遺伝子多型検査によるテーラーメイド疼痛治療法の開発

文献情報

文献番号
200707011A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子多型検査によるテーラーメイド疼痛治療法の開発
課題番号
H17-ファーマコ-一般-001
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
池田 和隆(財団法人東京都医学研究機構東京都精神医学総合研究所 分子精神医学研究チーム)
研究分担者(所属機関)
  • 林田 眞和(埼玉医科大学国際医療センター麻酔科)
  • 曽良 一郎(東北大学大学院)
  • 長島 誠(東邦大学医療センター佐倉病院 外科)
  • 田上 惠(東邦大学医療センター佐倉病院 麻酔科)
  • 福田 謙一(東京歯科大学水道橋病院歯科麻酔科)
  • 岩橋 和彦(麻布大学健康管理センター/同大大学院環境保健学研究科)
  • 下山 直人(国立がんセンター中央病院 手術部)
  • 井手 聡一郎(広島国際大学 薬学部薬学科)
  • 古閑 比佐志(かずさDNA研究所 ヒトゲノム応用研究部ゲノム医学研究室)
  • 南 雅文(北海道大学大学院 薬学研究院 薬理学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
45,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
疼痛は医療現場で極めて頻繁に見られる深刻な病態であり、広く国民のQOLを低下させる重大な要因である。疼痛治療を緊急に普及させる必要があるが、鎮痛薬に深刻な副作用があること、および鎮痛薬感受性に大きな個人差があることが、臨床上、効果的な疼痛治療を妨げている。本研究では、ゲノム科学の急速な進展を踏まえ、鎮痛薬感受性の遺伝子メカニズムを解明し、個々人に合った疼痛治療を迅速・効率的に行うための基盤技術の確立を目的とした。
研究方法
小研究項目を設定し、班員で分担して研究を進めた。
1)鎮痛関連遺伝子の多型の同定と、それらの特徴の解明(担当:池田、南、井手、岩橋)
2)鎮痛・痛覚個人差をより正確に評価できる条件の設定と、鎮痛・痛覚データの収集
2-1.術後鎮痛(担当:林田、田上、長島、福田)
2-2.癌鎮痛(担当:曽良、下山)
2-3.健常者鎮痛(担当:福田)
2-4.健常者痛覚(担当:池田、岩橋)
3)遺伝子多型と鎮痛・痛覚データとの相関解明(担当:池田、林田、曽良、岩橋、井手)
4)テーラーメイド疼痛治療を可能とする遺伝子検査キットの開発(担当:池田、古閑)
結果と考察
(1) 鎮痛関連遺伝子に関して解析すべき遺伝子多型として5つを選定し、合計30以上とした。(2) 前年度までに確立した下顎骨切り術におけるプロトコールを用いて、本研究を行う上で理想的な診療データが得られる体制を維持した。また、術後鎮痛に関して350例以上、健常者での痛覚データに関して600例以上の、ゲノムと表現型データのセットを収集した。(3) プロオピオメラノコルチン遺伝子多型と術後鎮痛薬必要量との間に関連があることを見出し、特許出願した。前年度までに見出したミューオピオイド受容体およびGIRKチャネルの遺伝子多型と鎮痛薬感受性との関連に関しても、データを追加して特許を改訂し、米国、EUに出願した。(4) マルチプルプライマー伸長法を改良し、より安価で迅速な判定法を確立した。
結論
解析すべき遺伝子多型の選定、鎮痛効果評価プログラムの確立、ゲノムと表現型データの収集、遺伝子多型と表現型との関連解析、検査システムの開発のいずれにおいても、当初の計画の通り、あるいは計画を上回って研究が進められた。テーラーメイド疼痛治療の実現に道が着実に拓かれつつある。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200707011B
報告書区分
総合
研究課題名
遺伝子多型検査によるテーラーメイド疼痛治療法の開発
課題番号
H17-ファーマコ-一般-001
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
池田 和隆(財団法人東京都医学研究機構東京都精神医学総合研究所 分子精神医学研究チーム)
研究分担者(所属機関)
  • 林田 眞和(埼玉医科大学国際医療センター麻酔科)
  • 曽良 一郎(東北大学大学院)
  • 長島 誠(東邦大学医療センター佐倉病院 外科)
  • 田上 惠(東邦大学医療センター佐倉病院 麻酔科)
  • 福田 謙一(東京歯科大学水道橋病院歯科麻酔科)
  • 岩橋 和彦(麻布大学健康管理センター/同大大学院環境保健学研究科)
  • 下山 直人(国立がんセンター中央病院 手術部)
  • 井手 聡一郎(広島国際大学 薬学部薬学科)
  • 古閑 比佐志(かずさDNA研究所 ヒトゲノム応用研究部ゲノム医学研究室)
  • 南 雅文(北海道大学大学院 薬学研究院 薬理学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
疼痛は医療現場で極めて頻繁に見られる深刻な病態であり、広く国民のQOLを低下させる重大な要因である。疼痛治療を緊急に普及させる必要があるが、鎮痛薬に深刻な副作用があること、および鎮痛薬感受性に大きな個人差があることが、臨床上、効果的な疼痛治療を妨げている。本研究では、ゲノム科学の急速な進展を踏まえ、鎮痛薬感受性の遺伝子メカニズムを解明し、個々人に合った疼痛治療を迅速・効率的に行うための基盤技術の確立を目的とした。
研究方法
小研究項目を設定し、班員で分担して研究を進めた。
1)鎮痛関連遺伝子の多型の同定と、それらの特徴の解明(担当:池田、南、井手、岩橋)
2)鎮痛・痛覚個人差をより正確に評価できる条件の設定と、鎮痛・痛覚データの収集
2-1.術後鎮痛(担当:林田、田上、長島、福田)
2-2.癌鎮痛(担当:曽良、下山)
2-3.健常者鎮痛(担当:福田)
2-4.健常者痛覚(担当:池田、岩橋)
3)遺伝子多型と鎮痛・痛覚データとの相関解明(担当:池田、林田、曽良、岩橋、井手)
4)テーラーメイド疼痛治療を可能とする遺伝子検査キットの開発(担当:池田、古閑)
結果と考察
(1) ミューオピオイド受容体、GIRKチャネルなどの遺伝子の構造および多型を同定、確認し、多型間の関係を解析して代表として解析すべき多型(タグSNP)を同定した。その他の30以上の鎮痛関連遺伝子においても解析すべき遺伝子多型を選定した。(2) 下顎骨切り術におけるプロトコールを確立し、本研究を行う上で理想的な診療データが得られる体制を整えた。また、術後鎮痛に関して350例以上、健常者での痛覚データに関して600例以上の、ゲノムと表現型データのセットを収集した。(3) ミューオピオイド受容体、GIRKチャネル、およびプロオピオメラノコルチン遺伝子多型と術後鎮痛薬必要量との間に関連があることを見出し、特許出願した。(4) 一分子蛍光法とマルチプルプライマー伸長法による安価で迅速な判定法を確立し、検査キット開発が進んだ。
結論
解析すべき遺伝子多型の選定、鎮痛効果評価プログラムの確立、ゲノムと表現型データの収集、遺伝子多型と表現型との関連解析、検査システムの開発のいずれにおいても、当初の計画の通り、あるいは計画を上回って研究が進められた。テーラーメイド疼痛治療の実現に道が着実に拓かれつつある。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200707011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
鎮痛薬感受性個人差には遺伝要因があると考えられてきたが、直接的な証拠はなかった。今回の研究成果によって、ミューオピオイド受容体、GIRKチャネル、POMCの遺伝子多型が鎮痛薬感受性と関連することが明らかとなり、直接的な証拠が得られた。特に、主任研究者らはGIRKチャネルが鎮痛において重要であることを世界に先駆けて報告してきたが、本研究成果によっても裏付けられた。本研究成果は、鎮痛薬感受性個人差の遺伝子メカニズム、鎮痛薬感受性の分子メカニズム、ひいては鎮痛のメカニズムの解明にも繋がるものである。
臨床的観点からの成果
鎮痛薬感受性に大きな個人差があることが、臨床上、効果的な疼痛治療を妨げている。本研究の成果により、遺伝子多型を検査することで鎮痛薬感受性をある程度予測できるので、早期から個々人に合った疼痛治療を行うテーラーメイド疼痛治療に道が拓かれた。
ガイドライン等の開発
特にありません。
その他行政的観点からの成果
がん対策基本法では、早期からの適切な疼痛治療の実現が求められている。本研究成果は、疼痛治療を必要とする患者が、早期から適量の鎮痛薬で治療を受けられるようにするものであり、行政的ニーズに対応したものである。また、本成果による疼痛治療の進歩は、在宅医療の促進にも繋がると期待される。
その他のインパクト
本研究成果はマスメディア記事として7回取り上げられており、また、研究成果に関する公開講座には会場定員を上回る500人以上の参加者があり、一般国民から注目されている。また、企業からの関心も多く寄せられ、出願した特許に対して、実施許諾契約が締結されるなど、実用化に向けて研究が展開している。本研究成果が活用され、臨床現場でのテーラーメイド疼痛治療が実現することが期待されている。

発表件数

原著論文(和文)
56件
原著論文(英文等)
91件
その他論文(和文)
100件
その他論文(英文等)
7件
学会発表(国内学会)
266件
学会発表(国際学会等)
82件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計3件
その他成果(特許の取得)
0件
2件は、日本、米国、EUに出願。1件は日本に出願。今後米国とEUに出願予定
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
8件
新聞記事6件、雑誌記事1件、公開講座1回(500名以上の参加者)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ikeda K, Ide S, Han W, et al.
How individual sensitivity to opiates can be predicted by gene analyses.
Trends Pharmacol Sci , 26 (6) , 311-317  (2005)
原著論文2
Ide S, Han W, Kasai S, et al.
Characterization of the 3’ untranslated region of the human mu-opioid receptor (MOR-1) mRNA.
Gene , 364 , 139-145  (2005)
原著論文3
Kasai S, Han W, Ide S, et al.
Involvement of the 3’ non-coding region of the mu opioid receptor gene in morphine-induced analgesia.
Psychiatry Clin Neurosci , 60 , 11-17  (2006)
原著論文4
Takamatsu Y, Yamanishi Y, Hagino Y, et al.
Differential effects of donepezil on methamphetamine and cocaine dependencies.
Ann N Y Acad Sci , 1074 , 418-426  (2006)
原著論文5
Ide S, Kobayashi H, Ujike H, et al.
Linkage disequilibrium and association with methamphetamine dependence/psychosis of mu-opioid receptor gene polymorphisms.
Pharmacogenomics J , 6 (3) , 179-188  (2006)
原著論文6
Takamatsu Y, Yamamoto H, Ogai Y, et al.
Fluoxetine as a potential pharmacotherapy for methamphetamine dependence: studies in mice.
Ann N Y Acad Sci , 1074 , 295-302  (2006)
原著論文7
Han W, Kasai S, Hata H, et al.
Intracisternal A-particle element in the 3’ noncoding region of the mu-opioid receptor gene in CXBK Mice: a new genetic mechanism underlying differences in opioid sensitivity.
Pharmacogenet Genomics , 16 (6) , 451-460  (2006)
原著論文8
Han W, Hata H, Imbe H, et al.
Increased body weight in mice lacking mu-opioid receptors.
Neuroreport , 17 (9) , 941-944  (2006)
原著論文9
Ide S, Minami M, Ishihara K, et al.
Mu opioid receptor-dependent and independent components in effects of tramadol.
Neuropharmacology , 51 (3) , 651-658  (2006)
原著論文10
Nishizawa D, Han W, Hasegawa J, et al.
Association of mu-opioid receptor gene polymorphism A118G with alcohol dependence in a Japanese population.
Neuropsychobiology , 53 (3) , 137-141  (2006)
原著論文11
Senoo E, Ogai Y, Haraguchi A, et al.
Reliability and validity of the Japanese version of the addiction severity index (ASI-J).
Nihon Arukoru Yakubutsu Igakkai Zasshi , 41 (4) , 368-379  (2006)
原著論文12
Kobayashi T, Ikeda K.
G protein-activated inwardly rectifying potassium channels as potential therapeutic targets.
Curr Pharm Des , 12 (34) , 4513-4523  (2006)
原著論文13
Ogai Y, Haraguchi A, Kondo A, et al.
Development and validation of the stimulant relapse risk scale for drug abusers in Japan.
Drug Alcohol Depend , 88 , 174-181  (2007)
原著論文14
Kobayashi T, Nishizawa D, Iwamura T, et al.
Inhibition by cocaine of G protein-activated inwardly rectifying K+ channels expressed in Xenopus oocytes.
Toxicol In Vitro , 21 (4) , 656-664  (2007)
原著論文15
Imai K, Ogai Y, Nishizawa D, et al.
A novel SNP detection technique utilizing a multiple primer extension (MPEX) on a phospholipid polymer-coated surface.
Mol Biosyst , 3 (8) , 547-553  (2007)
原著論文16
Yamamoto H, Kamegaya E, Hagino Y, et al.
Genetic deletion of vesicular monoamine transporter-2 (VMAT2) reduces dopamine transporter activity in mesencephalic neurons in primary culture.
Neurochem Int , 51 , 237-244  (2007)
原著論文17
Waga C, Ikeda K, Iwahashi K.
The relationship between alcoholism and DBI gene polymorphism in Japanese -genotyping of the +529A/T in DBI gene polymorphism based on PCR-.
Nihon Arukoru Yakubutsu Igakkai Zasshi , 42 (6) , 629-634  (2007)
原著論文18
Nagashima M, Katoh R, Sato Y, et al.
Is there genetic polymorphism evidence for individual human sensitivity to opiates?
Curr Pain Headache Rep , 11 (2) , 115-123  (2006)
原著論文19
Ide S, Minami M, Ishihara K, et al.
Abolished thermal and mechanical antinociception but retained visceral chemical antinociception induced by butorphanol in mu-opioid receptor knockout mice.
Neuropharmacology  (2008)
原著論文20
Kasai S, Hayashida M, Sora I, et al.
Candidate gene polymorphisms predicting individual sensitivity to opioids.
Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-