精神保健分野における地域サポート等に関する日豪共同研究

文献情報

文献番号
200632056A
報告書区分
総括
研究課題名
精神保健分野における地域サポート等に関する日豪共同研究
課題番号
H18-こころ-一般-006
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
中根 允文(長崎国際大学人間社会学部社会福祉学科)
研究分担者(所属機関)
  • マーク ラドフォード(北海道大学 大学院文学研究科 行動システム科学講座)
  • 竹島 正(国立精神・神経センター 精神保健研究所)
  • 中根 秀之(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科)
  • 吉岡 久美子(長崎国際大学人間社会学部社会福祉学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日豪保健福祉協力の第二段階研究として、2003年度から日豪両国民、さらに国内では医療専門職スタッフの精神保健に関する知識・理解・態度を把握し、それらを改善する啓発活動の指針を得ること、そして有効な施策に資する情報を確立することを目指す。特に従来の地研究成果を基盤として、地域支援に係る普及啓発のための具体的ガイドラインを発案し、それの試行や地域住民における効果の判定などを検討する。また日豪両国間における適切な普及啓発法を、精神保健及び精神疾患に関する社会文化的理解の相違を前提に、双方が取り組むべき個別または共通の課題と今後の対応を共同検討して、精神保健に係る日豪協力の成果の合意を確立する
研究方法
「精神保健の知識と理解に関する日豪比較共同研究調査票」を利用した日豪両国の一般人対象の面接調査結果、および日本側での専門職スタッフ対象調査結果について、改めて精密な統計解析する。精神保健の地域支援に係る話題について、日豪の現地で共同して情報を収集または研究者会議を開催しながら、この主題に関する両国での具体的合意を得る。
結果と考察
①一般人における精神疾患の認識は日本で低く日豪両国間で大きく異なる。②専門職にあっても精神疾患の認識は異なり、人的資源として「カウンセラー」の有用性が高く期待されていた。③精神障害の治療や支援にとって有用な方策は、一般人では曖昧な回答が多いが、豪州に比して日本では適切な判断が少なかった。④豪州では生物学的病因論が心理ストレスと共に評価されたが、日本では自己責任的発想が目立った。⑤精神障害に対する偏見差別は一般人だけでなく専門職にあっても少なくなく、特に統合失調症では顕著であった。⑥人的資源として一般医への期待が日本では極めて小さかった。⑦日本では豪州ほどに、精神疾患と自殺の関連を考えていなかった。⑧精神障害に対する考えには個人的なものと社会的なものとの間に大きな差異があった。⑨日本では、豪州以上に事例との接触に拒否的でSocial Distanceが大きかった。
結論
①日本では精神障害(者)に抱くステレオタイプには改善されるべき点が多いこと。②一般人と専門職との間には理解や態度に差異があること知って啓発する必要があること。③豪州で継続的に行われた啓発活動で成果が確認されていること。④日本での精神保健支援(及び啓発)には広汎なネットワークが確立されるべきであること。⑤特に層別に総合的で継続的な普及啓発活動が準備・開始されるべきであること。これらをもとに、啓発のための指針などを提案した。これまでの知見および行政施策の日豪比較などを通して、日豪両国の合意書をまとめた

公開日・更新日

公開日
2007-05-15
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200632056C

成果

専門的・学術的観点からの成果
精神保健に関する理解と態度(精神障害[者]に対する偏見・差別の有り様を含め)を把握するための面接評価尺度を開発した上で、広く日本国民全体の現況を実証的に確認してきた経過から、本研究では更に国内における啓発活動の状況の把握に発展させ、そこにおける問題点を明らかにした。これらをふまえて、現実に地域支援を進めるに当たっての啓発活動モデルの開発を提案した。また、これまでの日豪比較研究の成果を、両国政府の合意文書としてまとめることにした。
臨床的観点からの成果
3年間に亘る実証的研究において、一般人および医療関係専門職における精神障害への偏見・差別の状況が明らかにされたことから、各集団の特性に応じた固有の啓発活動の必要性を提案した。開発した評価尺度は、今後の臨床研究への応用が可能と評価されて、徐々に引き合いが増えてきている。社会文化的背景の異なる地域との比較において、精神障害に係る日本特有の理解と態度を明らかにできたことは、それらの改善に向けた支援のための基盤が準備されたといえよう。
ガイドライン等の開発
全国各地で進行中の普及啓発活動(精神保健福祉センター、各種NPOなど)をWebsiteで公開されている情報を収集し、さらにオーストラリアにおける様々な啓発(Beyondblue、Mindmatterなど)に係る資料を入手して、本研究の成果としての啓発資材をモデル的に開発した。
日本・オーストラリア両国政府間における精神保健に係るパートナーシップの成果の合意文書を準備したので、現在オーストラリア側からの同意が得られるのを待っている段階である。
その他行政的観点からの成果
日豪における精神保健福祉施策の状況を比較したとき、その制度および歴史が大きく異なり、豪州で成果を上げつつある具体的取り組みをそのままわが国に取り入れることは難しいが参考となる点も少なくないことが判明した。地域中心の精神保健サービスへの移行に際しての経験、専門サービスの充実、改革過程のモニタリングの手法などは、今後も更に詳細な情報交換を行う価値があると考えられた。政府間協力および研究者間の連携によって、わが国の改革に有用な情報を蓄積することが期待された。
その他のインパクト
精神障害者に対する偏見・差別・社会的距離を、一般住民および医療専門職において評価した結果を、プレスカンファランスにおいて紹介し、アンチスティグマ研究会を介して国会議員に報告した。また、関連学会(日本うつ病学会、プライマリケア学会など)で、うつ病と自殺に関する認識の低さなどを警告した。これらの報告の幾つかは、メディア(新聞)において記事となって紹介された。特に、専門職の中でも精神障害の認識の低いグループがあることについては、緊急な改善の必要性ある話題として注目された。

発表件数

原著論文(和文)
1件
精神保健に関する理解と態度に関する医療職のデータについて、各職種間および一般人との比較、さらに豪州で得られた知見と比較して、その異同に係る背景を考察した。
原著論文(英文等)
1件
精神障害(者)に対する対応、社会的距離、および偏見について、日豪における異同を明らかに、精神保健福祉施策の及ぼす影響、および普及啓発活動の意義について考察した。
その他論文(和文)
1件
日本人が抱く精神疾患のイメージを、日豪共同研究の成果をもとに総説的に論じた。豪州に比して社会的距離が大きいにもかかわらず、偏見・差別していないところが問題であることにふれた。
その他論文(英文等)
1件
社会精神医学領域で実践活動を行うに当たってエヴィデンスが重要であることについて、日豪共同研究の成果を例示した。
学会発表(国内学会)
1件
福祉系大学新入生における精神保健の知識・理解・態度を所定の評価尺度で評価したところ、同世代の一般人以上に関心の高いことが示され、それをスポイルしない教育の必要性を訴えた。
学会発表(国際学会等)
1件
精神障害(者)に対する考え方の国際比較研究を自らのデータをもとに総説的にまとめて報告し、適切な啓発活動のあり方を提案する。
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
合意文書:Australia-Japan Partnership in Health:Final Summary Report on Phase 2-Mental Health (Draft)
その他成果(普及・啓発活動)
1件
精神保健に関する啓発活動に資する資材をモデル的に開発した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Griffiths M. Kathleen, Nakane Yoshibumi, Christensen Helen et al.
Stigma in response to mental disorders: a comparison of Australia and Japan.
BMC Psychiatry , 6 (21) , 1-12  (2006)
原著論文2
吉岡久美子・中根允文
精神保健の知識と理解に関する研究、一般住民と精神保健福祉士、作業療法士、一般看護師、精神科看護師との比較検討-日豪共同研究の過程で-
長崎国際大学論叢 , 6 (1) , 195-208  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-