難治性炎症性腸管障害に関する調査研究

文献情報

文献番号
200633001A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性炎症性腸管障害に関する調査研究
課題番号
H16-難治-一般-001
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
日比 紀文(慶應義塾大学医学部内科)
研究分担者(所属機関)
  • 飯田三雄(九州大学大学院医学研究院病態機能内科学消化器内科)
  • 千葉 勉(京都大学大学院医学研究科消化器病態学 )
  • 木内喜孝(東北大学大学院医学系研究科内科病態学消化器病態学 )
  • 武林 亨(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学)
  • 名川弘一(東京大学大学院医学系研究科臓器病態外科学腫瘍外科 )
  • 岡野栄之(慶應義塾大学医学部生理学 )
  • 坪内博仁(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科健康科学専攻人間環境学講座消)
  • 今井浩三(札幌医科大学医学部第1内科 )
  • 渡辺 守(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科消化・代謝内科学)
  • 棟方昭博(弘前大学医学部消化器内科 )
  • 藤山佳秀(滋賀医科大学消化器内科 )
  • 佐々木 巌(東北大学大学院医学系研究科外科病態学 )
  • 味岡洋一(新潟大学大学院医歯学総合研究科分子病態病理学人体病理学 )
  • 松井敏幸(福岡大学筑紫病院消化器科 )
  • 上野文昭(大船中央病院消化器肝臓病センター)
  • 高後 裕(旭川医科大学消化器内科)
  • 松本譽之(兵庫医科大学総合内科学下部消化管 )
  • 杉田 昭(横浜市立市民病院外科)
  • 土肥多惠子(国立国際医療センター研究所消化器疾患研究部 )
  • 杉村一仁(新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
52,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
潰瘍性大腸炎(UC)とクロ-ン病(CD)の現状・実態を調査し、病因や増悪につながる因子を明らかにする。さらに遺伝学的・免疫学的な基礎研究を通じて病因・病態の解明をすすめ、新しい治療法の開発、予防法の確立を図る。また、現行の診断基準、治療指針の整備を進め、正しい医療情報の伝達・普及により、本症患者のQOL向上に努める。
研究方法
以下のプロジェクト(p) を設け、研究者同士が密接な連絡を保ち、調査研究を実施した。p-1:内科的治療法の工夫と2006年度治療指針案、p-2:外科的治療法の確立と工夫、p-3:QOLの評価と改善、p-4:データベースの拡充・活用と疫学的解析、p-5:医師主導の臨床試験の実施とその評価、p-6:癌化のサーベイランス法の確立と機序追究、p-7:疾患関連遺伝子の追究、p-8:腸内細菌の関与(病態、治療への応用)、p-9:病態追究(病因解明に向けて)、p-10:エビデンスに基づく診療ガイドライン開発と診療オプションの策定、p-11:内視鏡診断アトラス作成、p-12:臨床活動性指標と内視鏡指標の標準化p-13:広報活動・情報企画、分科会:粘膜再生治療。
結果と考察
疫学的検討(p-4):個人調査票によるデータ解析を行い、本邦における両疾患の実態が把握された。病因・増悪因子の検索(p-7、8、9):遺伝学的検討では、本邦でのTNFSF15とCDとの相関を明らかにした。腸内細菌に関する検討で、T-RFLPプロファイルをDendrogramにて解析した結果、健常者のほとんどが大きな一つのクラスターを形成し、UCのほとんどは別のクラスター群に分けられた。診断・治療 (p-1、2、5、6、10):UCでは難治例緩解維持療法について検討し、現行の治療指針を改訂した。CDでは、infliximabの反復投与の有効性を示した。外科的治療法については、UC術後pouchitis診断基準を作成した。また、一般向けUC診療ガイドラインを作成した。再生分科会:肝細胞増殖因子の投与による腸炎の軽減、再生修復過程の機序が示された。
結論
現行の治療指針の改訂と診療ガイドラインの策定、診断アトラスの作成により、診療レベルの向上、均一化が可能となった。遺伝子研究、免疫異常や腸内細菌叢の面から見た病因・病態解明により、病態にもとづいた新治療法の開発への手がかりが得られた。

公開日・更新日

公開日
2007-04-02
更新日
-

文献情報

文献番号
200633001B
報告書区分
総合
研究課題名
難治性炎症性腸管障害に関する調査研究
課題番号
H16-難治-一般-001
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
日比 紀文(慶應義塾大学医学部内科)
研究分担者(所属機関)
  • 棟方 昭博(弘前大学医学部第1内科)
  • 藤山 佳秀(滋賀医科大学消化器内科)
  • 飯田三雄(九州大学病態機能内科)
  • 佐々木 巖(東北大学生体調節外科)
  • 味岡 洋一(新潟大学分子・診断病理)
  • 松井 敏幸(福岡大学筑紫病院消化器科)
  • 上野 文昭(大船中央病院)
  • 高後 裕(旭川医科大学第3内科)
  • 千葉 勉(京都大学消化器内科)
  • 松本 誉之(兵庫医科大学総合内科学下部消化管科)
  • 木内 喜孝(東北大学内科病態学消化器病態学)
  • 武林 亨(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生)
  • 名川 弘一(東京大学臓器病態外科学腫瘍外科)
  • 杉田 昭(横浜市立市民病院外科)
  • 杉村 一仁(新潟大学細胞機能講座消化器内科)
  • 土肥 多惠子(国立国際医療センター研究所消化器疾患研究部)
  • 岡野 栄之(慶應義塾大学医学部生理学)
  • 坪内 博仁(鹿児島大学消化器疾患生活慣習病分野)
  • 今井 浩三(札幌医科大学)
  • 渡辺 守(東京医科歯科大学消化器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究の対象を潰瘍性大腸炎(UC)とクロ-ン病(CD)の2疾患に絞り、両疾患の現状・実態を調査し、病因や増悪につながる因子を明らかにし、さらに病因・病態の解明をすすめ、新しい治療法の開発、予防法の確立をはかるとともに、現行の診断基準、治療指針の整備をさらに進め、正しい医療情報の伝達・普及により、本症患者のQOL向上に努めた。
研究方法
13のプロジェクトおよび粘膜再生治療に関する分科会を設定し、研究者同士が密接な連絡を保ちつつ、より充実した調査研究の進展を目指した。
結果と考察
疫学的検討では、個人調査票の電子化データ解析により年齢別発症数の検討で、UCは26~30歳、CDは21~25歳にそのピークが見られた。UCにおける臨床的重症度分類では、軽症とされるものが約半数を占め、臨床経過では再燃緩解型が約半数を占めていた。病因・増悪因子の検索においては、遺伝学的検討では、日本人においてはTNFSF15がUCの感受性遺伝子ではなくCDの感受性遺伝子であることが明らかとなった。診断・治療では、UCにおいて難治例の定義を明確にし、またこれまで一定のコンセンサスが得られていない局所療法について再検討し、現行の治療指針を改訂した。CDにおいては、抗TNF-抗体(infliximab)の治療指針における位置づけを明らかにするために、使用状況と治療効果について全国多施設アンケート調査を行い、治療指針を改訂した。外科的治療法については、UC術後pouchitisの診断基準作成、治療指針の確立を目的とし、症状・内視鏡所見・組織所見に関する実態調査を行い、基準となる内視鏡アトラスを作成した。またCDの肛門部病変の診断アトラスを作成し現行診断基準の問題点を明らかとした。また、文献等によるエビデンスと専門家による意見を統合したUCの診療ガイドラインを作成・公表した。再生分科会においては再生分科会では、Wntシグナルを可視化したTOP-GFPマウスを作成して腸管上皮幹細胞の純化を行い、網羅的遺伝子解析を行うことにより新規腸管上皮幹細胞マーカーを同定した。
結論
現行の治療指針の改訂と診療ガイドラインの策定、診断アトラスの作成により、診療レベルの向上、均一化が可能となった。遺伝子研究、免疫異常や腸内細菌叢の面から見た病因・病態解明により、病態にもとづいた新治療法の開発への手がかりが得られた。

公開日・更新日

公開日
2007-04-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200633001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
臨床調査個人票電子化データを活用してわが国の全国レベルとしてはほぼ唯一の基礎疫学指標を算出したことは、疫学的な国際比較や難病評価の一指標として意義のあるものである。免疫学的異常、サイトカインの検討では個々に本症の病態に関与する異常が見いだされており、今後、病態への関与について検討することにより新しい治療法の開発につながる。遺伝子に関する検討では、わが国独自の疾患関連遺伝子の異常が明らかとなり、国際的にも注目されている。
臨床的観点からの成果
生物学的製剤、免疫抑制剤、血球成分除去療法など新しい治療法についてその有効性を科学的に検証した上で評価して治療指針に取り入れるとともに、難治例に対する治療や局所療法についてもその位置づけを明確にした。各種アトラスの作成やガイドラインの開発とあいまって、全国的な診療レベルの向上、一定化を可能にした。このことは患者QOLの向上を通じて、医療経済・社会経済的に貢献しうるものであると考えられる。
ガイドライン等の開発
潰瘍性大腸炎に関して、文献情報のエビデンス・レベルとデルファイ法により形成された専門家のコンセンサスを統合した診療ガイドライン作成し、専門医の評価により修正を加えた後に完成版を公開した。さらに、インターネット版も公開し、患者・一般向けのガイドラインも開発終了した。クローン病の診療ガイドラインも平成18年度より同様の手法にて進めており、日本消化器病学会と共同で開発中である。さらに、内視鏡所見やサーベイランス、肛門病変の診断に参考となるアトラス集を作成した。
その他行政的観点からの成果
臨床調査個人票による難治性疾患克服対策研究事業という枠組みを活用した疫学的アプローチは、わが国独自の手法である。また、受給者数をベースにした統計として当該疾患の動向を明らかにしたことは、社会的に意義深い。しかし、希少疾患としては比較的患者数の多い本症においては、受給率・提出率ともに罹患率・有病率を推定しうるほどには高くなく、調査票記入時および入力の過程、受給者数の問題を含めて本事業に関して見直す必要があると考えられた。
その他のインパクト
本研究の研究成果および疾患に関する正しい情報を情報企画委員より難病医学研究財団のホームページ上に、また、主任研究者・分担研究者・研究協力者による市民公開講座、患者の会などを積極的に支持し、国民に広報している。平成17年度には難病医学研究財団の主催により、欧米の第一線で活躍している研究者・臨床家を招聘して国際シンポジウムを開催した。また研究班として平成17年度、18年度にそれぞれ市民公開講座を開催した。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
93件
その他論文(和文)
27件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
114件
学会発表(国際学会等)
59件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
6件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Matsuoka K,Inoue N,Sato T
T-bet up-regulation and subsequent interleukin 12 stimulation are essential for the induction of Th1 mediated immunopathology in Crohn’s disease
Gut , 53 (9) , 1303-1308  (2004)
原著論文2
Oshima S,Nakamura T,Namiki S
Interferon regulatory factor 1 (IRF-1) and IRF-2 distinctively up-regulate gene expression and production of interleukin-7 in human intestinal epithelial cells
Mol Cell Biol , 24 (14) , 6298-6310  (2004)
原著論文3
Araki A,Kanai T,Ishikura T
MyD88-deficient mice develop severe intestinal inflammation in dextran sodium sulfate colitis
J Gastroenterol , 40 (1) , 16-23  (2005)
原著論文4
Kamada N,Hisamatsu T,Okamoto S
Abnormally differentiated subsets of intestinal macrophage play a key role in Th1-dominant chronic colitis through excess production of IL-12 and IL-23 in response to bacteria
J Immunol , 175 (10) , 6900-6908  (2005)
原著論文5
Matsumoto T,Iida M,Kohgo Y
Therapeutic efficacy of infliximab on active Crohn's disease under nutritional therapy
Scand J Gastroenterol , 40 (12) , 1423-1430  (2005)
原著論文6
Sawada K,Kusugami K,Suzuki Y
Leudocytapheresis in ulcerative colitis: results of a multicenter double-blind prospective case-control study with sham apheresis as placebo treatment
Am J Gastroenterol , 100 (6) , 1362-1369  (2005)
原著論文7
Tahara T,Inoue N,Hisamatsu T
Clinical significance of microsatellite instability in the inflamed mucosa for the prediction of colonic neoplasms in patients with ulcerative colitis
J Gastroenterol Hepatol , 20 (5) , 710-715  (2005)
原著論文8
Hitotsumatsu O,Hamada H,Naganuma M
Identification and characterization of novel gut-associated lymphoid tissues in rat small intestine
J Gastroenterol , 40 (10) , 956-963  (2005)
原著論文9
Okada E,Yamazaki M,Tanabe M
IL-7 exacerbates chronic colitis with expansion of memory IL-7 Rhigh CD4+mucosal T cells in mice
Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol , 288 (4) , 745-754  (2005)
原著論文10
Totsuka T,Kanai T,Makita S
Regulation of murine chronic colitis by CD4+CD25- programmed death-1+ T cells
Eur J Immunol , 35 (6) , 1776-1785  (2005)
原著論文11
Namiki S,Nakamura T,Oshima S
IRF-1 mediates upregulation of LMP7 by IFN-gamma and concerted expression of immunosubunits of the proteasome
FEBS Lett , 579 (13) , 2781-2787  (2005)
原著論文12
Kanai T,Kawamura T,Dohi T
Naturally arising CD4+CD25+ regulatory T cells suppress the expansion of colitogenic CD4+CD44highCD62L- effector memory T cells
Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol , 290 (5) , 1051-1058  (2005)
原著論文13
Matsumoto T,Okamoto R,Yajima T
Increase of bone marrow-derived secretory lineage epithelial cells during regeneration in the human intestine
Gastroenterology , 128 (7) , 1851-1867  (2005)
原著論文14
Morohoshi Y,Matsuoka K,Chinen H
Inhibition of neutrophil elastase prevents the development of murine dextran sulfate sodium-induced colitis
J Gastroenterol , 41 (4) , 318-324  (2006)
原著論文15
Fujii R,Kanai T,Nemoto Y
FTY720 suppresses CD4+CD44highCD62L- effector memory T cell-mediated colitis
Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol , 291 (2) , 267-374  (2006)
原著論文16
Kanai T,Kawamura T,Dohi T
TH1/TH2-mediated colitis induced by adoptive transfer of CD4+CD45RBhigh T lymphocytes into nude mice
Inflamm Bowel Dis , 12 (2) , 89-99  (2006)
原著論文17
Kanai T,Uraushihara K,Totsuka T
Ameliorating effect of saporin-conjugated anti-CD11b monoclonal antibody in a murine T-cell-mediated chronic colitis
J Gastroenterol Hepatol , 21 (7) , 1136-1142  (2006)
原著論文18
Nemoto Y,Kanai T,Makita S
Bone marrow retaining colitogenic CD4+ T cells may be a pathogenic reservoir for chronic colitis
Gastroenterology , 132 (1) , 176-189  (2007)
原著論文19
Tsuchiya K,Nakamura T,Okamoto R
Reciprocal targeting of Hath1 and beta-catenin by Wnt glycogen synthase kinase 3beta in human colon cancer
Gastroenterology , 132 (1) , 208-220  (2007)
原著論文20
Kanai T,Makita S,Kawamura T
Extracorporeal elimination of TNF-alpha-producing CD14(dull)CD16(+) monocytes in leukocytapheresis therapy for ulcerative colitis
Inflamm Bowel Dis , 13 (3) , 284-290  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-25
更新日
-