文献情報
文献番号
202011014A
報告書区分
総括
研究課題名
好酸球性副鼻腔炎における治療指針作成とその普及に関する研究
課題番号
H30-難治等(難)-一般-016
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
藤枝 重治(福井大学 学術研究院医学系部門)
研究分担者(所属機関)
- 竹野 幸夫(広島大学大学院医系科学研究科 耳鼻咽喉科学・頭頸部外科学研究室)
- 檜垣 貴哉(岡山大学病院)
- 三輪 高喜(金沢医科大学 医学部 耳鼻咽喉科学)
- 小林 正佳(三重大学 大学院 医学系研究科)
- 近藤 健二(東京大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科)
- 都築 建三(兵庫医科大学 医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学)
- 池田 勝久(順天堂大学医学部 耳鼻咽喉科学)
- 吉田 尚弘(自治医科大学附属さいたま医療センター)
- 松根 彰志(日本医科大学武蔵小杉病院 耳鼻咽喉科)
- 中丸 裕爾(国立大学法人北海道大学 大学院医学研究院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室)
- 太田 伸男(東北医科薬科大学 医学部)
- 浦島 充佳(東京慈恵会医科大学 医学部 分子疫学研究部)
- 野口 恵美子(筑波大学 医学医療系)
- 岡野 光博(国際医療福祉大学 医学部)
- 秋山 貢佐(香川大学 耳鼻咽喉科・頭頚部外科)
- 平野 康次郎(昭和大学 医学部)
- 朝子 幹也(関西医科大学総合医療センター 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
3,420,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
好酸球性副鼻腔炎(eCRS)に対して、内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)をかなり早い段階で行えるようになってきた。さらに厳重な術後経過観察によって、再発の早期発見ができ、これまでより高いQOLを保てるようになってきた。しかしそれは証明されていない。そこでeCRSの診断基準と重症度分類決定以降の術後鼻茸再発率を検討し、それ以前と比較検討する。またeCRSの保存的治療成績は本邦において存在しない。欧米においてもeCRSの概念が異なるため、参考になるデータもほとんどない。そこで2018年からの3年間、電子登録システムを使用することで、マクロライド少量長期療法、経口ステロイド、鼻噴霧用ステロイド、抗ロイコトリエン薬の治療効果を判定する。
研究方法
ESS症例を電子登録システムを利用して、登録した症例に関して予後調査を行う。同様に、保存的治療法による治癒率、改善度の検討のため、同様の電子登録システムを使用して検討する。最適手術法の啓蒙のため、日本鼻科学会、日本耳鼻咽喉科学会専門医講習会においてハンズオンセミナー、実技講習を開催する。医師・コメディカルのために本研究班(JESREC研究)のホームページの充実を図る。eCRSの疫学、発症機序、治療法、新規治療の開発状況などの新しい情報を追加する。市民に対してeCRSを啓蒙するために、日本鼻科学会学術講演会において、別の鼻副鼻腔疾患とを組み合わせた市民講座を開催する。手術で摘出したeCRS鼻茸、および培養上皮細胞、線維芽細胞を用いて、eCRSの病態解明と新規治療法の開発を行う。
結果と考察
ESS術を行った738例の登録がなされた。うち福井大学症例50例に関して術後6ヵ月の鼻茸再発率を検討した。その結果、再発率は有意に低下していた。ただし術後半年後の経口ステロイドの使用は、高いままであり、これが問題であった。保存的治療効果を検討すると、鼻茸の有意な縮小を認めたのは、経口ステロイドのみであった。マクロライド少量長期療法は、膿性鼻汁の改善のみに貢献した。抗ロイコトリエン薬は、改善した項目が認められなかった。
第34回日本耳鼻咽喉科専門医講習会で鼻科手術ハンズオンセミナーを開催した。eCRSホームぺージの内容を刷新し、手術手技ビデオを掲載し、慢性副鼻腔炎とeCRSの講義を掲載した。「好酸球性副鼻腔炎の病態解明と新たな治療戦略」のモノグラフとビデオを作成し、全国に配布するとともにホームぺージに掲載した。鼻手術ウエブ講義を令和2年11月から第3金曜日19時から、月1回配信するようにした。
5-Lipoxygenase(15-LOX)の遺伝子ALOX-15が、eCRSではnon-eCRS鼻茸よりも有意に高く、好酸球浸潤にALOX-15発現亢進が関与していた。辛夷清肺湯に含まれる黄芩の代謝物、バイカリンによって上皮での刺激レベルでIL-33の産生を抑えるとともに、肥満細胞からのType2サイトカイン放出を抑制した。eCRSで認められるCharcot-Leyden結晶は、好酸球の細胞膜直下の250nm以内に集積しており、TNFの刺激などで分泌される時も、他の分泌顆粒のような定型的脱顆粒が起こらないことが判明した。eCRSでは、凝固系が亢進し線溶系が抑制されている。TAFI (Thrombin-activatable fibrinolysis inhibitor)は、線溶系の働きを制御するが、eCRSの鼻腔洗浄液中のTAFIの濃度は,有意に高値であった。TAFIは肝臓でしか産生されないことを考えると、eCRSは、局所的な疾患ではなく全身性疾患における鼻という局所表現の可能性もあると考えた。eCRS鼻茸では、Type2サイトカインで tissue plasminogen activator(tPA)の発現と活性が低下することで線溶系の抑制が起こっている。そのためtPA発現を亢進する低化合物、刺激、サイトカイン・ケモカインを同定することが新規治療に結び付くことが判明した。
第34回日本耳鼻咽喉科専門医講習会で鼻科手術ハンズオンセミナーを開催した。eCRSホームぺージの内容を刷新し、手術手技ビデオを掲載し、慢性副鼻腔炎とeCRSの講義を掲載した。「好酸球性副鼻腔炎の病態解明と新たな治療戦略」のモノグラフとビデオを作成し、全国に配布するとともにホームぺージに掲載した。鼻手術ウエブ講義を令和2年11月から第3金曜日19時から、月1回配信するようにした。
5-Lipoxygenase(15-LOX)の遺伝子ALOX-15が、eCRSではnon-eCRS鼻茸よりも有意に高く、好酸球浸潤にALOX-15発現亢進が関与していた。辛夷清肺湯に含まれる黄芩の代謝物、バイカリンによって上皮での刺激レベルでIL-33の産生を抑えるとともに、肥満細胞からのType2サイトカイン放出を抑制した。eCRSで認められるCharcot-Leyden結晶は、好酸球の細胞膜直下の250nm以内に集積しており、TNFの刺激などで分泌される時も、他の分泌顆粒のような定型的脱顆粒が起こらないことが判明した。eCRSでは、凝固系が亢進し線溶系が抑制されている。TAFI (Thrombin-activatable fibrinolysis inhibitor)は、線溶系の働きを制御するが、eCRSの鼻腔洗浄液中のTAFIの濃度は,有意に高値であった。TAFIは肝臓でしか産生されないことを考えると、eCRSは、局所的な疾患ではなく全身性疾患における鼻という局所表現の可能性もあると考えた。eCRS鼻茸では、Type2サイトカインで tissue plasminogen activator(tPA)の発現と活性が低下することで線溶系の抑制が起こっている。そのためtPA発現を亢進する低化合物、刺激、サイトカイン・ケモカインを同定することが新規治療に結び付くことが判明した。
結論
重症度分類を作成したことは、術後の患者予後に高く貢献している。しかし経口ステロイドをどのように止めるかが、重要な課題であることが判明した。また経口ステロイド以外、有用な保存的治療は、これまでの治療ではないことが明確になった。鼻科手術ハンズオンセミナー、手術ビデオ、鼻手術ウエブ講義は今後も継続する意義があると思われ、継続していく。
公開日・更新日
公開日
2021-07-01
更新日
-