難治性疾患の画期的診断・治療法等に関する研究

文献情報

文献番号
200633006A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性疾患の画期的診断・治療法等に関する研究
課題番号
H16-難治-一般-006
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
山村 隆(国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第六部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤 準一(明治薬科大学薬学部生命創薬科学科バイオインフォマティクス)
  • 三宅 幸子(国立精神・神経センター神経研究所免疫研究部)
  • 小川 雅文(国立精神・神経センター武蔵病院神経内科)
  • 菊地 誠志(北海道大学大学院医学研究科神経内科学分野)
  • 横山 和正(順天堂大学医学部脳神経内科)
  • 野村 恭一(埼玉医科大学総合医療センター第四内科)
  • 太田 宏平(東京理科大学理学部教養)
  • 神田 隆(山口大学医学部脳神経病態学講座)
  • 楠 進(近畿大学医学部神経内科)
  • 堀 利行(京都大学大学院医学研究科内科学)
  • 小笠原 康悦(国立国際医療センター研究所難治性疾患研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多発性硬化症(MS)はT細胞により惹起される時間的・空間的再発を特徴とする中枢神経系の自己免疫疾患である。急性期のステロイド・パルス療法、慢性期のインターフェロン療法が推奨されているが、その適用については主治医の判断により、個々の症例では過剰または不十分な治療になっている可能性がある。その理由として血液バイオマーカーがMSにおいては利用できないことが挙げられる。本研究では、MSの病態を正確に把握するバイオマーカーを同定し、MSの診療レベルを向上することを目的とし、平行してMS病態に関連する免疫異常の同定、その意義に関する研究、および既存薬の処方至適化に関する研究も進める。
研究方法
患者末梢血リンパ球の種々マーカーの発現をフローサイトメーターで解析し、以後4ヶ月間にわたって追跡調査した。T細胞を磁気ビーズで分離し、遺伝子の発現をDNAマイクロアレイで検討した。MSのT細胞で発現が亢進しているNR4A2のサイトカイン誘導能を、リポーターアッセイを用いて解析した。またNR4A2のsiRNAを用いて阻害効果を検討した。
結果と考察
MSの患者末梢血NK細胞のCD11c分子発現量が、MSの予後を推定する良いマーカーとなることを明らかにした(J. Immunol. 177: 5659, 2006)。寛解期のMSではCD11cの高いグループ(CD11c high)と低いグループ(CD11c low)に分かれ、CD11c highでは4ヶ月以内に再発を来す確率が有意に高い。また、MSの再発期に特異的なT細胞遺伝子発現パターンを同定し、MS再発時にはNF-κB遺伝子発現制御系の異常の存在することを確認した。また前年度までにMSのT細胞で転写因子NR4A2の発現が亢進していることを明らかにしたが(Neurobiol. Dis. 18:537, 2005)、NR4A2には炎症性サイトカインIL-17やインターフェロン・ガンマのT細胞産生を誘導する活性があることを明らかにした。
結論
MSの活動性の評価は、従来臨床的再発回数やMRI造影画像によっていた。しかしNK細胞のCD11c発現量がMSの活動性を反映することがわかり、薬剤の投薬時期の決定や投与量の調整が容易になる可能性が出て来た。また、NFkBやNR4A2を標的とする治療薬の開発も有望であることが示唆され、今後さらなる発展が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2007-04-23
更新日
-

文献情報

文献番号
200633006B
報告書区分
総合
研究課題名
難治性疾患の画期的診断・治療法等に関する研究
課題番号
H16-難治-一般-006
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
山村 隆(国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第六部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤 準一(明治薬科大学薬学部生命創薬科学科)
  • 三宅 幸子(国立精神・神経センター神経研究所免疫研究部)
  • 小川 雅文(国立精神・神経センター武蔵病院神経内科)
  • 菊地 誠志(北海道大学大学院医学研究科神経内科学分野)
  • 横山 和正(順天堂大学医学部脳神経内科)
  • 野村 恭一(埼玉医科大学総合医療センター第四内科)
  • 太田 宏平(東京理科大学理学部教養)
  • 神田 隆(山口大学医学部脳神経病態学講座)
  • 楠 進(近畿大学医学部神経内科)
  • 堀 利行(京都大学大学院医学研究科)
  • 小笠原 康悦(国立国際医療センター研究所難治性疾患研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多発性硬化症(MS)はT細胞により惹起される時間的・空間的再発を特徴とする中枢神経系の自己免疫疾患である。急性期のステロイド・パルス療法、慢性期のインターフェロン療法が推奨されているが、適用については明確な基準がなく、個々の症例では過剰または不十分な治療になっている可能性がある。その理由として、診療で利用できるバイオマーカーが存在しないことが挙げられる。本研究では、MSの病態を正確に把握するバイオマーカーを同定することを一義的な目的とし、併せてMS病態の解明を目指した。
研究方法
患者末梢血を蛍光標識抗体で染色しフローサイトメーターで解析した。末梢血よりT細胞を分離し、DNAマイクロアレイにより遺伝子発現パターンを解析した。
結果と考察
三年間の研究で、MSの患者末梢血NK細胞のCD11c分子発現量が、MSの予後を推定する良いマーカーとなることを明らかにした(J. Immunol. 177: 5659, 2006)。すなわち、寛解期のMSではCD11cの高いグループ(CD11c high)と低いグループ(CD11c low)に分かれ、CD11c highでは4ヶ月以内に再発を来す確率が有意に高いことを示した。CD11c測定を普及させることで、MS医療の適正化に貢献することが期待できる。また、MS患者間の多様性、病期、病勢、治療反応性を規定する分子遺伝学的基盤を解明するため、末梢血T細胞の遺伝子発現プロフィールをDNAマイクロアレイで解析した。その結果、(1)T細胞遺伝子発現プロフィールから、MSは疾患活動性・病巣分布・IFNβ治療反応性と密接に関連した4群に分類されること、(2) CXCR3やCCR2のリガンドとなるケモカインがIFNβ治療早期副作用発現に関与していること、(3)43種類の遺伝子が再発で変化しており、これらは再発を同定するバイオマーカーとなり得ること、4)再発ではNF-κB遺伝子発現制御系に異常があること、などを明らかにした。またMSのT細胞で発現の亢進している転写因子NR4A2に注目し、NR4A2にはIL-17やインターフェロン・ガンマのT細胞産生を誘導する活性があることなどを証明した。
結論
MSのバイオマーカーが同定され、MS病態における転写因子NR4A2の重要性が明らかになった。一連の研究成果は、MSの病態解明に関して国際的にも誇るべき成果であると同時に、新たな診断技術や治療薬開発につながるものである。

公開日・更新日

公開日
2007-04-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200633006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
寛解期の多発性硬化症(MS)ではNK細胞の発現するCD11cレベルの高いグループ(CD11c high)と低いグループ(CD11c low)に分かれ、CD11c highでは4ヶ月以内に再発を来す確率が有意に高いことを示した。CD11c測定を普及させることで、MS医療の適正化に貢献することが期待できる。またMSのT細胞でオーファン核内受容体NR4A2の発現が亢進していることを示し、同分子を標的とする治療法開発に先鞭をつけた。
臨床的観点からの成果
MSの臨床では急性期のステロイド療法と慢性期のインターフェロン療法の有効性が明らかになっているが、疾患活動性を反映する良いバイオマーカーがなかったため、薬剤の過剰または過小投与に陥っている可能性が排除できなかった。今後、CD11cをMS疾患活動性のマーカーとして活用することによって、MS治療の至適化および標準化が可能になり、患者の予後が改善することが大いに期待される。またNR4A2を標的とする薬剤が開発されれば、炎症性神経疾患の画期的な治療薬となる可能性があり、臨床への応用が考えられる。
ガイドライン等の開発
インターフェロン療法を受けたMS患者、連続80例の追跡調査を行い、同薬剤によって病態の変化や病勢の悪化の見られる例が存在することを報告した。またインターフェロン・ノンレスポンダーにおいてインターフェロンが中止された後の追跡調査も行い、患者ごとにきめ細かい治療法の選択を行うことが重要であることを示した。
その他行政的観点からの成果
これまでのところ該当するものは特にないが、CD11cに関する研究論文は内外で注目されており、原著論文は今後広く引用され活用されると思われる。
その他のインパクト
MSの再発がCD11c測定によって予測できる可能性を示した論文(米国免疫学会誌発表)の概要は、朝日新聞、日本経済新聞、毎日新聞に掲載され、大きなインパクトを及ぼした。また、健康、医療関係のインターネット・ホームページでも広く公開された。また、財団法人精神神経科学財団の後援を受け、患者向けの厚生労働科学研究成果発表会(多発性硬化症フォーラム)を開催し、約250名の患者および医療関係者に情報提供を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
31件
米国免疫学会誌(The Journal of Immunology)において、NK細胞の発現するCD11cが、MS病態のバイオマーカーになることを報告した。
その他論文(和文)
30件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
30件
学会発表(国際学会等)
36件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
平成18年12月10日にコクヨホールにおいて厚生労働科学研究成果発表会(多発性硬化症フォーラム)を開催した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Aranami T, Miyake S and Yamamura T
Differential expression of CD11c by peripheral blood NK cells reflects temporal activity of multiple sclerosis
The Journal of Immunology , 177 , 5659-5667  (2006)
原著論文2
Croxford JL, Miyake S, Huang Y-Y et al.
Invariant Vα19i T cells regulate autoimmune inflammation
Nature Immunology , 7 , 895-897  (2006)
原著論文3
Satoh J-i, Nakanishi M, Koike F et al.
T cell gene expression profiling identifies distinct subgroups of Japanese multiple sclerosis patients.
The Journal of Neuroimmunology , 174 , 108-118  (2006)
原著論文4
Satoh J-i, Nanri Y, Tabunoki H et al.
Microarrray analysis identifies a set of CXCR3 and CCR2 ligand chemokines as early interferon-β-responsive genes in peripheral blood lymphocytes: an implication for IFN-β related adverse effects in multiple sclerosis.
BMC Neurology , 6 , 18-  (2006)
原著論文5
Miyamoto K, Miyake S, Mizuno M et al.
Selective COX-2 inhibitor celecoxib prevents experimental autoimmune encephalomyelitis through COX-2 independent pathway.
Brain , 129 , 1984-1992  (2006)
原著論文6
Satoh J-i, Tabunoki H, Yamamura T et al.
TROY and LINGO-1 expression in astrocytes and macrophages/microglia in MS brains.
Neuropathology and Applied Neurobiology , 33 , 99-107  (2007)
原著論文7
Onoue H, Satoh J-I, Ogawa M et al.
Detection of anti-Nogo receptor autoantibody in the serum of multiple sclerosis and controls.
Acta Neurologica Scandinavica , 115 , 153-160  (2007)
原著論文8
Hino T, Yokota T, Ito S et al.
In vivo delivery of small interfering RNA targeting brain capillary endothelial cells
Biochem Biophys Res Commun , 340 , 263-267  (2006)
原著論文9
Fujita T, Kambe N, Uchiyama T et al.
Type I interferons attenuate T cell activating functions of human mast cells by decreasing TNF-α production and OX40 ligand expression while increasing IL-10 production
Journal of Clinical Immunology , 26 , 512-518  (2006)
原著論文10
Kitawaki T, Kadowaki N, Sugimoto N et al.
IgE-activated mast cells in combination with pro-inflammatory factors induce Th2-promoting dendritic cells
International Immunology , 18 , 1789-1799  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-