文献情報
文献番号
202003009A
報告書区分
総括
研究課題名
新薬創出を加速する症例データベースの構築・拡充/創薬ターゲット推定アルゴリズムの開発
課題番号
20AC5001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
夏目 やよい(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 AI健康・医薬研究センター バイオインフォマティクスプロジェクト)
研究分担者(所属機関)
- 小倉 高志(神奈川県立循環器呼吸器病センター呼吸器内科)
- 高村 大也(国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター)
- 西村 紳一郎(北海道大学 大学院先端生命科学研究院)
- 浜本 隆二(国立がん研究センター研究所)
- 西岡 安彦(徳島大学大学院医歯薬学研究部)
- 奥野 恭史(国立大学法人 京都大学 薬学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
394,773,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
医薬品開発において、近年国内外を問わず創薬ターゲットの枯渇が問題となっている。現在残されているのは高難易度の創薬ターゲットのみであるがために、新薬の研究開発には多額の費用が必要となっており、これが高薬価、ひいては医療費の高騰の要因となっている。
更に、臨床試験段階で期待していた薬効が得られず開発が中断する例が増えていることも問題点として挙げられる。特に医薬品開発の70〜80%がPhase2で中止となっており、この約60%が、薬効が得られなかったことが原因との報告がある。つまり、「動物では効くが、ヒトでは効かなかった」という事案が多発している。これは現在の創薬研究開発スキームの限界であると考えられる。
このような現状を打開する解決策として、人工知能(AI; Artificial intelligence)が注目されている。AIのパフォーマンスと可能性に創薬・医療・ヘルスケア分野が大きな期待を寄せており、今後国際競争が激化することが必至である。
これらの現状を背景に、本事業では、「創薬ターゲットの枯渇問題」を克服すべく、動物からではなくヒトの情報から創薬ターゲット分子を探索するAIの開発実装を目的とする。つまり、臨床情報(=電子カルテを始めとする診療情報+オミックスデータ)を収集・利用して創薬ターゲットを探索するAI手法の開発をおこなう。本事業では、対象疾患として難病指定のIPF(特発性肺線維症)を含む間質性肺炎及び部位別がん死亡者数1位である肺がんを選択し、これらの臨床情報収集とそれを支援する基盤構築、異種かつ大量のデータを統合して創薬ターゲット候補となる生体分子群を自動的に抽出するAI手法の開発を行う。また、本事業で作成されるIPF/肺がんの疾患統合データベース、機能分子を特定するためのAI及び知識ベース等を多くの研究者等に利用してもらうための環境(オープンプラットフォーム)の構築を目指す。
更に、臨床試験段階で期待していた薬効が得られず開発が中断する例が増えていることも問題点として挙げられる。特に医薬品開発の70〜80%がPhase2で中止となっており、この約60%が、薬効が得られなかったことが原因との報告がある。つまり、「動物では効くが、ヒトでは効かなかった」という事案が多発している。これは現在の創薬研究開発スキームの限界であると考えられる。
このような現状を打開する解決策として、人工知能(AI; Artificial intelligence)が注目されている。AIのパフォーマンスと可能性に創薬・医療・ヘルスケア分野が大きな期待を寄せており、今後国際競争が激化することが必至である。
これらの現状を背景に、本事業では、「創薬ターゲットの枯渇問題」を克服すべく、動物からではなくヒトの情報から創薬ターゲット分子を探索するAIの開発実装を目的とする。つまり、臨床情報(=電子カルテを始めとする診療情報+オミックスデータ)を収集・利用して創薬ターゲットを探索するAI手法の開発をおこなう。本事業では、対象疾患として難病指定のIPF(特発性肺線維症)を含む間質性肺炎及び部位別がん死亡者数1位である肺がんを選択し、これらの臨床情報収集とそれを支援する基盤構築、異種かつ大量のデータを統合して創薬ターゲット候補となる生体分子群を自動的に抽出するAI手法の開発を行う。また、本事業で作成されるIPF/肺がんの疾患統合データベース、機能分子を特定するためのAI及び知識ベース等を多くの研究者等に利用してもらうための環境(オープンプラットフォーム)の構築を目指す。
研究方法
肺がん手術検体及びバイオプシー検体のオミックス解析を外部委託により行うとともに、大阪大学医学部呼吸器・免疫内科バイオバンク、大阪大学医学部附属病院医療情報部大阪大学病院バイオバンク及び神奈川循環器呼吸器疾患センターでIPFを含む間質性肺炎患者の臨床情報を収集した。
本事業において理研AIPとの共同研究により開発された患者層別化AIを用いて、これまでに収集した大阪大学コホートの臨床情報(602件の血清中エクソソーム プロテオームデータ及びそれと紐づく診療情報)のデータ解析を実施した。出力結果の分析にはTargetMineやIPA(QIAGEN社)を用いた。見出されたタンパク質の発現は、肺組織のIHC染色により確認した。見出されたパスウェイの活性化やタンパク質の疾患への関与を確認するため、メタボローム解析とEMT試験系のプロトコルを検討した。
本事業において理研AIPとの共同研究により開発された患者層別化AIを用いて、これまでに収集した大阪大学コホートの臨床情報(602件の血清中エクソソーム プロテオームデータ及びそれと紐づく診療情報)のデータ解析を実施した。出力結果の分析にはTargetMineやIPA(QIAGEN社)を用いた。見出されたタンパク質の発現は、肺組織のIHC染色により確認した。見出されたパスウェイの活性化やタンパク質の疾患への関与を確認するため、メタボローム解析とEMT試験系のプロトコルを検討した。
結果と考察
当該年度の成果は、分担研究者との共同研究に関連するものを除くと大きく分けて3つである。すなわち、①大阪大学コホートの臨床情報解析によるIPF創薬標的候補の提示、②神奈川県立循環器呼吸器病センターコホートの臨床情報収集継続による疾患DB拡充、③OPFプロトタイプ構築と運用準備開始である。
①では、これまでに収集した臨床情報、開発した患者層別化AI、結果解釈を支援するツールの拡充の全てを結集し、IPFの特徴(診療情報の項目)と連関のあるタンパク質及びその結果から導き出されるIPF創薬標的候補を見出すことに成功した。この結果は、IPFのように分子レベルで疾患発症・重症化メカニズムの理解が進んでいない難病であっても臨床情報を収集し適切なAIによる解析を行うことで創薬標的探索が可能であることを示唆する重要な成果である。本解析によって見出されたタンパク質・IPF創薬標的候補について、IPFとの関連や創薬標的としての有望性をより詳細に検討するほか、その結果をAI開発にフィードバックすることで更なる精度向上を目指す。
また、②では世界でも稀なIPFマルチオミックスデータベースの構築に向けて着実に症例数を追加しており、本データから創薬標的探索や発症メカニズム推定を行うAI開発を並行して遂行していく。
③ではシステム基盤のプロトタイプ構築が完了したことから、今後は本基盤に搭載するデータやAIの加工(データの匿名加工やAIのガジェット化)を本格化し、令和3年度末国内運用開始を目指す。
①では、これまでに収集した臨床情報、開発した患者層別化AI、結果解釈を支援するツールの拡充の全てを結集し、IPFの特徴(診療情報の項目)と連関のあるタンパク質及びその結果から導き出されるIPF創薬標的候補を見出すことに成功した。この結果は、IPFのように分子レベルで疾患発症・重症化メカニズムの理解が進んでいない難病であっても臨床情報を収集し適切なAIによる解析を行うことで創薬標的探索が可能であることを示唆する重要な成果である。本解析によって見出されたタンパク質・IPF創薬標的候補について、IPFとの関連や創薬標的としての有望性をより詳細に検討するほか、その結果をAI開発にフィードバックすることで更なる精度向上を目指す。
また、②では世界でも稀なIPFマルチオミックスデータベースの構築に向けて着実に症例数を追加しており、本データから創薬標的探索や発症メカニズム推定を行うAI開発を並行して遂行していく。
③ではシステム基盤のプロトタイプ構築が完了したことから、今後は本基盤に搭載するデータやAIの加工(データの匿名加工やAIのガジェット化)を本格化し、令和3年度末国内運用開始を目指す。
結論
コロナ禍によりIPF肺組織収集症例数を下方修正したものの、当該年度研究計画の達成状況は概ね良好である。AIによる臨床情報の解析により、創薬標的候補を提示するに至った。本事業の成果であるデータベース、AIを広く共有するためのプラットフォームのプロトタイプが完成し、国内運用開始に向けた情報収集も予定通り完了した。
公開日・更新日
公開日
2021-07-06
更新日
-