磁気共鳴画像及び遺伝子解析による統合失調症の診断法の開発

文献情報

文献番号
200730006A
報告書区分
総括
研究課題名
磁気共鳴画像及び遺伝子解析による統合失調症の診断法の開発
課題番号
H17-こころ-一般-007
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
大西 隆(国立精神・神経センター精神保健研究所 心身医学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本 亮太(大阪大学大学院医学系研究科附属子どものこころの分子統御機構研究センター疾患関連分子解析部門)
  • 小牧 元(国立精神・神経センター・精神保健研究所心身医学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
磁気共鳴画像による多角的計測を行い、新しい方法論で解析し中間表現型としての脳局所レベル及びシステムレベルでの異常を明らかにし、それら中間表現型と脆弱性遺伝子多型との関連、認知機能異常との関連を明らかにし統合失調症の生物学的マーカーによる診断法を開発することを目標とした。
研究方法
MRIによる脳の構造学的な異常、神経線維走行の異常及び、脳機能の異常(fMRI計測による)を解析し中間表現型としての脳局所レベル及びシステムレベルでの異常を明らかにし、それら中間表現型の異常と脆弱性遺伝子多型との関連、行動レベルでの異常の原因となる認知機能異常との関連を検討した。さらにそれらの異常の基盤となる脆弱性遺伝子の及ぼすメカニズムを動物モデル、cell biologyの手法にて検討した。
結果と考察
400名分のMRIおよびゲノムのデータを収集し以下の結果を得た。統合失調症関連遺伝子に関して、1) COMT 遺伝子Val158Met多型が、統合失調症の脳形態変化に強い影響を及ぼすこと2) BDNF遺伝子のVal66Met多型が脳の加齢性変化に影響をすること、またMet allele の濃度依存的に記憶課題遂行中の海馬の神経活動が低下することを明らかにした。3)DISC1遺伝子Ser704Cys多型とうつ病、前頭葉脳構造異常と関連、その機序としてAktやERKシグナルの関与を解明。これらの結果は、統合失調症関連遺伝子のgenotype effectが脳機能、構造に影響を与え、脆弱性に寄与していることを示唆していると考えられた。MRIによる診断マーカーとしては、1)脳形態 2)白質微細構造異常が有用であると考えられた。脳形態に関して、ロジスティック回帰モデルを用いて健常者との弁別能を算出した83%の正診率を得た。更に遺伝子解析との組み合わせにおいて、COMT遺伝子のVal158Met多型が統合失調症脳の形態異常に強い変化を及ぼすことが明らかになったため、この多型を考慮して弁別能を算出した結果、90%の正診率を得た。今年度、新たにDTIによる淡蒼球の微細構造異常が統合失調症で存在することが明らかになったため、診断パラメータとして加えたところ93%の正診率を得た。
結論
中間表現系を用いた統合失調症関連遺伝子の研究は、病態解明に有用な方法である。また多型を考慮することによるMRIを用いた診断能の向上を認め、テーラーメード診断の有用性が示された。今後、多くの施設で本研究で得られた成果が応用できるように、MRI画像の補正法開発、共有化が課題である。

公開日・更新日

公開日
2008-03-27
更新日
-

文献情報

文献番号
200730006B
報告書区分
総合
研究課題名
磁気共鳴画像及び遺伝子解析による統合失調症の診断法の開発
課題番号
H17-こころ-一般-007
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
大西 隆(国立精神・神経センター精神保健研究所 心身医学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本 亮太(大阪大学大学院医学系研究科附属子どものこころの分子統御機構研究センター疾患関連分子解析部門)
  • 小牧 元(国立精神・神経センター・精神保健研究所心身医学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
磁気共鳴画像による多角的計測を行い、新しい方法論で解析し中間表現型としての脳局所レベル及びシステムレベルでの異常を明らかにし、それら中間表現型と脆弱性遺伝子多型との関連、認知機能異常との関連を明らかにすることにより、統合失調症の生物学的マーカーによる診断法を開発することを目標とした
研究方法
MRIによる脳の構造学的な異常、神経線維走行の異常及び、脳機能の異常(fMRI計測による)を解析し中間表現型としての脳局所レベル及びシステムレベルでの異常を明らかにし、それら中間表現型の異常と脆弱性遺伝子多型との関連、行動レベルでの異常の原因となる認知機能異常との関連を検討した。さらにそれらの異常の基盤となる脆弱性遺伝子の及ぼすメカニズムを動物モデル、cell biologyの手法にて検討した。
結果と考察
統合失調症関連遺伝子に関して、1) COMT 遺伝子Val158Met多型が、統合失調症の脳形態変化に強い影響を及ぼすこと2) BDNF遺伝子のVal66Met多型が脳の加齢性変化に影響をすること、またMet allele の濃度依存的に記憶課題遂行中の海馬の神経活動が低下することを明らかにした。3)DISC1遺伝子Ser704Cys多型とうつ病、前頭葉脳構造異常と関連、その機序としてAktやERKシグナルの関与を解明。これらの結果は、統合失調症関連遺伝子のgenotype effectが脳機能、構造に影響を与え、脆弱性に寄与していることを示唆していると考えられた。MRIによる診断マーカーとしては、1)脳形態 2)白質微細構造異常が有用であると考えられた。脳形態に関して、ロジスティック回帰モデルを用いて健常者との弁別能を算出した83%の正診率を得た。更に遺伝子解析との組み合わせにおいて、COMT遺伝子のVal158Met多型が統合失調症脳の形態異常に強い変化を及ぼすことが明らかになったため、この多型を考慮して弁別能を算出した結果、90%の正診率を得た。さらにDTIによる淡蒼球の微細構造異常が統合失調症で存在することが明らかになったため、診断パラメータとして加えたところ93%の正診率を得た
結論
中間表現系を用いた統合失調症関連遺伝子の研究は、病態解明に有用な方法である。また多型を考慮することによるMRIを用いた診断能の向上を認め、テーラーメード診断の有用性が示された。

公開日・更新日

公開日
2008-03-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200730006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究期間を通じてMRIと遺伝子解析に関する英文原著論文7編, その他英文原著関連論文32編と一定の成果を挙げることができた。特に日本人における統合失調症関連遺伝子とMRI、神経心理学的評価など中間表現型を明らかにした意義は大きいと考える。
臨床的観点からの成果
本研究のゴールである中間表現型を用いた診断法の開発に関して、COMT遺伝子とMRIの灰白質変化、基底核微細構造変化をマーカーとして93%の正診率を得ることができ、目標を達成できたと考える。本方法の普遍化についてMRI画像の補正法も行ったが未完成であり、今後の課題である。
ガイドライン等の開発
ガイドライン等の開発は行っていない。
その他行政的観点からの成果
病態研究であるが、統合失調症の治療法の開発には生物学的指標による診断法の開発は重要な課題である。本研究では研究目標を達成し、その結果は今後の厚生行政に寄与可能であると
考える。
その他のインパクト
特記事項なし

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
39件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
68件
学会発表(国際学会等)
25件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mori T, Ohnishi T, Hashimoto R,et al
Progressive changes of white matter integrity in schizophrenia revealed by diffusion tensor imaging
Psychiatry Research: Neuroimaging , 154 (2) , 133-145  (2007)
原著論文2
Hashimoto R, Noguchi H, Hori H, Ohi K et al
A possible association between the Val158Met polymorphism of the catechol-O-methyl transferase gene and the personality trait of harm avoidance in Japanese healthy subjects
Neurosci lett , 428 (1) , 17-20  (2007)
原著論文3
Hashimoto R, Numakawa T, Ohnishi T,et al
Impact of the DISC1 Ser704Cys polymorphism on risk for major depression, brain morphology, and ERK signaling
Hum Mol Genet , 15 , 3024-3033  (2006)
原著論文4
Nemoto K, Ohnishi T, Mori T, Moriguchi et al.
The Val66Met polymorphism of the BDNF gene affects age-related brain morphology
Neurosci Lett , 397 (1) , 25-29  (2006)
原著論文5
Okada T, Hashimoto R, Numakawa T,et al.
A complex polymorphic region in the brain-derived neurotrophic factor (BDNF) gene confers susceptibility to bipolar disorder and affects transcriptional activity
Mol Psychiatry , 11 , 695-703  (2006)
原著論文6
Hashimoto R, Hashimoto H, Shintani N, et al.
Pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide is associated with schizophrenia.
Mol Psychiatry , 12 , 1026-1032  (2007)
原著論文7
Moriguchi Y, Ohnishi T, Lane RD, et al.
Impaired self-awareness and theory of mind: an fMRI study of mentalizing in alexithymia
NeuroImage , 32 (3) , 1472-1482  (2006)
原著論文8
Hashimoto R, Okada T, Kato T, et al
The breakpoint cluster region (BCR) gene on chromosome 22q11 is associated with bipolar disorder
Biological Psychiatry , 57 , 1097-1102  (2005)
原著論文9
Ohnishi T, Hashimoto R, Mori T, et al
The association between the Val158Met polymorphism of the Catechol-O-methyl transferase gene and morphological abnormalities of the brain in chronic schizophrenia
Brain , 129 , 399-410  (2006)
原著論文10
Hashimoto R, Mori T, Nemoto K, et al.
Abnormal microstructures of the basal ganglia in schizophrenia revealed by diffusion tensor imaging.
The World Journal of Biological Psychiatry  (2008)
原著論文11
Hori H, Noguchi H, Hashimoto R et al.
IQ decline and memory impairment in Japanese patients with chronic schizophrenia
Psychiatry Res , 158 , 251-255  (2008)
原著論文12
Hattori S, Hashimoto R, Miyakawa T, et al.
Enriched environments influence depression-related behavior in adult mice and the survival of newborn cells in their hippocampi
Behavioural Brain Research , 180 (1) , 69-76  (2007)
原著論文13
Numata S, Ueno S, Iga J,et al
Gene expression in the peripheral leukocytes and association analysis of PDLIM5 gene in schizophrenia
Neurosci Lett , 415 , 28-33  (2007)
原著論文14
Tanaka K, Shintani N, Hashimoto H,et al
Psychostimulant-induced attenuation of hyperactivity and prepulse inhibition deficits in Adcyap1-deficient mice.
J Neurosci , 26 (19) , 5091-5097  (2007)
原著論文15
Masui T, Hashimoto R, Kusumi I, et al
A possible association between -116C/G single nucleotide polymorphism of XBP1 gene and lithium prophylaxis in bipolar disorder.
Int J Neuropsychopharmacol , 9 (1) , 83-88  (2006)
原著論文16
Masui T, Hashimoto R, Kusumi I, et al
Lithium response and Val66Met polymorphism of the BDNF gene in Japanese patients with bipolar disorder.
Psychiatr Genet , 16 (2) , 49-50  (2006)
原著論文17
Murotani T, Ishizuka T, Hattori S,et al.
A. High dopamine turnover in the brains of Sandy mice.
Neurosci Lett , 421 (1) , 47-51  (2007)
原著論文18
Kimura R, Kamino K, Yamamoto M et al.
he DYRK1A gene, encoded in chromosome 21 Down syndrome critical region, bridges between {beta}-amyloid production and tau phosphorylation in Alzheimer disease
Hum Mol Genet , 16 , 15-23  (2007)
原著論文19
Hong K, Sugawara Y, Hasegawa H,
A new gain-of-function allele in chimpanzee tryptophan hydroxylase 2 and the comparison of its enzyme activity with that in humans and rats
Neurosci Lett , 412 , 195-200  (2007)
原著論文20
Hori H, Noguchi H, Hashimoto R, et al.
Antipsychotic medication and cognitive function in schizophrenia.
Schizophr Res , 86 , 138-146  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-