災害派遣精神医療チーム(DPAT)と地域精神保健システムの連携手法に関する研究

文献情報

文献番号
202018015A
報告書区分
総括
研究課題名
災害派遣精神医療チーム(DPAT)と地域精神保健システムの連携手法に関する研究
課題番号
19GC1008
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
太刀川 弘和(国立大学法人筑波大学 医学医療系臨床医学域 災害・地域精神医学)
研究分担者(所属機関)
  • 五明 佐也香(獨協医科大学 医学部)
  • 丸山 嘉一(日本赤十字社医療センター 国内医療救護部)
  • 高橋 晶(筑波大学 医学医療系 災害・地域精神医学)
  • 辻本 哲士(滋賀県立精神保健福祉センター)
  • 宇田 英典(地域医療振興協会 地域医療研究所 ヘルスプロモーション研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
10,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
DPAT等活動支援団体を含め、災害時の精神科医療体制は定着しつつあるが、一方で被災地域自治体の精神保健活動への理解度は未だ十分ではなく、DPATにどのような役割を求めるか、どのような体制で応援を依頼するかといった方針や体制は未整備である。本研究は、災害時の急性期以降の精神医療から精神保健への移行における自治体の支援活動側、応援を依頼する側の課題を明らかにし、移行を円滑に行うためのプロセス、DPAT等支援団体の活動終了後の自治体の精神保健体制に関する技術開発を行うことを目的とする。
研究方法
今年度は以下の研究を実施した。
1. 災害時期に対する分類の整理
2. 自治体の災害時精神保健医療福祉マニュアル(ロングバージョン、ショートバージョン)の作成
3. 災害後の自治体における中長期の精神保健医療福祉体制ガイドラインの作成と提案
4. その他関連研究(インタビュー調査、メール分析、4Wツールの調査等)
結果と考察
研究の結果、災害時期に対する分類は、次のように整理された。
・自治体が使用する「初動期」「緊急対応期」を「立ち上げ期」へ統一
・自治体が使用する「応急対応期・前期」を「活動期」へ統一
・自治体が使用する「応急対応期・後期」を「移行期」へ統一
・自治体が使用する「復旧・復興対策期」を「中期」へ統一
・自治体が使用する「復興支援期前期・後期」を「長期」へ統一
 また、平時から災害時における各自治体組織の動きをまとめた自治体の災害時精神保健医療福祉マニュアルを作成し、分担班ごとに各関係組織から意見をヒアリングした。完成したものを都道府県の障害福祉部、精神保健福祉センター、保健所へ配布を実施した。作成したマニュアルは厚生労働省よりホームページに掲載され、必要時にはダウンロードし活用できる流れとなった。また、災害時期別に変化する地域のニーズに対応するための新たな体制の構築として、災害後の自治体における中長期の精神保健医療福祉体制ガイドラインを研究班でまとめた。
 本研究班の活動とマニュアル、ガイドラインの周知・啓発を目的に、日本公衆衛生学会でシンポジウム「今後の災害精神保健医療福祉活動のあり方」を開催し、全分担班が研究報告を行った。
 そのほか常総水害の災害精神支援チームのコアメンバーの活動メールの分析から、災害後の時期別にコミュニケーションや組織形態を変化させることが支援において重要であるとわかった。またDPATが出動した過去4災害における災害精神保健医療情報支援システム(DMHISS)データの解析では、災害後の精神科診断は適応障害、急性ストレス障害、症状は不安、不眠が多く、早期から被災自治体と保健師などとの連携が重要と考えられた。
結論
今年度の活動によって、「自治体の災害時精神保健医療福祉マニュアル」が完成した。昨年度からの議案であった、さらに支援組織撤退後の中長期支援の統括体制と活動内容については各組織から意見を募り、「災害後の自治体における中長期の精神保健医療福祉体制ガイドライン」を作成することができた。そのほか災害後の精神保健ニーズに関する様々な研究成果を得ることができた。今後これらの成果物を用いて災害精神保健医療福祉の体制や実践活動が向上することが望まれる。

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-03-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202018015B
報告書区分
総合
研究課題名
災害派遣精神医療チーム(DPAT)と地域精神保健システムの連携手法に関する研究
課題番号
19GC1008
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
太刀川 弘和(国立大学法人筑波大学 医学医療系臨床医学域 災害・地域精神医学)
研究分担者(所属機関)
  • 宇田 英典(地域医療振興協会 地域医療研究所 ヘルスプロモーション研究センター)
  • 五明 佐也香(獨協医科大学 医学部)
  • 丸山 嘉一(日本赤十字社医療センター 国内医療救護部)
  • 高橋 晶(筑波大学 医学医療系 災害・地域精神医学)
  • 辻本 哲士(滋賀県立精神保健福祉センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
平成31年(令和元年)に研究分担者であった渡路子氏がDPAT事務局から異動したため、令和2年度は新たにDPAT事務局次長になられた独協医科大学埼玉医療センター五明佐也香氏に交代した。

研究報告書(概要版)

研究目的
2013年に、災害急性期からの精神科医療ニーズに組織的に対応するために設立された災害派遣精神医療チーム(DPAT)は、現在多くの都道府県で組織されるに至っている。DPAT設立に伴い、災害時の精神科医療体制は定着しつつあるが、一方で被災地域自治体のDPAT等支援団体の活動への理解度は未だ十分ではなく、どのように受援するか方針や体制は未整備である。このため、DPATと被災自治体の間でしばしば混乱が生じることもあった。さらに、DPAT等支援団体の活動終了後、中長期のケアに関わる地域精神保健への移行時期や移行体制についても十分に確立されていない。
そこで本研究は、災害時の急性期以降の精神医療から精神保健への移行における支援側、自治体側の課題を明らかにし、移行を円滑に行うためのプロセス、DPAT等支援団体活動終了後の精神保健体制に関する技術開発を行うことを目的とする。
研究方法
平成31年(令和元年)度は、災害フェーズにおけるDPAT・都道府県主管課・精神保健福祉センター・保健所・市町村の役割と課題について検討するため、各種アンケートを実施した。DPATについては、平成30年度、令和元年度の災害で活動した隊員にアンケート調査を実施した。自治体に対しては、「災害時の精神保健医療福祉体制のありかた検討のためのアンケート調査」を、全国都道府県、精神保健福祉センター、保健所、被災市町村に実施した。さらに、被災自治体の担当者にインタビュー調査を実施した。また「受援プロセス標準化シート」を作成し、災害フェーズの分類を整理した。
令和2年度は、前年度の各種調査結果を踏まえ、分担班ごとに作成したマニュアルをまとめる総括作業を令和3年2月上旬まで実施した。内容としては、令和2年8月からマニュアル案とガイドライン案を作成して各関係組織から意見を募り、整理し反映させる作業を繰り返した。1月下旬に開催したオンライン会議を最終討論の場として修正を重ねた。
結果と考察
(1)災害フェーズ毎の自治体の役割と課題
調査の結果、従来の自治体の災害精神保健医療福祉体制に次の課題が示された。
「準備期」には、災害精神保健医療の考え方、DPAT等支援団体の啓発と災害時の受援、連携体制の整備、研修が不足していた。「急性期」には、自治体の本部機能の確立と派遣依頼が重要課題であるが、立ち上げに困難をきたすことが多かった。「活動期」は精神医療ニーズの把握、精神科病院の患者搬送、避難所支援、支援者支援が実施され、情報伝達、指揮命令系統の明確化が重要であるが、各関係機関、本部との連携、他機関との連携に課題があり、自治体の負担は大きかった。「亜急性期」は、精神保健ニーズが主となり、DPAT等の役割は保健師等の活動への後方支援に移行し、撤収が検討される。地域の相談・支援ニーズ、被災自治体の地域保健医療福祉体制の回復状況、医療機能の回復状況がポイントとなる。「中長期」には、地域のアウトリーチ活動とメンタルチェックが望まれる。体制として、被災市町村・保健所・精神保健福祉センターの組織化が求められるが、人的資源不足に対して災害の規模によっては精神保健福祉センターの機能強化等新たな支援体制の検討が必要と考えられた。
(2)災害フェーズ分類の整理
自治体や支援団体で異なる災害フェーズは運用の視点から以下に整理できた。
「準備期」:災害時にスムーズに動けるよう、各組織が必要に応じて研修会や合同訓練、マニュアル等の策定等を行う。
「立ち上げ期」:各組織が必要な対策本部を立て、連携体制の構築を図り被災状況の把握をする。DPAT等外部支援団体の派遣要請や調整、受け入れを行う。
「活動期」:対策本部等を経由し各組織が連携し活動する時期。こころの健康に係る普及啓発、支援者支援活動も行われる。
「移行期」:外部支援団体が撤退し自治体が支援を継続。ニーズアセスメントを実施する。
「中期」: DPAT等の活動支援終結の検討、支援者支援、災害弱者等へのアウトリーチ活動を実施。
「長期」:平時の業務へ移行後、長期支援事例のフォローアップ、被災者の精神保健福祉のニーズ調査等を実施する。
 これらの概念整理の上で、研究班全員で分担・討議して成果物「自治体の災害時精神保健医療福祉マニュアル」と「中長期の精神保健医療福祉体制ガイドライン」を完成させた。

結論
本研究により、災害時の急性期以降の精神医療から精神保健への移行における支援側、自治体側の課題を明らかにし、初動から移行を円滑に行うためのプロセス、災害フェーズ分類の整理、さらに中長期の精神保健医療福祉体制のありかたを検討することができた。その成果は、マニュアル、ガイドラインとして作成できた。今後これら成果物の実践活用により自治体の災害精神保健医療福祉体制の整備、ならびに活動の質の向上が望まれる。 

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202018015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では全国アンケート調査、被災自治体職員へのインタビュー調査の質的量的混合研究を実施した。このうち、全国の都道府県、精神保健福祉センター、保健所、被災市町村まで大規模に自治体における災害精神保健医療福祉の実情を尋ねたアンケート調査は例がなく。学術的に貴重といえる。得られた成果は公衆衛生学会シンポジウムで報告することができた。他に過去災害のメール分析やDPATの災害精神保健医療情報支援システムデータの分析により精神医療ニーズや支援体制の変化が災害フェーズで異なることを見出し、論文化できた。
臨床的観点からの成果
準備期には災害精神保健医療の考え方、DPAT等支援団体との連携体制の整備、研修が不足していること、急性期には自治体の本部機能の確立と派遣依頼に困難をきたすこと、活動期は各関係機関、本部との連携、他機関との連携に課題があり、自治体の負担は大きいこと、亜急性期は精神保健ニーズが主となり、支援団体の撤収が検討されるが、明確な基準がないこと、中長期には被災市町村・保健所・精神保健福祉センターの組織化が求められるが、人的資源不足が大きいことなど、災害フェーズ毎の自治体の役割と課題を明らかにできた。
ガイドライン等の開発
「自治体の災害時精神保健医療福祉マニュアル(ロングバージョン、ショートバージョン)」、並びに外部支援団体活動終了後地域のニーズに対応するための新たな体制の提案として、「災害後の自治体における中長期の精神保健医療福祉体制ガイドライン」を開発した。マニュアルは全国自治体に頒布し、ガイドラインと共に厚生労働省のホームページからダウンロードできるようになった。またこのマニュアルを参照して、日本医療政策機構が「自治体の災害後中長期に渡る精神保健医療福祉体制の構築に関する実例集~提言」を作成した。
その他行政的観点からの成果
本研究のマニュアル作成等を実施するため、令和元年に全国精神保健福祉センター長会に災害時等こころのケア推進委員会が設立され、災害精神保健に関わる行政組織の発展を促進することができた。また本研究のマニュアルを参照して、日本医療政策機構が中長期の自治体のメンタルヘルス支援計画等を調査し、自治体担当者の意見を集約することができた。これらのマニュアルや実例集を参考にし、各自治体が実践活動や訓練を行うことで、自治体の災害精神保健医療福祉活動の質の向上が期待できる。
その他のインパクト
本研究班の活動とマニュアル、ガイドラインの周知・啓発を目的に、2020年10月22日の第79回日本公衆衛生学会総会においてシンポジウム「今後の災害精神保健医療福祉活動のあり方」を太刀川・宇田が座長となって開催し、全分担班が本研究の研究報告を行った。

発表件数

原著論文(和文)
1件
災害急性期に継続的な支援を要する精神障害の特徴を熊本地震におけるDPATの活動データからまとめた。
原著論文(英文等)
3件
過去災害におけるDPATの活動データの解析、常総水害の災害精神支援活動のメール分析、ダイヤモンドプリンセス号へのDPAT支援活動などを実施し、論文化した。
その他論文(和文)
6件
その他DPATや災害精神支援に関連する総説
その他論文(英文等)
2件
その他災害精神支援に関連する総説
学会発表(国内学会)
19件
シンポジウム「今後の災害精神保健医療福祉活動のあり方」, 第79 回日本公衆衛生学会総会,京都,2020年10月22日を公募シンポジウムとして主催したほか多数の災害関連の学会報告を行った。
学会発表(国際学会等)
1件
過去4災害のDPAT活動についての解析結果を世界災害救急学会で報告した。
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shiratori Y, Tachikawa H, Nemoto K, et al.
Visualizing the Process of Disaster Mental Health Services in the Joso Flood by Network Analyses of Emails.
Tohoku J. Exp. Med. , 252 , 121-131  (2020)
10.1620/tjem.252.121
原著論文2
Takahashi S, Takagi Y, Fukuo Y, et al.
Acute Mental Health Needs Duration during Major Disasters: A Phenomenological Experience of Disaster Psychiatric Assistance Teams (DPATs) in Japan.
Int J Environ Res Public Health . , 17 (5)  (2020)
10.3390/ijerph17051530

公開日・更新日

公開日
2024-03-18
更新日
-

収支報告書

文献番号
202018015Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,500,000円
(2)補助金確定額
11,060,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,933,979円
人件費・謝金 2,236,791円
旅費 0円
その他 2,774,230円
間接経費 3,115,000円
合計 0円

備考

備考
本研究の令和2年度の研究計画では、前年度の研究をもとに災害時の精神保健福祉受援マニュアル、ならびに受援後精神保健福祉体制のガイドラインを開発したのちに、運用上の評価を行う予定でした。

運用上の評価を行うためには、現場で一番に活用していただくであろうと想像される保健師の皆様や自治体の担当者の皆様を想定していましたが、年度末近くであり、時間的にも現在のCOVID-19対応の状況をかんがみても、Webであったとしてもお集まりいただく状況にはないと判断したため、それに伴う予算の執行はなされなかった次第です。

また、分担班において計画されていた【つなぎマップ】のアプリケーション開発も計画に遅れが生じ、開発に至らなかったため、委託費に相当する一部の金額の執行も行なわれませんでした。

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
-