新規の小児期の疼痛疾患である小児四肢疼痛発作症の診断基準の確立と患者調査

文献情報

文献番号
202011021A
報告書区分
総括
研究課題名
新規の小児期の疼痛疾患である小児四肢疼痛発作症の診断基準の確立と患者調査
課題番号
19FC1003
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 勉(秋田大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 野口 篤子(秋田大学医学部小児科)
  • 原田 浩二(京都大学 大学院医学研究科)
  • 奥田 裕子(京都大学大学院 医学研究科 疼痛疾患創薬科学)
  • 秋岡 親司(京都府立医科大学大学院医学研究科小児科学)
  • 吉田 健司(京都大学 大学院医学研究科 発達小児科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
1,350,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者  竹谷 朱 京都大学大学院医学研究科( 令和2年4月1日~令和3年2月28日),所属機関退職のため

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、家族性に乳幼児期から発作性に四肢の激烈な疼痛を反復する、という特徴的な症状を示す日本人家系を対象に原因遺伝子の探索を行い、SCN11A遺伝子(Nav1.9)の病的バリアントを特定し(Okudaら,PLOS ONE 2016)、2016年に本症を「小児四肢疼痛発作症」と命名した。本疾患はこれまで見過ごされてきた疾患であり、乳幼児期から発症し、著しいQOLの低下と長期の療養を必要とすることからも、診断・病態解明・治療の確立が必要と考えた。
 本研究では、全国的な症例の収集と実態把握を行った上で、客観的診断基準の確立、診療ガイドラインの策定を行うことを目的とした。最終的には診断基準、重症度基準、診療ガイドラインの関連学会(日本小児科学会や小児神経学会など)における承認を目指す。
研究方法
 前年度に作成した暫定診断基準および疫学調査手法に則り、2020年2月に全国小児医療機関2604施設より1597施設を抽出し、1次調査票を送付した。この調査内容は、暫定診断基準に合致する症例の診療の有無、有の場合その人数・性別についてである。回収数は993(回収率は62.2%)であった。このなかで「該当患者あり」は37施設(63例)、該当患者なしが934施設、閉院等で回答なしが22施設であった。「患者あり」の返信数にそれぞれの施設病床規模における抽出率を加味し、全体の推計患者数を算定したところ90名(95%CI: 70-110)となった。
次に「該当患者あり」の37施設に、2020年6月に2次調査を実施した。2次調査の調査内容は、各症例における、具体的な臨床症状、発症時期、家族集積の有無、などである。
結果と考察
二次調査の返信は26施設(49名)から得た。そのうち、遺伝子解析がすでに終了していたのが7施設23例、遺伝子解析未実施が19施設26例となっていた。遺伝子未解析症例については班員研究施設内での遺伝学的解析に参加可能かを打診し、10施設で承諾を得たため、今後各施設の倫理審査を経て解析に移る予定となっている。
臨床症状の詳細については別途報告書に記載しているが、年齢については1歳台をピークとして乳児期から9歳までにばらつきが見られた。この年齢分布は遺伝子変異の確定した症例に限ると圧倒的に1歳台が多く、かつ3歳以上での発症症例は認めなかった。
一か月の疼痛発作回数は、SCN11A変異群では9.9(2-25)回であった。これについてはばらつきが大きく、一定の傾向を示していない。また、1回の発作のなかに痛みのある時間とない時間を反復するというパターンをきたす症例の割合は14/19(73%)であった。
 これまでに疼痛のあった部位は膝が最多で、ほか大腿、足首、上腕、前腕、手首、などの回答が多かった。さらに上肢にも疼痛は出現していた。発作の契機は寒冷が15/19人であった。また天候の変動・悪天候については9/19人、さらに疲労や睡眠不足が疼痛発作のきっかけになる症例は13/19であり、これらの誘発要因が大きく影響していることが想定される。
疼痛発作の随伴症状としては、疼痛部位に冷感を伴うのは変異群で7/19であった。さらにしびれや脱力を伴う症例は4/19に、偏頭痛の合併は2/19に認めた。一方精神運動発達遅延は典型例への合併は存在しなかった。
疼痛によって基本的な生活への影響があるかどうかについてもたずねた。夜間の疼痛のために睡眠不足となる症例は、変異あり群で13/19と高率であった。食欲低下は5/19, 、痛みのために幼稚園や学校を欠席しなくてはいけないことがあったのは6/19、遊びや体育への参加ができないことがあったのは9/19に認めていた。
さらに、家族歴(第一度近親の疼痛の有無)については、18/19において認められた。
 本疾患はまだ国内での認知度が非常に低く、本邦患者頻度は不明である。しかし優性遺伝形式であること、小児期死亡がほぼないことからは未診断例が多数潜在している可能性がある。今回、本研究班で初めて疫学調査を行ったことで、1)疾患の啓発、2)未診断患者の拾い上げ、3)疫学データの蓄積、等にわずかでも寄与できたのではないかと考える。研究はまだ途上であり、今後全国の医療施設にさらにご協力を仰ぎ、本研究で目指す疾患との合致性、多様性、臨床経過の詳細を把握するとともに、疾患概念の確立と啓蒙、ガイドラインや治療薬の開発へとつなげることを目指す。
結論
国内での詳細が明らかになっていない新規疾患「小児四肢疼痛発作症」について、日本での患者の現況を把握する目的で全国調査を実施した。疑い症例の拾い上げおよび確定診断への紐付けを行うとともに疫学情報の蓄積、レジストリの開始、診断基準の策定を行った、加えて医療者・一般者への啓蒙に寄与した。

公開日・更新日

公開日
2021-07-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-01
更新日
2022-03-24

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202011021B
報告書区分
総合
研究課題名
新規の小児期の疼痛疾患である小児四肢疼痛発作症の診断基準の確立と患者調査
課題番号
19FC1003
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 勉(秋田大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 野口 篤子(秋田大学医学部小児科)
  • 原田 浩二(京都大学 大学院医学研究科)
  • 奥田 裕子(京都大学大学院 医学研究科 疼痛疾患創薬科学)
  • 秋岡 親司(京都府立医科大学大学院医学研究科小児科学)
  • 吉田 健司(京都大学 大学院医学研究科 発達小児科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、家族性に乳幼児期から発作性に四肢の激烈な疼痛を反復する、という特徴的な症状を示す日本人家系を対象に原因遺伝子の探索を行い、SCN11A遺伝子(Nav1.9)の病的バリアントを特定し(Okudaら,PLOS ONE 2016)、2016年に本症を「小児四肢疼痛発作症」と命名した。本疾患はこれまで見過ごされてきた疾患であり、乳幼児期から発症し、著しいQOLの低下と長期の療養を必要とすることからも、診断・病態解明・治療の確立が必要と考えた。
 本研究では、全国的な症例の収集と実態把握を行った上で、客観的診断基準の確立、診療ガイドラインの策定を行うことを目的とした。最終的には診断基準、重症度基準、診療ガイドラインの関連学会(日本小児科学会や小児神経学会など)における承認を目指す。
研究方法
前年度に作成した暫定診断基準および疫学調査手法に則り、2020年2月に全国小児医療機関2604施設より1597施設を抽出し、1次調査票を送付した。この調査内容は、暫定診断基準に合致する症例の診療の有無、有の場合その人数・性別についてである。回収数は993(回収率は62.2%)であった。このなかで「該当患者あり」は37施設(63例)、該当患者なしが934施設、閉院等で回答なしが22施設であった。「患者あり」の返信数にそれぞれの施設病床規模における抽出率を加味し、全体の推計患者数を算定したところ90名(95%CI: 70-110)となった。
次に「該当患者あり」の37施設に、2020年6月に2次調査を実施した。2次調査の調査内容は、各症例における、具体的な臨床症状、発症時期、家族集積の有無、などである。
結果と考察
二次調査の返信は26施設(49名)から得た。そのうち、遺伝子解析がすでに終了していたのが7施設23例、遺伝子解析未実施が19施設26例となっていた。遺伝子未解析症例については班員研究施設内での遺伝学的解析に参加可能かを打診し、10施設で承諾を得たため、今後各施設の倫理審査を経て解析に移る予定となっている。
臨床症状の詳細については別途報告書に記載しているが、年齢については1歳台をピークとして乳児期から9歳までにばらつきが見られた。この年齢分布は遺伝子変異の確定した症例に限ると圧倒的に1歳台が多く、かつ3歳以上での発症症例は認めなかった。
一か月の疼痛発作回数は、SCN11A変異群では9.9(2-25)回であった。これについてはばらつきが大きく、一定の傾向を示していない。また、1回の発作のなかに痛みのある時間とない時間を反復するというパターンをきたす症例の割合は14/19(73%)であった。
 これまでに疼痛のあった部位は膝が最多で、ほか大腿、足首、上腕、前腕、手首、などの回答が多かった。さらに上肢にも疼痛は出現していた。発作の契機は寒冷が15/19人であった。また天候の変動・悪天候については9/19人、さらに疲労や睡眠不足が疼痛発作のきっかけになる症例は13/19であり、これらの誘発要因が大きく影響していることが想定される。
疼痛発作の随伴症状としては、疼痛部位に冷感を伴うのは変異群で7/19であった。さらにしびれや脱力を伴う症例は4/19に、偏頭痛の合併は2/19に認めた。一方精神運動発達遅延は典型例への合併は存在しなかった。
疼痛によって基本的な生活への影響があるかどうかについてもたずねた。夜間の疼痛のために睡眠不足となる症例は、変異あり群で13/19と高率であった。食欲低下は5/19, 、痛みのために幼稚園や学校を欠席しなくてはいけないことがあったのは6/19、遊びや体育への参加ができないことがあったのは9/19に認めていた。
さらに、家族歴(第一度近親の疼痛の有無)については、18/19において認められた。
 本疾患はまだ国内での認知度が非常に低く、本邦患者頻度は不明である。しかし優性遺伝形式であること、小児期死亡がほぼないことからは未診断例が多数潜在している可能性がある。今回、本研究班で初めて疫学調査を行ったことで、1)疾患の啓発、2)未診断患者の拾い上げ、3)疫学データの蓄積、等にわずかでも寄与できたのではないかと考える。研究はまだ途上であり、今後全国の医療施設にさらにご協力を仰ぎ、本研究で目指す疾患との合致性、多様性、臨床経過の詳細を把握するとともに、疾患概念の確立と啓蒙、ガイドラインや治療薬の開発へとつなげることを目指す。
結論
国内での詳細が明らかになっていない新規疾患「小児四肢疼痛発作症」について、日本での患者の現況を把握する目的で全国調査を実施した。疑い症例の拾い上げおよび確定診断への紐付けを行うとともに疫学情報の蓄積、レジストリの開始、診断基準の策定を行った、加えて医療者・一般者への啓蒙に寄与した。

公開日・更新日

公開日
2021-07-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202011021C

収支報告書

文献番号
202011021Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,755,000円
(2)補助金確定額
1,755,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 6,177円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 1,343,823円
間接経費 405,000円
合計 1,755,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2021-12-24
更新日
-