認知症に関与するマイクロバイオーム・バイオマーカー解析

文献情報

文献番号
202003011A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症に関与するマイクロバイオーム・バイオマーカー解析
課題番号
20AC5002
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
山本 万里(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門)
研究分担者(所属機関)
  • 西平 順(北海道情報大学医療情報学部)
  • 大島 登志男(早稲田大学 理工学術院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
176,601,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
認知症は、後天的な脳の障害によって認知機能が低下し、患者の記憶を喪失させるのみでなく人格をも崩壊して患者の社会生活機能を喪失させてしまうことから社会問題化している。日本は世界の中でも人口に対する認知症の割合が多いことが知られている。アルツハイマー病ADを主とする認知機能障害疾患は、我が国においても近年の高齢化に伴って急激に増加しており、その早期発見、早期介入が重要である。そこで、健常者、患者を対象に、ADに関わる血中バイオマーカー、エピゲノムを相互解析して、疾患に関連するバイオマーカーを明らかにする。また、認知症に関与するヒト及びADモデルマウスの口腔あるいは腸内マイクロバイオーム研究を推進し、高精度な認知症予測の微生物バイオマーカーの開発、認知症発症に関与する腸内微生物種とその産物等の特定、ならびに認知症発症の分子メカニズムの解明を目指す。
研究方法
倫理申請の承認を得た上で北海道情報大が収集した健常者734人、軽度認知障害MCI 78人、認知症と診断された70人の認知症マーカーである血中アミロイドβ(Abeta)値、認知機能検査値を取得し、各被験者の遺伝子データであるゲノムワイド関連解析(GWAS)および、エピジェネティックデータ(エピゲノム)解析を行い、項目それぞれの相関解析を行った。GWASは日本人集団に特有の疾患関連遺伝子を搭載したSNPアレイであるジェノタイピングアレイ、エピゲノムは約85万個のヒトCpGサイトを搭載しているIlluminaEPICアレイを用いた。また、AD及びMCIを含む認知症患者、並びに非認知症被験者(計300名以上)の唾液及び糞便を採取し、DNAを調製したのち、次世代シークエンサーを用いてそれぞれの菌叢の16S rRNA遺伝子データの比較解析を行った。またADモデル・ノトバイオートマウスの行動認知試験、脳内Ab蓄積、ニューロン新生能等のデータと腸内菌叢データを収集し、これらの相関解析から認知症に関与する微生物種の特定を行った。
結果と考察
血中Abeta値は、AD群>MCI群>健常者群の順に蓄積が見られ、Abetaが認知症研究の重要なマーカーであることが証明された。GWAS解析の結果、ヒト染色体領域に存在する計4個のSNPsが有意なゲノムワイド水準を満たしAbeta値との有意な関連を示した。この4個のSNPsは、認知症と関連が強いとされているApoEのE4を持たない被験者へ認知症のリスクを早期に予測することが可能である。そのうちの1個は50歳以下、ApoE4非保有者で有効なマーカーとなる可能性が見いだされた。そのほかEWAS解析では、軽度認知障害のリスク検出を目的としてAD群、MCI群、健常者群の3群比較を行った結果、AD群と健常者群の間に有意なメチル化サイトが320サイト見られた。特に健常者群とAD群で統計的に有意な差が認められた約60%のサイトが転写領域と遺伝子本体に含まれている事を考えると、認知症に関連のある重要なメチル化サイトであることが示唆された。
AD、AD以外の認知症、MCI、非認知症患者の唾液菌叢の解析から、健常群―認知症群間及びMCI群―認知症群間でβ多様性の有意な違いが観察され、門レベル、属レベル、種レベルにおいて、認知症あるいはMCIにおいて有意に増減する菌種を特定した。さらに、上記の菌叢データを元に機械学習ランダムフォレストを用いて高精度な認知症予測モデル(AUC>0.7)の構築に成功した。抗生物質投与をした通常飼育下のSPFマウスの脳の解剖解析と腸内細菌叢解析から、マウス個体ごとの海馬歯状回における新生ニューロンマーカー(Dcx)と相関する4種類の菌種を同定した。このことから、ニューロン新生に腸内細菌叢が影響を及ぼす可能性が示された。さらにAD患者由来の糞便細菌叢をもつノトバイオートマウス(C57BL/6J)に異なった抗生剤処理を行い、その行動異常のレベルと腸内細菌叢の変動を時系列で解析した。その結果、行動異常を促進する菌がアンピシリン耐性―メタロニダゾール非耐性、行動異常を抑制する菌がアンピシリン非耐性―メタロニダゾール耐性であることが示唆された。
結論
個人のゲノムワイド関連解析やエピゲノム解析の解析から、遺伝子型を考慮した個別化健康指導や栄養指導などの実現の可能性が示唆された。唾液微生物叢の解析から認知症、MCI、非認知症を高精度で予測するモデルを機械学習法により構築した。また各種認知症モデルマウスの解析から、脳内Ab蓄積、行動異常、ニューロン新生などに強く相関する腸内微生物群を特定した。マウス実験から、認知症の様々な表現型に腸内細菌が関与することが強く示唆された。

公開日・更新日

公開日
2021-07-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-09-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202003011C

収支報告書

文献番号
202003011Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
200,000,000円
(2)補助金確定額
199,999,000円
差引額 [(1)-(2)]
1,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 34,237,837円
人件費・謝金 15,410,211円
旅費 5,169円
その他 127,287,477円
間接経費 23,399,000円
合計 200,339,694円

備考

備考
早稲田大学の委託先2機関で自己資金を合計340,384円使用し、1機関で未使用額690円が発生し、千円未満切り捨てのルールにより1000円返納するために310円自己資金を入れたため差異が生じました。

公開日・更新日

公開日
2022-03-02
更新日
-