文献情報
文献番号
202006075A
報告書区分
総括
研究課題名
新型コロナウイルス感染症による嗅覚、味覚障害の機序と疫学、予後の解明に資する研究
課題番号
20CA2079
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
三輪 高喜(金沢医科大学 医学部 耳鼻咽喉科)
研究分担者(所属機関)
- 飯沼 由嗣(金沢医科大学 医学部)
- 志賀 英明(金沢医科大学 医学部)
- 近藤 健二(東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科)
- 小林 正佳(三重大学 大学院 医学系研究科)
- 都築 建三(兵庫医科大学 医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
- 森 恵莉(東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学教室)
- 鈴木 元彦(名古屋市立大学 医学部耳鼻咽喉科)
- 洲崎 勲夫(昭和大学 医学部)
- 横山 彰仁(一般社団法人日本呼吸器学会)
- 木村 百合香(東京都保健医療公社荏原病院 耳鼻咽喉科)
- 西条 旨子(金沢医科大学)
- 井之口 豪(神戸大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
18,504,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、発症早期に嗅覚、味覚障害が発生することが知られているが、わが国における発生頻度と予後は十分に知られていない。本研究の目的は、わが国におけるCOVID-19による嗅覚障害、味覚障害の発生頻度や特徴を把握するとともに、後遺症の状況を把握することである。
研究方法
病院、ホテル療養中の20歳から59歳までの、無症状、軽症、中等症のCOVID-19患者を対象とした。入院時、入所時に研究協力依頼のパンフレットを配布し、パンフレットに記載のURL、QRコードからホームページにアクセスし、説明画面を読み、同意を得た患者を対象とした。同意が得られた患者はアンケート画面にアクセスし、アンケートに回答するとともに、嗅覚・味覚検査を実施した。嗅覚検査、味覚検査はそれぞれOpen Essence、Taste Stripsを用いた。実施希望者に対し、病院入院患者では医療スタッフが配布、ホテル療養者では共用スペースから患者自らが入手し、いずれも自室で検査を実施した。アンケート結果、嗅覚・味覚検査結果ともに、患者がホームページ上で回答し、システムにデータを集積した。
結果と考察
回答者の58%に嗅覚障害を、41%に味覚障害を認めた。嗅覚障害、味覚障害ともに男性よりも女性に高頻度に出現し、若年者ほど出現頻度が高かった。嗅覚障害と味覚障害の関連について、味覚障害が単独で出現する患者は4%と少ないのに対し、嗅覚障害が単独で出現する患者は20%と高率であった。また、嗅覚検査において嗅覚障害を自覚する患者の検査結果が定値を示したのに対し、味覚検査で異常低値を示す味覚障害自覚者は少なかった。以上の点から味覚障害の多くは、嗅覚障害に伴う風味障害であることが示唆された。発症時の症状は高度な患者が多く、嗅覚障害では60%が、味覚障害では38%が脱失を示したが、回復も早く、嗅覚障害では15%が、味覚障害では28%が調査時(発症から平均8日間)に回復していた。しかし、嗅覚障害者の40%が、味覚障害者の16%が、1か月後にも症状が残存していた。QOLに関して、嗅覚障害を有する患者では有しない患者と比較して、「以前より飲食を楽しめなくなった」、「ガスや腐った食べ物などが怖くなった」、「体重が変化した」と答える患者が有意に多く、味覚障害患者では、それらに加え、「孤独を感じる」、「怒りを覚える」、「食べる量が以前より減った」と答える患者も有意に多く、嗅覚障害よりも味覚障害で、よりQOLへの影響が強いことが判明した。これは味覚障害患者は、嗅覚障害も合併している頻度が高いためであると思われた。
結論
無症状、軽症、中等症のCOVID-19患者における嗅覚、味覚障害について、症状アンケートならびに嗅覚検査、味覚検査を用いて、その臨床的特徴を検討した。その結果、COVID-19患者における際立った特徴が明らかとなった。患者の半数近くあるいはそれ以上に嗅覚、味覚障害が発生しており、これほど多くの嗅覚、味覚障害が一時期に発生したことはこれまでにない。突然に出現する嗅覚、味覚障害が、COVID-19の一つの症状であることは間違いなく、疾患発見のバイオマーカーとなりうる。また、後遺症として嗅覚、味覚障害が持続する可能性もあるため、今後引き続いての検討を行いたい。
公開日・更新日
公開日
2021-08-10
更新日
-