性差を加味した女性健康支援のための科学的根拠の構築と女性外来の確立

文献情報

文献番号
200719008A
報告書区分
総括
研究課題名
性差を加味した女性健康支援のための科学的根拠の構築と女性外来の確立
課題番号
H17-子ども-一般-011
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
天野 恵子(千葉県衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 上野光一(千葉大学・大学院薬学研究院)
  • 太田壽城(国立長寿医療センター)
  • 村島温子(国立成育医療センター)
  • 吉政康直(国立循環器病センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
7,560,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
性差を加味した女性医療、健康支援のための科学的根拠の構築
研究方法
1.女性外来データファイリングネットワークシステムの改善と全国12施設における女性外来受診者の実態調査
2.千葉県において平成15年度から実施されてきた「女性の健康疫学調査」より、「おたっしゃ調査(鴨川市におけるコホート研究」「県民健康基礎調査」「基本健康診査データ収集システム確立事業」の3事業の結果の解析と検討
3.新しい脳の認知機能テストであるコグヘルスを用いて、妊娠群、未妊娠群での脳認知機能の比較検討
4.更年期障害患者におけるエストロゲンβ受容体CAリピート多型の機能解析
5.国立長寿医療センター入院患者を対象として、高齢者急性期医療における転倒リスクの要因と性差に関する検討
6.国立生育医療センター女性外来受診者を対象として、その診療効果を検討
7.循環器病危険因子の性差に関し、メタボリックシンドロームを有するDM患者において検討
結果と考察
主たる結果2つについて報告する。
1.全国12施設の女性外来受診者1777名の解析では、初診時の主訴では精神的症状が22.2%と最も多く、年齢階級別症状分類でも、全年齢層にわたって精神的症状が2割前後を占めていた。全体の有効治療としては、漢方薬治療が50.6%を占め、更年期症候群から生活習慣病に至るまで、多岐にわたる疾患に処方されていた。精神的治療薬は11.5%に投与されていた。SF-36,SRQ-D,STAIを用いた問診表の結果からは、女性外来における治療効果は精神的症状で大きく、効果の大半は初診時と1ケ月の間に認められた。
2.千葉県で行われた「女性の健康疫学調査」からは、20歳代から50歳代の女性の健康診断受診率が男性に比べ有意に低く、ことに20歳代、30歳代では健診受診率が6割未満であった。SF-8を用いて行ったQOLに関しても、偏差得点は男性が女性より高得点であり、女性のほうがQOLの低いことが窺えた。基本健康審査データ収集システム確立事業は、国の特定健診・特定保健活動の基盤整備と趣旨を同じにするものであるが、千葉県では平成19年度の時点で、全56市町村のうち22市町村で既に測定値の標準化、同一基準による判定、連結匿名化した形態での電子データの収集がシステム化されている。
結論
各研究者により、確実に性差を考慮した研究結果が蓄積されつつある。今後は、日本人における性差を考慮した治験結果、疫学調査結果を踏まえ、性差を考慮した健康指導・医療に寄与するガイドラインの確立に進める。

公開日・更新日

公開日
2008-10-09
更新日
-

文献情報

文献番号
200719008B
報告書区分
総合
研究課題名
性差を加味した女性健康支援のための科学的根拠の構築と女性外来の確立
課題番号
H17-子ども-一般-011
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
天野 恵子(千葉県衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 上野光一(千葉大学・大学院薬学研究院)
  • 太田壽城(国立長寿医療センター)
  • 名取道也(国立成育医療センター)
  • 吉政康直(国立循環器病センター)
  • 村島温子(国立成育医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
性差を加味した女性医療、健康支援のための科学的根拠の構築
研究方法
天野:女性外来データファイリングシステム全国ネットワークの構築と実態調査。千葉県女性健康疫学調査の結果の解析と検討。女性外来患者における全血セロトニン測定の診断的重要性の検討。
上野:女性総合診療科の処方実態調査。更年期障害とエストロゲンβ受容体CAリピート多型との関連に関する検討
太田:高齢者の自立度低下要因、高齢者疾病における性差、高齢者急性期医療における転倒リスク要因の性差に関する検討。
名取:不妊を主訴とする男女の心理特性の性差、小児を対象とした臨床検査値の性差開始年齢、女性総合外来における診療効果
吉政:循環器病危険因子の性差に関する検討
結果と考察
平成19年度データファイリングシステム参加施設数は22。登録患者数は1777名。初診時の主訴では精神的症状が22.2%と最も多く、年齢階級別症状分類でも、全年齢層にわたって精神的症状が2割前後を占めていた。有効治療としては漢方薬が50.6%を占め、精神的治療薬は11.5%に処方されていた。セロトニンは大うつ病、気分変調性障害、線維筋痛症、説明困難な自律神経失調症、子どもへの虐待などで低値を示し、SSRIの有効性が確認された。エストロゲンβ受容体CAリピート多型のSSgenotypeの者は、他のgenotypeの者に比べて更年期障害が現れやすい。高齢者の自立度を低下させる疾病リスクとしては、男女とも脳卒中、骨折、がんと続く。しかし、それ以降は男性では肺・気管支の病気、心臓病であるが、女性では関節や筋肉の病気が続く。高齢者にて性差の明らかな疾患としては内分泌・代謝疾患、骨粗しょう症、下部尿路機能障害、認知症、うつ病がある。小児の臨床検査値の検討では、RBC,Hb,Ht,GOT,GPT,ALP,γ-GT,Cre,UA,CKで1歳ごとの年齢の数値の中央値につき男女で10%以上の違いをみた。メタボリックシンドロームを有するDM患者において男性では病態にインスリン抵抗性、炎症、アデイポネクチンが関与するのに対して、女性では有意な相関を認めなかった。
結論
女性外来のニーズは精神疾患で高く、治療効果も高い。今回の研究でも多くの疾病における性差が明らかにされ、女性医療のエビデンス構築が進んだ。

公開日・更新日

公開日
2008-10-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2008-12-16
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200719008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
全国22医療施設における女性外来受診者を対象としたデーアタファイリングシステムを構築し、患者実態調査より、初診1348人中565人が精神症状を主訴とすること、医療介入の効果が大きいことを明らかにした。また、精神症状・不定愁訴を主訴とする患者における全血セロトニン測定の有用性をを明らかにした。薬物動態ならびに小児、高齢者、循環器病罹患者における検査値、疾患病態における性差ならびに千葉県女性健康疫学調査からは年齢・性別検査データ基準値の実態を明らかにした。
臨床的観点からの成果
千葉県「女性外来医療評価事業にかかわる調査」ならびに女性外来データファイリングシステムによる女性外来医療介入効果調査から、女性外来が女性患者のニーズを満足させ、問題の解決度が高く(78%)、98%が再受診を希望していることが明らかになった。小児から高齢者までの年齢・性別検査データ基準値の検討から、従来の検査基準値が必ずしも科学的有用性が無いと思われた。今後、見直しが必要と考えられる。
ガイドライン等の開発
天野恵子ほか編:女性外来診療マニュアル、じほう、東京、2006年
木下優子ほか編:女性外来のための漢方処方ガイド、じほう、東京、2005年
天野恵子ほか編:性差からみた女性の循環器疾患診療、MEDICAL VIEW、東京、2006年
上記の出版物により、循環器分野、漢方分野、女性外来での性差を考慮した女性医療についての指針を示した。
その他行政的観点からの成果
千葉県では、2008年に導入された特定健診、特定保健活動における健診・データ収集ならびに介入指導にあたり、56市町村からの全データを性差の視点をいれ解析する、全県を対象とした大規模コホート調査を展開することを決定した。2005年12月内閣府「男女共同参画基本計画」に「性差に応じた的確な医療である性差医療を推進する」と明記された。平成19年度末に厚生労働省健康局主導の「女性の健康づくり推進懇談会」が立ち上げられた。
その他のインパクト
NHKクローズアップ現代、TBS世界で一番受けたい授業、東京テレビ「医療情報館」、日本女性会議2006、三越ウエルネスセミナー、日本性差医学・医療学会、性差医療情報ネットワーク研究会、日本循環器学会、日本心臓病学会、日本内分泌学会総会、山口県医師会女性医師参画推進部会設立総会、独立行政法人労働者健康福祉機構「女性医療フォーラム」千葉県平成17年度、18年度、19年度の「一人一人の健康づくりを考える県民フォーラム」などで性差医療と女性外来が取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
49件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
21件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
その他成果(普及・啓発活動)
45件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takeo C, Negishi E, Nakajima A, et al.
Association of cytosine-adenine repeat polymorphism of the estrogen receptor-β gene with menopausal symptoms
Gender Medicine , 2 (2) , 96-105  (2005)
原著論文2
Negishi E, Domon Y, Ueda M, et al.
Surveillance study about the use actual of the prescription drugs
YAKUGAKU ZASSHI , 125 , 821-827  (2005)
原著論文3
Negishi E, Takeo C, Nakajima A, et al.
Analysisi of correlation between prescription drugs for climacteric disorders and CA repeat polymorphism of estrogen receptor βgene
Jpn J Pharm Care Sci , 32 , 21-26  (2006)
原著論文4
Kadowaki K, Fukino K, Negishi E, et al.
Sex differences in PPARγ expressions in rat adipose tissues.
Biol Pharm Bull , 30 , 818-820  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-06-11
更新日
-