呼気凝縮液を用いた気管支喘息の気道炎症評価法の確立と臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
200729004A
報告書区分
総括
研究課題名
呼気凝縮液を用いた気管支喘息の気道炎症評価法の確立と臨床応用に関する研究
課題番号
H17-免疫-一般-004
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
一ノ瀬 正和(和歌山県立医科大学医学部内科学第三講座)
研究分担者(所属機関)
  • 秋山 一男(独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究センターアレルギー呼吸器病学)
  • 長瀬 隆英(東京大学医学部呼吸器内科)
  • 大田 健(帝京大学医学部内科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
気道炎症は気管支喘息の最も重要な病態で主たる治療標的であり、喘息管理の向上のためには非侵襲的な気道炎症評価法を確立する必要がある。これまでの当該研究で呼気凝縮液分析は安全かつ妥当な炎症評価法であり、呼気凝縮液中の評価分子と生理学的パラメータの関連を検討し、喘息病態の評価における有用性を示した。平成19年度の研究では、呼気凝縮液を用いた気道炎症評価法の臨床応用に向け、1) ステロイド治療による炎症物質発現の変化と喘息病態との関連、2)呼気凝縮液中の評価分子の定量化、に関する検討を行った。
研究方法
8週間の吸入ステロイド療法前後に呼気凝縮液を採取し、炎症関連物質の測定を行い、治療による呼気凝縮液中の炎症物質発現の変化について検討するとともに、閉塞性障害や気道過敏性の変化との関連について検討した。さらに呼気凝縮液中のサイトカイン、ケモカイン、成長因子、脂質メディエーターの定量測定を行ない、定量可能な評価分子と喘息の重症度や喀痰中好酸球数・好中球数、呼気一酸化窒素濃度、気道過敏性、閉塞性障害の程度との関連性について検討した。
結果と考察
呼気凝縮液を用いステロイドにより抑制できる分子と抵抗性を示す分子とを弁別することが可能であり、TNF-α、TGF-β、IP-10は治療抵抗性を示した。一方、IL-4とRANTES発現の抑制は気流制限および気道反応性の改善と相関することを明らかにした。呼気凝縮液を用いIP-10、MCP-1、MIG、IL-8、RANTES、CysLTC4/D4/E4、LTB4、IGF-1、FGF、PDGF、VEGFの11種の分子が定量可能であり、呼気凝縮液RANTES、PDGF、VEGF濃度は気流制限の程度と相関を示した。またLTB4濃度は軽症喘息と比べ重症喘息において高値であり、喀痰中の好中球が多い症例ほどLTB4濃度が高値となる傾向を示した。
結論
呼気凝縮液分析は安全かつ妥当な気道炎症評価法であり、呼気凝縮液中の種々の炎症物質が定量可能で、喘息病態の評価における有用性が明らかにされた。これらの定量可能な評価分子は、喘息のモニタリングや病態解明におけるマーカーとして有望である。定量可能な評価分子が同定されたことから、今後は一般臨床応用に向けて呼気凝縮液を用いた炎症モニタリングシステムを確立し、喘息治療における気道炎症の管理目標を明確化していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2008-04-04
更新日
-

文献情報

文献番号
200729004B
報告書区分
総合
研究課題名
呼気凝縮液を用いた気管支喘息の気道炎症評価法の確立と臨床応用に関する研究
課題番号
H17-免疫-一般-004
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
一ノ瀬 正和(和歌山県立医科大学医学部内科学第三講座)
研究分担者(所属機関)
  • 秋山 一男(独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究センターアレルギー呼吸器病学)
  • 長瀬 隆英(東京大学医学部呼吸器内科)
  • 大田 健(帝京大学医学部内科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
気道炎症の簡便な評価法の確立とその臨床応用は喘息管理の向上に不可欠である。非侵襲的に採取が可能な呼気凝縮液を用いた気道炎症評価の妥当性や有用性に関する基礎的検討を行ない、一般臨床応用に向け炎症物質を定量評価する方法として確立することを目的とした。炎症評価法としての有用性を確立するために、呼気凝縮液を用いて評価可能な炎症物質と閉塞性障害や気道過敏性など喘息病態との関連性について検討した。さらに臨床応用に向け呼気凝縮液を用い定量可能な評価分子を同定した。
研究方法
喘息患者および健常人より採取した呼気凝縮液中の炎症物質を測定し、再現性や唾液混入の影響の有無を検討した。また喘息重症度、閉塞性障害、気道過敏性などの喘息病態と呼気凝縮液中の炎症物質発現の関連について検討し、ステロイド治療に反応および抵抗する分子の同定に応用できるかについても評価した。さらに定量測定が可能な炎症物質を同定し、喘息病態との関連を検討した。
結果と考察
呼気凝縮液を用いた炎症物質の測定は再現性に問題がなく、唾液混入の影響もなく妥当な方法であることが示された。呼気凝縮液において喘息患者の気道で発現が亢進している16種の炎症物質が同定され、このうちRANTESとEotaxinの発現レベルと気流制限の程度、TNF-αとTGF-βの発現レベルと気道反応性の程度が相関することを明らかにした。さらに喘息気道においてステロイド治療により抑制できる分子と抵抗性を示す分子が呼気凝縮液を用い弁別できることを示した。呼気凝縮液を用いIP-10、MCP-1、MIG、IL-8、RANTES、CysLTC4/D4/E4、LTB4、IGF-1、FGF、PDGF、VEGFの11種の分子が定量可能であり、呼気凝縮液RANTES、PDGF、VEGF濃度は気流制限の程度と相関を示した。またLTB4濃度は軽症喘息と比べ重症喘息において高値で、喀痰中の好中球が多い症例ほどLTB4濃度が高値となる傾向を示した。
結論
呼気凝縮液分析は安全かつ妥当な気道炎症評価法であり、呼気凝縮液中の種々の炎症物質が定量可能で、喘息病態の評価における有用性が明らかにされた。定量可能な評価分子が同定されたことから、一般臨床応用に向けて呼気凝縮液を用いた炎症モニタリングシステムを確立し、喘息治療における気道炎症の管理目標を明確化していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2008-04-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200729004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
研究目的の簡便な気道炎症評価法の確立は喘息管理の向上に不可欠である。本研究で呼気凝縮液は非侵襲的に採取が可能で、検体中の炎症物質発現と喘息重症度、閉塞性障害、気道過敏性など喘息病態との関連が認められ、臨床的に有用な気道炎症評価法であることが明らかにされた。成果はJ Allergy Clin Immunol等の雑誌に掲載され、国内外から大きな反響があった。
呼気凝縮液を用い定量可能な評価分子が同定されたことで、本研究が呼気凝縮液検査の臨床応用に向けての端緒となったと考えられる。
臨床的観点からの成果
本研究により、喘息の重要な治療標的である気道炎症を非侵襲的に評価できる方法が確立でき、喘息の病態をより詳細に評価しうる生化学的指標として臨床応用できる可能性が示された。
呼気凝縮液検査は喘息の病態解明や管理向上に貢献でき、喘息診療の進展に果たす意義は大きい。喘息管理の向上は喘息死の減少や患者QOLの改善に加えて喘息医療費の減少など医療経済的にも大きく社会貢献できる。国際的にも、呼気凝縮液検査の喘息管理における臨床応用の報告は少なく、本研究が国際的スタンダードの確立に役立つと考えられる。
ガイドライン等の開発
気管支喘息の管理に関しては日本アレルギー学会が発行している「喘息予防・管理ガイドライン」がある。その中で喘息病態における気道炎症の重要性を強調しているが、本研究でその根拠がより明らかとなった。
その他行政的観点からの成果
本研究で示したように喘息治療による気道炎症の変化は呼吸機能や気道過敏性と良好な相関を示した。気道炎症モニタリングを喘息管理に応用することは医療経済学的効果が高いと考えられ今後の検証が望まれる。
その他のインパクト
 本研究は気道炎症という喘息の本態のモニタリングを臨床上可能にすることを目指したもので、患者と医師が喘息の管理目標を共有できるというインパクトを持つ。

発表件数

原著論文(和文)
10件
原著論文(英文等)
20件
その他論文(和文)
180件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
184件
学会発表(国際学会等)
21件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Komaki Y, Ichinose M, et al.
Cytokine-mediated xanthine oxidase upregulation in chronic obstructive pulmonary disease’s airways.
Pulm Pharm Ther , 18 , 297-302  (2005)
原著論文2
Minakata Y, Ichinose M, et al.
Microvascular hyperpermeability in chronic obstructive pulmonary disease airways.
Thorax , 60 , 882-883  (2005)
原著論文3
Fukuchi Y, Ichinose M, et al.
Clinical Efficacy and Safety of Transdermal Tulobuterol in the Treatment of Stable COPD: An Open-Label Comparison with Inhaled Salmeterol.
Treat Respir Med , 4 , 447-455  (2005)
原著論文4
Yamagata T, Ichinose M, et al.
Angioimmunoblastic lymphadenopathy with dysproteinaemia accompanied by pleural effusion.
Respirology , 10 , 124-127  (2005)
原著論文5
山縣俊之, 一ノ瀬正和
炎症性気道・肺疾患における呼気ガス分析
呼吸 , 24 , 694-699  (2005)
原著論文6
南方良章, 一ノ瀬正和
呼気ガス・呼気凝縮液による閉塞性肺疾患 (COPD・喘息) の評価
Pharma Medica , 23 , 23-27  (2005)
原著論文7
松永和人, 一ノ瀬正和
気管支喘息
呼吸と循環 , 53 , 907-914  (2005)
原著論文8
Yamagata T, Ichinose M
Agents against cytokine synthesis or receptors.
Eur J Pharma , 533 , 289-301  (2006)
原著論文9
Matsunaga K, Ichinose M, et al.
Airway cytokine expression measured by means of protein array in exhaled breath condensate: Correlation with physiologic properties in asthmatic patients.
J Allergy Clin Immunol , 118 , 84-90  (2006)
原著論文10
Matsunaga K, Ichinose M, et al.
Two cases of asthma in handicapped elderly persons in which assisted inhalation therapy was effective.
Allergology International , 55 , 347-351  (2006)
原著論文11
Hirano T, Ichinose M, et al.
Inhibition of reactive nitrogen species production in COPD airways: comparison of inhaled corticosteroid and oral theophylline
Thorax , 61 , 761-766  (2006)
原著論文12
Matsunaga K, Ichinose M, et al.
Importance of assistance by caregivers for inhaled corticosteroid therapy in elderly patients with asthma.
J Am Geriatric Soc , 54 , 1626-1627  (2006)
原著論文13
Yamagata T, Ichinose M
Agents against cytokine synthesis or receptors.
European Journal of Pharmacology , 533 , 289-301  (2006)
原著論文14
Ichikawa T, Ichinose M, et al.
Possible impact of salivary contamination on cytokine analysis in exhaled breath condensate.
Analytical Chemistry Insights , 2 , 85-92  (2007)
原著論文15
Ueshima K, Ichinose M, et al.
The Influence of Free 3-Nitrotyrosine and Saliva on the Quantitative Analysis of Protein-Bound 3-Nitrotyrosine in Sputum.
Analytical Chemistry Insights , 1 , 1-7  (2007)
原著論文16
Yamagata T, Ichinose M, et al.
Overexpression of CD-11b and CXCR1 on Circulating Neutrophils: Its Possible Role in COPD.
Chest , 132 , 890-899  (2007)
原著論文17
Tomaki M, Ichinose M, et al.
Decreased expression of antioxidant enzymes and increased expression of chemokines in COPD lung.
Pulm Pharm Ther , 20 , 596-605  (2007)
原著論文18
Akamatsu K, Ichinose M, et al.
Improvement of pulmonary function and dyspnea by tiotropium in COPD patients using a transdermal β2-agonist.
Pulm Pharm Ther , 20 , 701-701  (2007)
原著論文19
市川朋宏, 一ノ瀬正和
呼気による気道炎症評価法
呼吸器疾患 , 5 , 134-136  (2007)
原著論文20
杉浦久敏, 一ノ瀬正和
気道炎症と気道リモデリング
喘息 , 20 , 27-32  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-