特発性好酸球増加症候群の診療ガイドライン作成に向けた疫学研究

文献情報

文献番号
202011037A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性好酸球増加症候群の診療ガイドライン作成に向けた疫学研究
課題番号
20FC1005
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
黒川 峰夫(東京大学 医学部附属病院 血液・腫瘍内科)
研究分担者(所属機関)
  • 小松 則夫(順天堂大学医学部特任教授)
  • 片山 義雄(神戸大学医学部附属病院血液内科)
  • 齋藤 明子(独立行政法人国立病院機構 名古屋医療センター臨床研究センター 臨床研究企画部 臨床疫学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
2,079,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特発性好酸球増多症候群(HES)は末梢血における慢性的な好酸球増加および好酸球浸潤による臓器障害を特徴とする症候群である。希少疾患でありその臨床像および分子生物学的な病態は未解明のままである。本研究はHESと診断される症例を全国的に収集し、その臨床像の解析を行うことでHESの本邦における診療実態を明らかにすることを目的とする。
研究方法
本研究では多施設共同後方視的調査研究を行う。HESは希少疾患であるため、その頻度や臨床背景を調べるために症例登録システムを構築し、全国の診療施設からの登録を受ける。一次調査として全国の主要な施設の血液内科を対象に質問票を用いた調査を行い、HES症例数を予測する。HES症例がいると回答が得られた施設に対しては、より詳細な臨床情報を得るため二次調査として質問票を用いた調査を行う。また染色体転座の有無に関して研究代表者の施設において検体集積のもと中央診断を行う。
 上記で得られた情報をもとに、HES患者の臨床像を明らかにすると共に発症関連因子、予後関連因子の同定を行い、重症度分類を確立する。また、本邦で行われている治療の実態を把握した上でHESの診療ガイドラインを策定する。
結果と考察
一次調査として日本血液学会に登録されている研修施設498施設に対して調査を行いそのうち160施設(32.1%)から回答が得られ、HES症例の診療経験があると回答したのは51施設 (10.2%)だった。HESの診療経験がある施設毎の診療患者数の中央値は2例(最少1例、最多16例)であり、合計で152例のHES症例が同定された。
同定されたHES症例152例の性別は男性87例(57.2%)、女性65例(42.8%)でやや男性に多かった。HES症例の10歳毎に区切った年齢分布については、中央値が60歳台であり、一桁から90歳台まで広い年齢層に分布が見られ、70歳台をピークとして年齢が上昇するにしたがって症例数が多かった。
地方別のHES症例数の分布については関東47例(30.9%)、近畿39例(25.7%)、中部25例(16.4%)、九州13例(8.6%)、東北8例(5.3%)、中国7例(4.6%)、四国7例(4.6%)、北海道6例(3.9%)の順に多かった。平成27年度国勢調査における各地域別の人口1000人当たりのHES症例数は中央値1.10人(最少0.89人~最大1.82人)となり、四国地方(1.82人)や近畿地方(1.73人)でやや多い傾向にあった。
好酸球増加症候群におけるチロシンキナーゼ遺伝子の転座と性差の関係については、病態的にその機序は明らかになっておらず、今研究の対象となる特発性好酸球増加症候群においてもその性差が存在するのかどうかを確認することは今後病態を明らかにするうえでも重要なデータと考えられる。
 今回の一次調査の結果からは、近畿地方や四国地方で人口あたりの症例数がやや高い傾向が見られた。この原因として、近年神戸大学の研究チームにおいて好酸球増加症患者の質問票調査研究が行われており(Rinsho Ketsueki. 2010;51:515)、地域的な疾患認知度の差がこの地域差に影響を与えている可能性もあると考えられる。特発性好酸球増加症候群は希少な疾患であることから、疾患認知度が診断機会の上昇に直接結びつきやすいと考えられ、今後我々の研究班による疾患認知度の上昇も、本邦における特発性好酸球増加症候群の診療の質の上昇において重要になると考えられる。現在、一次調査でHES症例がいると回答が得られた施設に対して二次調査を依頼し各症例の詳細な臨床情報および検体収集を進めている。
 また、二次調査の中間解析を行ったところ、HESの診断において必ずしも十分な検査が行われていないことが判明した。特に9症例についてはHES診断の上で重要度の高い骨髄検査が行われておらず、ガイドラインを作成する上で重要な情報と考えられた。また臓器障害については皮膚(35%)、呼吸器(33%)、造血器(31%)、消化管(29%)、循環器(25%)が障害される症例の割合が多いことが判明した。治療を要した症例ではほぼ全例でステロイドが投与されており、奏効率は90%以上であった。さらに全体の5年生存率は90%であることが判明した。
結論
一次調査の結果、本邦における特発性好酸球増加症候群の症例数、および性別、年齢分布、地域差などが明らかになった。二次調査の中間解析により、臓器障害の存在部位、ステロイドの奏効率、全体の生存率などが明らかとなった。今後はさらに二次調査を推し進め、より詳細な臨床情報の解析を行い、本邦におけるHES症例の臨床的特徴や最適な治療方針などまとめ、診療ガイドラインの作成を行う。

公開日・更新日

公開日
2021-07-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-20
更新日
2022-03-30

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202011037Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,700,000円
(2)補助金確定額
2,700,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,060,860円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 18,140円
間接経費 621,000円
合計 2,700,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2021-12-13
更新日
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