わが国の子宮頸がん検診におけるHPV検査導入の問題点と具体的な運用方法の検討

文献情報

文献番号
202008016A
報告書区分
総括
研究課題名
わが国の子宮頸がん検診におけるHPV検査導入の問題点と具体的な運用方法の検討
課題番号
19EA1006
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
青木 大輔(慶應義塾大学 医学部産婦人科学)
研究分担者(所属機関)
  • 八重樫 伸生(国立大学法人東北大学 大学院医学系研究科 婦人科学分野)
  • 藤井 多久磨(藤田医科大学 医学部 産婦人科学)
  • 宮城 悦子(横浜市立大学 大学院医学研究科 生殖生育病態医学)
  • 中山 富雄(国立がん研究センター 社会と健康研究センター 検診研究部)
  • 齊藤 英子(国際医療福祉大学 三田病院 予防医学センター)
  • 森定 徹(慶應義塾大学 医学部 産婦人科学)
  • 高橋 宏和(国立がん研究センター 社会と健康研究センター 検診研究部 検診実施管理研究室)
  • 戸澤 晃子(小野 晃子)(聖マリアンナ医科大学 医学部 産婦人科)
  • 雑賀 公美子(JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター 総合医療情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
6,842,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の子宮頸がん検診は、健康増進事業の一環として市町村における対策型検診として行われており、その手法については「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(指針)」に基づき子宮頸部細胞診による検診が実施されている。一方、主に海外のエビデンスでは、細胞診に比してより検査感度の高いHPV検査を用いた子宮頸がん検診の有効性が示されている。しかしながらHPV検査をわが国の子宮頸がん検診に導入して検診としての効果を上げるためには、検診プログラムの手順と運用方法(アルゴリズム)の検討と、受診者がそのアルゴリズムを遵守できるような工夫と厳密な精度管理が必要である。わが国の市町村検診の内容の決定には、科学的根拠に基づくがん検診ガイドラインでの推奨に加え、対象年齢や検診間隔、具体的なアルゴリズム、精度管理のあり方などを含む実際の運用方法を決定するという過程を経る必要がある。本研究では前年度の研究に引き続いて、実際の運用を検討する際の参考となる学術的見解を示すことを目的とする。
研究方法
本研究で、検討すべき検診のアルゴリズムを網羅するためには、何を調査することが最も効果的かを議論し、調査対象を決定した。またアルゴリズムを調査するための様式の作成と、精度管理体制の把握のために必要と考えられる調査項目を特定した。
調査対象とするアルゴリズムとして、
(1)「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」の評価対象となった検診としての有効性が示されたランダム化比較試験で採用されたアルゴリズム
(2)国の対策型検診として導入されている検診のアルゴリズム
(3)上記以外のガイドライン等に掲載されているアルゴリズム
(4)国内外の検診の評価研究で用いられているアルゴリズム
のそれぞれについてアルゴリズムの構造、検診手法と検診結果、精密検査の種類、検査の対象者の割合などについて 文献・公表物を収集し、調査した。また、それぞれのアルゴリズムにおける検診陽性者の追跡管理体制、検診の精度管理の実態についても情報収集した。調査の中では、精密検査の結果異常がなかった場合の検診対象に戻す条件、精検未受診者への対応等を調査した。
結果と考察
今回検討したアルゴリズムはいずれも共通の書式を用いたフローチャートで記載し比較することが可能であり、それを元にアルゴリズムの基本的な構造パターンを整理すると、細胞診単独法で3種類、HPV検査単独法で3種類、HPV検査+細胞診併用法で2種類に整理することができた。また、アルゴリズムの構造、検診手法と検診結果、精密検査の種類、検査の対象者の割合などについて調査したところ、細胞診単独法に比較してHPV検査を含む検診では、特にHPV検査+細胞診併用法においてアルゴリズムの構造が複雑になること、および検診から6〜12ヶ月後の精密検査(追跡精検)の対象者が増加していることが判明した。さらに検診データの収集と管理体制に関する検討として、検診機関用のチェックリスト(例)および地域保健・健康増進報告における報告様式(例)も作成した。
これらについて、広く子宮頸がん検診に関係する医療者、関係者との情報共有を行い、コンセンサスを得るために、「子宮頸がん検診の運用を考えるフォーラム(2021年2月19日)」をWeb形式で開催した。
結論
子宮頸がん検診の手法として、細胞診単独法、HPV検査単独法、HPV検査+細胞診検査併用法の各方法について、検診としての有効性が示されたランダム化比較試験、および国の対策型検診として導入されている検診(National program)などのアルゴリズムおよび精度管理体制についての調査を進めたことで、今後、わが国でHPV検査を用いた子宮頸がん検診を実施する際の運用方法(対象者の設定、受診間隔、検査陽性となった場合のフローチャート、精度管理体制等)の提案と、同検査を実施する際に留意すべき事項の抽出が可能となった。今後、アルゴリズムを決めていく際には検診の精度管理状況についてのデータ収集・管理ができる仕組みの構築と実現可能性の検討が必要である。

公開日・更新日

公開日
2021-06-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-06-16
更新日
2021-10-01

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202008016B
報告書区分
総合
研究課題名
わが国の子宮頸がん検診におけるHPV検査導入の問題点と具体的な運用方法の検討
課題番号
19EA1006
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
青木 大輔(慶應義塾大学 医学部産婦人科学)
研究分担者(所属機関)
  • 八重樫 伸生(国立大学法人東北大学 大学院医学系研究科 婦人科学分野)
  • 藤井 多久磨(藤田医科大学 医学部 産婦人科学)
  • 宮城 悦子(横浜市立大学 大学院医学研究科 生殖生育病態医学)
  • 中山 富雄(国立がん研究センター 社会と健康研究センター 検診研究部)
  • 齊藤 英子(国際医療福祉大学三田病院 予防医学センタ-)
  • 森定 徹(慶應義塾大学 医学部 産婦人科学)
  • 高橋 宏和(国立がん研究センター 社会と健康研究センター検診研究部 検診実施管理研究室)
  • 戸澤 晃子(小野 晃子)(聖マリアンナ医科大学 医学部 産婦人科)
  • 雑賀 公美子(JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター 総合医療情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
「研究分担者 雑賀公美子」  所属機関 2019年9月~2020年3月31日: 国立がん研究センター がん対策情報センターがん登録センター 全国がん登録室 →  2020年4月以降: JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター 総合医療情報センターへ異動 

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の子宮頸がん検診は、健康増進事業の一環として市町村における対策型検診として行われており、その手法については「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(指針)」に基づき子宮頸部細胞診による検診が実施されている。一方、主に海外のエビデンスでは、細胞診に比してより検査感度の高いHPV検査を用いた子宮頸がん検診の有効性が示されている。しかしながらHPV検査をわが国の子宮頸がん検診に導入して検診としての効果を上げるためには、検診プログラムの手順と運用方法(アルゴリズム)の検討と、受診者がそのアルゴリズムを遵守できるような工夫と厳密な精度管理が必要である。わが国の市町村検診の内容の決定には、科学的根拠に基づくがん検診ガイドラインでの推奨に加え、対象年齢や検診間隔、具体的なアルゴリズム、精度管理のあり方などを含む実際の運用方法を決定するという過程を経る必要がある。本研究では前年度の研究に引き続いて、実際の運用を検討する際の参考となる学術的見解を示すことを目的とする。
研究方法
本研究で、検討すべき検診のアルゴリズムを網羅するためには、何を調査することが最も効果的かを議論し、調査対象を決定した。またアルゴリズムを調査するための様式の作成と、精度管理体制の確認のために必要と考えられる調査項目を設定した。さらに検診としての有効性が示された子宮頸がん検診がどのようなアルゴリズムで実施されていて、その実施状況がどのようであったかを把握するために、国内外で公表され文献として入手可能な研究および各国の対策型検診におけるガイドラインを調査することとした。具体的には、アルゴリズムの構造、検診手法と検診結果、精密検査の種類、検査の対象者の割合などについて 文献・公表物を収集し、調査した。
結果と考察
科学的根拠に基づいて評価された研究においても、研究によって用いている検診のアルゴリズムは様々であることが知られていたが、今回それらのアルゴリズムについて初めて詳細な調査を実施することができた。具体的に検討した文献は、下記の4つの種類である。(1)「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン2018年度版ドラフト」および「2009年子宮頸がん検診ガイドライン」で評価対象として採用された研究においては14文献を調査した。(2)国の対策型検診として導入されている検診のアルゴリズムは5カ国(日本、オーストラリア、オランダ、ニュージーランド、韓国)のものを調査した。(3) 各学術団体のガイドライン等に掲載されているアルゴリズムとしては、米国コルポスコピー学会、米国総合がんセンターネットワーク、香港、日本産婦人科医会におけるアルゴリズムを調査した。(4)国内外の検診の評価研究で用いられているアルゴリズムとしては、AMEDによるコホート研究、CITRUS研究、栃木県小山地区モデル事業における報告の文献を調査した。今回入手できたアルゴリズムはいずれも、トリアージ精検、追跡精検、確定精検、などの共通の用語を使ってフローチャートで整理することによって、比較することが可能であった。それを元にアルゴリズムの基本的な構造パターンを整理すると、細胞診単独法で3種類、HPV検査単独法で3種類、HPV検査+細胞診併用法で2種類に整理することができた。がん検診を実施する上で、検診の効果を上げるためには、受診者に対して検診結果別に次に受ける検診や精密検査の内容を決め、どのような結果になったら次回の検診に戻れば良いのかなどのアルゴリズムを定め、受診者が遵守できるような工夫と厳密な精度管理体制を構築することが必要であると考えられる。今回の調査結果が、わが国における子宮頸がん検診のアルゴリズムの構築の際の参考資料となる。
結論
有効性評価研究や国の対策型検診、ガイドラインなどに用いられている子宮頸がん検診(細胞診単独法、HPV検査単独法、HPV検査+細胞診併用法)のアルゴリズムを調査した。今後、HPV検査がわが国の子宮頸がん検診に導入されることを想定した場合、アルゴリズムの決定のみならず、それに伴う検診の精度管理状況についてのデータ収集・管理ができる仕組みの構築とその実現可能性の検討が必要である。

公開日・更新日

公開日
2021-06-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-06-16
更新日
2021-10-01

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202008016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
わが国の子宮頸がん検診は市町村での策型検診として行われており、子宮頸部細胞診が採用されている。近年、欧州等で国の対策型検診にHPV検査を導入する動きがある。HPV検査をわが国の子宮頸がん検診に導入して効果を上げるには、実現可能性のある検診プログラムの手順と運用方法(アルゴリズム)の検討が必要である。本研究では国内外の子宮頸がん検診のアルゴリズムと精度管理体制について、文献的検討やわが国でHPV検査を導入する際にその検診の運用体制の検討に資する資料を作成し、令和4年度は未確定部分の検討も行った。
臨床的観点からの成果
がん検診効果を上げるには、受診者に対し検診結果別に次に受ける検診や精密検査の内容を示したアルゴリズムを定め、受診者が遵守できる工夫と検診の精度管理体制構築が必須である。本研究ではHPV検査を子宮頸がん検診に導入した際の効果を評価する検診プログラムの構築を念頭に、検診のアルゴリズムや運用する際に必要な付帯条件の列挙と課題整理、検査手法や運用方法の検討に必要な知見を収集し、令和4年度は一部市町村を対象とした実態調査準備としてHPV検査を用いた検診の実施可能性についてアンケートフォームを作成した。
ガイドライン等の開発
子宮頸がん検診のアルゴリズムの検討の中で、精密検査を「トリアージ精検」、「確定精検」、「追跡精検」にの3つに分類し、国内外のアルゴリズムの系統的な整理を試みた。その結果、細胞診単独法で3パターン、HPV検査単独法で3パターン、HPV検査+細胞診併用法で2パターンの基本的なアルゴリズムのパターンを示すことができた。以上について取り纏め、また「がん検診のあり方に関する検討会」でも報告した当班作成の「研究報告書」を、令和4年度からの後続研究に新たに参加した研究分担者や協力者とも改めて共有した。
その他行政的観点からの成果
国立がん研究センターより刊行された「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン2019年度版」では、細胞診単独法、HPV検査単独法、HPV検査+細胞診併用法のそれぞれについて推奨グレードが示されたが、このガイドラインだけでは、現行の細胞診単独法による検診の実施体制と何が異なるのかなど、実際に子宮頸がん検診に従事する関係団体や関係職種に理解してもらうことは困難である。そこで本研究内容に関する情報発信及び議論の場を設けることを目的に、各種の学術講演会での発表、公開フォーラム開催、講演会を行った。
その他のインパクト
研究内容を含めた知見を共有することを目的として、公開フォーラムを2021年2月19日に主催した。フォーラムは、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本婦人科腫瘍学会、日本婦人科がん検診学会、日本臨床細胞学会の後援を受けて開催され、参加者は461人(医師196人、細胞検査士151人、自治体等の担当者32人を含む)であった。HPV検査を用いた検診ではアルゴリズムが複雑化することが多いことや、検診受診者に適切な時期に適切な検査を受けてもらうための仕組みの構築は容易ではないという課題を共有した。

発表件数

原著論文(和文)
2件
日本がん検診・診断学会誌
原著論文(英文等)
2件
International Journal of Clinical Oncology, Journal of Gynecologic Oncology
その他論文(和文)
14件
日本婦人科腫瘍学会誌 , 日本産科婦人科学会雑誌 , 日本がん検診・診断学会誌, 公衆衛生情報雑誌 , 産婦人科の実際 , 人間ドック, 総合検診, 日本医師会雑誌等
その他論文(英文等)
8件
J Gynecol Oncol , Cancer Sci, Vaccines, Int J Clin Oncol, JCO Glob Oncol. 等
学会発表(国内学会)
42件
日本産科婦人科学会学術講演会, 日本臨床細胞学会, 日本婦人科腫瘍学会, 日本婦人科がん検診学会総会・学術講演会,日本がん検診・診断学会総会 , 日本人間ドック学会学術大会 他
学会発表(国際学会等)
3件
Biennial Meeting of Asian Society of Gynecologic Oncology (ASGO)
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
がん検診のあり方に関する検討会
その他成果(普及・啓発活動)
6件
子宮頸がん検診の運用を考えるフォーラム、講演(東京産婦人科医会臨床研究会、がん検診精度管理医師等研修会, 医師会産業医講習会,産婦人科医会招待講演 他)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
2023-07-04

収支報告書

文献番号
202008016Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,000,000円
(2)補助金確定額
8,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,998,231円
人件費・謝金 3,367,847円
旅費 30,460円
その他 1,445,754円
間接経費 1,158,000円
合計 8,000,292円

備考

備考
292円は自己資金より充当

公開日・更新日

公開日
2021-11-17
更新日
-