文献情報
文献番号
202009017A
報告書区分
総括
研究課題名
健康診査・保健指導における健診項目等の必要性、妥当性の検証、及び地域における健診実施体制の検討のための研究
課題番号
19FA1008
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 智教(慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学教室)
研究分担者(所属機関)
- 磯 博康(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
- 宮本 恵宏(国立研究開発法人国立循環器病研究センター オープンイノベーションセンター)
- 後藤 励(慶應義塾大学大学院経営管理研究科)
- 三浦 克之(国立大学法人滋賀医科大学 社会医学講座 公衆衛生学部門)
- 津下 一代(丹羽 一代)(女子栄養大学)
- 小池 創一(自治医科大学 地域医療学センター地域医療政策部門)
- 立石 清一郎(産業医科大学 両立支援科学)
- 荒木田 美香子(川崎市立看護短期大学 看護学部)
- 由田 克士(大阪市立大学大学院 生活科学研究科 食・健康科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
20,385,000円
研究者交替、所属機関変更
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研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、脳・心血管疾患等の発症リスクを軽減させるための予防介入のあり方を最新のエビデンスを踏まえて検討し、今後の包括的な健診・保健指導の制度を提案する。健診項目等の検討は、予防介入が可能であることを前提とし、期待される脳・心血管疾患や糖尿病の相対リスクや絶対リスクの減少も考慮して、健診項目、対象者の範囲、保健指導の内容などを検討する。
研究方法
今年度は健康診査・保健指導の効果に関しては、健診項目の組み合わせと実際のコホート研究で求めた最新の疾病発症モデルを適用して、重篤なイベントの発症確率の高い者を効果的にスクリーニング可能な組み合わせを絶対リスクの観点から検証した。保健指導の効果は、薬剤を用いた臨床試験のリスク低下をベンチマークとし、その何分の1かで考慮した。そして健診モデルと組み合わせることによって集団全体の新規のイベントをどのくらい低減できるかどうかを検証した。また新しい健診項目候補や自己簡易採血キットなどの検査手技、新しい保健指導手法の有用性や保健指導参加率等への影響について検証を行った。これらの結果から健診・保健指導モデルの費用対効果について検証した。また個々のモデルの行政施策との適合度や行政制度の中での健診の位置づけについて検討した。
結果と考察
本年度の研究の結果と考察は以下の通りである。1)耐糖能異常は推定糸球体ろ過量(eGFR)よりも尿蛋白出現との関連が強く、蛋白尿、可能であれば微量アルブミンの測定が重要である。2)保健指導の中長期的な効果みるため、少なくとも半年以上追跡している研究を検索してその持続効果を確認したが、5年以上の長期効果を検証したものはなかった。3)十数万人の大規模集団データを解析して、4kg以上の減量で4 mmHg程度の血圧低下を認め、保健指導が血圧管理にも有用であることが示された。4)複数の新規の健診項目候補について既存データの解析やコホート集団への導入で評価した。その結果、①インピーダンス法による内臓脂肪面積は、ハイリスク者を有効にスクリーニング可能な方法であることが示唆された、②高感度CRP、BNP(brain natriuretic hormone) は将来の脳・心血管疾患の発症を予測するが、現状ではこれらの指標をターゲットにした保健指導手法等がないことが明らかになった、③非肥満で喫煙者または血圧高値の場合、上腕足首間脈波伝播速度が高値だと脳・心血管疾患の発症リスクが非常に高くなることがわかり、このようなメタボリックシンドロームに該当しない対象に詳細項目として追加することが推奨された、④2020年7月にNDBデータの提供を受けて、国民健康保険組合の被保険者を対象に、特定健診の受診回数と健診受診後の循環器疾患の傷病名を伴う新規の入院発生との関連を検討した。その結果、受診回数が多い集団ほど循環器疾患の入院の発生が有意に低下していることが示唆された。こ⑤検査手技としての指先採血に着目し、測定精度や保健指導・在宅健診項目としての長所と短所について検証した。5)保健指導については選定や階層化の基準をどう変えるかという点は今後提案すべき事項であるが、現実に事業として実施していくためには対象者の人数がどうなるかは常に注視していく必要があることが示された。6)産業保健の現場は、法的な必須業務やメンタルの対応で追われているが、会社の施策の後押しがあると少なくとも特定保健指導業務の推進には前向きの影響が示唆された。7)費用対効果モデルについては、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病の日本人のリスク推計式に、既存の介入研究の保健指導実施群と非実施群の検査値の変化量を入れることで、それぞれの疾患の発症リスクから費用対効果を推計するモデルを開発した。また費用対効果を背景情報として考慮した上で、法的な規制や義務付けのレベルを考えて行く必要があると考えられた。
結論
本研究では、健診制度の終局的な予防目標を脳・心血管疾患や腎不全に置いた場合、どのような危険因子のスクリーニングを、どのように実施するのが最適化なのを明らかにする。これにより生活習慣疾予防を目的としたスクリーニングおよび早期の予防介入の考え方が整理され、具体方策が提示される。これは保健事業を運営する保険者および事業主・自治体などのステークホルダが資源配分の最適化を検討することにも寄与できる。また今後、健診や保健指導の社会全体へのインパクトを明確にするためには、個々の健診項目の費用対効果だけでなく、健診・保健指導制度全体の費用対効果を示す必要がある。本研究により、全国民を対象とした持続可能な健診制度のあり方を提示できると考えている。
公開日・更新日
公開日
2021-10-20
更新日
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