アミロスフェロイド仮説によるアルツハイマー病病態解明と臨床応用に関する研究-高等動物モデル構築と生体リアルタイム観測法開発によるアプローチ

文献情報

文献番号
200632016A
報告書区分
総括
研究課題名
アミロスフェロイド仮説によるアルツハイマー病病態解明と臨床応用に関する研究-高等動物モデル構築と生体リアルタイム観測法開発によるアプローチ
課題番号
H16-こころ-一般-019
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
星 美奈子(株式会社三菱化学生命科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 菊地 和也(大阪大学 大学院工学研究科)
  • 金城 政孝(北海道大学 電子科学研究所)
  • 佐藤 一紀(福岡女子大学 人間環境学部)
  • 村松 慎一(自治医科大学 内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルツハイマー病における認知症の原因となる、神経脱落を起こす「病理的」βアミロイド(Aβ)凝集体の実態は未だ不明である。主任研究者は、「病理的」Aβ凝集体の試験管モデルとして、最も神経毒性が強い新たな構造体「アミロスフェロイド」を同定した。本研究は、アミロスフェロイドを手掛かりに、異分野横断による新たな研究手法開発し、アルツハイマー病病態解明と臨床応用展開を目指す。
研究方法
倫理面に配慮し(1)特異的抗体作製によるアルツハイマー病患者脳検証と毒性中和抗体の確立、(2)Aβ凝集プロセス観測法の構築、(3)高感度タンパク質検出システムの構築、(4)霊長類を用いた病態モデル構築によるアミロスフェロイド毒性発現機構の解析、を行った。
結果と考察
(1)昨年確立したアミロスフェロイド特異的抗体を活用して、ついにアルツハイマー病脳に特異的にアミロスフェロイドが存在することを、生化学的、免疫組織化学的解析から示すことに成功した。(2)昨年、線維形成のリアルタイム観測に成功し、今年は、アミロスフェロイドの形成過程を定量出来る新規リアルタイム観測手法の構築に成功し、各々の凝集経路は異なることを示した。(3)早期診断法の構築を目指し、プリオンをモデルに生体内タンパク質を溶液中で高感度に検出する手法を構築してきたが、今年は半導体量子ドットを導入することで0.029 nMまで検出限界を下げることに成功した。(4)神経特異的ウィルスベクターを構築し、サル個体神経にアミロイド前駆体タンパク質を過剰発現したモデル系の構築に成功した。また、カルパインプローブを開発し、アミロスフェロイド神経細胞死機構との相関を示した。
結論
本研究でアミロスフェロイドが生体で存在することがついに示され、海外のアルツハイマー病研究者からも我々の研究を指示する結果が得られている。本研究で得られた中和抗体を基にアルツハイマー病治療薬を開発する計画が進行するなど、老人医療に貢献する方向に研究が展開しており、アルツハイマー病の治療・診断・予防に大きく貢献することが期待される。リアルタイム観測法からは、新たな非侵襲的アルツハイマー病画像診断法が生まれる可能性があり、今後その方向へと研究を展開する。ヒト近縁の霊長類神経細胞は、より効果的で副作用が低い治療薬開発に利用可能である。

公開日・更新日

公開日
2007-04-24
更新日
-

文献情報

文献番号
200632016B
報告書区分
総合
研究課題名
アミロスフェロイド仮説によるアルツハイマー病病態解明と臨床応用に関する研究-高等動物モデル構築と生体リアルタイム観測法開発によるアプローチ
課題番号
H16-こころ-一般-019
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
星 美奈子(株式会社三菱化学生命科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 菊地 和也(大阪大学 大学院工学研究科)
  • 金城 政孝(北海道大学 電子科学研究所)
  • 佐藤 一紀(福岡女子大学 人間環境学部)
  • 村松 慎一(自治医科大学 内科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルツハイマー病における認知症の原因となる、神経脱落を起こす「病理的」βアミロイド(Aβ)凝集体の実態は未だ不明である。主任研究者は、「病理的」Aβ凝集体の試験管モデルとして、最も神経毒性が強い新たな構造体「アミロスフェロイド」を同定した。本研究は、アミロスフェロイドを手掛かりに、異分野横断による新たな研究手法開発し、アルツハイマー病病態解明と臨床応用展開を目指す。
研究方法
倫理面に配慮し(1)特異的抗体作製によるアルツハイマー病患者脳検証と毒性中和抗体の確立、(2)Aβ凝集プロセス観測法の構築、(3)高感度タンパク質検出システムの構築、(4)霊長類を用いた病態モデル構築によるアミロスフェロイド毒性発現機構の解析、を行った。
結果と考察
(1)アルツハイマー病脳に特異的にアミロスフェロイドが存在することを、特異的抗体を用いた生化学的、免疫組織化学的解析から示した。また、アミロスフェロイド毒性を非常に有効に抑制する中和抗体を複数確立した。(2)Aβが、アミロスフェロイドないしは線維に凝集する過程を、定量出来る新規リアルタイム観測手法の構築に成功し、各々の凝集経路は異なることを示した。(3)早期診断法の構築を目指し、プリオンをモデルに生体内タンパク質を溶液中で高感度に検出する手法を構築し、0.029 nMまで検出限界を下げることに成功した。(4)霊長類神経細胞に対してアミロスフェロイドが毒性を示すことを示した。また、ESや神経幹細胞にはアミロスフェロイドは毒性を示さず、神経細胞に対してのみ有害であることを示した。神経特異的ウィルスベクターを構築し、サル個体神経にアミロイド前駆体タンパク質を過剰発現したモデル系の構築に成功した。
結論
本研究により、当初試験管で発見したアミロスフェロイドが患者脳に存在していることを示す知見を世界に先駆けて得た。従って、アミロスフェロイドの形成機構及び神経細胞死機構の解明は、実際の治療・診断・予防に大きく貢献することが期待される。神経毒性の中和抗体については臨床応用への展開が進みつつあり、リアルタイム観測法は新たな非侵襲的画像診断法構築への可能性を拓くものである。また霊長類神経細胞は、今後神経細胞死機構の解明に貢献するだけではなく、よりヒトに近い系での治療薬開発に用いることが可能である。以上から、本研究成果はアルツハイマー病の治療・診断・予防に今後大きく貢献することが期待出来る。

公開日・更新日

公開日
2007-04-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2008-01-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200632016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アルツハイマー病の原因はβアミロイド(Aβ)の凝集にある。我々は、神経毒性を持つAβ凝集体を世界で初めてヒトアルツハイマー病脳から単離し、病因に肉迫した。この成果はAβ毒性凝集体特異的抗体の開発により可能となった。さらに医学物理化学の分野横断研究により、1)技術的に困難であった、生体内濃度でのタンパク質凝集過程のリアルタイム観測手法を構築し、Aβ凝集体の形成過程のイメジングに成功し、2)霊長類モデルの構築にも成功した。計画を順調に達成し、アルツハイマー病の病態解明に大きく貢献した。
臨床的観点からの成果
今回開発した抗体にはAβ毒性凝集体の毒性を緩和する機能性抗体が含まれており、アルツハイマー病治療の創薬基盤として有用である。また構築したAβ凝集体のリアルタイム観測手法は、診断並びに治療効果の検定には必須である非侵襲的画像診断法に将来つながる重要な基盤技術である。さらに霊長類モデル系は低分子薬剤のスクリーニング及び安全性の検査に活用することが出来る。以上のように、本研究の成果はアルツハイマー病の治療・診断・予防に大きく貢献することが期待出来る。
ガイドライン等の開発
臨床現場ではない基礎研究所で生体由来材料を実験者および周囲に対する安全を確保するかは今後整備されるべき課題である。本研究を実施する上で、実施研究機関において上記が改めて命題となり、本研究を契機に生命倫理だけではなくバイオセーフティーに関してもWHOの基準を満たすガイドラインを整備し策定した上で、生命倫理並びに安全性の両面に充分留意して研究を遂行した。
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
4/14に公開シンポジウムを開催し、200名以上の聴衆が参加した。マスコミについては、取材申し込みを受けているが、成果の公表のタイミングに合わせて検討していく予定である。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
48件
その他論文(和文)
17件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
67件
学会発表(国際学会等)
28件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計9件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Li XG, Okada T, Kodera M et al.
Viral-mediated temporally controlled dopamine production in a rat model of Parkinson disease
Mol Ther , 13 (1) , 160-166  (2006)
原著論文2
Shibata H, Ageyama N, Tanaka Y et al.
Improved safety of hematopoietic transplantation with monkey ES cells in the allogeneic setting
Stem Cells , 24 (6) , 1450-1457  (2006)
原著論文3
T. Komatsu, K. Kikuchi, H. Takakusa et al.
Design and Synthesis of an Enzyme Activity-Based Labeling Molecule with Fluorescence Spectral Change
J. Am. Chem. Soc. , 128 , 15946-15947  (2006)
原著論文4
T. Terai, K. Kikuchi, S. Iwasawa et al.
Modulation of Luminescence Intensity of Lanthanide Complexes by Photoinduced Electron Transfer and Its Application to a Long-Lived Protease Probe
J. Am. Chem. Soc. , 128 , 6938-6946  (2006)
原著論文5
A. Minami, N. Sakurada, S. Fuke et al.
Inhibition of Presynaptic Activity by Zinc Released From Mossy Terminals During Tetanic Stimulation
J. Neurosci. Res. , 83 , 167-176  (2006)
原著論文6
K. Komatsu, K. Kikuchi, Y. Urano et al.
Selective Zinc Sensor Molecules with Various Affinities for Zn2+, Revealing Dynamics and Regional Distribution of Synaptically Released Zn2+ in Hippocampal Slices
J. Am. Chem. Soc. , 127 , 10197-10204  (2005)
原著論文7
E. Kawabata, K. Kikuchi, Y. Urano et al.
Design and Synthesis of Zinc-Selective Chelators for Extracellular Applications
J. Am. Chem. Soc. , 127 , 818-819  (2005)
原著論文8
L.A. van Meeteren, P. Ruurs, E. Christodoulou et al.
Inhibition of Autotaxin by Lysophosphatidic Acid and Sphingosine-1-phosphate
J. Biol. Chem. , 280 , 21155-21161  (2005)
原著論文9
R.A.Colvin, P. Fontaine, D. Thomas et al.
Evidence for pH Dependent Zn2+ Influx in K562 Erythroleukemia Cells: Studies Using ZnAF-2F Fluorescence and Zn-65(2+) Uptake
Arch. Biochem. Biophys. , 442 , 222-228  (2005)
原著論文10
E. Sasaki, H. Kojima, H. Nishimatsu et al.
Highly Sensitive Near-infrared Fluorescence Probes for Nitric Oxide and Their Application to Isolated Organs
J. Am. Chem. Soc. , 127 , 3684-3685  (2005)
原著論文11
K. Hanaoka, K. Kikuchi, H. Kojima et al.
Development of a Zinc Ion-selective Luminescent Lanthanide Chemosensor for Biological Applications
J. Am. Chem. Soc. , 126 , 12470-12476  (2004)
原著論文12
T. Yogo, K. Kikuchi, K. Hirose et al.
Modification of Intracellular Ca2+ Dynamics by Laser Inactivation of Inositol 1,4,5-Trisphosphate Receptor Using Membrane-permeant Probes
Chemistry & Biology , 11 , 1053-1058  (2004)
原著論文13
Y. Hu, K.N. Houk, K. Kikuchi et al.
Nonspecific Medium Effects versus Specific Group Positioning in the Antibody and Albumin Catalysis of the Base-Promoted Ring-Opening Reactions of Benzisoxazoles
J. Am. Chem. Soc. , 126 , 8197-8205  (2004)
原著論文14
D. Okada, C.C. Yap, H. Kojima et al.
Distinct Glutamate Receptors Govern Differential Levels of Nitric Oxide Production in a Layer-specific Manner in the Rat Cerebellar Cortex
Neuroscience , 125 , 461-472  (2004)
原著論文15
Y. Gabe, Y. Urano, K. Kikuchi et al.
Highly Sensitive Fluorescence Probes for Nitric Oxide Based on Boron Dipyrromethene Chromophore -Rational Design of Potentially Useful Bioimaging Fluorescence Probe
J. Am. Chem. Soc. , 126 , 3357-3367  (2004)
原著論文16
T. Ueno, Y. Urano, K. Setsukinai et al.
Rational Principles for Modulating Fluorescence Properties of Fluorescein
J. Am. Chem. Soc. , 126 , 14079-14085  (2004)
原著論文17
H. Koutaka, J. Kosuge, N. Fukasaku et al.
A Novel Fluorescent Probe for Zinc Ion Based on Boron Dipyrromethene (BODIPY) Chromophore
Chem. Pharm. Bull. , 52 , 700-703  (2004)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-