内耳有毛細胞の再生による難聴の治療

文献情報

文献番号
200627008A
報告書区分
総括
研究課題名
内耳有毛細胞の再生による難聴の治療
課題番号
H16-感覚器-一般-009
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 壽一(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 中川 隆之(京都大学医学部附属病院)
  • 小島 憲(京都大学医学部附属病院)
  • ラージ ラダ(理化学研究所 発生再生科学総合研究センター)
  • 中村 一(大津赤十字病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
11,970,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臨床応用可能な内耳有毛細胞再生のための技術開発を行い、感音難聴を中心とした内耳障害に対する新しい治療方法の提供を目指す。本研究では薬物によるノッチ情報伝達系の制御を用い、支持細胞から有毛細胞への再生を誘導し、聴力を獲得することを目的とした。
研究方法
Hes1/Hes5レポーターマウスを用いてこれらの発現を胎児期から生後にかけて詳細に調べた。また、胎児蝸牛の器官培養にノッチ阻害剤であるセクレターゼ阻害薬を用いて有毛細胞発生におけるノッチの役割を調べた。モルモットの有毛細胞障害モデルを確立し、セクレターゼ阻害薬の投与条件を検討した。サルにおいても内耳傷害モデルを作成・評価した。一方、ヒトでの薬物投与のため、極細径中耳内視鏡を用いて正円窓膜へのアプローチを側頭骨標本と症例2例で検討した。
結果と考察
Hes1/Hes5の発現動態から、蝸牛においてはHes5がノッチ下流の主要な分子であり、セクレターゼ阻害薬によってノッチ情報伝達系が阻害されていることが確認された。また、卵形嚢やラセン神経節でも同様の効果が見られ、これらも再生のターゲットになる可能性がある。器官培養の実験からノッチ系が前駆細胞の増殖と有毛細胞への分化促進という2相性の役割を持っていることが分かり、再生においても同様の効果が期待された。in vivoでの最適化では、セクレターゼ阻害薬の中でMDL28170を内リンパ腔に持続投与したもので少数の異所性有毛細胞が誘導された。in vivoでの効果が確認されたがさらなる至適化が必要であることも分かった。サルの正円窓膜上に内耳障害を起こすシスプラチンを浸潤させたジェルフォームを留置することで有毛細胞障害とラセン神経節細胞の障害が起こることを組織学的に確認し、聴力の低下も確認した。ヒト側頭骨などの検討では、極細径中耳内視鏡によって鼓膜切開程度の低侵襲で正円窓窩を確認でき、膜上にゲルの留置などはできたが、膜の直接操作は容易ではなかった。乳突削開をすれば確実に操作できるので、難聴の程度に応じた段階的な対応が必要である。
結論
セクレターゼ阻害薬がノッチ情報伝達系を介して有毛細胞の増殖・分化、さらには再生を促すことが示された。in vivoでも同様の効果があったが、さらなる至適化が必要であることも明らかになった。サルでは内耳傷害モデルを作成し、ヒトでは極細径中耳内視鏡を用いた正円窓膜への投与法を確立した。

公開日・更新日

公開日
2007-04-17
更新日
-

文献情報

文献番号
200627008B
報告書区分
総合
研究課題名
内耳有毛細胞の再生による難聴の治療
課題番号
H16-感覚器-一般-009
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 壽一(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 中川 隆之(京都大学医学部附属病院)
  • 藤野 清大(京都大学医学部附属病院)
  • 喜多 知子(京都大学大学院医学研究科 )
  • 小島 憲(京都大学医学部附属病院)
  • ラージ ラダ(理化学研究所 発生再生科学総合研究センター)
  • 中村 一(大津赤十字病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臨床応用可能な内耳有毛細胞再生のための技術開発を行い、感音難聴を中心とした内耳障害に対する新しい治療方法の提供を目指す。本研究では薬物によるノッチ情報伝達系の制御を用い、支持細胞から有毛細胞への再生を誘導し、聴力を獲得することを目的とした。
研究方法
齧歯類in vitro実験として、Hesレポーターマウスによる発現動態の検討、有毛細胞誘導効果の確認、新生有毛細胞の機能解析、セクレターゼ阻害薬の条件検討などを行った。in vivo実験ではモルモット内耳傷害モデルを作成・評価し、薬物の選択、投与経路、投与法について至適化を行った。またサルの内耳傷害モデルを作成・評価した。ヒトでは側頭骨標本を用いて低侵襲アプローチについて検討した。
結果と考察
セクレターゼ阻害薬の使用によって、蝸牛器官培養においてノッチ情報伝達系の阻害を介して有毛細胞の増殖・分化が誘導され、蛍光色素FM1-43の取り込みなどから新生有毛細胞が機能を有したものであることを 確認した。これまで前庭で行われていたカルシウムイメージングによる有毛細胞機能評価を蝸牛有毛細胞でも行えるように工夫した。また、モルモットを用いてカナマイシン・エタクリン酸による有毛細胞障害モデルを作成し、組織学的・機能的に確認した。これを用いて各種セクレターゼ阻害薬を様々な経路で注入した中で、MDL28170の内リンパ腔持続投与において少数の異所性有毛細胞を誘導できたが、さらなる至適化が必要である。他にPLGAコーティングによる徐放性剤を用いた内耳ドラッグデリバリーシステムも開発した。サルの正円窓膜上にシスプラチン浸潤ゲルを留置して内耳傷害モデルにできることを組織学的・機能的に確認した。ヒト側頭骨などの検討では、極細径中耳内視鏡によって低侵襲で正円窓窩を確認し、膜上にゲルの留置ができたが、膜の直接操作は容易ではなかった。乳突削開をすれば確実に操作できるので、難聴の程度に応じた段階的な対応が必要である。
結論
セクレターゼ阻害薬投与による前駆細胞の増殖、支持細胞から有毛細胞への分化転換のメカニズムが明らかとなったが、臨床応用に向けたさらなる至適化が必要である。サルでは内耳傷害モデルを作成し、ヒトでは極細径中耳内視鏡を用いた正円窓膜への投与法を確立したが、これらは今後あらゆる新規内耳治療に用いることができる。

公開日・更新日

公開日
2007-04-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200627008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、1)聴覚感覚上皮で薬物によりノッチ情報伝達系の制御が可能である2)ノッチ情報伝達系阻害薬の効果として支持細胞から有毛細胞への分化転換が誘導される3)この効果は、実際に成熟した聴覚感覚上皮でも認められることを示した。以上の研究成果は、有毛細胞再生による感音難聴治療を現実的なものとしたという点で、内外での高い注目を集めた。また、感音難聴に対する新しい治療薬開発の可能性を呈示したという点で薬物開発の観点からも注目されることとなった。
臨床的観点からの成果
薬物内耳局所投与という容易に臨床応用が可能な手法で、内耳有毛細胞の再生が誘導できることを示した。また、この基礎的成果を臨床応用する際に必要な技術として内耳への薬物局所投与システム開発を臨床的な見地から行った。臨床応用の視点から開発された有毛細胞再生へのアプローチとして、国際学会などでも高い評価を得ることができた。今後の内耳薬物投与研究の臨床応用すべてに対応できるシステム開発は感音難聴治療開発に大きく貢献する可能性がある。
ガイドライン等の開発
該当無し
その他行政的観点からの成果
感音難聴を含む内耳傷害は、65歳人口の半数以上が罹患するなど極めて頻度が高く、生活の質を著しく低下させるものであるにもかかわらず、治療方法はほとんど存在しなかった。内耳再生による新規治療の開発は人類にとっての急務といえる。本法は内耳再生を薬物投与によって行うという、より現実的で倫理的問題の少ない方法であり、実現によって多数の国民が得られる利益は計り知れない。
その他のインパクト
平成18年3月5日京都にて市民公開講座「感音難聴治療の新しい展開・組織工学との融合」を開催し、国民に対して研究状況を報告するとともに、普及啓発を行った。また、その他、新聞掲載としては、平成17年12月27日(日経産業新聞)、平成18年3月1日(京都新聞)、平成18年4月22日(京都新聞)、および平成18年9月8日(朝日新聞)にそれぞれ取りあげられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
15件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
42件
学会発表(国際学会等)
22件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
平成18年3月5日京都にて市民公開講座「感音難聴治療の新しい展開・組織工学との融合」を開催

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-