パーキン蛋白の機能解析と黒質変性とその防御

文献情報

文献番号
200632015A
報告書区分
総括
研究課題名
パーキン蛋白の機能解析と黒質変性とその防御
課題番号
H16-こころ-一般-018
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
服部 信孝(順天堂大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 啓二(東京都臨床医学総合研究所)
  • 高橋 良輔(京都大学 医学部)
  • 澤田 誠(名古屋大学 環境医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
PDの殆どは遺伝歴のない孤発型であるが、近年遺伝性PD(FPD)の存在が注目されている。この単一遺伝子異常からPDが発症するメカニズムを明らかにすることで、孤発型PDの病態を解明する戦略が最も有効であると考えられている。我々は、パーキン遺伝子の単離・同定からその機能解明まで中心的役割をなし、世界をリードしてきた。本課題の目的は、パーキン蛋白の機能解析から黒質神経変性の機序解明に繋げることにある。
研究方法
ドパミン代謝に対する変化を検討するため In vivo autoradiographyでD1, D2への結合能を検討した。更にパーキンの基質候補であるパエル受容体の過剰発現マウス (Tg)との掛けあわせを行った。In vitro系の実験では、パーキンと相互作用を示す分子14-3-3etaを同定した。その分子のパーキンのリガーゼ活性についてIn vivo polyubiqutinatioで確認した。parkinと他のPD遺伝子の結合に関しては、FRETを用いて検討した。候補遺伝子としては、PINK1, DJ-1, alpha-synucleinを用いた。MPTP-induced parkinsonismに関しては、マウスを用いてミクログリアの毒性に関して検討した。
結果と考察
ノックアウトマウスでは、D1, D2に対する結合能が上昇していた。このことはパーキン遺伝子変異患者のlevodopa治療後の早期に出現するジスキネジアの出現と関連性があると考えられた。パエル受容体Tgマウスとパーキンノックアウトマウスの掛け合わせでは、年齢依存性の神経脱落が観察された。従って本モデルは、PDの良きモデルとなり得ると考えられた。パーキンとの結合では、PINK1と結合が観察された。結合部位はミトコンドリア周囲で認められた。Pulse-chase法により、パーキンはPINK1の安定性に影響を与えていることが示唆された。また14-3-3etaが、パーキンのリガーゼ活性の調節因子であることが示唆された。MPTPを使ったモデルによる検討で、一部マのイクログリアは神経保護的作用することが分かった。
結論
パーキンのリガーゼ活性は、調節因子である14-3-3etaにより制御されていた。パーキンはPINK1と同じカスケードを形成していることが示唆された。パエル受容体Tgマウスは、良きモデルであることが示唆された。一部のミクログリアは、神経保護的に作用することが分かった。今後、パーキンのグリアにおける検討を行う予定である。

公開日・更新日

公開日
2007-04-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2008-01-23
更新日
-

文献情報

文献番号
200632015B
報告書区分
総合
研究課題名
パーキン蛋白の機能解析と黒質変性とその防御
課題番号
H16-こころ-一般-018
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
服部 信孝(順天堂大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 啓二(東京都臨床医学総合研究所)
  • 高橋 良輔(京都大学 医学部)
  • 澤田 誠(名古屋大学 環境医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝性パーキンソン病(FPD)の存在は、単一遺伝子異常に伴う黒質神経変性の機序を示すものである。若年性PDの原因遺伝子であるパーキン遺伝子変異は、最も頻度の高いFPDである。このパーキン遺伝子異常に伴う神経変性には、孤発型PDには認められないレビー小体が存在しない。このことはパーキンの機能が、選択的神経細胞死とレビー小体形成のメカニズムに関わっていることを示す。本課題は、その機能解析から防御機構まで明らかにすることを目的としている。
研究方法
パーキンの機能解析については、相互作用する分子のスクリーニングを行った。FPD遺伝子産物が、共通機構を形成していることを仮説に、レビー小体に存在する分子との結合等を検討した。パーキンの基質候補であるパエル受容体過剰発現系マウス(Tg)とパーキンノックアウトマウスを作成し、行動学的、生化学的、組織学的検討を加えた。神経細胞だけでなくミクログリアにも注目し、基礎的実験としてMPTPを使ったモデルにおいて、ミクログリアの機能変化を検討した。
結果と考察
パーキンノックアウトマウスには表現型は存在しなかったが、ドパミン代謝に影響を与えている可能性が考えられた。リガーゼ活性が、14-3-3etaで制御されていることが示唆された。パエル受容体Tgマウスは、年齢依存性に神経脱落を示した。alpha-synucleinとともにドパミン代謝に影響を与えている可能性が示唆された。またPark6のPINK1と結合し、その安定性に影響を与えていることが示唆された。MPTPモデルで、一部のミクログリアは神経保護的に作用していることが示唆された。
結論
パーキンは他のFDP遺伝子産物と共通機構を形成していることが示唆された。またパーキン変異による細胞死にはドパミン代謝、特にキノン体の関与が推定された。リガーゼ活性が、14-3-3etaでnegativeに制御されていた。パエル受容体Tgマウスのモデルとしての有効性が確認された。ミクログリアには、毒性作用と保護的作用の二面性が考えられた。

公開日・更新日

公開日
2007-04-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2008-01-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200632015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
遺伝性パーキンソン病 (FPD)は、現在最もホットな研究領域である。その中で、若年性PDの原因遺伝子パーキンの制御機構を明らかにしたことは極めて重要である。しかもその制御がシャペロン蛋白である14-3-3etaによりなされていることは、パーキンがユビキチンリガーゼであることを考えると如何に蛋白分解系が神経変性の過程で重要か示唆させるものである。またパーキンの基質候補であるパエル受容体過剰発現系マウス (Tg)がPDモデルとして有効であることが示されたことは、学術的に意義があると考える。
臨床的観点からの成果
若年性PDの遺伝子変異解析を行うことで蓄積データを得ることができ、その臨床的特徴を明らかにできた。またノックアウトマウスの解析から、levodopa治療における早期副作用の機序として神経終末におけるD1, D2に対する感受性の増加が、その発現に関与していることが推定された。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
特になし。
その他のインパクト
若年性PD関し、マスコミによりその存在が取り上げられた。特に読売新聞社の医療ルネッサンスでシリーズとして掲載された。学術的には、主任研究者は本研究を中心に推進してきたことでトータルの被引用回数が、パーキンソン病研究領域で世界第7位にランクされた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
26件
その他論文(和文)
30件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
50件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nishioka K, Hayashi S, Farrer MJ, et al.
Clinical heterogeneity of alpha-synuclein gene duplication in Parkinson's disease
Annals of Neurology , 59 , 298-309  (2006)
原著論文2
Matsuda N, Kitami T, Suzuki T, et al.
Diverse effects of pathogenic mutations of Parkin that catalyzes multiple monoubiquitylation in vitro
Journal of Biological Chemistry , 281 , 3204-3209  (2006)
原著論文3
Sato S, Chiba T, Sakata E, et al.
14-3-3 eta is a novel regulator of parkin ubiquitin-ligase
EMBO Journal , 25 , 211-221  (2006)
原著論文4
Sato S, Chiba T, Nishiyama S, et al.
Decline of striatal dopamine release in parkin-deficient mice shown by ex vivo autoradiography
Journal of Neuroscience Research , 84 , 1350-1357  (2006)
原著論文5
Omura T, Kaneko M, Okuma, Y, et al.
ubiquitin ligase HRD1 promotes the degradation of Pael receptor, a substrate of Parkin
Journal of Neurochemistry , 99 , 1456-1469  (2006)
原著論文6
Sawada, M. Imamura, K. Nagatsu T
Role of cytokins in inflammatory process in Parkinsons’s disease
Journal of Neural Transmission , 70 , 373-381  (2006)
原著論文7
Komatsu M, Waguri S, Chiba T, et al
Loss of autophagy in the central nervous system causes neurodegeneration
Nature , 441 , 880-884  (2006)
原著論文8
Moore DJ, Zhang L, Troncoso J,et al.
Association of DJ-1 and parkin mediated by pathogenic DJ-1 mutations and oxidative stres
Human Molecular Genetics , 14 , 71-84  (2005)
原著論文9
Sahara N, Murayama M, Mizoroki T
In vivo evidence of CHIP up-regulation attenuating tau aggregation
Journal of Neurochemistry , 94 , 1254-1263  (2005)
原著論文10
Yang Y, Gehrke S, Haque ME, et al.
Inactivation of Drosophila DJ-1 leads to impairments of oxidative stress response and PI3K/Akt signaling
Proceeding of National Academy of Science , 102 , 13670-13675  (2005)
原著論文11
Hirano Y, Hendil KB, Yashiroda H, et al.
A heterodimeric complex that promotes the assembly of mammalian 20S proteasomes
Nature , 437 , 1381-1385  (2005)
原著論文12
Komatsu M, Waguri S, Ueno T, et al.
Impairment of starvation-induced and constitutive autophagy in Atg7-deficient mice
Journal of Cellular Biology , 169 , 425-434  (2005)
原著論文13
Kaneko YS, Mori K, Nakashima A, et al.
Peripheral injection of lipopolysaccharide enhances expression of inflammatory cytokines in murine locus coeruleus: possible role of increased norepinephrine turnover
Journal of Neurochemistry , 93 , 393-404  (2005)
原著論文14
Kubo S, Nemami VM, Chalkley RJ
A combinatoriual code for the interaction of a-synuclein with membranes
Journal of Neurochemistry , 280 , 31664-31672  (2005)
原著論文15
Noda K, Kitami T, Gai WP, et al.
Phosphorylated IkappaBalpha is a component of Lewy body of Parkinson's disease
Bicohmeical and Biophysical Research Communications , 331 , 309-317  (2005)
原著論文16
Machida Y, Chiba T, Takayanagi A, et al.
Common anti-apoptotic roles of parkin and alpha-synuclein in human dopaminergic cell
Bicohmeical and Biophysical Research Communications , 332 , 233-240  (2005)
原著論文17
Li Y, Tomiyama H, Sato K, et al.
Clinicogenetic study of PINK1 mutations in autosomal recessive early-onset parkinsonism
Neurology , 64 , 1955-1957  (2005)
原著論文18
Inzelberg R, Hattori N, Mizuno Y.
Dopaminergic dysfunction in unrelated, asymptomatic carriers of a single parkin mutation
Neurology , 65 , 1843-  (2005)
原著論文19
31. Hatano Y, Li Y, Sato K, Asakawa S, et al.
Novel PINK1 mutations in early-onset parkinsonism
Annals of Neurology , 56 , 424-427  (2004)
原著論文20
Hattori N, Mizuno Y
Pathogeneticmechanisms of parkin in Parkinson’s disease
Lancet , 364 , 722-724  (2004)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-