小児がん患者に対する在宅医療の実態とあり方に関する研究

文献情報

文献番号
202008024A
報告書区分
総括
研究課題名
小児がん患者に対する在宅医療の実態とあり方に関する研究
課題番号
19EA1014
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
大隅 朋生(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 小児がんセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 松本 公一(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 小児がんセンター)
  • 余谷 暢之(国立成育医療研究センター総合診療部緩和ケア科)
  • 中村 知夫(国立成育医療研究センタ- 周産期診療部 新生児科)
  • 前田 浩利(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 発生発達病態学分野)
  • 長 祐子(松川 祐子)(北海道大学病院 小児科)
  • 荒川 歩(国立がん研究センター 中央病院小児腫瘍科)
  • 湯坐 有希(東京都立小児総合医療センター 血液・腫瘍科)
  • 横須賀 とも子(神奈川県立こども医療センター 血液・腫瘍科)
  • 倉田 敬(長野県立こども病院 血液腫瘍科)
  • 紅谷 浩之(オレンジホームケアクリニック)
  • 岩本 彰太郎(三重大学医学部附属病院周産期母子センター)
  • 西川 英里(国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学 医学部附属病院 小児がん治療センター)
  • 多田羅 竜平(大阪市立総合医療センター緩和医療科兼小児内科)
  • 古賀 友紀(九州大学医学部小児科)
  • 岡本 康裕(鹿児島大学医歯学総合研究科小児科学分野)
  • 星野 大和(あおぞら診療所新松戸)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
6,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児がんは小児期の重要な死因のひとつで、年間500名程度が死亡している。その中で小児がん終末期に最後まで自宅で過ごすことができるケースは限られているのが現状である。その大きな要因として成長発達段階にある小児特有の問題に加え、小児がんの疾患性質上 、終末期まで高度な医療ケアが継続されることが多く、成人対象の在宅医療の枠組み だけでは対応が難しい場面あることなどが考えられる。さらに、治療方針決定の責任を持つ保護者と患者であるこどもとの間に生じる意思のギャップや、医療者がこどもと家族に対して余命や予後などの情報を提供する際に抱く葛藤など、様々な困難が存在する。こうした様々な要因が小児がんの終末期における在宅移行の提案を難しくし、在宅医療を展開する障壁となっている。しかしこどもと家族の意志を尊重し、“生ききる”権利を担保するためには、限られた時間を過ごす場所の選択肢が適切なタイミングで公平に提示される必要があり、 そのための医療体制の整備が求められている。
一方で我が国の小児がん在宅医療は、様々な地域で発生するニーズに対応するために地域性やリソースに応じた実践が重ねられ、経験や工夫が蓄積されている。しかしながら、そういったノウハウが集約された調査や報告はない。そこで本研究では、小児がんの在宅医療を含む終末期医療に関する医学的、社会的な現状調査を通じて、小児がん在宅診療が発展していくために乗り越えるべき課題を明確にし、その解決につながる施策提案につなげることを目的とする。
研究方法
小児がんの終末期に関わる医療者を対象とした現状調査、在宅移行を提案する際に直面する障壁に関する調査、研究分担施設における好事例の共有、在宅輸血調査、病院と家以外の看取り場所に関する調査、社会資源の共有を行うための方法の検討、遺族インタビュー、を行うことで、小児がん在宅医療の現状把握、課題抽出およびその解決法の検討を行う。2020年度は各分担研究をすすめる。
結果と考察
①現状の共有および好事例の検討
2019年度に半数の分担施設から小児がん在宅医療の取り組みを共有した。2020年度に残りの半数の施設から情報収集を行う予定であったが、様々な制約があり実施できなかった。しかしながら、小児がん在宅医療に関する課題や取り組みはある程度把握可能でそれらについて下記の調査研究をすすめた。
②現状調査
A 終末期の現状調査
小児がん診療施設における小児がん終末期の実際を調査するために、700例程度の小児がん死亡症例に関する調査研究を実施した。調査内容としては、療養場所の選択肢が提示されたか、死亡場所、死亡直前の医療処置などの情報を収集した。調査票の回収はほぼ完了しており、今後解析をすすめていく。
B 在宅移行の障壁調査
小児がん診療医師約300名から、在宅移行を含めた終末期の障壁に関する調査を実施した。
③分担研究
各施設の現状共有から得られた小児がん在宅医療の課題とそれを克服するための分担研究を実施した。
A 在宅輸血
小児では終末期に輸血需要がある場合が多く在宅移行の障壁となる。小児がん診療病院を対象に在宅輸血の実施状況に関する全国調査を実施した。赤血球は指針が整備されそれに添った好事例が存在するが、血小板は指針などがなく各施設が独自に工夫して実践していることがわかった。
B 病院と家以外の選択肢
在宅療養の希望があっても、医学的もしくは地理的などの社会的要因により、その希望が叶えられないことはあり得る。成人の場合には、ホスピスおよび緩和ケア病棟が選択肢となるが、小児では終末期に対応できる緩和ケア病棟は非常に限られているのが現状である。そのような状況のなかで、病院や家以外に家族が小児がんのこどもと過ごすことができる施設や設備に関する全国調査を実施した。
C 社会資源の共有
在宅移行を検討する際、地域で利用可能な社会資源を探しアクセスすることが最初のステップとなる。その役割は医療ソーシャルワーカー(MSW)が主体となることが多い。前研究で分担施設のMSWを中心に在宅移行のTipsや悩みなどを共有し議論するための講演会を開催し多数の多職種が参加し活発な意見交換を行った。
D 遺族インタビュー
療養場所の選択についての評価指標の一つは残った遺族の気持ちである。前研究で、協力が得られた2例の在宅死亡例の遺族、きょうだいにインタビューを実施し、ナラティブなヒアリングを行った。
結論
本研究により、本邦における小児がん終末期在宅医療の実態と課題が明らかとなった。継続研究において研究をさらに継続、発展させ、さらに課題解決につながる成果物につなげる。

公開日・更新日

公開日
2021-06-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-06-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202008024B
報告書区分
総合
研究課題名
小児がん患者に対する在宅医療の実態とあり方に関する研究
課題番号
19EA1014
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
大隅 朋生(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 小児がんセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 松本 公一(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 小児がんセンター)
  • 余谷 暢之(国立成育医療研究センター総合診療部緩和ケア科)
  • 中村 知夫(国立成育医療研究センタ- 周産期診療部 新生児科)
  • 前田 浩利(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 発生発達病態学分野)
  • 紅谷 浩之(オレンジホームケアクリニック)
  • 長 祐子(松川 祐子)(北海道大学病院 小児科)
  • 荒川 歩(国立がん研究センター 中央病院小児腫瘍科)
  • 湯坐 有希(東京都立小児総合医療センター 血液・腫瘍科)
  • 横須賀 とも子(神奈川県立こども医療センター 血液・腫瘍科)
  • 倉田 敬(長野県立こども病院 血液腫瘍科)
  • 岩本 彰太郎(三重大学医学部附属病院周産期母子センター)
  • 高橋 義行(名古屋大学大学院医学系研究科 成長発達医学)
  • 西川 英里(国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学 医学部附属病院 小児がん治療センター)
  • 多田羅 竜平(大阪市立総合医療センター緩和医療科兼小児内科)
  • 古賀 友紀(九州大学医学部小児科)
  • 岡本 康裕(鹿児島大学医歯学総合研究科小児科学分野)
  • 星野 大和(あおぞら診療所新松戸)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児がんは小児期の重要な死因のひとつで、年間500名程度が死亡している。その中で小児がん終末期に最後まで自宅で過ごすことができるケースは限られているのが現状である。その大きな要因として成長発達段階にある小児特有の問題に加え、小児がんの疾患性質上 、終末期まで高度な医療ケアが継続されることが多く、成人対象の在宅医療の枠組み だけでは対応が難しい場面あることなどが考えられる。さらに、治療方針決定の責任を持つ保護者と患者であるこどもとの間に生じる意思のギャップや、医療者がこどもと家族に対して余命や予後などの情報を提供する際に抱く葛藤など、様々な困難が存在する。こうした様々な要因が小児がんの終末期における在宅移行の提案を難しくし、在宅医療を展開する障壁となっている。しかしこどもと家族の意志を尊重し、“生ききる”権利を担保するためには、限られた時間を過ごす場所の選択肢が適切なタイミングで公平に提示される必要があり、 そのための医療体制の整備が求められている。
一方で我が国の小児がん在宅医療は、様々な地域で発生するニーズに対応するために地域性やリソースに応じた実践が重ねられ、経験や工夫が蓄積されている。しかしながら、そういったノウハウが集約された調査や報告はない。そこで本研究では、小児がんの在宅医療を含む終末期医療に関する医学的、社会的な現状調査を通じて、小児がん在宅診療が発展していくために乗り越えるべき課題を明確にし、その解決につながる施策提案につなげることを目的とする。
研究方法
小児がんの終末期に関わる医療者を対象とした現状調査、在宅移行を提案する際に直面する障壁に関する調査、研究分担施設における好事例の共有、在宅輸血調査、病院と家以外の看取り場所に関する調査、社会資源の共有を行うための方法の検討、遺族インタビュー、などを行うことで、小児がん在宅医療の現状把握、課題抽出およびその解決法の検討を行う。
結果と考察
①現状の共有および好事例の検討
2019年度は半数の分担施設から小児がん在宅医療の取り組みを共有した。2020年度に残りの半数の施設から情報収集を行う予定であったが、様々な制約があり実施できなかった。しかしながら、小児がん在宅医療に関する課題や取り組みはある程度把握可能でそれらについて下記の調査研究をすすめた。
②現状調査
A 終末期の現状調査
小児がん診療施設における小児がん終末期の実際を調査するために、700例程度の小児がん死亡症例に関する調査研究を実施した。調査内容としては、療養場所の選択肢が提示されたか、死亡場所、死亡直前の医療処置などの情報を収集した。調査票の回収はほぼ完了しており、今後解析をすすめていく。
B 在宅移行の障壁調査
小児がん診療医師約300名から、在宅移行を含めた終末期の障壁に関する調査を実施した。
③分担研究
各施設の現状共有から得られた小児がん在宅医療の課題とそれを克服するための分担研究を実施した。
A 在宅輸血
小児では終末期に輸血需要がある場合が多く在宅移行の障壁となる。小児がん診療病院を対象に在宅輸血の実施状況に関する全国調査を実施した。赤血球は指針が整備されそれに添った好事例が存在するが、血小板は指針などがなく各施設が独自に工夫して実践していることがわかった。
B病院と家以外の選択肢
在宅療養の希望があっても、医学的もしくは地理的などの社会的要因により、その希望が叶えられないことはあり得る。成人の場合には、ホスピスおよび緩和ケア病棟が選択肢となるが、小児では終末期に対応できる緩和ケア病棟は非常に限られているのが現状である。そのような状況のなかで、病院や家以外に家族が小児がんのこどもと過ごすことができる施設や設備に関する全国調査を実施した。
C社会資源の共有
在宅移行を検討する際、地域で利用可能な社会資源を探しアクセスすることが最初のステップとなる。その役割は医療ソーシャルワーカー(MSW)が主体となることが多い。前研究で分担施設のMSWを中心に在宅移行のTipsや悩みなどを共有し議論するための講演会を開催し多数の多職種が参加し活発な意見交換を行った。
D 遺族インタビュー
療養場所の選択についての評価指標の一つは残った遺族の気持ちである。前研究で、協力が得られた2例の在宅死亡例の遺族、きょうだいにインタビューを実施し、ナラティブなヒアリングを行った。
結論
本研究により、本邦における小児がん終末期在宅医療の実態と課題が明らかとなった。継続研究において研究をさらに継続、発展させ、さらに課題解決につながる成果物につなげる。

公開日・更新日

公開日
2021-06-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2021-06-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202008024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
小児がんという希少疾患における終末期在宅医療に関する現状把握をすすめた。具体的な成果は継続研究で行うが、情報収集は大部分終了しており、我が国の小児がん終末期および在宅医療に関する貴重な基礎データを収集することができた。
臨床的観点からの成果
本邦において、小児がんの在宅医療に特化した研究は他になく、継続研究において公表されるデータは医療者および患者家族にとって有益なものと考えられる。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
日本小児科学会社会保険委員会と連携、データ共有を行い、小児の終末期医療、在宅輸血に対する診療報酬改定に向けた提案を行っている。
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
29件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-06-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
202008024Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,000,000円
(2)補助金確定額
6,860,000円
差引額 [(1)-(2)]
1,140,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,665,609円
人件費・謝金 974,343円
旅費 201,504円
その他 1,173,065円
間接経費 1,846,000円
合計 6,860,521円

備考

備考
自己資金521円

公開日・更新日

公開日
2021-11-17
更新日
-