慢性疾患としての糖尿病の病期に注目した病態の解析と、新たな診断・治療法の探索

文献情報

文献番号
200707010A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性疾患としての糖尿病の病期に注目した病態の解析と、新たな診断・治療法の探索
課題番号
H17-ゲノム-一般-012
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
安田 和基(国立国際医療センター 研究所・代謝疾患研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 鏑木 康志(国立国際医療センター 研究所・代謝疾患研究部)
  • 湯尾 明(国立国際医療センター 研究所・血液疾患研究部)
  • 大河内 仁志(国立国際医療センター 研究所・細胞組織再生医学研究部)
  • 浜崎 辰夫(国立国際医療センター 研究所・細胞修飾生体反応研究室)
  • 岡村 匡史(国立国際医療センター 研究所・ヒト型動物開発研究室)
  • 浅島 誠(東京大学大学院・総合文化研究科)
  • 江崎 治(独立行政法人国立健康・栄養研究所・基礎栄養プログラム)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
121,971,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 糖尿病は、長い慢性の経過をたどって発症・進展する特徴がある。「成因」だけでなく「病期」に基づく新しい診断治療法の開発をめざし、糖尿病の真のオーダーメイド医療の実現を目標とする。
研究方法
 糖尿病の発症・進展に重要な、かつ研究の遅れていた「環境因子」、「膵代償機序とその破綻」、「合併症」の3点に注目して、独自のモデルを構築し網羅的解析を行った。日本人非肥満糖尿病のモデルSendaiラットの遺伝解析を行い、また重層的な解析を可能にするヒト臨床パネルを構築した。
結果と考察
 発生工学的モデルを用い、運動の抗肥満効果にはβアドレナリン受容体の刺激が重要であることを発見した。またプロテオーム解析の手法により、インスリン受容体基質アイソフォーム特異的な作用や、アディポネクチン作用を担う新規分子の同定を試みた。 
 膵β細胞については、発生・分化・成熟の各段階で、重要な新規分子を多数同定した。ツメガエル胚からの膵分化系を改良してさらに効率を高め、マイクロアレイ解析等により、膵臓を含む前方内胚葉で発現がみられる、「膵臓化」に必要な新規遺伝子の候補を同定した。マウスES細胞由来膵分化系、あるいは他臓器由来細胞から構築した膵分化系については、糖尿病動物への移植で一時的ながら効果が見られ、膵β細胞の補充に有望と考えられた。成熟したβ細胞の指標である「グルコース反応性インスリン分泌」の獲得に関与する遺伝子を多数同定した。また、膵β細胞における全く新しい転写調節機構として、新規の機能性non-coding RNA候補を同定した。
 糖尿病合併症については、ヒト初代培養血管内皮細胞を用いて、グルコースによる機能障害モデルを確立し、関与する分子を多数同定した。またサル及びヒトES細胞由来の血管内皮細胞分化系を確立し、分子基盤を解析した。
 個体モデルとして、膵ラ氏島障害を主病変とするSendaiラットの遺伝解析を行い、量的形質遺伝子座(QTL)を同定した。またヒト糖尿病患者900人、対照600人から、ゲノム、血清・尿・硝子体、臨床情報などが完備したパネルを構築した。
結論
 糖尿病の病態に関係するさまざまな新規分子を得た。これらは、診断マーカーや治療標的のシーズとして期待され、また創薬スクリーニング系として有用である。今後糖尿病の慢性の発症・進展における「病期」の概念に応用し、ヒト検体を用いた検証、および診療への実用化が期待される。

公開日・更新日

公開日
2008-04-14
更新日
-

文献情報

文献番号
200707010B
報告書区分
総合
研究課題名
慢性疾患としての糖尿病の病期に注目した病態の解析と、新たな診断・治療法の探索
課題番号
H17-ゲノム-一般-012
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
安田 和基(国立国際医療センター 研究所・代謝疾患研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 鏑木 康志(国立国際医療センター 研究所・代謝疾患研究部)
  • 湯尾 明(国立国際医療センター 研究所・血液疾患研究部)
  • 大河内 仁志(国立国際医療センター 研究所・細胞組織再生医学研究部)
  • 浜崎 辰夫(国立国際医療センター 研究所・細胞修飾生体反応研究室)
  • 岡村 匡史(国立国際医療センター 研究所・ヒト型動物開発研究室)
  • 浅島 誠(東京大学大学院・総合文化研究科)
  • 江崎 治(独立行政法人国立健康・栄養研究所・基礎栄養プログラム)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 糖尿病は長い慢性の経過で発症・進展し病態が変貌する特徴がある。「成因」とともに「病期」に基づく新しい診断治療法の開発をめざし、糖尿病の真のオーダーメイド医療の実現を目標とする。
研究方法
 糖尿病の発症・進展に重要な、かつ研究の遅れていた「環境因子」、「膵代償機序とその破綻」、「合併症」の3点に注目し、独自モデルを構築し網羅的解析を行い、またヒト臨床パネルを構築した。
結果と考察
 「環境因子」の分子効果について、発生工学的モデルを用い、運動の抗肥満効果・代謝改善効果におけるAMPキナーゼや交感神経系β作用の重要性、摂取食事内容による脂肪肝の病態や予防法の違い、などを解明した。プロテオーム解析により、インスリン・シグナル伝達に関与する新規蛋白の同定を試みた。
 膵β細胞について、『量的代償』の立場から、マウスES細胞やカエル胚からの膵分化系、膵組織幹細胞候補としてのSP(side population)細胞など、膵β細胞の発生・分化・増殖に関するさまざまな系の網羅的検索から、関与する多くの新規分子を得た。自己由来細胞を供給源とする膵β細胞補充療法の可能性を検討し、予備的実験ながら、他臓器由来幹細胞から作製した細胞を糖尿病動物へ移植し、血糖改善効果がみられた。『質的代償』の立場から、脂肪毒性モデルの分子解析を行い、また高度に分化した膵β細胞の分子基盤を解析した。特に、全く新規の機能的non-coding RNA候補を同定し、またβ細胞の特性である「グルコース反応性インスリン分泌」を獲得する過程に関わる新規分子を多数同定した。
 「合併症」については、ヒト血管内皮初代培養細胞を用いて、糖毒性の細胞機能障害に関与する多くの分子を同定するとともに、霊長類ES細胞からの血管内皮分化系を確立した。また、網膜症に関与する可能性が高い新規候補分子を同定した。
 「個体レベルでの解析系」として、日本人糖尿病に酷似した、インスリン低下型新規動物モデル(Sendaiラット)の病態解析、網羅的発現解析を行い、また量的形質遺伝子座(QTL)を同定した。ゲノム、血清、臨床情報などを完備し、重層的な解析が可能なヒト臨床パネルを構築した。
結論
  糖尿病の診断・治療の標的となりうる多くのシーズや、有用な創薬スクリニーング系を得た。今後の検証により、成因と病期に基づく、糖尿病の真のオーダーメイド医療の実現に役立てられることを期待する。

公開日・更新日

公開日
2008-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200707010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
糖尿病で最も重要かつ解析が遅れている、「環境因子の効果」「膵β細胞の分子動態」「血管を主体とした合併症解析」の3テーマを主眼とし、幅広い専門の研究者による共同研究を行った。ES細胞由来の分化系、組織由来の細胞系、発生工学的手法や自然発症によるモデル動物、さらに、糖尿病で生じる細胞障害のモデル系、など、世界でも独自の解析系を多数構築した。それらの系を用いた発現分子の網羅的解析を行い、全く新規の機能分子を含め、病態の診断マーカーや治療標的の有力な候補を多数得ている。
臨床的観点からの成果
本研究の対象とした、環境因子の分子効果、膵β細胞の動態、合併症などは、臨床の現場で直接臓器を得て病態を診断することができず、画期的な診断法が求められている。したがって本基盤研究の成果は、モデル動物を含めたさらなる検証により、臨床に還元されることが期待される。同時に本研究において、ヒトで検証するために必要な、ゲノム・血清・詳細な臨床情報などを兼ね備えた、「重層的な」臨床パネルを構築した。
ガイドライン等の開発
現時点では基盤研究に相当するため該当しない。しかし、本研究で得られた分子が、今後の研究にて、病型、病期、などの診断マーカーとして有用ということが示せれば、将来診療のガイドラインに取り入れられる可能性があると期待される。
その他行政的観点からの成果
 本研究で得られた分子をもとにして、新たな診断マーカー・治療標的が確立されれば、遺伝因子、環境因子、ステージなどをすべて包含した病態を的確に診断し、真の個別化医療が可能になるであろう。そうすれば、糖尿病のコントロールが改善して合併症の頻度・進展ともに減少させることができ、国民の寿命やQOLの改善はもちろん、医療費抑制にも大きく貢献できると期待される。
その他のインパクト
 平成18年2月、一般公開シンポジウム(ヒトゲノム・再生医療等研究推進事業研究成果発表会「先端医学研究の進歩と今後」)にて、本研究のデザインと特徴、成果を発表、紹介した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
83件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
84件
学会発表(国際学会等)
24件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計4件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yano S, Ito Y, Fujimoto M, et al.
Characterization and localization of side population cells in mouse skin
Stem Cells , 23 , 834-841  (2005)
原著論文2
Kurisaki A, Hamazaki TS, Okabayashi K,et al.
Chromatin-Related Proteins in Pluripotent Mouse Embryonic Stem Cells Are Downregurated after removal of Leukemia Inhibitory Factor.
Biochem. Biophys. Res Commun. , 335 , 667-675  (2005)
原著論文3
Saeki K, Yasugi E, Okuma E, et al.
Proteomic analysis on insulin signaling in human hematopoietic cells: identification of CLIC1 and SRp20 as novel downstream effectors of insulin.
Am J Physiol Endocrinol Metab , 289 , 419-428  (2005)
原著論文4
Yamazaki T,Sasaki E, Kakinuma C, et al.
Increased VLDL secretion and gonadal fat mass in mice over-expressing liver acyl CoA:Diacylglycerolacyl transferase1.
J Biol Chem , 280 , 21506-21514  (2005)
原著論文5
Nakatani T, Katsumata A, Miura S, et al.
Effects of fish oil feeding and fasting on LXRα/RXRα binding to LXRE in the SREBP-1c promoter in mouse liver.
Biochim Biophys Acta , 1736 , 77-86  (2005)
原著論文6
Abe T , Furue M, Kondow A, et al.
Notch signaling modulates the nuclear localization of carboxyl-terminal-phosphorylated smad2 and controls the competence of ectodermal cells for activin A.
Mech Dev , 122 , 671-680  (2005)
原著論文7
Furue M, Okamoto T, Hayashi Y, et al.
Leukemia inhibitory factor as an anti-apoptotic mitogen for pluripotent mouse embryonic stem cells in a serum-free medium without feeder cells.
In Vitro Cell. Dev. Biol. -Animal , 41 , 19-28  (2005)
原著論文8
Nishimura Y, Hamazaki TS, Komazaki S, et al.
Ciliated cells differentiated from mouse embryonic stem cells.
Stem Cells , 24 , 1381-1388  (2006)
原著論文9
Yasugi E, Horiuchi A, Uemura I, et al.
Peroxisome proliferator-activated receptor gamma ligands stimulate myeloid differentiation and lipogenesis in the human leukemia NB4 cells.
Dev Growth Differ , 48 , 177-188  (2006)
原著論文10
Doshi M, Koyanagi M, Nakahara M, et al.
Identification of human neutrophils during experimentally induced inflammation in mice transplanted with human umbilical cord blood CD34-positive cells.
Int J Hematol , 84 , 231-237  (2006)
原著論文11
Nakanishi M, Hamazaki TS, Komazaki S,et al.
Pancreatic tissue formation from murine embryonic stem cells in vitro.
Differentiation , 75 , 1-11  (2007)
原著論文12
Tsuchiya M, Yoshida T, Taniguchi S, et al
In vivo suppression of mafA mRNA with siRNA and analysis of the resulting alteration of the gene expression profile in mouse pancreas by the microarray method.
Biochem Biophys Res Commun. , 356 , 129-135  (2007)
原著論文13
Kaburagi Y, Okochi H, Satoh S, et al.
Role of IRS and PHIP on insulin-induced tyrosine phosphorylation and distribution of IRS proteins.
Cell Struct Function , 32 , 69-78  (2007)
原著論文14
Banas A, Tokuhara M, Okochi H, et al.
Adipose tissue-derived mesenchymal stem cells as a source of human hepatocytes.
Hepatology , 46 , 219-228  (2007)
原著論文15
Nakahara M, Saeki K, Yogiashi Y, et al.
The protein expression profile of cynomolgus monkey embryonic stem cells in two-dimendional gel electrophoresis: a successful identification of multiple proteins using human databases.
J Electrophoresis , 51 , 1-8  (2007)
原著論文16
Miura S, Kawanaka K, Kai Y, et al.
An increase in murine skelatal muscle peroxisome proliferator-activated receptor-γ coactivator-1α (PGC-1α) mRNA in response to exercise is mediated by β-adrenergic receptor activation.
Endocrinology , 148 , 3441-3448  (2007)
原著論文17
Yamazaki T, Nakamori A, Sasaki E, et al.
Fish oil prevents sucrose-induced fatty liver but exacerbates high-safflower oil-induced fatty liver in ddymice.
Hepatology , 46 , 1779-1790  (2007)
原著論文18
Tsuboyama-Kasaoka N, Sano K, Shozawa C, et al.
Studies of UCP2-transgenic and-knockout mice reveal that liver UCP2 is not essential for the anti-obesity effects of fish oil.
Am J Physiol Endocrinol Metab , 294 , 600-606  (2008)
原著論文19
Suzawa K, Yukita A, Hayata T, et al.
Xenopus glucose transporter 1 (xGLUT1) is required for gastrulation movement in Xenpus laevis.
Int J Dev Biol , 51 , 183-190  (2007)
原著論文20
Miyake K, Horikawa Y, Hara K, et al.
Association of TCF7L2 polymorphosms with susceptibility to type 2 diabetes in 4,087 Japanese subjects.
J Hum Genet , 53 , 174-180  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-