慢性腎障害の重症化防止を目的とした幹細胞移植による残存腎機能再構築

文献情報

文献番号
200706009A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性腎障害の重症化防止を目的とした幹細胞移植による残存腎機能再構築
課題番号
H17-再生-一般-010
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
大島 伸一(国立長寿医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 篠崎 尚史(東京歯科大学 市川総合病院 角膜センター)
  • 菅谷 健(東京歯科大学市 川総合病院 角膜センター)
  • 室原 豊明(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • 後藤 百万(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • 松尾 清一(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • 山本 徳則(名古屋大学医学部附属病院)
  • 槇野 博史(岡山大学大学院 医歯薬総合研究科)
  • 野入 英世(東京大学医学部附属病院)
  • 谷口 英樹(横浜市立大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療等研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
37,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、腎障害の重症化防止を達成すべく、幹細胞移植による安全性評価法を確立し、残存腎機能の再構築を目指す。
研究方法
本研究は3つの研究チームよりなる。各チームは互いに緊密に連携し、細胞輸送や移植プロセスの効率化・標準化を図る。
結果と考察
(1)骨髄末梢血間葉系幹細胞チームは、Stromal Vascular Fraction (SVF)に関して、吸引脂肪から治療に必要な十分量のSVFが得られること、SVFを腎被膜下に注入することで腎不全動物モデルの腎機能が改善することを明らかにした。低血清培養脂肪組織由来間葉系幹/前駆細胞に関して、優れた増殖能を持つため、比較的短期間で実用化に十分な細胞量となること、細胞・組織保護作用をもつサイトカインを多く分泌し、その分泌能は分裂回数が多くなっても低下しないこと、動物での治療実験で優れた効果を認めることが明らかになった。骨髄末梢血幹細胞に関しては、従来の細胞治療メカニズムとは異なる機序が腎疾患で働いている可能性が示唆され治療効果がみられなかった。(2)上皮系幹細胞チームは、成体ラット腎由来の腎幹/前駆細胞様細胞(rKS56細胞、特許取得)の急性腎不全モデルへの投与による、腎障害の組織学的・機能的修復効果が観察された。また、rKS56細胞は3次元培養においての組織構築能が認められ、臓器構築能がある可能性が示唆された。マウス腎近位尿細管上皮由来幹/前駆細胞(mProx24、特許出願済)の移植治療効果を高めるために必要な、移植用SP細胞の純化プロセス、移植細胞のバリデーションに有用な手順の標準化が確立できた。(3)セルプロセシングチームはヒト腎疾患患者尿およびイヌ尿中から単離した腎幹/前駆細胞の樹立数と培養効率を大幅に向上させた。ヒト由来腎組織特異的幹/前駆細胞の単離と、その培養中の癌化リスクを評価しうる複数のバイオマーカーの検出系を確立した。イヌの尿中落下細胞を細胞移植(全43例)し、イヌ急性腎疾患に対する4週後の細胞の生着、BUN,血清クレアチニンによる腎機能の改善効果が確認できた。
結論
ヒト腎組織特異的幹/前駆細胞の単離培養法および、ヒト間葉系幹細胞の培養増殖法が確立されたことから、移植用細胞の純化プロセス、移植細胞のバリデーションに有用な手順の標準化が確立できた。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200706009B
報告書区分
総合
研究課題名
慢性腎障害の重症化防止を目的とした幹細胞移植による残存腎機能再構築
課題番号
H17-再生-一般-010
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
大島 伸一(国立長寿医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 篠崎 尚史(東京歯科大学 市川総合病院 角膜センター)
  • 菅谷 健(東京歯科大学 市川総合病院 角膜センター)
  • 室原 豊明(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • 後藤 百万(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • 小野 佳成(愛知淑徳大学 医療福祉部)
  • 松尾 清一(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • 山本 徳則(名古屋大学医学部附属病院)
  • 槇野 博史(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科)
  • 野入 英世(東京大学医学部附属病院)
  • 谷口 英樹(横浜市立大学大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療等研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、腎障害の重症化防止を達成すべく、幹細胞移植による安全性評価法を確立し、残存腎機能の再構築を目指す。
研究方法
本研究は3つの研究チームよりなる。各チームは互いに緊密に連携し、細胞輸送や移植プロセスの効率化・標準化を図る。
結果と考察
(1)セルプロセシングチームとして、菅谷、篠崎らは計61例からヒト尿中落下細胞を非侵襲的に採取し、腎障害の高感度のバイオマーカー尿中L-FABPを指標に、効率よく腎特異的幹/前駆細胞を培養する新技術(特許出願2006)を確立した。谷口、菅谷らは樹立した腎特異的幹/前駆細胞株の薬剤感受性と癌化リスクの評価を行い、高度に分化した尿細管特異的なドーム形成能を指標に移植細胞培養法を標準化した。(2)腎特異的幹細胞移植チームとして、槇野らはラット近位尿細管S3セグメントに存在する幹/前駆細胞株を樹立(特許取得2008)した。この細胞は急性腎不全モデルの腎被膜下へ移植すると、一部は尿細管細胞として再構築されるとともに、低下した腎機能を改善することが証明された。野入らは同様にマウス腎から樹立された幹/前駆細胞株を用い、腎被膜下に移植することで致死的な薬剤性腎障害を起こしたマウスを50%以上救命することができた。さらに山本、後藤らは、大動物における細胞移植実験として、イヌから尿中落下細胞を採取し、急性腎不全モデルの腎被膜下に自家移植(全43例)したところ、有意な腎機能改善効果が確認された。(3)骨髄・末梢血・間葉系幹細胞移植チームとして、室原、松尾らは当初、骨髄・末梢血幹細胞を用いて腎障害モデルへの細胞移植を行ったが、十分な治療効果が得られなかったため、ヒトからの採取が容易な脂肪組織に着目し、2%自己血清を含む培養液を用いる脂肪由来間葉系幹細胞の低血清培養法(特許出願2007)を確立した。さらに本細胞を腎障害モデルラットの腎局所に移植することで長期間生着し、腎機能の改善が達成された。
結論
研究班ではマウス、ラット、イヌ、ヒトについて網羅的に腎障害に対する細胞治療の可能性を追求した。特にヒト腎組織特異的幹/前駆細胞の単離培養法および、ヒト間葉系幹細胞の培養増殖法が確立されたことから、他臓器に比して遅れていた腎疾患に対する再生医療の実現化に向け、細胞移植プロセスの標準化と新規バイオマーカーを用いた安全性評価の基盤技術が確立できたと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2008-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200706009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1)研究目的の成果
本研究は、腎障害の重症化防止を達成すべく、マウス、ラット、イヌ、ヒトについて網羅的に幹細胞移植による腎疾患治療の可能性を追求した。
(2)研究成果の学術的・国際的・社会的意義
マウス、ラット腎組織特異的幹/前駆細胞に関しては、JASNやFASEBJ等の雑誌に成果報告し、イヌ、ヒト腎組織特異的幹/前駆細胞および、ヒト間葉系幹細胞に関しては、現在発表準備中である。
臨床的観点からの成果
(1)研究目的の成果
ヒト尿中落下細胞を非侵襲的に採取し、腎障害の高感度のバイオマーカー尿中L-FABPを指標に、効率よく腎特異的幹/前駆細胞を培養する新技術を確立した。
(2)研究成果の臨床的・国際的・社会的意義
本尿中バイオマーカーL-FABPは、現在体外診断薬として医薬品・医療機器総合機構へ製造販売承認申請中であり、日本発の尿細管指標として欧米で高い評価を受け、海外での臨床開発も準備されている。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
特記事項なし
その他のインパクト
(1)ヒト尿中からの腎組織特異的幹/前駆細胞の単離に関して、日本経済新聞紙上(2006.3.9)で紹介された。(2)本幹/前駆細胞の採取効率化を臨床現場で実用化すべく、わが国発の尿中バイオマーカーL-FABP簡易キット(dip test)の開発が進展している。(3)ヒューマンサイエンス振興財団主催による一般向けシンポジウム(2008.3.11)において成果発表を行った。(4)ラット腎組織特異的幹/前駆細胞に関しては国内特許取得が完了した(2008.3.29)。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
68件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
28件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計6件
その他成果(特許の取得)
0件
取得1件(特許第4085410号2008.2.29、腎臓幹細胞/前駆細胞、腎臓幹細胞/前駆細胞の分離方法、及び腎疾患の治療方法)、出願中5件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
ヒューマンサイエンス振興財団再生医療等研究推進事業研究成果発表会 http://www.jhsf.or.jp/seminar/sample_19.html#20080311

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kitamura S, Sugaya T, Makino H, et al
Establishment and characterization of renal progenitor like cells from S3 segment of nephron in rat adult kidney
FASEB J , 19 , 1789-1797  (2005)
原著論文2
Noiri E, Nagano N, Negishi K, et al
Efficacy of darbepoetin in doxorubicin-induced cardiorenal injury in rats
Nephron Exp Nephrol(電子版) , 104 , 6-14  (2006)
原著論文3
Yamamoto T, Shinozaki N, Ohshima S, et al
Renal L-type fatty acid-binding protein in acute ischemic injury
J Am Soc Nephrol , 18 , 2894-2902  (2007)
原著論文4
Negishi K, Noiri E, Sugaya T,et al
A role of liver fatty acid-binding protein in cisplatin-induced acute renal failure
Kidney Int , 72 , 348-358  (2007)
原著論文5
Tanaka T, Noiri E, Yamamoto T,et al
Urinary human L-FABP is a potential biomarker to predict COX-inhibitor-induced renal injury
Nephron Exp Nephrol(電子版) , 108 , 19-26  (2008)
原著論文6
Maeda R, Noiri E, Negishi K,et al
A walter-soluble fullerene vesicle alleviates angiotensin II-induced oxidative stress in human umbilical venous endothelial cells
Hypertens Res , 31 , 141-151  (2008)
原著論文7
Kinomura M, Kitamura S, Makino H,et al
Amelioration of cisplatin-induced acute renal injury by renal progenitor-like cells derived from the adult rat kidney
Cell transplantation  (2008)
原著論文8
Negishi K, Noiri E, Sugaya T,et al
Renal L-type fatty acid-binding protein mediates the bezafibrate reduction of cisplatin-induced acute kidney injury
Kidney Int  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-