糖鎖シグナルの異常による肺気腫の発生機構の解明と治療戦略

文献情報

文献番号
200707028A
報告書区分
総括
研究課題名
糖鎖シグナルの異常による肺気腫の発生機構の解明と治療戦略
課題番号
H18-ゲノム-一般-006
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
谷口 直之(大阪大学微生物病研究所疾患糖鎖学(生化学工業)寄附研究部門)
研究分担者(所属機関)
  • 松本 明郎(大阪大学微生物病研究所疾患糖鎖学(生化学工業)寄附研究部門)
  • 三善 英知(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻機能診断学講座)
  • 顧 建国(東北薬科大学薬学部細胞制御学)
  • 別役 智子(北海道大学病院第一内科)
  • 前野 敏孝(群馬大学医学部附属病院呼吸器アレルギー内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
24,105,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、全世界で2億人以上が罹患し、年間300万人が死亡している。2030年までには死因の第4位になると予想されている主要疾患である。しかし、有効な治療法が開発されず、病因の解明と治療戦略の提供が社会的な急務とされている。我々はα1,6フコース転移酵素(Fut8)遺伝子欠損マウスを用い、糖鎖異常が肺気腫様病態を惹起することを示した。そこで、糖鎖異常を背景としたヒトの肺気腫病態を明らかにし、治療手段を提供していくことを目標としている。
研究方法
 肺気腫には喫煙をはじめとした多因子が複合して関与することから、コアフコース異常を加味して病態へアプローチすることから、治療戦略を提供していくことを目標とし、以下の4点について研究を進めた。1.肺気腫の最重要因子である喫煙とFUT8活性の関連性、2.肺気腫の治療薬開発を目指したMMP活性阻害薬の検討、3.肺気腫の進展に対するFUT8活性の影響の検討、4.フコシル化異常と肺気腫化のメカニズムの検討。
結果と考察
糖鎖異常を背景とした喫煙誘発性の肺気腫モデル動物を確立した。このモデルマウスは、喫煙暴露期間がこれまでの半分以下(3ヶ月)で肺の気腫化を起こすことから、治療薬の評価並びに病態の検討がより効率的に行える。さらに、このモデル動物の解析から、糖鎖異常と喫煙暴露の相加作用に基づき発現変化する遺伝子群を見いだした。また、肺気腫病態の進行に関与するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)阻害効果を有する新たな物質を同定し、将来的に肺気腫治療薬としての可能性をもつものと考えられた。
 また、エラスターゼ誘導型肺気腫においても、気腫化の進展にFUT8活性が関与していることがわかり、肺気腫の病態解析に糖鎖異常を加味し検討することの重要性を示すこととなった。また、FUT8活性の低下がVEGFの発現に影響し肺気腫形成に関与するであろうこと、細胞内でのフコシル化がFUT8のみではなく他の複数の因子により複合的に制御されていることも示し、基礎的な面での解析も進められた。

結論
 糖鎖異常を背景とした喫煙誘導性肺気腫モデル動物を作成した。新たにMMP阻害活性をもつ物質を見いだし、今後肺気腫治療薬としての活性を検討する。FUT8活性はエラスターゼ誘発肺気腫の進展にも関与しており、糖鎖異常を加味した肺気腫の病態解析の重要性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
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