病期別にみた肝がん治療法の費用効果およびQOLの観点からみた有効性に関する研究

文献情報

文献番号
200630008A
報告書区分
総括
研究課題名
病期別にみた肝がん治療法の費用効果およびQOLの観点からみた有効性に関する研究
課題番号
H16-肝炎-一般-021
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
沖田 極(山口大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐田 通夫(久留米大学医学部)
  • 茶山 一彰(広島大学大学院医学系研究科)
  • 岡 正朗(山口大学大学院医学系研究科)
  • 井上 裕二(山口大学医学部)
  • 坂井田 功(山口大学大学院医学系研究科)
  • 日野 啓輔(山口大学大学院医学系研究科)
  • 黒川 典枝(労働福祉事業団 山口労災病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病期別の肝細胞がん治療の費用効果を検討する目的で、昨年度までに治療による寛解および再発を考慮したモデルを作成して解析を行ってきたが、実データに比較して経皮的局所療法の期待余命が低く算出された。このためモデルを改良し新たなモデルの妥当性について検討した。また、より正確なQOL評価を行うために病態別、治療別にみた客観的な効用値の設定を試みた。そして最終的にはより妥当性の高い治療推移モデルを作成し、初発単発小肝細胞がん治療法の費用効果およびのQOLの観点からみた有効性を検討した。
研究方法
これまでは治療による寛解および再発を考慮したモデルを作成して解析を行ってきたが、とくに内科的局所療法による治療寛解率が大学間で大きく異なったため治療間の推移のみを考慮したモデルに改変し、その妥当性について実データとの比較により検証した。また、正確なQOL評価を行うために効用値理論に沿った1)評点尺度法、2)基準的賭け法、3)時間得失法の3つの方法を用いて久留米大学ならびに広島大学の肝臓専門医36名に対象をひろげて効用値の測定を行った。
結果と考察
本年度改変したモデルの期待余命と実データによるKaplan-Meier曲線との比較では3年から5年にかけて内科的局所療法におけるモデルの期待余命が実際のそれよりも低い傾向が見られたが、10年以上になるとモデルから算出される期待余命は実データとよく一致した。外科的切除での期待余命は全経過を通じて実データとよく一致していた。また、効用値の測定では大学間差、方法間差を認めたため、重回帰分析を行ったところこれらの因子は効用値に影響を与える独立因子であることが明らかとなった。このため費用効果分析においては大学間、方法間による差を考慮して効用値を決定した。その結果、病態別の効用値は慢性肝炎>肝硬変>肝細胞癌寛解期>肝細胞癌>非代償性肝硬変>末期の順となり臨床的にも妥当であった。以上の検討をもとに費用効果を分析すると、初発単発小肝細胞癌に対する初回治療として肝切除術は経皮的局所療法にくらべて約0.7年の期待余命の延長をもたらし、QOLの指標である効用値を組み入れた費用効果は年3%の割引条件で約200万円/QALYの増分費用効果比であることが明らかとなった。
結論
単発小肝細胞がんの初発例をコホートとし、外科的切除と内科的局所療法の費用効果を検証するプレリミナリーモデルを構築した。

公開日・更新日

公開日
2007-03-28
更新日
-

文献情報

文献番号
200630008B
報告書区分
総合
研究課題名
病期別にみた肝がん治療法の費用効果およびQOLの観点からみた有効性に関する研究
課題番号
H16-肝炎-一般-021
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
沖田 極(山口大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐田 通夫(久留米大学医学部)
  • 茶山 一彰(広島大学大学院医学系研究科)
  • 岡 正朗(山口大学大学院医学系研究科)
  • 井上 裕二(山口大学医学部)
  • 坂井田 功(山口大学大学院医学系研究科)
  • 日野 啓輔(山口大学大学院医学系研究科)
  • 黒川 典枝(労働福祉事業団 山口労災病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病期別の肝細胞がん治療の費用効果およびQOLの観点からみた有効性に関する検討を行う目的で、初発単発小肝細胞がん治療法の費用効果とQOLについて検討を行った。
研究方法
肝細胞癌に関する治療とその予後については1993年から2003年までの間に山口大学第一内科、第二外科、久留米大学第二内科および広島大学第一内科に入院した患者の実データをもとに解析を行った。単発小肝細胞癌に対する肝切除術(Resection)および経皮的局所療法(Local ablation therapy: LAT)の費用効果分析を行うためのMarkovモデルは治療寛解(CR)と再発を考慮したモデル(A)と治療間の推移のみを考慮したモデル(B)とを比較し、より実データに近いモデルを採用した。費用効果におけるQOLについては、期待余命に対する重み付け(weight)を行うため、包括的QOL評価ではなく、主観的な選好である効用値を久留米大学、広島大学、山口大学の附属病院に所属する肝臓専門医を対象に調査を行い、取得した。
結果と考察
モデルから推測された生存曲線および期待余命を実際の生存曲線と比較すると、比較的短い期間ではモデルAはモデルBと同等であったが、長期間の予後推測では、モデルBより期待余命が過少に推定されたことより、モデルBがより妥当なモデルと考えられた。モデルBおいては初回治療から12年後において実際の予後と同等の期待余命となったことから、今回の対象データをもとに生涯にわたるコホートシミュレーションを行ったところ、LATと比較して肝切除が費用効果的に優る結果であった。肝切除術におけるQOLで調整した期待余命(QALYs)は5.74年に対してLATでは4.96年と肝切除術が0.78QALYsよく、費用の増分は86万円であったことから、増分費用効果比は109.9万円/QALYとなった。また、年率3%の割引では、123.3万円/QALYsであったことから、今回の対象患者におけるデータを直接適応した場合の結果としては、肝切除術はLATに比べて十分費用効果的に優れた治療であることが示された。今後、このモデルの妥当性を他の病期の治療に対して検証するとともに、今回の対象においては、肝切除およびLATの症例に患者特性の違いが見られたことから、単発小肝細胞癌についても適切なケースマッチングを行った上での再検討を行う必要があると考えられた。
結論
初発単発小肝細胞がんに対する肝切除術と経皮的局所療法の費用効果に関する検討ではQOLで補正した場合においても肝切除術が費用効果的に優れていた。

公開日・更新日

公開日
2007-04-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200630008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
再発を繰り返し、その際の背景肝の重症度により治療選択が異なる肝細胞がんの費用効果分析は自然経過から想定される通常の病態モデルでは解析が困難である。このため本研究では肝細胞がんの初発から死亡に至る経過を治療遷移モデルとして作成し費用効果分析を行ったが、このような研究はこれまでに存在しない。
臨床的観点からの成果
肝病変の進展に応じた肝発がん率の予測により、高危険グループの同定が可能になり、先進諸国のなかでもわが国の早期肝がんの発見率は群をぬいて高い。したがって比較的大きな肝がんを治療対象とする欧米と異なり、わが国では早期肝がんから進行肝がん、肝がん再発抑制に至るまで幅広い治療が行われている。こうした肝がん治療に対する特殊な背景を有するわが国において体系的肝がん治療法を確立するためには費用効果解析も重要な側面であるが、本研究はこの点において大きな貢献を成しえる。
ガイドライン等の開発
病期別にみた肝がん治療の費用効果分析のためのプレリミナリーモデルとしてのMarkovモデルが作成された段階であるため、今後この費用効果分析の有用性が確認されればガイドライン等に盛り込まれる可能性もある。
その他行政的観点からの成果
高齢者社会において包括的医療が導入されつつある今日、患者の生命予後のみならず費用効果ならびにQOLからみた治療効果の検討は極めて重要な課題であるが、本研究はこの課題に貢献しうるものである。
その他のインパクト
2006年度のアメリカ肝臓病学会ならびに2005年、2006年度の米国Medical Desision Science学会においては発表を行い国際的評価も受けた。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
16件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Keisuke Hino, Kiwamu Okita
Interferon therapy as chemoprevention of hepatocarcinogenesis in patients with chronic hepatitis C
Journal of Antimicrobial Chemotherapy , 53 , 19-22  (2004)
原著論文2
Haku Ishida, Yuji Inoue, Kiwamu Okita, et al.
Cost-effectiveness of ribavirin plus interferon alpha-2b for either interferon relapsers or non-responders in chronic hepatitis C: a Japanese trial
Hepatology Research , 28 , 125-136  (2004)
原著論文3
Takahiro Yamasaki, Teruaki Kimura, Kiwamu Okita, et al.
Progenostic factors in patients with advanced hepatocellular carcinoma receiving hepatic arterial infusin chemotherapy.
Journal of Gastroenterology , 40 , 70-78  (2005)
原著論文4
Teruaki Kimura, Kiwamu Okita, et al.
Percutaneous radiofrequency ablation with cooled electrodes combined with hepatic arterial baloon occlusion in hepatocellular carcinoma
Journal of Gastroenterology , 40 , 171-178  (2005)
原著論文5
Iwao Ikai, Shigeki Arii, Kiwamu Okita, et al.
Report of the 16th follow-up suvey of primary liver cancer
Hepatology Research , 32 , 163-172  (2005)
原著論文6
Kenichi Takayasu, Shigeki Arii, Kiwamu Okita, et al.
Prospective cohort study of transarterial chemoembolization for unresectable hepatocellular carcinoma in 8510 patients.
Gastroenterology , 131 , 461-469  (2006)
原著論文7
Eiji Ando, Ryoko Kuromatsu, Michio Sata, et al.
Surveillance program for early detection of hepatocellular carcinoma in Japan.
Journal of Clinical Gastroenterology , 40 , 942-948  (2006)

公開日・更新日

公開日
2016-07-11
更新日
-