医療の質評価の全国展開を目指した調査研究

文献情報

文献番号
202022021A
報告書区分
総括
研究課題名
医療の質評価の全国展開を目指した調査研究
課題番号
19IA2013
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
福井 次矢(聖路加国際大学 聖路加国際病院)
研究分担者(所属機関)
  • 猪飼 宏(京都府立医科大学 大学院医学研究科)
  • 今中 雄一(京都大学 医学研究科)
  • 今村 知明(奈良県立医科大学 医学部 公衆衛生学講座)
  • 嶋田 元(聖路加国際病院 消化器・一般外科)
  • 高橋 理(聖路加国際大学 専門職大学院公衆衛生学研究科)
  • 伏見 清秀(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医療政策情報学)
  • 松田 晋哉(産業医科大学 医学部・公衆衛生学)
  • 大出 幸子(聖路加国際大学 専門職大学院公衆衛生学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
2,424,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療の質を継続的に改善するためには、医療の質を知ることのできる指標(質指標Quality Indicator:QI)を測定することが不可欠である。
厚生労働省では、平成22年(2010年)度開始の「医療の質の評価・公表等推進事業」を介して、毎年複数の病院団体によるQIの測定・公表を推進し、その事業をさらに全国展開する目的で、平成28年(2016年)度厚生労働行政推進調査事業費補助金による研究班によって「共通QIセット」が提唱され、平成29年(2017年)度以降の「医療の質の評価・公表等推進事業」では、「共通QIセット」の測定を求めてきたところである。
本研究の目的は、今後、全国の病院でQI測定を行うための基盤構築の一環として、「共通QIセット」に含まれているQIの定義の見直しや海外で開発された指標の導入の可能性、「共通QIセット」の測定・公表を全国展開する場合の課題等について調査・研究を行うことである。
研究方法
前年度に続いて、3つの調査・研究を行った。
1)HCAHPS(Hospital Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems)の日本語版作成と妥当性評価・予備的フィールド調査
前年度、正式な手続きを得て作成した日本語版HCAHPSについて、専門家8名、患者12名に参加してもらい、内容妥当性と表面妥当性の評価を行った。並行して、患者パネルから入院経験のある300名に、実際にHCAHPSに回答してもらい、データを解析した。
2)患者アウトカム尺度の一つであるEQ-5Dを用いたQOLの測定と効用値の算出
5項目の質問に答えることで効用値を算出できるEQ-5D(日本語版はEQ-5D-5L)を、聖路加国際病院外科系診療科に入院する患者を対象に、入院前、退院後約1か月、退院後約6か月の3時点で配布し、回答を依頼した。
3)「共通QIセット」測定に伴う課題抽出と測定推進
平成22年(2010年)度~平成30年(2018年)度の厚生労働省「医療の質の評価・公表等推進事業」に参加してきた9病院団体を対象としたアンケート調査を行い、近い将来の全国展開を見据えて、測定すべきQI等について考察した。
結果と考察
1)日本語版HCAHPS の内容妥当性、表面妥当性とも優れていることが確認できた。フィールド調査の結果の分析では、例えば、「良い病院」を決定する要因として、「医師が分かりやすく説明してくれた」「病室とトイレが清潔であった」「病院を家族や友人に勧める」「退院後の医療の判断に患者や家族、介護者の意向を汲んでくれた」の4項目が抽出された、等の結果が得られた。
2)日本語版EQ-5D-5Lを用いて、入院前、退院後1か月、退院後6か月の3時点でのデータを収集できた462名について、入院前の平均効用値は0.885(男性0.900、女性0.877)、退院1か月時点での平均効用値0.842(男性0.870、女性0.828)、退院6か月時点での平均効用値0.900(男性0.928、女性0.881)であった。外科系疾患のために予定入院した患者の平均効用値は、入院前に比べて退院後1か月時点では有意に低下し、退院後6か月の時点で入院前のレベル以上に回復するというパターンを示した。また、ほとんどの時点で、平均効用値は、女性に比べて男性で高かった。
3)9病院団体を対象としたアンケート調査により、これまでにQIの測定を行ってきた病院は、合計すると952を数え、23種類36項目から成る「共通QIセット」のうち12項目は、大多数の病院団体で測定していることが分かった。
結論
1)日本語版HCAHPSの内容妥当性、表面妥当性とも優れていて、今後「共通QIセット」に組み入れても問題ないと考えられる。フィールド調査では、例えば「良い病院」と有意に関連性のある項目を抽出できることが示され、HCAHPSを医療現場で用いることで医療の質向上に繋がる具体的な方略を見出せる可能性が示唆された。
2)日本語版EQ-5D-5Lを用いて患者アウトカムである効用値の測定が可能であり、患者の効用値の時系列での変化や男女間の差異等、新たな知見が得られることが分かった。
3)多くの病院団体で測定が続けられていることが判明した「共通QIセット 」中の12のQIについて、今後、それらをベースに「共通QIセットver.1」を作成し、すでにQIの測定・公表事業に参加してきている約1,000の病院で測定・公表を促し、その後、全国の病院を対象にQIの測定・公表事業を展開できるものと思われる。

公開日・更新日

公開日
2021-06-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-06-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202022021B
報告書区分
総合
研究課題名
医療の質評価の全国展開を目指した調査研究
課題番号
19IA2013
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
福井 次矢(聖路加国際大学 聖路加国際病院)
研究分担者(所属機関)
  • 猪飼 宏(京都府立医科大学 大学院医学研究科)
  • 今中 雄一(京都大学 医学研究科)
  • 今村 知明(奈良県立医科大学 医学部 公衆衛生学講座)
  • 嶋田 元(聖路加国際病院 消化器・一般外科)
  • 高橋 理(聖路加国際大学 専門職大学院公衆衛生学研究科)
  • 伏見 清秀(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医療政策情報学)
  • 松田 晋哉(産業医科大学 医学部・公衆衛生学)
  • 大出 幸子(聖路加国際大学 専門職大学院公衆衛生学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療の質を継続的に改善するためには、医療の質を知ることのできる指標(質指標Quality Indicator:QI)を測定することが不可欠である。
厚生労働省では、平成22年(2010年)度開始の「医療の質の評価・公表等推進事業」を介して、毎年複数の病院団体によるQIの測定・公表を推進し、その事業をさらに全国展開する目的で、平成28年(2016年)度厚生労働行政推進調査事業費補助金による研究班によって「共通QIセット」が提唱され、平成29年(2017年)度以降の「医療の質の評価・公表等推進事業」では、「共通QIセット」の測定を求めてきたところである。
今後、全国の病院でQI測定を行うための基盤構築の一環として、「共通QIセット」に含まれているQIの定義の見直しや海外で開発された指標の導入の可能性、「共通QIセット」の測定・公表を全国展開する場合の課題等について調査・研究を行うことである。
研究方法
1)患者の視点から医療サービスを評価するHCAHPS(Hospital Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems)の日本語版作成と妥当性評価・予備的フィールド調査
最初に、HCAHPSを開発したAHRQ(The Agency for Healthcare Research and Quality)から、日本語版作成について正式な承認を得て、求められるプロトコルに従って翻訳を行った。次に、作成した日本語版HCAHPSについて、専門家8名、患者12名に参加してもらい、内容妥当性と表面妥当性の評価を行った。並行して、患者パネルから入院経験のある300名に、実際にHCAHPSに回答してもらい、データを解析した。
2)患者アウトカム尺度の一つであるEQ-5Dを用いたQOLの測定と効用値の算出
5項目の質問に答えることで効用値を算出できるEQ-5D(日本語版はEQ-5D-5L)を、聖路加国際病院外科系診療科に予定入院する患者を対象に、入院前、退院後約1か月、退院後約6か月の3時点で配布し、回答を依頼した。
3)「共通QIセット」測定に伴う課題抽出と測定推進
平成22年(2010年)度~平成30年(2018年)度の厚生労働省「医療の質の評価・公表等推進事業」に参加してきた9病院団体を対象としたアンケート調査を行い、QIの測定・公表事業の全国展開を見据えて、測定すべきQI等について考察した。
結果と考察
1)日本語版HCAHPS の内容妥当性、表面妥当性とも優れていることが確認できた。フィールド調査の結果の分析では、例えば、「良い病院」を決定する要因として、「医師が分かりやすく説明してくれた」「病室とトイレが清潔であった」「病院を家族や友人に勧める」「退院後の医療の判断に患者や家族、介護者の意向を汲んでくれた」の4項目が抽出された、等の結果が得られた。
2)日本語版EQ-5D-5Lを用いて、入院前、退院後1か月、退院後6か月の3時点でのデータを収集できた462名について、入院前の平均効用値は0.885(男性0.900、女性0.877)、退院1か月時点での平均効用値0.842(男性0.870、女性0.828)、退院6か月時点での平均効用値0.900(男性0.928、女性0.881)であった。外科系疾患のために予定入院した患者の平均効用値は、入院前に比べ退院後1か月時点では有意に低下し、退院後6か月の時点で入院前のレベル以上に回復するというパターンを示した。また、ほとんどの時点で、平均効用値は、女性に比べ男性で高かった。
3)9病院団体を対象としたアンケート調査により、これまでにQIの測定を行ってきた病院は、合計すると952を数え、23種類36項目から成る「共通QIセット」のうち12項目は、大多数の病院団体で測定していることが分かった。
結論
1)日本語版HCAHPSの内容妥当性、表面妥当性とも優れていて、今後「共通QIセット」に組み入れても問題ないと考えられる。フィールド調査では、例えば「良い病院」と有意に関連性のある項目を抽出できることが示され、HCAHPSを医療現場で用いることで医療の質向上に繋がる具体的な方略を見出せる可能性が示唆された。
2)日本語版EQ-5D-5Lを用いて患者アウトカムである効用値の測定が可能であり、患者の効用値の時系列での変化や男女間の差異等、新たな知見が得られることが分かった。
3)多くの病院団体で測定が続けられていることが判明した「共通QIセット」中の12のQIについて、今後、それらをベースに「共通QIセットver.1」を作成し、すでにQIの測定・公表事業に参加してきている約1,000の病院で測定・公表を促し、その後、全国の病院を対象にQIの測定・公表事業を展開できるものと思われる。

公開日・更新日

公開日
2021-06-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202022021C

成果

専門的・学術的観点からの成果
医療の質は、診療や看護が患者の健康をどれほど改善したのか、その度合いを知ることで評価される。患者の健康を直接的に表すアウトカム(帰結)は、身体的・心理的・社会的側面について把握されるものの、患者の心理的側面からの評価は客観性に乏しく、科学性を欠きやすい。
しかしながら、医療においては、患者の主観的・心理的側面からの評価をより重視すべきとの近年の世界的潮流の中で、現状では、最も科学的・学術的に妥当で、国際的な標準化が可能となる評価方法の導入に貢献することができた。
臨床的観点からの成果
患者の経験に基づいた主観的視点から医療サービス・病院を評価するHCAHPS(Hospital Consumer Assessment of Healthcare and Systems)を用いることで、例えば、医師や看護師のどのような行動・態度が良い病院との評価につながっているのかを知ることができること、EQ-5Dを用いることで、外科系診療科に予定入院した患者のQOL指標である効用値は、退院後1か月に悪化し、6か月後には入院前の値を超えるところまで改善すること、等の知見が得られた。
ガイドライン等の開発
令和3年(2021年)度には約1,000病院を対象に、その後も比較的近い将来、全国の病院を対象に、医療の質指標(Quality Indicator:QI)を測定し公表するプロジェクトが構想されていることから、本研究で導入した国際的な患者アウトカム尺度であるHCAHPSとEQ-5Dを多くの病院で円滑に活用してもらうためには、何らかの形でのガイドライン作成が必要になるものと思われる。
その他行政的観点からの成果
医療の質の担保は、医療行政に求められる最も重要な任務の一つであり、質の担保・質の改善には、質の評価が不可欠である。質の評価に係る方法論・手順についても、倫理的・社会的視点から、あるいは科学的・学術的な視点から、常に新たな開発や改良がなされていて、厚生行政上も定期的なアップデートが必要であり、本研究はその一助となるものである。
その他のインパクト
現在までのところ、マスコミで取り上げられたり公開シンポジウムを開催したりはしていないが、実際にQIの測定・公表を全国の病院に展開するという次の段階では、マスメディアの活用や公開シンポジウムの開催などが必要になってくるものと思われる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-06-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
202022021Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,150,000円
(2)補助金確定額
1,690,000円
差引額 [(1)-(2)]
1,460,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 0円
人件費・謝金 964,495円
旅費 0円
その他 0円
間接経費 726,000円
合計 1,690,495円

備考

備考
自己資金 495円

公開日・更新日

公開日
2021-12-01
更新日
-