文献情報
文献番号
202016002A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅・介護施設等における医療的ケアに関連する事故予防のための研究
課題番号
H30-長寿-一般-004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 廸生(公益財団法人日本医療機能評価機構)
研究分担者(所属機関)
- 後 信(公益財団法人日本医療機能評価機構)
- 坂口 美佐(公益財団法人日本医療機能評価機構)
- 栗原 博之(公益財団法人日本医療機能評価機構)
- 横山 玲(公益財団法人日本医療機能評価機構 評価事業推進部 企画課)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
3,442,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
介護施設における事故の状況に関する全国的な把握はなされていないが、介護事故情報を全国的に共通のフォーマット・定義で収集する「介護事故情報収集システム(仮称)」があれば、自施設で経験していない事例に対する他施設の取り組みや自施設で発生した事例と同種の事例について他の施設がどのように取り組んだかを学び、発生を未然に予防したり再発防止策に取り入れたりすることが可能になる。本研究では、「介護事故情報収集システム(仮称)」の試行を行い、介護施設における事故の状況を調査する。また、「介護事故予防チェックリスト(案)」を作成し、介護施設の職員が事故防止や安全の向上に関する自施設の取り組みを定期的に評価するツールとして提供する。
研究方法
2019年度の研究結果をもとに「介護事故情報収集システム(仮称)」の登録フォーマットを一部修正し、介護老人保健施設(以下「老健」)7施設、介護老人福祉施設(以下「特養」)7施設から、「2019年10月に<影響度分類がレベル1以上の事故>として施設内で報告された事例」を対象として事故情報を登録いただいた。件数等は単純集計を行い、自由記述欄の内容についてKH coderを用いて共起ネットワーク分析および階層的クラスタ分析を行った。また、介護施設等を対象とした国内外の第三者評価項目のうち、特に事故予防や安全の向上に関する項目を集約して「介護事故予防チェックリスト(案)」を作成した。その後、老健4施設、特養5施設を対象に「介護事故予防チェックリスト(案)」の全体的な内容や項目の過不足、文言等についてオンラインでヒアリング調査を実施した。
結果と考察
老健および特養各7施設から登録された合計501件の事故情報のうち、影響度分類がレベル1以上の451件を分析対象とした。451件中281件(62.3%)がレベル1、237件(52.5%)が転倒・転落の事例であり、184件(40.8%)が居室、245件(54.3%)が利用者単独での事故であった。事故の二大要因は「トイレ」「車椅子」であった。施設内で報告されている事故の件数は施設によって大きくばらついていた。特にレベル1の件数に差が大きかったことから、施設ごとの事故状況の差ではなく、報告対象となる事故の定義や範囲の差を反映している可能性が高い。また、日中の時間帯に発生する事故が多いことから、職員数が多い時間帯であっても事故を未然に防ぐことは難しいことが示唆される。一方、レベル1の事例が6割を超えている状況は、各施設において軽微な事故についても報告する仕組みが機能していること、事故が発生しても重篤な事故にならないような取り組みが行われていることがうかがえた。
「介護事故予防チェックリスト(案)」は、全国老人保健施設協会編『新・介護老人保健施設サービスマニュアル』、全国社会福祉協議会『高齢者福祉サービス版評価基準』等の評価項目体系のうち、安全や事故防止に関する項目をもとに作成し、大項目7、中項目18、小項目40とした。介護施設のヒアリングでは、チェックリスト案の位置づけや項目数については概ね好意的であった一方、個別の項目については「誤嚥・窒息」「感染」「薬剤・服薬管理」等の項目が不足しているとの意見が多く得られた。これらの意見を踏まえ「介護事故予防チェックリスト(案)」修正版を作成した。ヒアリングした9施設のうち、同様のチェックリストを用いて自施設の取り組みを評価している施設は1施設のみであった。介護施設等の職員が自らの取り組みの状況を客観的・網羅的に評価できるチェックリストは、全国の介護施設等での事故防止・安全の向上に関する取り組みをさらに促進させるツールとなるものである。今般の介護報酬改定において介護施設に配置を求められている「外部の研修を修了した安全に関する担当者」が、各施設において安全について取り組んでいく場合の指針としても活用されることを期待する。
「介護事故予防チェックリスト(案)」は、全国老人保健施設協会編『新・介護老人保健施設サービスマニュアル』、全国社会福祉協議会『高齢者福祉サービス版評価基準』等の評価項目体系のうち、安全や事故防止に関する項目をもとに作成し、大項目7、中項目18、小項目40とした。介護施設のヒアリングでは、チェックリスト案の位置づけや項目数については概ね好意的であった一方、個別の項目については「誤嚥・窒息」「感染」「薬剤・服薬管理」等の項目が不足しているとの意見が多く得られた。これらの意見を踏まえ「介護事故予防チェックリスト(案)」修正版を作成した。ヒアリングした9施設のうち、同様のチェックリストを用いて自施設の取り組みを評価している施設は1施設のみであった。介護施設等の職員が自らの取り組みの状況を客観的・網羅的に評価できるチェックリストは、全国の介護施設等での事故防止・安全の向上に関する取り組みをさらに促進させるツールとなるものである。今般の介護報酬改定において介護施設に配置を求められている「外部の研修を修了した安全に関する担当者」が、各施設において安全について取り組んでいく場合の指針としても活用されることを期待する。
結論
老健・特養とも「介護事故情報収集システム(仮称)」試行の際の情報登録に支障はなく、比較的幅広い介護事業所が同様のフォーマットで事故情報を登録できると考えられる。共通の書式・定義で事故情報を全国的に収集する仕組みが確立されることにより、事故防止・安全の向上に関する取り組みの参考となる事故事例と再発防止策を共有できるようになり、取り組みが促進されると期待される。
また、「介護事故予防チェックリスト(案)」を用いて事故防止・安全に関する取り組みを自己評価するようになれば、日常的な活動を有機的に連関させることができ、事故の件数のみならず事故が発生した場合の影響の低減につながると考えられる。今後、チェックリストを用いた自施設の取り組みの定期的な評価が介護施設等の安全担当職員の活動として定着することを期待している。
また、「介護事故予防チェックリスト(案)」を用いて事故防止・安全に関する取り組みを自己評価するようになれば、日常的な活動を有機的に連関させることができ、事故の件数のみならず事故が発生した場合の影響の低減につながると考えられる。今後、チェックリストを用いた自施設の取り組みの定期的な評価が介護施設等の安全担当職員の活動として定着することを期待している。
公開日・更新日
公開日
2021-06-02
更新日
-