筋萎縮性側索硬化症に対する特異治療法の開発

文献情報

文献番号
200632067A
報告書区分
総括
研究課題名
筋萎縮性側索硬化症に対する特異治療法の開発
課題番号
H18-こころ-一般-017
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
郭 伸(国立大学法人東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 相澤 仁志(旭川医科大学 附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
29,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)の運動ニューロンの細胞死の原因は、グルタミン酸受容体であるAMPA受容体のGluR2サブユニットでRNA編集が低下したことによる興奮性細胞死であると考えられる。この分子変化は編集酵素ADAR2活性の低下によると考えられるので、ADAR2活性を賦活することでGluR2 のRNA編集を回復することができるかどうかを評価し、孤発性ALSの特異治療法の可能性を探ることを目的とする。
研究方法
ヒト由来の培養細胞系を用いて、編集型、未編集型のGluR2 mRNAの発現量、発現比を検討し、ADAR2 活性を安定して測定できる培養細胞系を探る。また、遺伝子導入により人工的ADAR2 基質を発現する細胞系を開発する。これらの培養細胞系を用いて、様々な培養環境、化学物質への暴露により、ADAR2活性の変化を測定する。In vitroでの解析のため、ADAR2活性低下による神経細胞死を起こすモデルマウスにおける細胞死を明らかにする。
結果と考察
GluR2 mRNA 発現量およびRNA編集率は培養細胞により異なり、安定してGluR2 mRNA を発現し、ADAR2活性の見られる細胞は限られていた。一方、ヒトグリオーマ細胞、神経芽細胞では編集型GluR2 mRNA とともに未編集型GluR2mRNA を安定して発現していた。また、遺伝子導入により人工的ADAR2 基質を発現する細胞系でADAR2活性の測定が可能であることを明らかにした。この検討により、神経芽細胞、人工的ADAR2 基質を発現する細胞系により、ADAR2活性の測定系を確立したので、ADAR2活性に影響する因子の探索の有力なツールになる。モデルマウスでADAR2活性低下により神経細胞死が起こることを明らかにし、孤発性ALSに見られるGluR2 のRNA編集異常は、神経細胞死を引き起こす分子変化であり、ADAR2活性低下によりもたらされることを示した。
結論
ADAR2活性低下が細胞死の原因になることが初めて示され、孤発性ALSでは、ADAR2活性が何らかの原因で低下していると考えられる。これは、ADAR2活性の賦活が孤発性ALSで低下したGluR2 のRNA編集を回復し、神経細胞死を抑制しうることを意味し、孤発性ALSの治療法として有効である可能性を示している。ADAR2活性の変化による神経細胞の生存・細胞死への影響を検討することが特異治療法の開発に役立つと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2007-04-20
更新日
-