糖尿病個別化予防を加速するマイクロバイオーム解析AIの開発

文献情報

文献番号
202003015A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病個別化予防を加速するマイクロバイオーム解析AIの開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
20AC5004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 國澤 純(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 医薬基盤研究所 ワクチン・アジュバントセンター)
  • 水口 賢司(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 医薬基盤研究所)
  • 竹山 春子(早稲田大学 先進理工学部生命医科学科)
  • 小川 順(京都大学 農学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
269,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究グループで構築を進めているデータベースには、腸内細菌叢を中心とするマイクロバイオームデータだけではなく、GWASなどのゲノム情報や生活習慣、健康診断情報、生理・体力指標、免疫因子や代謝物など豊富なメタデータが登録されている。また一部の参加者においては経時的な変化を解析するための縦断データが含まれている。さらに現在、共同研究として多くのグループに解析プロトコルを提供し、同一プロトコルで収集した様々な疾患患者のデータ統合を進めている。
本研究では、これらの研究基盤を活用し、サンプルの追加と腸内細菌の高機能なメタゲノムデータを加えたデータベースへの格納と拡張、さらにはデータ解析のためのプラットフォーム改変、糖尿病改善のための有用菌の機能・ゲノム解析、最先端メタボローム解析システムの導入と有用代謝物の同定、メカニズム解明、生産システムの開発などを進め、糖尿病の個別化予防やヘルスケア・機能性食品開発等のためのデータベースならびに人工知能(AI)の機能強化を図る。
研究方法
腸内細菌のゲノム解析は、ビーズ破砕法による便サンプルからのDNA抽出、もしくはSAG-gel法を用いたシングルセルゲノムDNAを取得し、次世代シーケンサーを用いて遺伝子配列を測定し、菌種情報、ショットガンメタゲノム情報、細菌ゲノムの系統情報を取得した。代謝物解析について、血清、糞便、菌の培養上清を対象に、液体クロマトグラフィーと三連四重極型質量分析計もしくはオービトラップ型質量分析計を用いたメタボローム解析を行った。
 得られたデータは、食事習慣などのメタデータとともに、PostgresSQLデータベースに格納し、さらに独自に開発した統合解析プラットフォームMANTAについて、ショットガンメタゲノムデータなど新規のデータ型に対応できる機能を拡張した。
 糖尿病モデルとして、マウスに高脂肪・高糖質餌を3ヶ月間給餌した。腹腔内グルコース負荷試験とインスリン抵抗性試験、精巣上体周囲脂肪組織の免疫学的・組織学的解析、マクロファージの遺伝子発現解析を行うことで病態ならびに炎症レベルを評価した。
 有用代謝物について、生産に関わる酵素の特定を行い、遺伝子工学手法を用いて鍵酵素を発現する形質転換大腸菌を作製した。さらに、作製した形質転換大腸菌を用いて有用代謝物の生産システム構築、及び精製手法の構築を行った。
 全ての研究は倫理指針に従って遂行した。
結果と考察
本年度は約1,800名の幅広い対象者からサンプルとデータを収集し、腸内細菌のゲノム解析を実施した。これらの情報をメタデータと共にデータベースに格納し、さらに、インハウスの統合解析プラットフォームであるMANTAの機能を拡張して統合解析基盤を構築した。また糖尿病改善候補菌を中心に、シングルセルゲノム解析を行い、菌株間で異なる配列を有する機能遺伝子を約30個検出した。また約230の脂溶性・水溶性代謝物を対象にしたメタボローム解析基盤を用いて、糖尿病患者と健常者の血清を使ったメタボローム解析を実施し、腸内細菌によって代謝産生される脂肪酸代謝物Zが糖尿病患者で減少していることを見出した。
 糖尿病改善の期待が出来る代謝物Yをマウスに経口投与すると、高脂肪・高糖質食による体重増加において大きな影響は認められなかったが、グルコース耐性やインスリン抵抗性が改善することが分かった。さらに、精巣上体周囲脂肪組織への炎症性マクロファージの集積が抑制され、その作用がペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γに依存して発揮されることもわかった。さらに本代謝物を生産する酵素の形質転換大腸菌を用いて生産システムを構築した。一方で、ヒトコホートを活用したメタボローム解析により、糞便中の代謝物Yと原料成分Aとの量に正の相関関係があることが確認できているが、原料成分Aの量が同じでも代謝物Yの量にバラツキが生じていることが分かった。このことは腸内細菌叢の違い、もしくは個々の菌が有する代謝酵素の個体差による可能性が考えられ、今後解析を進める予定となっている。
結論
本研究において、マイクロバイオームデータベースの拡充、腸内細菌の機能解析と有用代謝物分析の実施が進捗し、糖尿病だけではなく、他の健康状態も対象にした研究基盤へと拡張しつつある。これらは企業と含む多くの機関との共同研究の開始・推進につながっており、糖尿病の個別化予防や機能性食品開発等のための人工知能(AI)開発へ発展させると共に、糖尿病予防に関連する機能性食品・ヘルスケア関連産業の開発・投資につながる研究基盤として着実に構築が進んでいると言える。

公開日・更新日

公開日
2021-07-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-09-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202003015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヒトビッグデータの解析から、糖尿病の改善や予防効果が期待出来る有用菌や代謝物が同定され、その検証とメカニズム解明を進めている。また有用菌や代謝物の詳細な解析から、有用菌の多様性や代謝物の産生経路を明らかにし、様々な専門的観点からの新たな学術的知見が得られている。
臨床的観点からの成果
糖尿病の改善や予防が期待出来る有用菌や代謝物の同定、さらにはヒトビッグデータ解析から、有用菌や代謝物と関連のある食生活や生活習慣などの情報など、糖尿病予備群の改善につながる知見が得られつつある。
ガイドライン等の開発
今回得られた知見は今後のポストバイオティクスやマイクロバイオームを標的としたヘルスケアに関するガイドライン作成などにおいて、有用な情報になると予想される。
その他行政的観点からの成果
今回得られた知見は、腸内環境に基づく健康指導や個別化/層別化栄養指導システムなど、今後の健康づくりにつながるものと期待される。
その他のインパクト
本事業では糖尿病に主眼をおいて研究を進めているが、本システムは他の疾患にも応用可能であることから、今後の健康科学研究の中核の一つとして機能することが期待され、複数のテレビや雑誌、新聞などのマスコミでも紹介されている。

発表件数

原著論文(和文)
9件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
43件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Matsumoto N., Park J., Tomizawa R., et al
Relationship between nutrient intake and human gut microbiota in monozygotic twins
Medicina (Kaunas) , 57 (3) , 275-275  (2021)
原著論文2
Chen Y.A., Park J., Natsume-Kitatani Y., et al
MANTA, an integrative database and analysis platform that relates microbiome and phenotypic data.
PLoS One , 15 (12) , e0243609-  (2020)
原著論文3
Sanada T.J., Hosomi K., Shoji H., et al
Gut microbiota modification suppresses the development of pulmonary arterial hypertension in an SU5416/hypoxia rat model.
Pulm Circ , 10 (3) , 2045894020-  (2020)
原著論文4
Tabata T., Yamashita T., Hosomi K.,et al
Gut microbial composition in patients with atrial fibrillation: Effects of diet and drugs.
Heart and Vessels , 36 (1) , 105-114  (2020)
原著論文5
Hirata S.I., Nagatake T., Sawane K., et al
Maternal ω3 docosapentaenoic acid inhibits infant allergic dermatitis through TRAIL-expressing plasmacytoid dendritic cells in mice.
Allergy , 75 (8) , 1935-1951  (2020)
原著論文6
Hosomi K., *Kunisawa J.
Impact of the intestinal environment on the immune responses to vaccination.
Vaccine , 38 (44) , 6959-6965  (2020)
原著論文7
Hosomi K., *Kunisawa J.
Diversity of energy metabolism in immune responses regulated by microorganisms and dietary nutrition.
Int Immunol , 32 (7) , 447-454  (2020)
原著論文8
Miyachi M.
Summary of the 9th Life Science Symposium: integration of nutrition and exercise sciences.
Nutr Rev , 78 , 40-45  (2020)
原著論文9
雑賀あずさ、國澤純
食と腸内細菌が作り出す脂質環境の理解と疾患予防戦略への展開
YAKUGAKU ZASSHI , 印刷中  (2021)
原著論文10
長竹貴広、國澤純
加齢による免疫フレイル・炎症・脂質代謝
BIOINDUSTRY , 38 (1) , 41-51  (2021)
原著論文11
雑賀あずさ、國澤純
<研究室紹介>食事と腸内細菌を介した免疫制御研究
腸内細菌学雑誌 , 34 (4) , 217-220  (2020)
原著論文12
細見晃司、國澤純
腸内細菌叢研究とデータの取得・解析
コスメティックステージ , 14 (4) , 40-48  (2020)
原著論文13
河合総一郎、細見晃司、國澤純
腸内細菌叢解析の外部委託時の注意点と活用の考え方
腸内細菌叢の基礎知識と研究開発における留意点(情報機構) , 85-96  (2020)
原著論文14
小川 順
食品機能と微生物機能の相互作用-食事脂質の微生物代謝を例に-
食品加工技術 , 40 (1) , 34-39  (2020)
原著論文15
岸野重信、小川 順
腸内細菌によるω3 脂肪酸代謝と代謝物の生理機能
BIO INDUSTRY , 37 (10) , 14-21  (2020)
原著論文16
岸野重信、米島靖記、小川 順
腸内細菌が産生する食事脂質代謝物とその生理機能
生物工学会誌 , 98 (10) , 520-524  (2020)
原著論文17
大野 治美, 村上 晴香, 中潟 崇, 他
習慣的な排便状況と便性状を評価する新しい質問票の再現性・内的妥当性の検討
日本公衆衛生学雑誌 , 68 (2) , 92-104  (2021)

公開日・更新日

公開日
2021-07-06
更新日
2025-07-22

収支報告書

文献番号
202003015Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
350,000,000円
(2)補助金確定額
350,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 192,999,127円
人件費・謝金 16,014,208円
旅費 2,920円
その他 60,215,934円
間接経費 80,769,000円
合計 350,001,189円

備考

備考
支出の合計に自己資金1,189円を含むため。

公開日・更新日

公開日
2022-09-07
更新日
-