内分泌かく乱化学物質(ダイオキシン類を含む)の胎児・新生児暴露によるリスク予測に関する総合研究

文献情報

文献番号
200638003A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱化学物質(ダイオキシン類を含む)の胎児・新生児暴露によるリスク予測に関する総合研究
課題番号
H16-化学-一般-003
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
江馬 眞(国立医薬品食品衛生研究所総合評価研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 隅田 寛(広島国際大学保健医療学部)
  • 高木 篤也(国立医薬品食品衛生研究所毒性部)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所毒性部)
  • 矢守 隆夫(癌研究会癌化学療法センター分子薬理部)
  • 藤井 義明(筑波大学先端学際領域研究センター)
  • 鎌滝 哲也(高崎健康福祉大学薬学部)
  • 藤本 成明(広島大学原爆放射線医科学研究所)
  • 加藤 善久(徳島文理大学香川薬学部)
  • 井上 達(国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター)
  • 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所総合評価研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
63,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
内分泌かく乱化学物質(EDCs)(ダイオキシン類を含む)の胎児・新生児暴露影響を明らかにし、作用機序解析を推進することで、ヒトへのリスクアセスメント向上に資する。
研究方法
ダイオキシン(TCDD)による口蓋裂奇形の誘発機序の解明のため、TCDD暴露マウス胚口蓋の遺伝子発現変化を定量的マイクロアレイ手法にて解析した。アカゲザル妊娠20日よりTCDDを暴露し、児の歯牙と精巣への影響を調べた。マウスES細胞分化に於けるダイオキシン受容体(AhR)及び関連遺伝子の発現を検討した。発がん高感受性のTg.ACマウスのC57BL/6戻し交配マウスにTCDDを投与し、誘発腫瘍を解析した。ヒト培養細胞パネルにてEDCs、核内受容体アゴニストのフィンガープリント及び遺伝子発現による解析を行った。AhR欠失マウスの解析によるAhRの生理機能解析を進めた。多環芳香族炭化水素(PAH)によるLXRα標的遺伝子mRNA発現抑制でのp53の役割について検討した。新生児期の前立腺に発現するmRNA、タンパク質を同定し、それらに対するTCDDの影響を検討した。PCBによる血中甲状腺ホルモン減少の機序をトランスサイレチン(TTR)遺伝子欠損マウスを用いて解析した。最新の国際動向について情報収集し、リスクコミュニケーション手法について考察した。
結果と考察
口蓋裂部位に於いて、既知の標的遺伝子であるCYP1A1、Ahrr等の発現増加を確認すると共に、口蓋裂関与遺伝子群を抽出し得た。TCDD胎内暴露アカゲザル児で臼歯と精巣の異常が確認された。マウスES細胞分化過程でのAhR発現パターン情報を得た。TCDD投与Tg.ACマウスで胸腺リンパ腫の発生増加は確認されなかった。ヒト培養細胞パネルでEDCsのクラスター形成を確認した。AhRの盲腸癌、炎症に於ける働きを明らかにした。PAHによるLXRα標的遺伝子発現抑制にp53によるRXR発現抑制が関与していた。前立腺でのテストステロン応答遺伝子発現にTCDDが影響した。PCB投与による血中T4の減少には、血中から肝臓への移行が重要であった。リスクの質と先進科学の普及に関する考察を行うと共にTCDD類のTEFの再評価、非ダイオキシン様PCBの健康影響評価等に関する最新情報を収集した。
結論
胚/胎児影響解析のための技術基盤を確立すると共に、AhRの生体に於ける機能に関する新たな知見を得た。

公開日・更新日

公開日
2007-04-06
更新日
-

文献情報

文献番号
200638003B
報告書区分
総合
研究課題名
内分泌かく乱化学物質(ダイオキシン類を含む)の胎児・新生児暴露によるリスク予測に関する総合研究
課題番号
H16-化学-一般-003
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
江馬 眞(国立医薬品食品衛生研究所総合評価研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 隅田 寛(広島国際大学保健医療学部)
  • 高木 篤也(国立医薬品食品衛生研究所毒性部)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所毒性部)
  • 矢守 隆夫(癌研究会癌化学療法センター分子薬理部)
  • 藤井 義明(筑波大学先端学際領域研究センター)
  • 鎌滝 哲也(高崎健康福祉大学薬学部)
  • 藤本 成明(広島大学原爆放射線医科学研究所)
  • 加藤 善久(徳島文理大学香川薬学部)
  • 井上 達(国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター)
  • 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所総合評価研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
内分泌かく乱化学物質(EDCs)(ダイオキシン類を含む)の胎児・新生児暴露影響を明らかにし、作用機序解析を推進することで、ヒトへのリスクアセスメント向上に資する。

研究方法
ダイオキシン(TCDD)による口蓋裂の誘発機序の解明のため、TCDD暴露マウス胚口蓋の遺伝子発現変化を定量的マイクロアレイ手法にて解析した。アカゲザル妊娠20日よりTCDDを暴露し、児の歯牙と精巣への影響を調べた。マウスES細胞分化系に於けるTCDDの影響及びダイオキシン受容体(AhR)及び関連遺伝子の発現を検討した。発癌高感受性のTg.ACマウス及びそのC57BL/6戻し交配マウスにTCDDを経口投与し、誘発腫瘍を解析した。ヒト培養細胞パネルにてEDCs、核内受容体アゴニストのフィンガープリント及び遺伝子発現による解析を行った。AhR欠失マウスの解析による生理的機能解析を進めた。多環芳香族炭化水素(PAH)による LXRα標的遺伝子 mRNA 発現抑制機構について検討した。新生児期の前立腺に発現するmRNA、タンパク質を同定し、それらに対するTCDDの影響を検討した。PCBによる血中甲状腺ホルモン減少の機序を、遺伝子欠損動物を用いて解析した。最新の国際動向について情報収集し、リスクコミュニケーション手法について考察した。
結果と考察
口蓋裂部位に於いて、口蓋裂関与遺伝子群を抽出し得た。TCDD胎内暴露アカゲザル児で臼歯と精巣の異常が確認された。TCDDはES細胞数を減少させた。また、マウスES細胞分化過程でのAhR発現パターン情報を得た。TCDD経口投与Tg.ACマウスで腫瘍発生増加は確認されなかった。ヒト培養細胞パネルでEDCsのクラスター形成を確認し、トリブチルチンによる変動遺伝子を明らかにした。AhRの卵巣における働き,腸における癌抑制因子としての働き,炎症における働き,AhRと他の受容体型転写因子との相互作用について明らかにした。PAHによるLXR シグナル伝達抑制機構を明らかにした。新生仔前立腺でのテストステロン応答遺伝子を明らかにし、TCDDがそれらの発現に影響することを明らかにした。PCB投与による血中T4の減少には、血中から肝臓への移行が重要であった。リスクの質と先進科学の普及に関する考察を行うとともにTCDD類のTEFの再評価、非ダイオキシン様PCBの健康影響評価等に関する最新情報を収集した。
結論
胚/胎児影響解析のための技術基盤を確立するとともに、AhRの生体に於ける機能に関する新たな知見を得た。

公開日・更新日

公開日
2007-04-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2008-01-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200638003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
受容体原性毒性(或いはシグナル毒性)の立場から、TCDDの胎児発生影響を遺伝子レベルで明らかにすると共に、AhRについてはその卵巣における働き、腸における癌抑制因子としての働き、炎症における働き、他の受容体型転写因子との相互作用について、また、新生仔前立腺でのテストステロン応答遺伝子群とTCDDのそれらへの発現影響や、PCB投与による血中甲状腺ホルモンの減少機構を明らかにした。以上、胎児影響解析のための技術基盤を確立すると共に、AhRの生体における機能に関する新たな知見を得た。
臨床的観点からの成果
内分泌かく乱化学物質の多くはエストジェン受容体やアンドロジェン受容体等の核内受容体に作用し、それらの応答遺伝子の発現に影響を与えることにより、種々の毒性影響を生じることが明らかとなり、また、ダイオキシン類も同様に受容体であるAhRを介して毒性影響を生じる。本研究の推進により、ダイオキシン類及びPCBを含む広義の内分泌かく乱化学物質の毒性標的分子の解明が進展したことにより、毒性発現のメカニズムに立脚した治療法の開発に道を開くことが期待される。
ガイドライン等の開発
2006年6月に世界保健機関(WHO)の国際化学物質安全性計画(IPCS)の会議がスイスのジュネーブで開催され、PCBを含むダイオキシン類の毒性等価係数(TEF)の再評価が8年ぶりに行われた。その際の相対毒性強度(REP)に本研究班の成果であるダイオキシン類の口蓋裂誘導能の比較データが採用された。これを通じて、TEFの再評価に貢献することが出来た。経済協力開発機構(OECD)の内分泌かく乱化学物質試験法会議(EDTA)に対して科学的情報提供を行いガイドライン化に向けた作業へ貢献している。
その他行政的観点からの成果
内分泌かく乱化学物質(ダイオキシンを含む)問題は受容体を介した毒性(受容体原性毒性)としての包括的な対応が必要であることが明確となり、具体的な分子生物学的メカニズム解明が本研究により進んだ。この新たな知見と認識はTEF及び耐容一日摂取量(TDI)の妥当性に関する行政によるリスクアセスメントの信頼性を高め、厚生労働省の内分泌かく乱化学物質検討会「試験スキーム」の補強のほか、経済産業省、環境省の関連検討会等の審議にも貢献した。
その他のインパクト
ダイオキシン等の環境汚染物質について各国専門家の研究成果が集うハロゲン化有機環境汚染物質とPOPSに関する国際シンポシウムが、2007年はDIOXIN2007として東京にて開催された。藤井義明班員(筑波大学)が本研究班での成果を含む基調講演(タイトル「マウスにおけるアリルハイドロカーボン受容体(AhR)の毒性学的及び生理学的作用機構」)を、また、菅野純班員(国立医薬品食品衛生研究所)が口頭発表(タイトル:「Percellome手法によるマウス肝でのTCDDとTCDFの遺伝子発現比較」)を行った。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
70件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
180件
学会発表(国際学会等)
99件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ema M, Fukunishi K, Matsumoto M, et al.
Developmental toxicity of dibutyltin dichloride in cynomolgus monkeys
Reprod Toxicol , 23 , 12-19  (2007)
原著論文2
菅野純、北嶋聡、相崎健一他
Percellome Projectによる毒性トランスクリプトミクスの新しい試み
細胞工学 , 26 , 71-76  (2007)
原著論文3
Tokuda N, Arudchelvan Y, Sawada T, et al.
PACAP receptor (PAC1-R) expression in rat and rhesus monkey thymus
The Annals of the New York Academy of Sciences , 1070 , 581-585  (2006)
原著論文4
Kanno, J., Aisaki, K., Igarashi, K., et al.
"Per cell" normalization method for mRNA measurement by quantitative PCR and microarrays
BMC Genomics , 7 , 64-77  (2006)
原著論文5
Iwano S, Shibahara N, Saito T, et al.
Activation of p53 as a causal step for atherosclerosis induced by polycyclic aromatic hydrocarbons
FEBS Lett , 580 , 890-893  (2006)
原著論文6
Fujimoto, N., Akimoto, Y., Suzuki, T., et al.
Identification of prostatic-secreted proteins in mice by mass spectrometric analysis and evaluation of lobe-specific and androgen-dependent mRNA expression
J Endocrinology , 190 , 790-803  (2006)
原著論文7
Yoshihisa Kato, Shin-ichi Ikushiro, Rie Takiguchi, et al.
A possible mechanism for the decrease in serum thyroxine level by polychlorinated biphenyls in Wistar and gunn rats
Organohalogen Compounds , 68 , 1442-1445  (2006)
原著論文8
Yasuda, I., Yasuda M., Sumida H., et al.
In utero and lactational exposure to 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) affects tooth development in rhesus monkeys
Reprod. Toxicol , 20 , 21-30  (2005)
原著論文9
Iwano, S., Asanuma, F., Nukaya M., et al.
CYP1A1-mediated mechanism for atherosclerosis induced by polycyclic aromatic hydrocarbons
Biochem Biophys Res Commun , 337 , 708-712  (2005)
原著論文10
Iwano, S., Nukaya, M., Saito, T., et al.
A possible mechanism for atherosclerosis induced by polycyclic aromatic hydrocarbons
Biochem Biophys Res Commun , 335 , 220-226  (2005)
原著論文11
Miyazaki M, Yamazaki H, Takeuchi H, et al.
Mechanisms of chemopreventive effects of 8-methoxypsoralen against 4-(methylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1-butanone-induced mouse lung adenomas
Carcinogenesis , 26 , 1945-1955  (2005)
原著論文12
Miyazaki M, Sugawara E, Yoshimura T, et al.
Mutagenic activation of betel quid-specific N-nitrosamines catalyzed by human cytochrome P450 coexpressed with NADPH-cytochrome P450 reductase in Salmonella typhimurium YG7108
Mutat Res , 581 , 165-171  (2005)
原著論文13
Koichi Haraguchi, Nobuyuki Koga and Yoshihisa Kato
Comparative metabolism of polychlorinated biphenyls and tissue distribution of persistent metabolites in rats, hamsters and guinea pigs
Drug Metab Dispos , 33 , 373-380  (2005)
原著論文14
Koichi Haraguchi, Yoshihisa Kato, Nobuyuki Koga et al.
Species differences in tissue distribution of catechol and methylsulphonyl metabolites of polychlorinated biphenyls in rats, mice, hamsters, and guinea pigs
Xenobiotica , 35 , 85-96  (2005)
原著論文15
Kato, Y., Suzuki, H., Ikushiro,S.et al.
Decrease in serum thyroxine level by phenobarbital in rats is not necessarily dependent on increase in hepatic UDP-glucuronosyltransferase.
Drug Metab Dispos , 33 , 1661-1665  (2005)
原著論文16
太田千穂、原口浩一、加藤善久 他
2,3',4,4',5-五塩素化ビフェニル(CB118)のモルモット肝ミクロゾームによる代謝
福岡医学雑誌 , 96 , 232-240  (2005)
原著論文17
Koichi Haraguchi, Yoshihisa Kato, et al.
Metabolism of polychlorinated biphenyls by Gunn rats: Identification and serum retention of catechol metabolites
Chem Res Toxicol , 17 , 1684-1691  (2004)
原著論文18
S. Kubota, T. Fukusato, H. Sumida, K. et al.
Effects of TCDD in utero on reproductive development of rhesus monkey offspring.
Organohalogen Compounds , 67 , 2362-2365  (2005)
原著論文19
H. Sumida, M. Yasuda, A. Arima, T. et al.
Testes of rhesus monkeys exposed in utero and lactational period to 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin
Organohalogen Compounds , 67 , 2537-2539  (2005)
原著論文20
Iku Yasuda, Mineo Yasuda, Hiroshi Sumida, et al.
In utero and lactational exposure to 2,3,7,8-tetrachlorodibezo-p-dioxin (TCDD) affects tooth development in rhesus monkeys.
Organohalogen Compounds , 66 , 3321-3325  (2004)

公開日・更新日

公開日
2013-04-02
更新日
-