検討することを目的とした。
研究方法
(1)労働者の健康施策の経営上の目的・効果について、運輸業、および、医療福祉業の経営者にインタビュー調査を行った。
(2)労働者の健康施策の経営上の目的・効果に関するアンケート調査およびホームページ調査を実施した。
(3)健康経営度調査票の企業データを用いて、企業における健康施策が、労働者の健康および経営指標に与える影響について検討した。
(4, 5)経営者との連携方法に関して、産業医に対してインタビュー調査を行った。
(6)労働生産性向上を目的とした労働者の健康施策に関する介入研究を実施した。
結果と考察
まず、中小企業においては、人材不足が重要な経営課題となっており、優秀な人材の確保と健康経営とは密接に結びついていた。健康経営優良法人へのアンケート調査でも、健康経営優良法人へ応募した理由は、会社のイメージアップ、人材採用での効果を期待が2大理由であり、整合的である。健康施策への課題は、お金がない、時間がない、専門家がいない、がよく挙げられる障壁であるが、調査結果からは、従業員の巻き込み方が最大の課題であり、ここに対する対応が非常に重要である。健康施策・健康経営を進めることによる効果(健康面)は、従業員の生活習慣や健康に関するリテラシーの改善・向上(56%)、従業員の健康状態の改善(45%)が高かった。労働災害防止の面では、従業員の安全に対する意識が高まった(40%)があがり、健康施策・健康経営と安全衛生面とが共に推進させる可能性が示唆された。経営面での効果は、効果がない(43%)という回答が最も多かった一方で、人材採用場面での競争力(33%)がみられ、一定の効果の可能性があることが示唆された。このことから、産業保健・健康経営の効果は健康面のみでなく、安全面や経営面にも波及しているといえる。しかし、経営面の効果は人材採用場面での競争力であるものの、自社のホームページで積極的にPRできている企業が少なく、この点を強化することで、より成果が上がることが期待される。
 大企業においては、経営トップの産業保健・健康経営への関わりや方針の有無、体制等の組織的要因が重要であることが明らかとなった。これらの無形資源が充実していると、労働者の健康度も向上し、経営指標も良好であった。実証研究では、健康経営の実施は問診結果にあらわれる健康アウトカムの改善を通じて、企業の利益率を高めるプラスの影響をもたらす可能性があるといえる。この関係は、産業保健専門職が役割を果たすことにより、強化される。産業医介入に企業の意思決定が円滑になされるための産業保健サービスの要素・方法として、1)健康施策における企業の意思決定の特徴や意思決定者の前提を踏まえて、合意形成を要する範囲やその影響を把握することや、2)産業保健への認識を高めるために、恒常的に産業保健に関する情報を経営情報へ翻訳しながら、提案を行うことが有効であると考えられた。本研究で開発されたチェックリスト等取り入れること等により、明らかとなった具体的手法と要素を活用しながら、健康施策決定に貢献することが望まれる。産業医が経営者に報告する内容の良好事例をまとめた。また、AI(人工知能)を活用した保健指導を受けることができるツールを開発した。これらのツール・良好事例をいかし、企業規模、業種にあった健康施策・産業保健活動が推進されることが期待される。
結論
産業保健・健康経営を推進することにより、労働者の健康のみならず、安全や経営指標も改善することが明らかとなった。この知見は大企業のみでなく、中小企業においても同様の知見が得られた。これらの知見を広く周知することにより、労働者の健康や安全に経営者がより優先的に取り組むことが期待できる。

公開日・更新日

公開日
2022-03-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-01-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202023006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、産業保健活動・健康経営施策が労働者の健康を介して企業の業績に結び付くことをデータで提示した。産業保健の観点から、企業の縦断的な個票データを用いて「健康施策―労働者の健康―企業業績・企業価値」の関係性を明らかにした研究は例がなく、学術的価値が高い。
臨床的観点からの成果
本研究では、産業保健専門職(産業医、保健師等)が労働者の健康ニーズを把握し、経営者とコミュニケーションをとり、産業保健活動の成果を提示する方法について、良好事例と具体的な方法をまとめている。本知見は産業保健専門職が実務ですぐに活用できると考えられる。
ガイドライン等の開発
企業における健康施策決定プロセスと企業・労働者のニーズを踏まえた産業医の介入に関するマニュアル、産業保健専門職が健康施策の成果を経営者に示す良好事例、経営者に健康施策の重要性・必要性を示すための資料を作成した。「健康投資管理会計ガイドライン」(経済産業省)の作成において、専門委員として参加し、研究の成果を発表した。
その他行政的観点からの成果
労働安全衛生活動は企業規模が小さくなるにつれてその実施率が低いことが国の実施する労働安全衛生調査でも明らかとなっている。中小企業において健康施策が人材採用場面での競争力向上等の知見が得られた。これらの知見を中小企業の経営者に周知することにより、産業保健活動の実施率を向上させることができる。健康投資WG(経済産業省、2020年7月16日)に参加し、研究知見について発表した。
その他のインパクト
国が実施する健康経営度調査票のデータについて、産業保健・産業医学および労働安全衛生の観点から分析・検討を行う枠組みを構築した。今後、健康経営の政策に労働安全衛生の観点を統合することが重要であると考えるが、その際に本枠組みは貴重な資料となる。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takahashi H, Nagata M, Nagata T, et al.
Association of organizational factors with knowledge of effectiveness indicators and participation in corporate health and productivity management programs
J Occup Health , 63 (1) , e12205-  (2020)
https://doi.org/10.1002/1348-9585.12205
原著論文2
Mori K, Nagata T, Nagata M, et al.
Development, Success Factors, and Challenges of Government-Led Health and Productivity Management Initiatives in Japan
J Occup Environ Med , 63 (1) , 18-26  (2020)
DOI: 10.1097/JOM.0000000000002002
原著論文3
Nagata M, Nagata T, Takahashi H, et al.
Association of Organizational Factors With the Proportion of Healthy Behaviours and Control of Blood Pressure at a Company Level
J Occup Environ Med , 64 (1) , 34-38  (2022)
doi: 10.1097/JOM.0000000000002326
原著論文4
Inoue S, Nagata T, Nagata M, et al.
Relationship Between Psychosocial Work Environment Factors and Presenteeism Among Workers With Diarrhea/Constipation Symptoms: A Cross-Sectional Study
J Occup Environ Med , 64 (4) , e197-e201  (2022)
doi: 10.1097/JOM.0000000000002476
原著論文5
Mori T, Nagata T, Nagata M, et al.
Diabetes severity measured by treatment control status and number of anti-diabetic drugs affects presenteeism among workers with type 2 diabetes
BMC Public Health , 21 (1) , 1865-1865  (2021)
doi: 10.1186/s12889-021-11913-3
原著論文6
Mori K, Nagata M, Nagata T.
Work-Related Factors Affecting the Occurrence of Presenteeism — Recent Research Trends and Future Directions
J UOEH , 43 (1) , 61-73  (2021)
doi: 10.7888/juoeh.43.61
原著論文7
山本勲, 福田皓, 永田智久, 他
健康経営銘柄と健康経営施策の効果分析
RIETIディスカッション・ペーパー  (2021)

公開日・更新日

公開日
2021-09-06
更新日
2023-05-25

収支報告書

文献番号
202023006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,000,000円
(2)補助金確定額
3,653,000円
差引額 [(1)-(2)]
347,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 806,503円
人件費・謝金 619,566円
旅費 0円
その他 1,587,309円
間接経費 640,000円
合計 3,653,378円

備考

備考
返金は1000円単位のため、差異の378円は研究者の自己負担とした。

公開日・更新日

公開日
2022-05-26
更新日
-