新型コロナウイルス感染症の影響による国民の食行動等の変化とその要因研究

文献情報

文献番号
202006038A
報告書区分
総括
研究課題名
新型コロナウイルス感染症の影響による国民の食行動等の変化とその要因研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
20CA2040
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
赤松 利恵(お茶の水女子大学 基幹研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 奥原 剛(東京大学 医学部附属病院)
  • 千葉 剛(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所)
  • 新保 みさ(長野県立大学 健康発達学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
6,176,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新型コロナウイルス(以下,コロナ)の感染拡大は我々の食生活を大きく変えた。先行研究では,コロナの感染拡大により,不健康な食生活になった報告がある一方で,健康的な食生活に変化したという報告もある。このような食生活の変化の違いには,コロナの感染予防として食を通して免疫力を高めたいという意識が影響している可能性がある。しかし,コロナに対する免疫力向上に,十分な科学的根拠を有する食品や栄養成分等は現時点では確認されていない。それにも関わらず,サプリメント等の健康食品の売上げが増加している背景には,コロナ感染拡大にあわせ,関連企業がメディア広告を展開した可能性が考えられる。
そこで,本研究では,「新しい日常」における適切な栄養・食生活の推進に向けた基礎資料を得る目的で,1) 日本人の食意識・食行動,身体状況,生活習慣の変化の検討,2) 特定の栄養成分等の含有や健康維持効果等を訴求する食品に関するメディア広告の変化の分析,3) 栄養成分を中心に感染症(免疫能)への関連のシステマティックレビューを行った。
研究方法
研究1では,コロナの感染拡大により,健康的または不健康な食生活になった者の特徴を把握するため,全国成人男女6,000人を対象に,無記名自記式のインターネットによる横断的調査を行った。調査項目は,コロナ感染拡大前後の食生活および食品の摂取の変化,体重変化,健康に対する意識の変化,属性であった。
研究2では,コロナ感染拡大に伴う広告の変化を調べるため,全国紙「読売新聞」「朝日新聞」を対象に,コロナ感染拡大前年の2019年2~7月および感染拡大期である2020年2~7月に新聞に掲載された健康食品の広告を対象に,広告量の変化,広告が標榜する機能と成分,コロナ感染予防を想起させる惹句を検討した。
 研究3では,コロナ予防効果を示唆する食品の購入による消費者の経済的負担の軽減や栄養成分等の過剰摂取からの健康被害の防止に向け, PubMed,医中誌,EMBASEのデータベースを用いて,栄養成分等と感染症の論文のシステマティックレビューを行った。
結果と考察
研究1の結果,感染拡大前と比べて現在の食生活がより健康的になった者は20.3%,より不健康になった者は8.2%,変化しなかった者は71.6%だった。食生活がより健康的になった,不健康になった者の共通点は,年代が低い,脂質異常症の罹患歴がある,新型コロナに対する恐怖が高いことであった。一方で,健康的になった者は,世帯年収が高い,自分や友人・知人が感染した,ヘルスリテラシーが高い,運動頻度が高い,喫煙しており,不健康になった者は,1人暮らしである,職場の同僚が感染した,ストレスが高い,BMIが高かった。また,食生活がより不健康になった者は,健康的になった者と比べて野菜の摂取量,果物,肉類,魚類,納豆,牛乳,乳製品の摂取頻度が減り,パン,麺類,インスタント食品,菓子,揚げ物の摂取頻度,1回あたりの菓子の量,飲酒頻度,1回あたりの飲酒量が増えた者が多かった。さらに,主食・主菜・副菜の揃った食事,朝食の摂取頻度,家族と一緒に食事をする頻度,料理をする頻度が減り,外食,間食の頻度が増えた者が多かった。
研究2の結果,感染拡大前と比べ,感染拡大後に,感染予防,関節機能,消化機能を標榜する健康食品の広告が増加していた。効果に関し十分な科学的根拠が報告されている成分は,関節機能の改善に対するグルコサミンとコンドロイチン,消化機能の改善に対する乳酸菌と食物繊維のみである。しかし,感染予防を標榜する健康食品の広告は,商品をうがい・手洗いといった感染予防効果を想起させる表現を用いて,乳酸菌,プロポリス,ラクトフェリン等の成分の含有を標榜していた。
研究3の結果,ビタミンDは,COVID-19を含めた上気道感染症に対する研究で数多くなされており,ビタミンDの欠乏(20 ng/mL未満)もしくは不足(20-30 ng/mL)状態が感染のリスクを高め,充足状態(30 ng/mL以上)に保つことが感染予防に重要であることが示唆された。しかし,ビタミンDは日照によっても皮膚で合成させる特殊な栄養素であることから,日頃の食事を見直すとともに,日光浴も取り入れることが推奨される。一方,それ以外の成分では,積極的に摂取する根拠は現時点では十分ではなかった。
結論
コロナの感染拡大により,日本においても,健康的な食生活になった者がいる一方で,不健康な食生活になった者がいることが確認できた。また,現段階では,ビタミンD以外の成分では,感染予防に対する根拠は十分でないことが示されたが,乳酸菌等を用いた感染予防を謳う広告が増加していた。本研究は,「新しい日常」におけるより良い食生活の推進に向けた基礎資料を提示した。

公開日・更新日

公開日
2022-03-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-03-25
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202006038C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は,単年度事業であったため,助成を受けた年(2020年)には,形となる成果は出なかったが,その後,2025年5月現在で,査読付論文(英語,日本語)7本を発表した。そのうち,英語の論文1本がスポーツ栄養Webというサイトから取材を受け,日本語で紹介された。より多くの方に研究成果を届けることができたと考える。
臨床的観点からの成果
なし
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
本研究成果は,厚生労働省が平成3年9月8日行った事務連絡「新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う生活の変化を踏まえた 栄養・食生活支援の推進について」で紹介された。この資料を読んで,複数の自治体より,本研究成果を含んだ講演依頼を受けた。各地域のコロナ後と食生活支援に貢献した。
その他のインパクト
2021年10月 赤松利恵(研究代表者)第68回日本栄養改善学会学術総会 リレー講演の講演者として出席。
2021年11月20日 兵庫県公衆衛生協会の総会にて,「新型コロナウイルス感染症による国民の食行動等の変化とその要因」と題した講演を行った。
2021年8月18日スポーツ栄養Webに「コロナパンデミックで食生活が健康になった人と不健康になった人の違いは何? 国内6千人の調査」で研究が紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
5件
他に,短報(査読付):満崎満咲,吉井瑛美,外園海稀,他.就労者における在宅勤務と家族との共食頻度.日本健康教育学会誌,30(1):46-53 (2022)
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
2件
千葉剛.特集:感染症予防に効果的な生活習慣 食事 ―バランスのよい食事が何よりの予防法― 体育の科学(杏林書院)71(5)308-315, 2021
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
中易萌香,赤松利恵,深澤向日葵,他
新型コロナウイルス感染症の感染拡大前と比べて調理頻度が増加した者の属性と主食・主菜・副菜のそろった食事の頻度
栄養学雑誌 , 80 (2) , 96-104  (2022)
原著論文2
大内実結,江田真純,赤松利恵,他
ストレスと飲酒状況の組み合わせによる食習慣の特徴
日本健康教育学会誌 , 30 (1) , 26-36  (2022)
原著論文3
Shimpo M, Akamatsu R, Kojima Y
Impact of the COVID-19 pandemic on food and drink consumption and related factors: A scoping review.
Nutrition and Health.  (2022)
DOI: 10.1177/02601060221078161
原著論文4
Okuhara T, Yokota R, Shirabe R et al
Japanese newspaper advertisements for dietary supplements before and after COVID-19: a content analysis.
BMJ Open. , 11 , e050898-  (2021)
doi: 10.1136/bmjopen-2021-050898
原著論文5
Shimpo M,Akamatsu R, Kojima Y, et al
Factors associated with dietary change since the outbreak of COVID-19 in Japan
Nutrients , 13 (6) , 2039-  (2021)
https://doi.org/10.3390/nu13062039
原著論文6
中易萌香,赤松利恵,小島唯他
単身世帯における調理頻度と主食・主菜・副菜のそろった食事の摂取頻度の検討.
栄養学雑誌 , 81 (2) , 53-56  (2023)
https://doi.org/10.5264/eiyogakuzashi.81.53
原著論文7
大内実結,赤松利恵,新保みさ,他
新型コロナウイルス感染拡大前後における飲酒頻度変化の関連要因.
日本健康教育学会誌 , 30 (4) , 271-282  (2022)
https://doi.org/10.11260/kenkokyoiku.30.271
原著論文8
大内実結,赤松利恵,新保みさ,他
成人における生活習慣病のリスクを高める飲酒量と機能的・伝達的・批判的ヘルスリテラシー
栄養学雑誌 , 81 (5) , 202-209  (2023)
https://doi.org/10.5264/eiyogakuzashi.81.202

公開日・更新日

公開日
2022-05-10
更新日
2025-06-04

収支報告書

文献番号
202006038Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,689,000円
(2)補助金確定額
7,689,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 652,087円
人件費・謝金 1,491,775円
旅費 0円
その他 4,032,138円
間接経費 1,513,000円
合計 7,689,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2022-03-25
更新日
-