男女労働者の働き方が東アジアの低出生力に与えた影響に関する国際比較研究

文献情報

文献番号
200801001A
報告書区分
総括
研究課題名
男女労働者の働き方が東アジアの低出生力に与えた影響に関する国際比較研究
課題番号
H18-政策・一般-005
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 透(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
研究分担者(所属機関)
  • 小島 宏(早稲田大学 社会科学総合学術院)
  • 伊藤 正一(関西学院大学 経済学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
2,543,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、働き方に関する諸要因が出生率に与える影響を、文献研究および専門家インタビュー、マクロデータ分析、マイクロデータ分析の各段階を踏んで分析を進める。そのような分析を通じて、働き方に関する諸側面が、どのように結婚率・出生率に影響するかを定量的に調べることを目的とする。それぞれの側面における改善がどの程度の出生促進効果を持つかの見極めを通じて、政策の優先順位等に関わる政策提言が得られる。
研究方法
韓国・台湾に加えシンガポールの出生促進策を日本と比較検討した。また日本・韓国・台湾における出産力や労働力に関するマイクロデータを用い、働き方を中心とする社会経済的要因の効果と、導入済みの出生促進策の効果を計量分析した。働き方に関する要因の出生力への影響を抽出することで、出生促進策の有効性に関する知見を導出した。
結果と考察
韓国・台湾は長年の高出生率と過剰人口感から出生促進策への転換が遅れた。シンガポールでは早くから高学歴女子の出生促進を目的としており、この学歴差別は最近まで続いた。韓国は家族価値に関し保守主義的態度を採るのに対し、台湾はフェミニズム的価値観を強調している。韓国のマイクロデータ分析では、妻の就業時間と所得の出生抑制効果が強く、両立支援策の有効性が示唆された。また、日本では就業関連属性の影響が韓国・台湾よりも大きいことが示され、働き方に焦点を置く少子化対策の重要性が示された。
結論
韓国や台湾はある側面では日本より色濃く伝統的家族パターンを維持している反面、高学歴化や若年労働市場の悪化、経済の世界化と雇用の両極化といった変動は日本より急激に進んだ。そうした家族変動の遅さと社会経済的変動の急激さの対照が、世界的に類例を見ないほどの低出生率をもたらしたと考えられる。後期産業社会の長期的趨勢に逆らうような政策は、最終的に失敗するだろう。最近の韓国・台湾に見られるように、出生促進策をより広汎な人口政策パッケージの中に位置づけることによって、政策効果を高めることを考えるべきだろう。

公開日・更新日

公開日
2009-04-07
更新日
-

文献情報

文献番号
200801001B
報告書区分
総合
研究課題名
男女労働者の働き方が東アジアの低出生力に与えた影響に関する国際比較研究
課題番号
H18-政策・一般-005
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 透(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
研究分担者(所属機関)
  • 小島 宏(早稲田大学 社会科学総合学術院)
  • 伊藤 正一(関西学院大学 経済学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、働き方に関する諸要因が出生率に与える影響を、文献研究および専門家インタビュー、マクロデータ分析、マイクロデータ分析の各段階を踏んで分析を進める。そのような分析を通じて、働き方に関する諸側面が、どのように結婚率・出生率に影響するかを定量的に調べることを目的とする。それぞれの側面における改善がどの程度の出生促進効果を持つかの見極めを通じて、政策の優先順位等に関わる政策提言が得られる。
研究方法
文献・理論研究では各国の出生率低下とその要因に関する既存研究を収集し、出生促進策の導入めぐる議論・言説等を新聞・雑誌等からも幅広く集め、この過程で各国の政策文書を入手した。マクロデータ分析では、出生率を初めとする人口指標、社会経済的指標、政策指標のマクロデータを収集し、出生力変動の規定要因と政策指標の効果に関する要因分析を行った。マイクロデータ分析では、働き方を中心とする社会経済的要因の効果と、導入済みの出生促進策の効果を計量分析した。
結果と考察
韓国・台湾の合計出生率は2000年代に入って急激に低下し、2007年には日本の1.34に対し韓国は1.26、台湾は1.10となっている。晩産化は韓国が最も速く、これが2001?05年の合計出生率を引き下げた。日本の失業率は2002年以後低下したが、韓国・台湾は高どまりの傾向にある。女子のM字型曲線は、日本・韓国では2005年も顕著に見られるが、台湾は単調減少型である。公的な場でのジェンダー平等は改善されたものの、家庭内との差が大きいことが低出生率の要因となっている。韓国では妻の就業時間と所得の強い出生抑制効果が確認された。日本では就業関連属性の影響が特に強く、男女の働き方に焦点を合わせた対策の有効性が示唆された。
結論
東アジアでは出生促進策に使える予算が限られており、即効性は期待し難い。しかし高齢者と同様に子育ても家族・市場・公共部門が共同負担するという観念が確立すれば、回復の可能性はある。日本と韓国では、2005年を底として合計出生率が回復して来ている。これを政策効果と考える向きもあるが、やはり社会経済的要因の方が優勢と考えるのが自然で、それは2008年以降の世界不況が出生力に及ぼす影響によって立証される可能性が高い。今後も東アジアの出生力は、合計出生率がどこまで下がり得るかという問題を含めて、注意深い監視と研究が必要なことは間違いない。

公開日・更新日

公開日
2009-04-07
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200801001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
研究成果にもとづく論文を『The Japanese Journal of Population』『International Journal of Sociology』『都市問題研究』『NIRA政策レビュー』等の学術誌に発表した。また書籍の中の一章を担当し、執筆した。また研究成果にもとづく口頭報告を、日本人口学会、日本社会学会、家族社会学会等の大会で行った。さらに韓国やスペインでの国際セミナーに招聘され、そこでも研究成果を報告した。
臨床的観点からの成果
該当なし
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
母子愛育会の外国人招聘事業により、2009年1月に韓国・台湾から専門家を各1名ずつ招聘し、国立社会保障・人口問題研究所、関西学院大学および京都大学で国際セミナーを開いた。その成果はウェブジャーナルで公開し、さらに機関誌『人口問題研究』でも発表予定である。また、2007年9月に国際交流基金の「アジア理解講座」に講師として招かれ、研究成果を基に講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
4件
『都市問題研究』『日本の人口減少社会を読み解く』『NIRA政策レビュー』『日本版General Social Surveys研究論文集』他
原著論文(英文等)
7件
The Japanese Journal of Population, International Journal of Sociology, 他
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
日本人口学会、日本社会学会、日本家族社会学会
学会発表(国際学会等)
3件
SARs 2008 Conference, First ISA Forum of Sociology, CFR Conference
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
国際交流基金「アジア理解口座」

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Suzuki, Toru
Fertility decline and Governmental Interventions in Eastern Asian Advanced Countries
The Japanese Journal of Population , 7 (1)  (2009)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
-