糖鎖プライマー法を利用した白血病等の発現糖鎖パネル化と発現糖鎖プローブの開発による診断・治療への応用

文献情報

文献番号
200807005A
報告書区分
総括
研究課題名
糖鎖プライマー法を利用した白血病等の発現糖鎖パネル化と発現糖鎖プローブの開発による診断・治療への応用
課題番号
H18-ゲノム・一般-005
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
藤本 純一郎(国立成育医療センター研究所 副所長室)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤 智典(慶應義塾大学理工学部)
  • 梅澤 明弘(国立成育医療センター研究所 生殖医療研究部)
  • 清河 信敬(国立成育医療センター研究所 発生・分化研究部)
  • 片桐 洋子(国立成育医療センター研究所 発生・分化研究部)
  • 中島 英規(国立成育医療センター研究所 副所長室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
22,553,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
細胞に発現する糖鎖は、細胞の成熟やがん化により発現パターンが大きく変化することが知られている。本研究では、生物系特定産業技術支援機構のプロジェクトで開発推進され、NEDOのプロジェクトでも糖鎖大量生産技術として採用された「糖鎖プライマー法」を活用して、組織幹細胞や小児がん細胞などに発現している糖鎖を網羅的に解析してパネル化する。更に大量に生産した糖鎖を抗原として利用し、優秀な糖鎖抗体を樹立する。将来的にこれら糖鎖パネルや糖鎖抗体を診断・治療へ応用することを目指す。
研究方法
本研究では生きた細胞をいわば糖鎖工場として利用する「糖鎖プライマー法」を応用し、様々な白血病等の細胞に糖鎖を大量に産生させてLC-MSで糖鎖の発現及び構造解析を行って各細胞の発現糖鎖のパネル化を行う。得られた結果を統計解析ソフト”R”を使って試料間における統計解析を行う。同時に、培養過程の必要が無く微量な試料から直接発現糖鎖を同定する方法を確立する。
結果と考察
糖鎖プライマー法による糖鎖と細胞自身が持つ糖鎖をLC-MSで解析した。本年度は特に、霊長類ES細胞が持つ糖鎖についての解析を行った。ES細胞は一般的フィーダー細胞を共培養しなければならない。単独培養と共培養を比較した結果糖脂質全体の発現が低下するという知見を得た。また、細胞の糖脂質分子脂質部分の構造解析、比較定量を可能にした。白血病細胞に発現するCD10のもつ糖鎖について、CD10の酵素活性が糖鎖構造に依存し、酵素活性に影響するグリコシル化アミノ酸部位を推定した。新開発のジルコニア固相を用いることで、患者検体のように培養が困難で微量しか得られない試料から直接分解させることなく糖脂質を回収する方法を確立した。
結論
従来法では同定が困難であった構造の糖鎖が糖鎖プライマー法を適用することで同定することができたことに加え、内在性糖脂質を含む発現糖鎖パネルをクラスター解析し、発現糖鎖による細胞のクラス分類することが可能となった。糖鎖プライマー法ばかりでなく、臨床検体のように微量しか得られない試料の細胞内に存在する糖蛋白質や糖脂質を網羅的に解析し、前述のクラスター解析することができるようになった。これらの成果を応用して今後糖蛋白質糖鎖を含め、さらに多種多様な細胞の発現糖鎖解析を行い、発現糖鎖パネルの充実を図って診断・治療に応用するための情報を蓄積することが可能になった。

公開日・更新日

公開日
2009-08-06
更新日
-

文献情報

文献番号
200807005B
報告書区分
総合
研究課題名
糖鎖プライマー法を利用した白血病等の発現糖鎖パネル化と発現糖鎖プローブの開発による診断・治療への応用
課題番号
H18-ゲノム・一般-005
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
藤本 純一郎(国立成育医療センター研究所 副所長室)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤 智典(2000162454)
  • 梅澤 明弘(2070213486)
  • 清河 信敬(2060195401)
  • 片桐 洋子(2000392481)
  • 中島 英規(2030450620)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
細胞に発現する糖鎖は、細胞の成熟やがん化により発現パターンが大きく変化することが知られている。本研究では、生物系特定産業技術支援機構のプロジェクトで開発推進され、NEDOのプロジェクトでも糖鎖大量生産技術として採用された「糖鎖プライマー法」を活用して、組織幹細胞や小児がん細胞などに発現している糖鎖を網羅的に解析してパネル化する。更に大量に生産した糖鎖を抗原として利用し、優秀な糖鎖抗体を樹立する。将来的にこれら糖鎖パネルや糖鎖抗体を診断・治療へ応用することを目指す。
研究方法
本研究では生きた細胞をいわば糖鎖工場として利用する「糖鎖プライマー法」を応用し、様々な白血病等の細胞に糖鎖を大量に産生させてLC-MSで糖鎖の発現及び構造解析を行って各細胞の発現糖鎖のパネル化を行う。得られた結果は、”R”のような統計解析ソフトを使って試料間におけるクラスタリング解析を行う。
結果と考察
糖鎖プライマー法を使用したことで、従来の細胞から抽出する方法では同定することが困難な糖鎖の存在を確認した。また糖鎖プライマー法および内在性糖脂質のLC-MS結果をRでクラスタリング解析して発現糖鎖による細胞のプロファイリングが可能になった。骨髄由来造血系前駆細胞の単球系細胞分化誘導系ではこれまで細胞株で得られていた知見と異なる結果が得られた。B前駆細胞性急性リンパ性白血病に発現する代表的抗原CD10のもつ糖鎖構造を明らかにし、糖鎖構造の違いでCD10の持つ酵素活性が変化することを明らかにした。糖鎖プライマー法を用いない系でいくつか試料中に含まれる糖鎖を有効にLC-MSで発現糖鎖を解析する系を確立した。今回有用と思われる糖鎖マーカーを糖鎖プライマー法で大量に作り出し抗体樹立を試みたが、抗体作製に必要な数mgオーダーの糖鎖を得ることは困難であった。
結論
従来法では同定が困難であった構造の糖鎖が糖鎖プライマー法を適用することで同定することができた。更に発現糖鎖パネルをクラスター解析し、発現糖鎖による細胞のクラス分類することが可能となった。また、糖鎖プライマー法以外でも微量試料から含有している糖鎖を同定し、クラスター解析することが可能になった。これらの成果を応用して今後糖蛋白質糖鎖を含め、さらに多種多様な細胞の発現糖鎖解析を行い、発現糖鎖パネルの充実を図って診断・治療に応用するための情報を蓄積することが可能になった。

公開日・更新日

公開日
2009-08-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2009-10-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200807005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
糖鎖の解析は非常に困難で、これまで解析するためには大量の試料が必要であったが、大量な糖鎖を細胞に作らせる糖鎖プライマー法を用いたことで、比較的容易に発現糖鎖の網羅的解析が可能になった。その情報を元に、微量な細胞で発現している糖鎖の解析も容易になった。また糖鎖のLC-MS分析によるデータが多変量解析などの統計解析が可能であることを示し、今後検体数を増やすことで、従来のようにたった一つの糖鎖のみの違いを追求するばかりでなく、複数種類の糖鎖のいわば発現パターンでプロファイリングすることを可能にした。
臨床的観点からの成果
これまで診断においては細胞などの形態に加え、細胞に存在する蛋白質抗原を抗体で染色し顕微鏡やフローサイトメトリーを用いて診断に利用されてきたが、糖鎖は多種多様な構造のものが存在する割には臨床で診断等に応用されているものが少なかった。本課題では細胞等の試料に含まれる糖鎖をLC-MSで網羅的に検出し、その結果を多変量解析等の統計解析することを可能にした。今後LC-MSが一般化し、分析する検体を増やせば、発現糖鎖による個別診断が可能になり、テーラーメード医療に貢献できる可能性がある。
ガイドライン等の開発
本課題において、解析する試料すなわち臨床検体数がほとんど無く、実際に使用可能なガイドライン情報を得ることは困難である。しかしながら白血病細胞をはじめとしたがん細胞やES細胞などの未分化細胞に発現する糖鎖をLC-MSを使用して網羅的に解析し、検体同士の統計学的解析を行う基盤技術を開発した。今後分析する検体を増やして遺伝子発現等の細胞の特徴や臨床症状等との関連を明らかにすれば、発現糖鎖による個別診断が可能になり、テーラーメード医療に貢献できる可能性がある。
その他行政的観点からの成果
糖鎖は臨床現場で腫瘍マーカーとして利用されていることに加え、再生医療に向けて開発が進められているiPS細胞やES細胞を規定しているマーカーとしても利用されている。これら未分化細胞を規定している糖鎖以外にも判定に有用な糖鎖が存在する可能性がある。本研究で得られた成果は発現糖鎖を網羅的に分析し、その結果を統計学的手法で分類分けすることであるが、複数の糖鎖を判定に利用する点においては将来的に現時点の判定法より精度が上がり、それら未分化細胞の標準化に有用になる可能性がある。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
47件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
63件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakajima Hideki, Sato T.
Construction of an oligosaccharide library by cultured cells for use in glyco-biotechnology.
Construction of an oligosaccharide library by cultured cells for use in glyco-biotechnology , 167-173  (2006)
原著論文2
Cui C, Uyama T, Miyado K, Terai M. et al.
A Human dystrophin expression in the mdx mouse, a model of Duchenne muscular dystrophy, can be conferred predominantly by "cell fusion" with human menstrual blood-derived cells
Mol. Biol. Cell , 18 , 1586-1594  (2007)
原著論文3
Sugiki T, Uyama T, Toyoda M, Morioka H. et al.
Hyaline cartilage formation and enchondral ossification modeled with KUM5 and OP9 chondroblasts
J Cell Biochem , 100 , 1240-1254  (2007)
原著論文4
Yamada Y, Sakurada K, Takeda Y, Gojo S. et al.
Single-cell-derived mesenchymal stem cells overexpressing Csx/Nkx2.5 and GATA4 undergo the stochastic cardiomyogenic fate and behave like transient amplifying cells.
Exp Cell Res , 313 , 698-706  (2007)
原著論文5
Tomita M, Mori T, Maruyama K, Zahir T. et al.
Young MJ. A comparison of neural differentiation and retinal transplantation with bone marrow-derived cells and retinal progenitor cells.
Stem Cells , 24 , 2270-2278  (2006)
原著論文6
Nagayoshi K, Ohkawa H, Yorozu K, Higuchi M. et al.
Increased mobilization of c-kit+ Sca-1+ Lin-(KSL)cells and colony-forming units in spleen(CFU-S)following de nove formation of a stem cell niche depends on dynamic, but not stable, membranous ossificaion
J Cell Physiol , 208 , 188-194  (2006)
原著論文7
T. Sato, M. Takashiba, R. Hayashi, X. Zhu et al.
Glycosylation of dodecyl 2-acetamide-2-deoxy-β-D-glucopyranoside and dodecyl β-D-galactopyranosyl-(1-4)-2-acetamide-2-deoxy-β-D-glucopyranoside as saccharide primers in cells
Carbohydr. Res , 343 , 831-838  (2008)
原著論文8
Suzuki K, Kiyokawa N, Taguchi T, Takenouchi H et al.
Characterization of monocyte-macrophage-lineage cells induced from CD34+ bone marrow cells in vitro.
Int J Hematol. , 85 (5) , 384-389  (2007)
原著論文9
Cui C, Uyama T, Miyado K, Terai M
Human dystrophin expression in the mdx mouse, a model of Duchenne muscular dystrophy, can be conferred predominantly by "cell fusion" with human menstrual blood-derived cells
Mol. Biol. Cell , 18 (5) , 1586-1594  (2007)
原著論文10
Nishiyama N, Miyoshi S, Hida N Miss, Uyama T et ai.
A. The Significant Cardiomyogenic Potential of Human Umbilical Cord Blood-Derived Mesenchymal Stem Cells in Vitro
Stem cells , 25 (8) , 2017-2024  (2007)
原著論文11
Katagiri YU, Sato B, Miyagawa Y, Horiuchi Y. et al.
The detergent-insoluble microdomains, rafts can be used as an effective immunogen
Glycoconj J. , 25 , 495-501  (2008)
原著論文12
Katagiri YU, Sato B, Miyado K, Akutsu H. et al.
Functional siginificance of stage-specific embryonic antigens in the development of preimplantation embryos.
Trends in Glycoscience and Glycotechnology , 20 , 131-139  (2008)
原著論文13
Miyagawa Y, Okita H, Nakaijima H, Horiuchi Y. et al.
Inducible expression of chimeric EWS/ETS proteins confers Ewing's family tumor-like phenotypes to human mesenchymal progenitor cells.
Mol Cell Biol , 28 , 2125-2137  (2008)
原著論文14
T. Matsubara, M. Iida, T. Tsumuraya, I. Fujii et al.
Selection of carbohydrate-binding domain with a helix-loop-helix structure
Biochemistry , 47 , 6745-6751  (2008)
原著論文15
L. Wang, Y. Wang, T. Sato, S. Yamagata et al.
Ganglioside GD1a suppresses TNFa expression via Pkn1 at the transcriptional level in mouse osteosarcoma-derived FBJ cells
Biochem. Biophys. Res. Commun , 371 , 230-235  (2008)
原著論文16
N. Yamamoto, T. Matsubara, T. Sato, K. Yanagisawa
Age-dependent high-density clustering of GM1 ganglioside at presynaptic neuritic terminals promotes amyloid beta-protein fibrillogenesis
Biochim. Biophys. Acta , 1778 , 2717-2726  (2008)
原著論文17
T. Sato
Sugar chain synthesis by the use of cell function
Experimaental Glycoscience Glycochemistry , 166-168  (2008)
原著論文18
Miyado K, Yoshida K, Yamagata K, Sakakibara K et al.
The fusing ability of sperm is bestowed by CD9-containing vesicles released from eggs in mice
Proc Natl Acad Sci U S A. , 105 (35) , 12921-12926  (2008)
原著論文19
Zhu W, Shiojima I, Ito Y, Li Z et al.
IGFBP-4 is an inhibitor of canonical Wnt signalling required for cardiogenesis.
Nature , 454 (7202) , 345-349  (2008)
原著論文20
Sullivan S, Ichida JK, Umezawa A, Akutsu H.
Elucidating nuclear reprogramming mechanisms: taking a synergistic approach
Reprod Biomed Online , 16 (1) , 41-50  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-