脳梗塞急性期から開始する筋萎縮阻止薬療法が慢性期運動機能に与える影響に関する研究

文献情報

文献番号
200718048A
報告書区分
総括
研究課題名
脳梗塞急性期から開始する筋萎縮阻止薬療法が慢性期運動機能に与える影響に関する研究
課題番号
H18-長寿-一般-040
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
成冨 博章(国立循環器病センター内科脳血管部門)
研究分担者(所属機関)
  • 森脇 博(国立循環器病センター内科脳血管部門)
  • 山本 康正(京都第二赤十字病院脳神経内科)
  • 長田 乾(秋田県立脳血管研究センター神経内科学研究部)
  • 横山 絵里子(秋田県立リハビリテーション・精神医療センター)
  • 西村 裕之(西宮協立脳神経外科病院神経内科)
  • 道免 和久(兵庫医科大学リハビリテーション科)
  • 東 靖人(医療法人公仁会姫路中央病院)
  • 寺山 靖夫(岩手医科大学神経内科学講座)
  • 高橋 明(財団法人いわてリハビリテーションセンター)
  • 湯浅 浩之(公立陶生病院神経内科)
  • 高木 誠(東京都済生会中央病院)
  • 大江 洋史(大阪大学大学院医学系研究科神経内科)
  • 斎藤 こずえ(奈良県立医科大学神経内科)
  • 棚橋 紀夫(埼玉医科大学国際医療センター)
  • 間嶋 満(埼玉医科大学リハビリテーション医学教室)
  • 田中 耕太郎(富山大学付属病院神経内科)
  • 井上 雄吉(富山県高志リハビリテーション病院神経内科)
  • 目時 典文(財団法人黎明郷弘前脳卒中センター内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
13,440,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳梗塞によって比較的高度な運動麻痺を生じた患者は急性期から慢性期にかけて臥床生活を余儀なくされる。その結果、廃用性筋萎縮が生じ、これが慢性期の運動機能回復を大きく妨げている可能性が高い。近年の基礎研究は、廃用性筋萎縮の機序にフリーラジカルが重要な役割を演じることを示している。本研究の目的は、脳梗塞急性期にラジカル消去薬を長期間投与することにより (1) 廃用性筋萎縮を阻止することができるか否か、(2)慢性期の運動機能を改善させることができるか否かを明らかにすることである。
研究方法
急性期脳卒中診療施設と回復期リハビリ施設の連携による多施設共同オープン無作為化比較対照試験を行った。対象は発症後24時間以内に急性期脳卒中診療施設に入院した下肢運動麻痺のある脳梗塞例である。インターネットを用いて対象を無作為に2群に振り分け、1群ではラジカル消去薬エダラボンを3日間(短期群)、他の1群ではエダラボンを10-14間(長期群)投与して、発症3カ月後の下肢筋萎縮の程度および発症3カ月後の下肢運動機能(Maximum Walking Speed:MWS)を2群間で比較検討した。
結果と考察
計47例が登録された。短期群(n=23)と長期群(n=24)の入院時重症度、下肢麻痺の程度、リハビリ開始時期、入院3週後までのリハビリ実施日数には差がなかった。入院3週間後には、ほぼ全例で両側性の下肢筋萎縮が認められたが、この時点では短期群、長期群の筋萎縮の程度に差はなかった。しかし、その後、短期群では筋萎縮がさらに進行したのに対し、長期群では筋萎縮の進行は認められなかった。発症3カ月後では、長期群の麻痺側および健側下肢の筋萎縮の程度は短期群に較べて有意に軽度であった。発症3カ月後における長期群のMWSは短期群に比べて有意に大であり、長期群の下肢機能低下の程度が短期群よりも有意に軽度であることが明らかにされた。廃用性筋萎縮の機序にはラジカルが重要な役割を演じ、萎縮過程にはアポトーシスが関与することが知られている。脳梗塞急性期のラジカル消去薬持続投与は、ラジカルによる急性・慢性筋障害を阻止し、慢性期の運動機能を改善させる可能性が示された。
結論
脳梗塞例の慢性期運動機能を改善させるためには廃用性筋萎縮を阻止することが重要であり、そのためには急性期のラジカル消去薬持続投与が有用と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2008-07-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200718048B
報告書区分
総合
研究課題名
脳梗塞急性期から開始する筋萎縮阻止薬療法が慢性期運動機能に与える影響に関する研究
課題番号
H18-長寿-一般-040
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
成冨 博章(国立循環器病センター内科脳血管部門)
研究分担者(所属機関)
  • 森脇 博(国立循環器病センター内科脳血管部門)
  • 山本 康正(京都第二赤十字病院脳神経内科)
  • 長田 乾(秋田県立脳血管研究センター神経内科学研究部)
  • 横山 絵里子(秋田県立リハビリテーション・精神医療センター)
  • 西村 裕之(西宮協立脳神経外科病院神経内科)
  • 道免 和久(兵庫医科大学リハビリテーション科)
  • 東 靖人(医療法人公仁会姫路中央病院)
  • 寺山 靖夫(岩手医科大学神経内科学講座)
  • 高橋 明(財団法人いわてリハビリテーションセンター)
  • 湯浅 浩之(公立陶生病院神経内科)
  • 高木 誠(東京都済生会中央病院)
  • 大江 洋史(大阪大学大学院医学系研究科神経内科)
  • 斎藤 こずえ(奈良県立医科大学神経内科)
  • 棚橋 紀夫(埼玉医科大学国際医療センター)
  • 間嶋 満(埼玉医科大学リハビリテーション医学教室)
  • 田中 耕太郎(富山大学付属病院神経内科)
  • 井上 雄吉(富山県高志リハビリテーション病院神経内科)
  • 目時 典文(財団法人黎明郷弘前脳卒中センター内科)
  • 小田 忠文(協和会病院リハビリテーション科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳梗塞例の機能予後を左右する最大の因子は運動機能障害である。脳梗塞例の運動機能障害の程度は、急性期においては脳障害(運動神経路障害)の程度に依存するが、慢性期においては廃用性筋萎縮の程度に大きく影響される。近年の基礎研究は、筋が無動化すると数日後から酸化ストレスによる廃用性筋萎縮が始まることを示している。本研究では、脳梗塞急性期にラジカル消去薬を長期投与した場合、廃用性筋萎縮の阻止および運動機能障害の軽減がみられるか否かを明らかにするために前向き介入試験を行った。
研究方法
研究形式は多施設共同オープン無作為化比較対照試験で、急性期脳卒中診療施設13施設、回復期リハビリ施設6施設、計19施設の参加のもとに行われた。対象は発症後24時間以内の下肢運動麻痺のある脳梗塞例で、インターネット登録により無作為にラジカル消去薬(エダラボン)を3日間投与する群(短期群)と10-14間投与する群(長期群)に振り分けた。発症3週間後と3カ月後の下肢筋萎縮の程度(主として大腿周囲径)および発症3カ月後の下肢運動機能(Maximum Walking Speed:MWS)を2群間で比較検討した。
結果と考察
短期群23例、長期群24例、計47例が登録された。両群の入院時重症度、下肢麻痺の程度、入院3週後までのリハビリ実施日数には差がなかった。入院3週間後には、ほぼ全例で両側性の下肢筋萎縮が認められたが、この時点では短期群、長期群の筋萎縮の程度に差はなかった。その後、短期群では筋萎縮がさらに進行したのに対し、長期群では筋萎縮の進行は認められず、発症3カ月後では、長期群の下肢筋萎縮の程度は両側ともに短期群に較べて有意に軽度であった。発症3カ月後における長期群のMWSは短期群に比べて有意に大であり、長期群の下肢運動機能障害の程度が短期群よりも有意に軽度であることが明らかにされた。脳梗塞による運動麻痺のため臥床生活が持続すると酸化ストレスによる廃用性筋萎縮が生じてきてこれが慢性期運動機能障害を助長すると思われる。本研究は、脳梗塞急性期にラジカル消去薬を持続投与することにより、廃用性筋萎縮阻止効果・運動機能改善効果が得られることを示している。
結論
脳梗塞例の慢性期運動機能を改善させるためには廃用性筋萎縮を阻止することが重要であり、そのためには急性期のラジカル消去薬持続投与が有用と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2008-07-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200718048C

成果

専門的・学術的観点からの成果
脳梗塞急性期には、運動麻痺の結果余儀なくされる臥床生活のために麻痺側および健側下肢に廃用性筋萎縮が生じ、これが慢性期の歩行障害を助長する。本研究では、脳梗塞急性期にラジカル消去薬を長期投与(10-14日間)すると、廃用性筋萎縮が阻止され、慢性期の歩行機能が改善されることを明らかにした。従来、脳梗塞急性期の治療は脳保護だけにターゲットがしぼられてきたが、本研究は、今後、脳梗塞の治療のターゲットを筋保護にも向ける必要があることを示している。
臨床的観点からの成果
急性期脳梗塞患者が脳卒中診療施設を受診するのは発症後6時間以上を経過した場合が多く、来院した時点で脳には既に不可逆的変化が生じているので、脳を障害から救済できる余地は殆どない。すなわち、臨床医がいかに頑張っても、治療によって脳梗塞患者の予後を改善できる可能性は小さいと考えられてきた。しかし、本研究では、脳梗塞患者の運動機能障害を治療するためには必ずしも脳を完全に救済する必要はなく、長期間かけて筋肉を保護することにより十分な機能改善効果が得られることが示された。
ガイドライン等の開発
ガイドラインを作成するまでには至っていない。
その他行政的観点からの成果
脳梗塞の最も重要な症状は運動麻痺であり、運動麻痺ゆえに多くの患者が重篤な下肢運動機能障害を呈し要介護状態に陥る。残念ながら脳の運動神経細胞は脳梗塞後3-6時間以内に不可逆的変化を生じてしまうために、薬物治療によって運動神経細胞の死を阻止できる可能性は殆どないと考えられてきた。しかし、本研究では、運動神経細胞死を阻止できなくても廃用性筋萎縮を阻止すれば結果的に運動機能改善が得られることが示された。要介護患者を減らすためには、今後、筋保護療法を発達させる必要があると思われる。
その他のインパクト
脳梗塞による運動機能障害を軽減させるためには比較的長期の筋保護治療が必要であることを、今後、学会発表、論文発表により多くの脳卒中診療医に知らしめ、また市民講座等を通じて一般市民にも伝えていく予定である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-