乳幼児期に重篤な視覚障害をきたす難病の診療体制の確立

文献情報

文献番号
202011087A
報告書区分
総括
研究課題名
乳幼児期に重篤な視覚障害をきたす難病の診療体制の確立
課題番号
20FC1055
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
仁科 幸子(蓮江 幸子)(国立成育医療研究センター 感覚器形態外科部 眼科)
研究分担者(所属機関)
  • 寺崎 浩子(名古屋大学 未来社会創造機構)
  • 堀田 喜裕(浜松医科大学医学部)
  • 不二門 尚(大阪大学大学院生命機能研究科)
  • 東 範行(国立成育医療研究セン ター感覚器・形態外科部眼科)
  • 永井 章(国立成育医療研究センター総合診療部総合診療科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
4,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
重篤な視覚障害をきたす疾患の約90%は0歳で発生し、半数以上は先天素因に起因する。中でも発病機序が不明、治療手段が未確立な希少疾患で、長期療養を要する難病は、視覚情報の欠如が心身の発達にも重大な影響を及ぼし、生涯にわたり社会生活に支障をきたす。視覚発達の感受性のピークは生後2ヵ月~2歳であり、早期に難病を鑑別診断し、保有視機能を評価して有効な治療やリハビリテーションを行うか否かが一生の障害の程度を大きく左右する。本研究の目的は、乳幼児期に重篤な視覚障害をきたす難病を対象として、予後向上のために、診療体制を確立することである。
研究方法
①全国調査:指定難病のうち乳幼児期に重篤な視覚障害をきたす眼疾患4疾患と全身疾患9疾患を対象とし、日本眼科学会専門医制度研修施設957及び小児総合医療施設13の施設に対し、2018年1月~2020年12月の3年間に診断した患者数を初診した年齢ごとに回答を依頼した。またロービジョンケア外来の有無を調査した。②早期の正確な発見と確実な鑑別のための遺伝学的診断(レーバー先天盲・早発型網膜色素変性症、色素失調症)、画像診断(先天性遺伝性網膜疾患)と情報発信(研究班ホームページ作成)、③早期介入(治療・ロービジョンケア)の方法と効果の検証・標準化(レーバー先天盲、色素失調症、重症未熟児網膜症)、④長期的な眼併発症の調査(家族性滲出性硝子体網膜症)、⑤ロービジョンケアの実態調査、医療・教育機関の連携した支援体制の構築について研究を進めた。
結果と考察
①全国585施設(回収率60.3%)の回答があり、難病の該当ありは138施設(23.6%)、乳幼児期の難病患者は専門施設へ集中していた。眼科に初診した年齢は前眼部疾患が0歳に対し後眼部疾患は6歳以降が多く、全身疾患のうち眼症状が目立たない疾患では6歳以降が多かった。早期診断と治療ケアの向上のため、専門施設、他科・他職種との連携体制が必要と考えられた。②遺伝学的診断を進め、うち早発型網膜色素変性症を併発した先天異常症候群の患者にCDK9 変異を同定、新たな症候群の可能性が示された。先天遺伝性網膜疾患の臨床像・画像診断と原因遺伝子の関連性を検討した。研究班ホームページを作成、他科や多職種との連携、一般への情報提供を目的に、早期発見に繋げるためのコンテンツを掲載した。診療ガイドライン作成に繋げたい。③早期介入の効果について:乳児期に網膜症をきたす色素失調症の病型を分類し、重症例に対する早期の強力な網膜光凝固治療の効果を示した。レーバー先天盲の長期経過を検討し、新たな治療の介入時期について検討を加えた。未熟児網膜症に対する抗VEGF療法に関し、標準化のための手引きを作成した。保有視機能の評価法、有効な介入法と時期の検証を行い、早期介入を行う診療体制を全国へ普及させていきたい。④長期的な眼併発症:家族性滲出性硝子体網膜症に起こる網膜剥離は男児に多いこと、原因裂孔の特徴を明らかとした。長期経過における眼・全身の併発症の把握は、患児の残存視覚の保持と活用、健康管理に不可欠である。主要な視覚難病に対し、二次調査を実施して、さらに検討を加える必要がある。⑤ロービジョンケアの実態調査:全国585施設のうちロービジョンケア外来ありは177施設(30.3%)であった。研究代表者施設において都立久我山青光学園・特別視覚支援コーデイネーターと直接連携してアイサポート院内相談を実施した。視覚障害児に対する教育支援の現状を日本ロービジョン学会と連携して検討した。医療・教育機関の早期連携と介入が視覚障害児の発達に有効であることが示された。
結論
視覚情報の欠如は、小児の心身の発達に重大な影響を及ぼし、就学や成人以降の自立・社会参加において重篤な障害となる。重篤な視覚障害をきたす難病の大部分は、視覚発達の感受性期に起こり、早期発見・鑑別診断・保有視機能の評価と治療・リハビリテーション早期介入の成否が生涯にわたる障害の程度を大きく左右するため、こうした疾患に対する乳幼児期の診療体制と全国ネットワークの構築を早急に進めていきたい。
また今後、これらの難病に対し、眼局所に対する遺伝子治療、人工視覚、再生医療が急速に進歩する見込みである。新たな治療技術を導入する段階の前に、乳幼児期の診療体制を確立し、対象とする疾患と介入時期や方法を明確にすることが必須であり、よりよい視覚予後獲得に寄与できると考える。

公開日・更新日

公開日
2021-07-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-01
更新日
2021-08-30

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202011087Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,980,000円
(2)補助金確定額
5,980,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,058,213円
人件費・謝金 0円
旅費 65,540円
その他 2,476,798円
間接経費 1,380,000円
合計 5,980,551円

備考

備考
自己資金551円

公開日・更新日

公開日
2021-07-01
更新日
2022-02-10