小児期の大脳白質病変の病態解明に関する研究

文献情報

文献番号
200730037A
報告書区分
総括
研究課題名
小児期の大脳白質病変の病態解明に関する研究
課題番号
H18-こころ-一般-015
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
井上 健(国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 赤澤 智宏(東京医科歯科大学 保健衛生学科)
  • 小坂 仁(神奈川県立こども医療センター 神経内科)
  • 出口 貴美子(出口小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
当該研究は、高次脳機能障害に関連する大脳白質病変の病態理解と治療法開発のために、小児期の遺伝性髄鞘形成不全疾患および周産期の虚血性白質病変の二つに焦点を絞り、その病態を臨床・分子遺伝・神経病理学的な解析により明らかにすることを目的とする。
その理由は、遺伝性髄鞘形成不全の病態の理解は、オリゴデンドロサイトを標的とした白質の髄鞘保護による治療法の開発に重要であること、また周産期の虚血性白質病変は、特に超早産児で就学時に高率に学習障害などの高次脳機能障害が認められるため、その原因の解明および有効な予防と治療法の開発が急務であるためである。
研究方法
(1)遺伝性白質形成不全症ペリツェウス・メルツバッハ病(PMD)の小胞体(ER)ストレス性細胞死によるオリゴデンドロサイト傷害モデルに対する分子シャペロン治療の有効性の検討
(2) SOX10異常による遺伝性白質変性症PCWHの分子病態の解明およびSOX10翻訳後修飾の制御とPCWHの病態との関連性の検討
(3) 早産児の大脳白質病変に伴う神経前駆細胞の傷害がその後の神経細胞とグリア細胞の分化・遊走に及ぼす影響について、ヒト、神経幹細胞培養およびモデル動物を用いての検討
結果と考察
(1)生体治療モデルであるPLP1変異マウスmsdを用いた解析で、ER内Ca ATPase阻害作用を持つ天然化合物クルクミンの投与による寿命の延長などの治療的効果を見出した。
(2)主任研究者らが見出したSOX10変異による遺伝性白質変性症PCWHの分子病態を明らかにした。さらにSOX10の活性調節機構に重要なユビキチン化やSUMO化などの翻訳後修飾が、その病態に関与することが示唆された。
(3)白質病変を伴う超早産児脳検体約40例を用いた神経病理学的検討により、脳室周囲の神経幹細胞の傷害の程度とその機序について明らかにし、さらに長期生存例での観察により大脳皮質や白質の神経細胞の分化の異常を見出した。
結論
小児期の遺伝性髄鞘形成不全症候群と早産児の虚血性大脳白質傷害という原因の異なる二つの大脳白質病変を伴う疾患群を対象とし、治療法の開発を目指した大脳白質病変の病態の解明を進めた。
これまでほぼ当初の計画通りに研究成果を得ており、今後さらに大脳白質病変の病態により迫る知見が得られる事が期待される。長期的には、小児期の疾患のみならず成人や老年期における大脳白質病変の病態の理解に大きく貢献することが予想され、白質病変に伴う高次脳機能障害の予防や治療の開発に向けた基礎研究として、国民の健康維持に資するものと思われ、厚生科学的見地から重要性および緊急性が高い。

公開日・更新日

公開日
2008-03-31
更新日
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