放射線障害に基づく発がんの分子機構の解明とその予防・治療への応用

文献情報

文献番号
200621005A
報告書区分
総括
研究課題名
放射線障害に基づく発がんの分子機構の解明とその予防・治療への応用
課題番号
H16-3次がん-一般-006
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
安井 弥(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 西 信雄((財)放射線影響研究所 疫学部)
  • 江口 英孝((財)放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部)
  • 楠 洋一郎((財)放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部)
  • 神谷 研二(広島大学 原爆放射線医科学研究所 分子発がん制御研究分野)
  • 宮川 清(東京大学 大学院医学系研究科 放射線研究領域)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
26,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
放射線発がん機構の解明とそれに基づく治療法開発やリスク評価は、被爆者医療の向上に加え、職業被曝等における健康管理や医療被曝の防護の点でも重要な課題である。本研究は、1)遺伝子解析による放射線関連固形がんに特異的な遺伝子の同定、2)放射線被曝による固形がん発生と遺伝的発がん感受性との関連、3)放射線被曝によるゲノム障害の修復からみた発がん機構の解明、を行なうことにより、放射線障害に基づく発がんの分子機構を解明し、それを予防・治療に応用することを目的とする。
研究方法
カスタムアレイを用いて抽出した被爆者胃がんで発現の異なる遺伝子ついて、蛋白レベルでの発現の検証を行なった。被爆者成人甲状腺乳頭がんのRET/PTC遺伝子再配列およびBRAF遺伝子変異を解析した。被爆者大腸がんにおいて、遺伝子不安定性とMLH1遺伝子のメチル化を検討した。フローサイトメトリーを用い、ヒトTリンパ球のγH2AXレベル測定系の確立と放射線感受性、網状赤血球小核(MN)頻度測定系と遺伝的不安定性の評価を行なった。損傷乗り越えDNA合成蛋白REV1の機能を生化学的に解析した。Rad51Bをノックアウトした変異細胞を用いて、DNA損傷に対する感受性、相同組換えの指標、FISHによる染色体の数的異常等を解析した。
結果と考察
蛋白発現解析において、versicanは被爆者胃がんで有意な発現低下が確認され、pancreatic RNase 1においても発現低下を認めた。甲状腺乳頭がんではRET/PTC遺伝子再配列は被曝線量との間に正の関連が認められ、大腸がんでは高度の遺伝子不安定性およびhMLH1遺伝子のメチル化と被曝線量との関連が認められた。γH2AX発現はDNA損傷修復に関係した放射線感受性の評価に有用であり、MNの解析は放射線誘発遺伝的不安定性を検出可能であることが示された。REV1のアミノ酸置換により基質特異性と損傷乗り越えDNA合成活性が劇的に変化することが分かった。Rad51B欠失がん細胞においてCdt1の安定化とCdc6の持続的核内集積がDNA再複製の頻度と相関していた。
結論
原爆被爆者における解析ならびに実験モデルを用いた研究を推進することにより、放射線発がん機構の解明が進み、医療放射線や職業的放射線の曝露などにおける個々の発がんリスクの評価及び予防対策の効果的な取り組みが可能になるものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2007-04-05
更新日
-

文献情報

文献番号
200621005B
報告書区分
総合
研究課題名
放射線障害に基づく発がんの分子機構の解明とその予防・治療への応用
課題番号
H16-3次がん-一般-006
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
安井 弥(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 田原 榮一((財)放射線影響研究所)
  • 西 信雄((財)放射線影響研究所 疫学部)
  • 中地 敬((財)放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部)
  • 江口 英孝((財)放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部)
  • 楠 洋一郎((財)放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部)
  • 神谷 研二(広島大学 原爆放射線医科学研究所 分子発がん制御研究分野)
  • 宮川 清(東京大学 大学院医学系研究科 放射線研究領域)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
放射線発がん機構の解明とそれを基盤とした治療法開発やリスク評価は、被爆者医療の向上に加え、職業被曝・医療被曝等における健康管理や防護の点で極めて重要である。本研究は、1)遺伝子解析による放射線関連固形がんに特異的な遺伝子の同定、2)放射線被曝による固形がん発生と遺伝的発がん感受性との関連、3)放射線被曝によるゲノム障害の修復からみた発がん機構の解明、の3つよりなり、放射線障害に基づく発がんの分子機構を解明し、予防・治療に応用することを目的とする。
研究方法
カスタムアレイを用いて被爆者胃がんに特異的な発現遺伝子を同定し、蛋白レベルでの解析を行った。被爆者の甲状腺乳頭がん、大腸がんにおける代表的遺伝子異常、遺伝子不安定性等を検討した。がんとの関係が示されたNK活性の遺伝的要因を検討した。赤血球グリゴフォリンA(GPA)遺伝子座突然変異体頻度(Mf)とがん発生の関係を被爆者コーホートで解析した。フローサイトメトリーを用いた放射線感受性、遺伝的不安定性の評価系の確立を試みた。損傷乗り越えDNA合成蛋白REV1の生化学的特性と放射線発がんを解析した。二重鎖切断修復異常におけるチェックポイント関連分子の変化、染色体不安定性を検討した。
結果と考察
カスタムアレイによって被爆者胃がんに特異的な10遺伝子を同定し、versican等では蛋白レベルも確認された。甲状腺乳頭がんのRET/PTC遺伝子再配列、大腸がんの遺伝子不安定性と被曝線量との関連が認められた。NK活性は遺伝的要因と環境要因の両者の影響を受けることが見出された。GPAMfの線量効果はがん発生群に有意に高いことを見出した。γH2AX測定法ならびに網状赤血球小核解析法は放射線誘発遺伝的不安定性ならびに放射線感受性の評価に有用であることが示された。REV1の結合特性を含め生化学的機能が明らかになり、またRev1 Tgマウスでは放射線誘発TCR突然変異頻度が高いことが分かった。放射線発がんのモデルとなる二本鎖切断修復に対する修復機構の低下細胞では、染色体倍加、S期およびG2期のチェックポイントの活性化が観察された。
結論
放射線障害に基づく発がんに関する研究成果は、その分子機構の解明に貢献するのみならず、応用することにより医療放射線や職業的放射線の曝露などにおける個々の発がんリスクの評価及び予防対策の効果的な取り組みにつながるものである。

公開日・更新日

公開日
2007-04-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2007-12-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200621005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
原爆被爆者の固形がん(胃がん、大腸がん、甲状腺がん)についての遺伝子発現、遺伝子変異解析において、被爆者に特徴的な種々の異常を見出した。赤血球グリゴフォリンA(GPA)遺伝子座突然変異体頻度の測定、γH2AX測定ならびに網状赤血球小核解析が放射線誘発遺伝的不安定性や放射線感受性の評価に有用であることが示された。分子生物学的には、損傷乗り越えDNA合成ならびにDNA二重鎖切断修復の異常が、変異頻度の増加、染色体の倍加等に関与することが明らかとなった。
臨床的観点からの成果
被爆者胃がんのカスタムアレイ解析によって同定された10遺伝子の特異的な発現異常、甲状腺乳頭がんのRET/PTC遺伝子再配列などは、放射線関連がんのマーカー遺伝子異常となる。放射線発がんにおける損傷乗り越えDNA合成ならびにDNA二重鎖切断修復の異常の意義が明らかになることにより、診断・治療にもつながる。
ガイドライン等の開発
得られた学術的成果に基づいて、医療放射線や職業的放射線の曝露に対する防御や予防に関するガイドライン作成に寄与することが期待されるが、現時点では具体的提示までには至っていない。
その他行政的観点からの成果
同定された被爆者固形がんに特徴的な遺伝子発現、遺伝子異常は、それを被曝関連がんのsignatureとして応用することにより、行政に反映することができるが具体的な提示には至っていない。
その他のインパクト
様々な関連学会やシンポジウムでの研究成果の公表は行っているが、マスコミに取り上げられたこと、公開シンポジウムを開催したこと等はない。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
84件
Individual variation of somatic gene mutability in relation to cancer susceptibility など
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
4件
Low-Dose Radiation Exposures and BioDefense System など
学会発表(国内学会)
91件
フローサイトメトリーを用いたヒトTリンパ球におけるDNA二重鎖切断と修復の評価 など
学会発表(国際学会等)
59件
Molecular immuno-epidemiology on the health effects of radiation など
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kurayoshi M, Kikuchi A, Yasui W , et al.
Expression of Wnt-5a is correlated with aggressiveness of gastric cancer by stimulating cell migration and invasion
Cancer Res , 66 , 10439-10448  (2006)
原著論文2
Aung PP, Oue N, Yasui W, et al.
Systematic search for gastric cancer-specific genes based on SAGE data: melanoma inhibitory activity and matrix metalloproteinase-10 are novel prognostic factors in patients with gastric cancer
Oncogene , 25 , 2546-2557  (2006)
原著論文3
Preston DL, Ron E, Nishi N, et al.
Solid cancer incidence in atomic bomb survivors: 1958-1998
Radiat Res (in press)  (2007)
原著論文4
Takahashi K, Eguchi H, Hamatani K, et al.
The presense of BRAF point mutation in adult papillary thyroid carcinomas from atomic bomb survivors correlates with radiation dose
Mol Carcinogenesis , 46 , 242-248  (2007)
原著論文5
Hamasaki K, Imai K, Kusunoki Y, et al.
Short-term culture and γH2AX flow cytometry determine the difference of individual radiosensitivities in human peripheral T lymphocytes
Environ Mol Mutagen , 48 , 38-47  (2007)
原著論文6
Kubo Y, Yamaoka M, and Kusunoki Y
A preliminary study measuring the number of T-cell receptor-rearrangement excision circles (TRECs) in peripheral blood T-cell populations of A-bomb survivors and control populations
Cytometry Res , 16 , 33-41  (2006)
原著論文7
Masuda Y and Kamiya K
Role of single stranded DNA in targeting REV1 to primer termini
J Biol Chem , 281 , 24314-24321  (2006)
原著論文8
Nakai-Murakami C, Shimura M, Miyagawa K, et al.
HIV-1 Vpr induces ATM-dependent cellular signal with enhanced homologous recombination
Oncogene , 26 , 477-486  (2007)
原著論文9
Date O, Katsura M, Miyagawa K, et al.
Haploinsufficiency of RAD51B causes centrosome fragmentation and aneuploidy in human cells
Cancer Res , 66 , 6018-6024  (2006)
原著論文10
Hiyama T, Katsura M, Miyagawa K, et al.
Haploinsufficiency of the Mus81-Eme1 endonuclease activates the intra-S-phase and G2/M checkpoints and promotes rereplication in human cells
Nucleic Acids Res , 34 , 880-892  (2006)
原著論文11
Li Z, Hosoi Y, Miyagawa K, et al.
Src tyrosine kinase inhibitor PP2 suppresses ERK1/2 activation and epidermal growth factor receptor transactivation by X-irradiation
Biochem Biophys Res Commun , 341 , 363-368  (2006)
原著論文12
Kondo T, Oue N, Yasui W, et al.
Loss of heterozygosity and histone hypoacetylation of the PINX1 gene are associated with reduced expression in gastric carcinoma
Oncogene , 24 , 157-164  (2005)
原著論文13
Hayashi T, Kusunoki Y, Nakachi K, et al.
Identification of the NKG2D haplotypes associated with natural cytotoxic activity of peripheral-blood lymphocytes and cancerimmunosurveillance
Cancer Res , 66 , 563-570  (2006)
原著論文14
Hayashi T, Kusunoki Y, Nakachi K, et al.
Long-term effects of radiation dose on inflammatory markers in atomic bomb survivors
Am J Med , 118 , 83-86  (2005)
原著論文15
Kyoizumi S, Kusunoki Y, Nakachi K, et al.
Individual variation of somatic gene mutability in relation to cancer susceptibility: Prospective study on erythrocyte glycophorin A gene mutations of atomic bomb survivors
Cancer Res , 65 , 5462-5469  (2005)
原著論文16
Nobukuni Y, Kohno K and Miyagawa K
Gene trap mutagenesis-based forward genetic approach reveals that the tumor suppressor OVCA1 is a component of the biosynthetic pathway of diphthamide on elongation factor 2
J Biol Chem , 280 , 10572-10577  (2005)
原著論文17
Oue N, Hamai Y, Yasui W, et al.
Gene expression profile of gastric carcinoma: Identification of genes and tags potentially involved in invasion, metastasis and carcinogenesis by serial analysis of gene expression
Cancer Res , 64 , 2397-2405  (2004)
原著論文18
Kondo T, Oue N, Yasui W, et al.
Expression of POT1 is associated with tumor stage and telomere length in gastric carcinoma
Cancer Res , 64 , 523-529  (2004)
原著論文19
Kinebuchi T, Kagawa W, Miyagawa K, et al.
Structural basis for octameric ring formation and DNA interaction of the human homologous-pairing protein Dmc1
Mol Cell , 14 , 363-374  (2004)
原著論文20
Yoshihara T, Ishida M, Miyagawa K, et al.
XRCC3 deficiency results in a defect in recombination and increased endoreduplication in human cells
EMBO J , 23 , 670-680  (2004)

公開日・更新日

公開日
2015-09-18
更新日
-