リンケージデータだからこそ示すことのできる要介護発生前から死亡までの軌跡—要介護発生の背景、医療介護費用に着目して

文献情報

文献番号
202002001A
報告書区分
総括
研究課題名
リンケージデータだからこそ示すことのできる要介護発生前から死亡までの軌跡—要介護発生の背景、医療介護費用に着目して
課題番号
H30-統計-一般-004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 智子(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
研究分担者(所属機関)
  • 田宮 菜奈子(国立大学法人筑波大学 医学医療系 / ヘルスサービス開発研究センター)
  • 森 隆浩(筑波大学医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(統計情報総合研究)
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
1,395,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
公衆衛生におけるデータとデータとをリンケージ(突合、結合)したリンケージデータの有効性を議論するため、次の目的のもと研究を行った。目的1:リンケージデータを用いた研究や行政の動向をレビューする(1-1海外における高齢者を対象とした調査データにおけるリンケージ利用の実態、1-2韓国における公的データリンケージ活用の実態)。目的2:リンケージデータを用いた研究のユースケースを示す(2-1要介護認定前の医療サービスの利用実態、2-2死亡前1年間におけるサービス費用)。
研究方法
1-1 高齢者ヘルス領域におけるリンケージデータを用いた研究を検索し、検索にヒットした文献のうち、主要なリンケージデータソースを抽出し、そのデータ提供の方法や研究実績についてレビューした。
1-2 韓国における公的データリンケージ活用の実態について、韓国の公衆衛生領域における公的ビッグデータ管理の仕組み、データリンケージの方法、関連する研究実績の紹介、研究における限界等の観点から情報収集した。
2-1 A市の医療保険データと介護保険データとの個人単位でのリンケージデータ(2012~2016年)を用い、認定群と対照群において、認定時期(対照群においてはマッチングされた時期)の前1年間における医療サービスの利用状況を比較した。
2-2 B市の医療保険データと介護保険データとの個人単位での連結データ、認定調査データおよび死亡/転出データ(2012~2014年)を用いた。死亡月から12か月分の医療保険請求額(ただし、医科請求分のみ)、介護保険請求額、および医療と介護の合計額を算出し、性別、死亡時年齢および死亡時要介護度別にみた。
結果と考察
1-1 検索の結果、254件(2021年2月時点)が該当し、そのうち、リンケージデータに関する文献は96件であった。SEER-Medicare linked database(米国)、Clinical Practice Research Datalink(英国)、などの7種類のデータベースが見いだされた。データの利用料については、4件が有料であった。データベース提供事業の運営組織は様々であり、国立研究所や大学内の特別部局、あるいはNPO組織などによるものであった。
1-2 韓国ではNHIS(National Health Insurance Service)のレセプトデータを中心にその他のデータともリンケージして、研究目的にデータ提供しており、その規模は全被保険者をカバーする悉皆データとなっていた。
2-1 本分析においては、認定群1,342人、対照群1,342人の計2,684人が対象であった。ポアソン回帰による分析の結果、要介護認定された者は通院日数が多い傾向がみられた。
2-2 最終分析対象は3,468人であった。介護保険請求額では、死亡時年齢が高いほど、女性、そして死亡時要介護度が重度であるほど、請求額が高くなる傾向がみられた。一方で、医療保険請求額では、死亡時年齢が高いほど、男性、死亡時要介護度が重度であるほど、請求額が低くなる傾向がみられた。
考察として、1-1 それぞれのデータベース管理およびリンケージ処理は、半公的あるいは第三セクター的な位置付けの専門組織によって行われており、多くの案件を迅速に処理することを可能にしているとみられた。
1-2 韓国でのデータ提供においては、ランダムサンプリングに基づく省コストなデータ提供を行っており、こうした提供方法や運営体制は、本邦における公的データの研究目的利用およびリンケージ活用の促進に向けた有効な参考になると考えられた。
2-1 本分析では、初めて初回要介護認定前の医療サービスの利用状況を記述した。医療介護レセプトデータのリンケージデータがあるからこそ可能な分析であり、初回要介護認定に対する要因を医療サービス面から明らかにすることが期待できると考える。
2-2 本分析の結果、介護保険請求額については、死亡時要介護度を含む重回帰分析により年齢が高くなるほど介護保険請求額が高くなる一方で、医療保険請求額は低くなるといった、サービス横断的な傾向をみることができた。
結論
レビュー結果から、本邦のリンケージデータ活用あるいはデータリンケージそのものの促進においては、官庁横断的で専門的な運営体制が必要であり、その運営においては、データマネージに長けた人材と設備、資金面における安定的なバックアップも重要であると考えられた。またユースケースからは、各自治体が保有する医療介護データおよび住民基本台帳データ(死亡/転出データ)をリンケージ活用することの有用性が示唆され、各自治体が独自にリンケージデータ分析を行い、地域に合った政策を検討する上で欠かせない方法であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2021-10-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-10-20
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202002001B
報告書区分
総合
研究課題名
リンケージデータだからこそ示すことのできる要介護発生前から死亡までの軌跡—要介護発生の背景、医療介護費用に着目して
課題番号
H30-統計-一般-004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 智子(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
研究分担者(所属機関)
  • 田宮 菜奈子(国立大学法人筑波大学 医学医療系 / ヘルスサービス開発研究センター)
  • 森 隆浩(筑波大学医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(統計情報総合研究)
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、リンケージデータを用いた海外の研究のレビューと、リンケージデータを用いた研究のユースケースを示すことで、リンケージデータの今後の利活用に向けた提言を目指した。そのための研究として令和元年度および令和2年度の2年間において、次のレビュー研究4課題、ユースケース研究4課題を行った。レビュー1:海外における公的死亡データ研究目的利用の実態―利用方法・リンケージ可能性・研究実績、レビュー2:医学主要誌におけるリンケージデータを用いた研究の動向―JAMA・NEJM・BMJ・LANCETの2019年出版分のレビューから、レビュー3:高齢者ヘルス領域における海外データリンケージの状況、レビュー4:韓国の公衆衛生分野における公的データリンケージの状況、ユースケース1:リンケージデータによる介護予防サービス利用の予防効果の検討、ユースケース2:リンケージデータによる入院中初回要介護認定者の特定、ユースケース3:要介護認定前の医療サービスの利用実態、ユースケース4:死亡前1年間におけるサービス費用
研究方法
レビューにおいては、文献データベースからリンケージデータを用いた研究論文を検索し、またその論文に基づいて使用されたリンケージデータの提供方法等の詳細を調べた。ユースケースにおいては、地方自治体の行政データを用いた。データは、①後期高齢者医療保険、②介護保険のレセプトデータ、③要介護認定のための認定調査、④住民データ、④介護保険料についての行政データを用いて分析した。
結果と考察
レビューから、海外8か国では公的な死亡データの研究目的利用を可能にしており(英国は部分的)、出産、小児から高齢者といったあらゆるライフステージの対象について分析を行っていた。また大規模リンケージデータとして、SEER-Medicare linked database(米国)などの7種類のデータベースが見いだされ、その提供主体は国立研究所や大学内の特別部局、あるいはNPO組織など様々あった。韓国ではNHIS(National Health Insurance Service)のレセプトデータを中心にその他のデータともリンケージして、研究目的にデータ提供しており、様々な観点から研究利用されていた。ユースケースでは、医療と介護のリンケージデータを用いたことで、介護予防サービス利用は、85歳以上かつ要支援1という限定された対象においては、有意な予防効果を示すことがわかり、また要介護認定された者は通院日数が多い傾向がみられることがわかった。
レビューに基づく考察として、公的リンケージデータの持つ研究上の利益が考えられた。広く調査された公的データを用いることは、ほぼ全国民の死亡を把握できるという点から、悉皆性のある研究を可能にする。悉皆性のある研究では、選択バイアスをほぼなくすことができるという、疫学上、大変重要な利点を得ることができ、疫学研究で議論されやすい結果の代表性や一般化可能性といった課題をデータの特性によって解消することができると考えられた。公的リンケージデータの整備方法として、海外では個人番号を使用したデータリンケージが行われており、個人番号が適切に全国民に付与されているかという個人番号の整備状況にも大きく関係していた。また、世界有数のデータベースのリンケージ事例では、それぞれのデータベース管理およびリンケージ処理は、半公的あるいは第三セクター的な位置付けの専門組織によって行われていた。こうした運営方法は、我が国のように各官庁の既存の組織内の限られたソースの中で管理されていることに比較して、多くの案件を迅速に処理することを可能にしているとみられた。また、データマネージに長けた人材と設備が不可欠であり、資金面における安定的なバックアップも重要であると考えられた。ユースケースからは、自治体リンケージデータの有用性と限界が考察された。行政データを個人間でリンケージして、扱うことのできる変数を多様にすることは、結果の強固性につながることであり、リンケージデータ研究の強みであると言える一方で、自治体データにおける個人特定は、自治体内で付与された個人識別番号(住民基本台帳データに基づく番号)によって行われ、自治体の転出・転入に伴って番号が変更されると、同一個人としての識別ができなくなるという限界が見いだされた。
結論
我が国のデータリンケージにおいては、官庁横断的で専門的な運営体制、データマネージに長けた人材と設備が必要であり、また、資金面における安定的なバックアップも重要であると考えられた。またユースケースからは、各自治体が保有する複数のデータをリンケージ活用することの有用性が示唆され、各自治体が独自にリンケージデータ分析を行い、地域に合った政策を検討する上で欠かせない方法であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2021-10-20
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202002001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の結果、我が国のデータリンケージにおいては、官庁横断的で専門的な運営体制、データマネージに長けた人材と設備が必要であり、また、資金面における安定的なバックアップも重要であると考えられた。またユースケースからは、各自治体が保有する複数のデータをリンケージ活用することの有用性が示唆され、各自治体が独自にリンケージデータ分析を行い、地域に合った政策を検討する上で欠かせない方法であると考えられた。
臨床的観点からの成果
本研究では、自治体が所有する公的データのリンケージデータの有効性を議論すべく、4件のユースケース研究を行ったことで、行政データを個人間でリンケージして、扱うことのできる変数を多様にすることは、結果の強固性につながることであり、リンケージデータ研究の強みであることがわかった。介護保険と医療保険は、特に介護が必要になった後には互いに補完するような形になっていると言え、介護保険データと医療保険データのリンケージ使用は、生涯のヘルスケアを検証する上では、欠かせない方法であると考えられた。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tomoko Ito, Takahiro Mori, Hideto Takahashi, et al.
Prevention services via public long-term care insurance can be effective among a specific group of older adults in Japan
BMC Health Services Research  (2021)

公開日・更新日

公開日
2021-10-20
更新日
2023-07-04

収支報告書

文献番号
202002001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,800,000円
(2)補助金確定額
1,605,000円
差引額 [(1)-(2)]
195,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,007,715円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 192,595円
間接経費 405,000円
合計 1,605,310円

備考

備考
2020年度においては、感染症拡大防止のため、業務上の制限が生じ、支出計画に変更が生じたため。

公開日・更新日

公開日
2021-10-20
更新日
-