低所得者の実態と社会保障のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
200701043A
報告書区分
総括
研究課題名
低所得者の実態と社会保障のあり方に関する研究
課題番号
H19-政策-一般-019
研究年度
平成19(2007)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 彩(国立社会保障・人口問題研究所国際関係部)
研究分担者(所属機関)
  • 菊地英明(国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論研究部)
  • 西村幸満(国立社会保障・人口問題研究所社会保障応用分析研究部)
  • 山田篤裕(慶應義塾大学 経済学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
5,817,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、日本における低所得者を、貧困、相対的剥奪、社会的排除などの新しい概念を含めた定義で捉え、その実態を把握するとともに、社会保障制度が低所得者や社会的に排除されている人々に対する施策をどのように構築するべきかを検討することである。
研究方法
まず、属性ごとの貧困率の推計を行い、国際比較により、日本の貧困の特徴を浮き彫りとした。そして、被保護高齢者における無年金者の増加、厚生年金の適用漏れの大きさ、国民年金の未加入・未納の高さなど公的年金の問題点とその要因分析を行った。さらに、有子世帯に対する所得保障の一つの手法として、扶養控除・配偶者控除を財源とする、有子世帯向けの税額控除(還付付き)の導入の影響をマイクロ・シミュレーションを用いて推計した。また、現在の社会保障制度の効果を分析するために、社会保障制度が比較的に未整備であった1960~80年代に行われた一連の社会調査(掛川調査)の調査票を発掘し、電子媒体への入力を行った。
結果と考察
まず、日本では高齢者、無子世帯、母子世帯、勤労者の貧困率が高いことがわかった。欧米諸国において、公的年金が高齢期の貧困削減に多大な効果を発しているのに対し、日本の社会保障制度は高齢期の貧困削減にさほど貢献していない。また、所得税制の扶養・配偶者控除は逆進的であり富裕層に便益が大きく、低所得層には殆ど便益がない制度であるが、これを有子世帯を対象とする税額控除に変換することで所得控除の逆進性を大きく改善できることが判明した。
結論
日本の貧困に対応するには、現行の社会保障・税制度は不十分であり、抜本的な改革が必要である。高齢者の貧困を改善するには、公的年金制度において、最低生活保障の機能を組み込ませることが不可欠である。また、勤労世代に対して、社会保障制度が貧困増大の要因となっていることを是正する必要がある。特に子どもの貧困の削減は、重要な政策課題として認識されるべきである。子どもの貧困を削減する第一の方法は、女性の勤労所得と処遇の改善であり、世帯の第2稼得者(又は母子世帯の母親)の勤労所得の上昇である。また、新たな所得移転のあり方として税制度に、子どもの貧困削減の観点を盛り込むことが考えられる。税額控除は、社会保険料や税の逆進性を緩和するために用いられることもあり、日本においても導入を検討するべきである。

公開日・更新日

公開日
2008-03-26
更新日
-